異世界ダイエット

Shiori

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第百九十四話

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 蒼光石はその名のとおり、淡い蒼色にうっすらと光っている。その光は、魔力をチャージすると強くなるけれど、銀輝石や白煌石のようにきっぱりとした鮮烈な光ではなくて、ほんのりとしていてとてもやさしく、見ていたりその光に包まれていると、ささくれだった心がじんわりと癒されるようなやわらかい光だ。
「いったいこの世界にはどのくらいの種類の、・・・その、不思議な石があるのですか?」
もといた世界の宝石とか天然石とか、鉄鉱石とか墓石とかとは違う、不思議な石たち。色ごとに性質が違って、魔力を帯びた時の効果とか効能? も違って、いろいろあって覚えきれない。できることなら一覧表にしてほしいと、奈々実は思う。
「どのくらいの種類があるかなんて、わかれば苦労はしません」
クロードがため息をつきながら言う。
「いや・・・、アルヴィーンには確か、分類表だったか一覧表だったか、あったな・・・」
セヴランが思い出しながら言う。こんなことなら、そっち方面の勉強ももっとしておけばよかったと思う。かの国は学問を志す若者にはいたれりつくせりで、学ぼうという意志さえあればいくらでもサポートしてくれる。武術と法学だけではなくて自然科学や算術など、もっともっと勉強すればよかったと思う。魔法学や文化芸術、政治経済といった分野は、資質や才能やバックグラウンドが無ければ学んでも上へは行けない状況もあるらしいけれど、そうした分野でも裾野を広げて才能を発掘しようとする動きは活発で、門戸は開かれていた。
 奈々実が連れ去られたあの事件から、三か月が過ぎようとしていた。
 事件の前から比べると、奈々実は顔が変わってしまった。頬のラインがすっきりとシャープになり、瞼にぼってりと乗っていた厚い肉が無くなって目の存在感が強くなった。顔だけではなく、身体も変わってしまった。十㎏以上痩せて、まるで別人になったようだ。十㎏痩せただけで、身体に深刻な損傷が無く生きているのが信じられないと、クロードは思う。無礼を承知で、クロードは自分よりも若い上官が繋留している異世界から来た少女を凝視している。最初に見た時はムチムチとしていて、赤んぼうがそのまま大きくなったようだった。今は、少女としてだいたい標準的な身長体重なのではないかと思う。二か月以上閉じこもっていたせいで筋肉が落ちてしまっているが、もともと脂肪ばかりで、さして筋肉は発達していなかったようだし、セヴランが本気で指導すれば、嫌でも鍛えられるだろう。
あの時、目の前で起きた異変は、今でも瞼の裏に焼き付いていて消えない。目の前にいる少女の魔力があれを起こしたのだと、クロードは今でも信じるのに抵抗がある。奈々実は以前にも魔力を暴発させてセヴランの生家の玄関を破壊してしまったことがあるという。それは聞いてはいたけれど見たわけではなかったので、ぴんとこなかった。それに、セヴランには申し訳ないけれど家の玄関を壊した程度のことと今回の超常現象では、規模が違いすぎる。なにしろ、湖を作ってしまったのだから。
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