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第百八十三話
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もっと全力で助けを求めればいいのにと思う。もっと貪欲にセヴランを必要だと呼べばいいのにと思う。奈々実が自分を呼んでくれないことが、セヴランははがゆい。
薬で、意識が無い状態にされているのだろうか。首筋にちくりと痛みを感じた後、意識が無くなった、と、サシャは言っていた。奈々実の感じていることが、なにも伝わってこない、ということは、とりあえずは酷い目には遭っていないか、もしくは意識が無い、そのどちらかなのだろうと思う。酷い目に遭わされていたり、無理矢理に魔力でなにかをさせられている、という状態なら、感知できる。そのことを奈々実が、痛い、つらい、怖い、悲しいと思っているのなら、セヴランには伝わる。無理矢理させられているのではなくて奈々実自身の意思で魔力を使った場合とは、伝わってくるものが全然違う。そして、奈々実の精神がその状態に耐えられないのであれば、多少は距離があっても奈々実の魔力を操作して、守る。ベアトリスに攻撃された時のように外へ出してシールド防御をするのではなくて、奈々実の精神を閉じてしまえばいいのだ。サナギのように結界を作って外界から遮断してしまえば、奈々実の命や身体を守れる。ただ、それは最後の手段だ。奈々実に命の危機が差し迫っていて、盾など物理的な物では奈々実を守れない、そういう時にしか使えない非常用の方法だ。
今は、まだ奈々実がそういう危険な状態ではないらしい。だから、ただ一刻も早く、そばに行きたい、奈々実を取り戻したい。魔石の灯火を消し、サシャに案内させ、夜目の利くルイを前に行かせて用心を怠らず、セヴランは岩山を斜めに上る砂礫の細い道を急ぐ。
遠くに、動く物がいるのをルイが見つけた。
「あれは・・・?」
「・・・馬・・・? にしては、小さい、かな?」
それは二頭いるように見えた。背中になにか括りつけられているように見える。サシャが叫ぶ。
「うちのロバです!」
馬の背に揺られながら、サシャは器用に指笛を吹いた。それは、ロバたちにも届いたが、別の存在の耳にも聞こえてしまった。
「来たみたいだぜ」
褐色の肌の小柄な男が、肉の弛んだ中年男に言う。中年男は小柄な男と小狡い笑みをかわし、洞穴入り口にいる髭づらの男に伝えた。小柄な男がいた場所に戻ると、つないであったロバを解き放ち、尻を木の枝で思い切り叩いた。驚いたロバが、セヴラン達のほうへと暴走していく。隊列のそばまで行くと、ロバの背に積んであったカラッポの荷箱が散乱するように細工がしてある。崩れやすい岩山の獣道のような細い道では、足止めとしてはなかなか有効だ。
「うわっ!?」
「なんだ!?」
驚いた兵士達の声と、蹈鞴を踏んで急停止する馬のいななきが聞こえる。間髪を入れず、賊は弓を射た。
「指揮官を殺せ! 雑魚はどうでもいい! 指揮官を殺るんだ!」
ここまでお読みいただき、どうもありがとうございました。
薬で、意識が無い状態にされているのだろうか。首筋にちくりと痛みを感じた後、意識が無くなった、と、サシャは言っていた。奈々実の感じていることが、なにも伝わってこない、ということは、とりあえずは酷い目には遭っていないか、もしくは意識が無い、そのどちらかなのだろうと思う。酷い目に遭わされていたり、無理矢理に魔力でなにかをさせられている、という状態なら、感知できる。そのことを奈々実が、痛い、つらい、怖い、悲しいと思っているのなら、セヴランには伝わる。無理矢理させられているのではなくて奈々実自身の意思で魔力を使った場合とは、伝わってくるものが全然違う。そして、奈々実の精神がその状態に耐えられないのであれば、多少は距離があっても奈々実の魔力を操作して、守る。ベアトリスに攻撃された時のように外へ出してシールド防御をするのではなくて、奈々実の精神を閉じてしまえばいいのだ。サナギのように結界を作って外界から遮断してしまえば、奈々実の命や身体を守れる。ただ、それは最後の手段だ。奈々実に命の危機が差し迫っていて、盾など物理的な物では奈々実を守れない、そういう時にしか使えない非常用の方法だ。
今は、まだ奈々実がそういう危険な状態ではないらしい。だから、ただ一刻も早く、そばに行きたい、奈々実を取り戻したい。魔石の灯火を消し、サシャに案内させ、夜目の利くルイを前に行かせて用心を怠らず、セヴランは岩山を斜めに上る砂礫の細い道を急ぐ。
遠くに、動く物がいるのをルイが見つけた。
「あれは・・・?」
「・・・馬・・・? にしては、小さい、かな?」
それは二頭いるように見えた。背中になにか括りつけられているように見える。サシャが叫ぶ。
「うちのロバです!」
馬の背に揺られながら、サシャは器用に指笛を吹いた。それは、ロバたちにも届いたが、別の存在の耳にも聞こえてしまった。
「来たみたいだぜ」
褐色の肌の小柄な男が、肉の弛んだ中年男に言う。中年男は小柄な男と小狡い笑みをかわし、洞穴入り口にいる髭づらの男に伝えた。小柄な男がいた場所に戻ると、つないであったロバを解き放ち、尻を木の枝で思い切り叩いた。驚いたロバが、セヴラン達のほうへと暴走していく。隊列のそばまで行くと、ロバの背に積んであったカラッポの荷箱が散乱するように細工がしてある。崩れやすい岩山の獣道のような細い道では、足止めとしてはなかなか有効だ。
「うわっ!?」
「なんだ!?」
驚いた兵士達の声と、蹈鞴を踏んで急停止する馬のいななきが聞こえる。間髪を入れず、賊は弓を射た。
「指揮官を殺せ! 雑魚はどうでもいい! 指揮官を殺るんだ!」
ここまでお読みいただき、どうもありがとうございました。
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