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第百八十六話
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「もう毒が無え!」
「くそっ、毒師のジジイはどこだ!?」
毒矢は、至近距離で確実に当てなければ意味が無い。引き寄せてから使え、と、年配の男にさんざん言われていたのに、見張りたちは闇雲に矢を放って、あっという間に使い果たしてしまった。もともと熱帯の密林で放浪し、見つけた物を食料にするその日暮らしのグリニーダスの流民は、短気で計画性の無い民族性で知られている。手持ちの矢を使い切った下っ端たちは、持ち場を放り出し、我先にと洞穴へ逃げ込み始めた。
「お前ら! なにやってんだ、さっさと指揮官を殺して来い!」
頭目のつもりの髭づらの男が怒鳴りつけるが、グリニーダスの民は組織立って指揮のとおりに動くことなどしない。上下関係という考え方が、彼らには無いのだ。
「毒矢をもっと寄越せ! ケチりやがって!」
混乱して怒鳴り合う男達の声を冷静に聞き分け、サシャは人数を把握しようとした。戦闘の役にはたたないけれど、自分にできることをしようとする。そうした冷静さは、グレースに教えてもらったことだ。
「女を出せ! 人質にしてる女を盾にすれば、攻撃してこねえ!」
「バカ野郎! 魔力持ちの女を傷つけるわけにはいかねえだろうが!」
もともとが一枚岩でもなく、団結力なんか無い。髭づらの男は烏合の衆をあっさりと切り捨てる判断をした。ありったけの武器をわざと地面にぶちまけ、グリニーダスの民が拾い集めている間に、そっと洞穴の奥へ向かった。
セヴランの率いる部隊は、洞穴のすぐそばまで迫っていた。洞穴は岩の影になっているけれど、その前は少し広い窪地のような地形になっている。窪地の中は灌木がそこかしこに茂り、ひょろりとした木もまばらに生えている。
馬が一頭、毒矢が当たってしまって、泡を吹いて苦しみだしたので、敵が毒矢を使っているとわかり、策を弄した。灌木の影に隠れ、自分のいる場所から少し離れた位置で音をたてたり魔石の灯りをちらつかせると、敵はおもしろいようにその場所に矢を射てくるのだ。そうやって矢を無駄に使わせてから、セヴランがアルヴィーンから持ち帰ったひとつを参考に国内で量産したクロスボウで、精確に狙い撃っていった。大きな弓矢と違って、物陰からや伏せたりした体勢からでも撃てるし、大型ならそれなりの距離で、小型の片手で使えるものなら近距離戦で絶大な威力を発揮するので、セヴランは便利だと思っている。やたら視力のいいルイは、この異国由来の武器を気に入って鍛錬に鍛錬を重ねた結果、きちんと立って大型のものを構えた場合で月の無い夜でも修錬場の最長距離の的の真ん中に命中させることができるし、小型のものでは、伏せたり動いている途中で立ち止まった体勢からで、投げた的が地面に落ちる前に射当てることができる。今も、野盗の下っ端など足元にも及ばない精確さで、足や腕を次々に射当て、殺さずに戦闘不能にしていった。奴らと違って毒など用いていないが、殺すわけではないし、戦意さえ喪失させられれば、それでいい。
洞穴の入り口では焚火がまだくすぶっていて、動き回る男達のシルエットが浮かび上がる。岩陰から射れるだけ射てから、セヴラン達は剣を抜いて斬り込んでいった。
「くそっ、毒師のジジイはどこだ!?」
毒矢は、至近距離で確実に当てなければ意味が無い。引き寄せてから使え、と、年配の男にさんざん言われていたのに、見張りたちは闇雲に矢を放って、あっという間に使い果たしてしまった。もともと熱帯の密林で放浪し、見つけた物を食料にするその日暮らしのグリニーダスの流民は、短気で計画性の無い民族性で知られている。手持ちの矢を使い切った下っ端たちは、持ち場を放り出し、我先にと洞穴へ逃げ込み始めた。
「お前ら! なにやってんだ、さっさと指揮官を殺して来い!」
頭目のつもりの髭づらの男が怒鳴りつけるが、グリニーダスの民は組織立って指揮のとおりに動くことなどしない。上下関係という考え方が、彼らには無いのだ。
「毒矢をもっと寄越せ! ケチりやがって!」
混乱して怒鳴り合う男達の声を冷静に聞き分け、サシャは人数を把握しようとした。戦闘の役にはたたないけれど、自分にできることをしようとする。そうした冷静さは、グレースに教えてもらったことだ。
「女を出せ! 人質にしてる女を盾にすれば、攻撃してこねえ!」
「バカ野郎! 魔力持ちの女を傷つけるわけにはいかねえだろうが!」
もともとが一枚岩でもなく、団結力なんか無い。髭づらの男は烏合の衆をあっさりと切り捨てる判断をした。ありったけの武器をわざと地面にぶちまけ、グリニーダスの民が拾い集めている間に、そっと洞穴の奥へ向かった。
セヴランの率いる部隊は、洞穴のすぐそばまで迫っていた。洞穴は岩の影になっているけれど、その前は少し広い窪地のような地形になっている。窪地の中は灌木がそこかしこに茂り、ひょろりとした木もまばらに生えている。
馬が一頭、毒矢が当たってしまって、泡を吹いて苦しみだしたので、敵が毒矢を使っているとわかり、策を弄した。灌木の影に隠れ、自分のいる場所から少し離れた位置で音をたてたり魔石の灯りをちらつかせると、敵はおもしろいようにその場所に矢を射てくるのだ。そうやって矢を無駄に使わせてから、セヴランがアルヴィーンから持ち帰ったひとつを参考に国内で量産したクロスボウで、精確に狙い撃っていった。大きな弓矢と違って、物陰からや伏せたりした体勢からでも撃てるし、大型ならそれなりの距離で、小型の片手で使えるものなら近距離戦で絶大な威力を発揮するので、セヴランは便利だと思っている。やたら視力のいいルイは、この異国由来の武器を気に入って鍛錬に鍛錬を重ねた結果、きちんと立って大型のものを構えた場合で月の無い夜でも修錬場の最長距離の的の真ん中に命中させることができるし、小型のものでは、伏せたり動いている途中で立ち止まった体勢からで、投げた的が地面に落ちる前に射当てることができる。今も、野盗の下っ端など足元にも及ばない精確さで、足や腕を次々に射当て、殺さずに戦闘不能にしていった。奴らと違って毒など用いていないが、殺すわけではないし、戦意さえ喪失させられれば、それでいい。
洞穴の入り口では焚火がまだくすぶっていて、動き回る男達のシルエットが浮かび上がる。岩陰から射れるだけ射てから、セヴラン達は剣を抜いて斬り込んでいった。
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