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第百七十一話
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「グレースさん、質問してもいいですか?」
「なにかしら?」
わたしに答えられることなら、とグレースは言ってくれる。
「クロエさんやグレースさんや、あと、わたしはきちんとお話をさせていただいたことは無いのですがリゼットさんという方も、すごくお強くて、そうなるためには大変な努力をされたことと思うのですが、魔力が無いこと以外に、お強くなられた理由ってありますか? クロエさんが言っていたのですけど、単純な体力や腕力だけだったら、女性は男性にかないません。でも、戦い方を工夫したり特殊な武術を体得したりすることで男性にも勝てたり、魔力が無いからこそハンデや逆境を跳ね返す発条にできるって。魔力が無い劣等感を跳ね返すのはすごく大変で、誰にでもできることではないと思います。グレースさんはどうやって、逆境を跳ね返したのですか?」
グレースはちょっとびっくりしたような顔をする。
「そうね・・・、わたしは魔力が無いことを不利だとかハンデだと思ったことが無いから、そんなふうに考えたことが無いわ。クロエ教育官が魔力が無いことをハンデだと思っていらしたなんて、初めて知りました」
それまでずうっと黙って女性陣の話を聞いていたサシャが口を挿む。
「ナナミは魔力が無い女性は全員、劣等感に苛まれていると思っていたの? それって、自分にはゴールドのマジカル・スターがあるっていう思い上がりの裏返しじゃあないのかな。ボクにはすごく、傲慢に聞こえます」
「こら、サシャ。口を慎みなさい」
グレースがたしなめる。
「いいえ、グレースさん、サシャの言う通りかもしれません。魔力が無いことをコンプレックスだと思っているのに跳ね返している人をすごいなあ、って思うことで、コントロールできない自分自身に目を背けているのかもしれません。わたし、魔力で社会の役に立たなきゃ自分がここにいる意味が無いのかな、ってずうっと思っていたから。生まれ育った世界でも、この世界でも、わたしの存在価値ってなんだろう、わたしなんか、何の役にも立たないし、ってずうっと思っていたから・・・」
「それは、自分よりももっと役に立たない存在がいたら安心できるから、魔力が無い女の人が劣等感を克服しようとしている話を聞いて、自分のほうがマシかもって、思いたいってことですよね」
「サシャ!」
ズケズケをとおりこしてここまでズバズバ言われてしまうと、さすがに傷つく。けれど奈々実の卑屈さは、少年の目にはそのように映っているということだ。
「ナナミ、ごめんなさい、この子、普段はこんなこと言う子じゃないのよ? こら、サシャ、ナナミに謝りなさいよ」
「いいえ、いいんです、グレースさん。サシャの目には、わたしはそんなふうに見えてるってことですよね。魔力をきちんとコントロールできない劣等感のせいで、自分に自信が無い、ひねくれたカマチョに見えてるってことですよね・・・」
奈々実は自分のハンデは太っていることとブスだということのふたつだと思っていた。しかし、サシャの目に映る自分は、それに加えて性格にも難ありの、本当にゴールド・スターの魔力以外になんにも取り柄の無い存在、ということになる。唯一のよすがであるゴールド・スターはあっても魔力を全然使いこなせないから、看板に偽りありだ。太っていることに関してはダイエットの効果が表れてきていて、頑張ればなんとかなるかもしれないと、今はささやかな希望が少しずつ実現しつつある。もといた世界の少女漫画やラノベだと、眼鏡ブスが眼鏡をコンタクトに変えたら美少女だったり、デブスが痩せたら可愛くなったりがお約束だけれど、自分はそんな旨くはいかないだろうと思っている。セヴランは『繋留』した色眼鏡で奈々実を見ているから、可愛いとか言ってくれるけれど、それを信じて舞い上がってはいけないと、奈々実は思う。
「なにかしら?」
わたしに答えられることなら、とグレースは言ってくれる。
「クロエさんやグレースさんや、あと、わたしはきちんとお話をさせていただいたことは無いのですがリゼットさんという方も、すごくお強くて、そうなるためには大変な努力をされたことと思うのですが、魔力が無いこと以外に、お強くなられた理由ってありますか? クロエさんが言っていたのですけど、単純な体力や腕力だけだったら、女性は男性にかないません。でも、戦い方を工夫したり特殊な武術を体得したりすることで男性にも勝てたり、魔力が無いからこそハンデや逆境を跳ね返す発条にできるって。魔力が無い劣等感を跳ね返すのはすごく大変で、誰にでもできることではないと思います。グレースさんはどうやって、逆境を跳ね返したのですか?」
グレースはちょっとびっくりしたような顔をする。
「そうね・・・、わたしは魔力が無いことを不利だとかハンデだと思ったことが無いから、そんなふうに考えたことが無いわ。クロエ教育官が魔力が無いことをハンデだと思っていらしたなんて、初めて知りました」
それまでずうっと黙って女性陣の話を聞いていたサシャが口を挿む。
「ナナミは魔力が無い女性は全員、劣等感に苛まれていると思っていたの? それって、自分にはゴールドのマジカル・スターがあるっていう思い上がりの裏返しじゃあないのかな。ボクにはすごく、傲慢に聞こえます」
「こら、サシャ。口を慎みなさい」
グレースがたしなめる。
「いいえ、グレースさん、サシャの言う通りかもしれません。魔力が無いことをコンプレックスだと思っているのに跳ね返している人をすごいなあ、って思うことで、コントロールできない自分自身に目を背けているのかもしれません。わたし、魔力で社会の役に立たなきゃ自分がここにいる意味が無いのかな、ってずうっと思っていたから。生まれ育った世界でも、この世界でも、わたしの存在価値ってなんだろう、わたしなんか、何の役にも立たないし、ってずうっと思っていたから・・・」
「それは、自分よりももっと役に立たない存在がいたら安心できるから、魔力が無い女の人が劣等感を克服しようとしている話を聞いて、自分のほうがマシかもって、思いたいってことですよね」
「サシャ!」
ズケズケをとおりこしてここまでズバズバ言われてしまうと、さすがに傷つく。けれど奈々実の卑屈さは、少年の目にはそのように映っているということだ。
「ナナミ、ごめんなさい、この子、普段はこんなこと言う子じゃないのよ? こら、サシャ、ナナミに謝りなさいよ」
「いいえ、いいんです、グレースさん。サシャの目には、わたしはそんなふうに見えてるってことですよね。魔力をきちんとコントロールできない劣等感のせいで、自分に自信が無い、ひねくれたカマチョに見えてるってことですよね・・・」
奈々実は自分のハンデは太っていることとブスだということのふたつだと思っていた。しかし、サシャの目に映る自分は、それに加えて性格にも難ありの、本当にゴールド・スターの魔力以外になんにも取り柄の無い存在、ということになる。唯一のよすがであるゴールド・スターはあっても魔力を全然使いこなせないから、看板に偽りありだ。太っていることに関してはダイエットの効果が表れてきていて、頑張ればなんとかなるかもしれないと、今はささやかな希望が少しずつ実現しつつある。もといた世界の少女漫画やラノベだと、眼鏡ブスが眼鏡をコンタクトに変えたら美少女だったり、デブスが痩せたら可愛くなったりがお約束だけれど、自分はそんな旨くはいかないだろうと思っている。セヴランは『繋留』した色眼鏡で奈々実を見ているから、可愛いとか言ってくれるけれど、それを信じて舞い上がってはいけないと、奈々実は思う。
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