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第百六十六話
しおりを挟む 「なにやってるんだ?」
「ひゃっ!」
どうしてこういう変なタイミングで、セヴランは部屋に入って来るのだろう。狙っていたのだろうかと疑ってしまう。頭を下げていたせいで赤くなっていた顔が、さらに真っ赤になってしまうではないか。
「・・・え、江里香ちゃんがメールで、馬と駱駝では歩き方が違うんだよ、って教えてくれたから、やってみていただけです・・・」
「・・・」
一瞬、目が点になって言葉を失ってから、セヴランは噴き出すのを堪えている顔になった。目が点になった時には後ろにカラスが飛んでいるのが見え、噴き出すのを堪えている時にはプルプルしているように見えた。
「どう違うんだって?」
やって見せろ、と暗に言われている。絶対おもしろがって、からかっている。
江里香のメールの内容を読んで聞かせ、斜対歩と側対歩の説明をして、流鏑馬についても説明する。側対歩のほうが上下の揺れが少ない、という部分に、セヴランの目が光った。
「それは、調教すれば覚えるのかな?」
「さあ・・・? ちょっとわからないですけど、馬は頭いいから、覚えるかもしれませんね?」
騎馬隊に関してかつて聞いたエピソードを、セヴランは思い出す。ダクシニアとジョグラムは長く戦争を続けていて、全体的にはダクシニアが有利だけれど、騎馬隊の弓術だけはジョグラムのほうが上で、ダクシニア兵はかなわないらしい。ひょっとして、ジョグラムの騎馬隊の馬は側対歩なのかな、と思う。
「・・・で」
セヴランの目的は、その話題ではない。
「モニーク殿の家に一緒に住むように誘われたって?」
「あ、はい」
セヴランはひょい、と、奈々実のむちむちした身体を抱き上げて膝に乗せる。まるで猫とか犬などの愛玩動物の扱いである。ちょっとは痩せたとは言ってもこの身長の平均体重よりはまだまだドンと重いのに、よくもまあそんなに軽々と抱き上げられるな、と、いつもながら思う。
「リディアーヌ殿下が、血晶石が割れたり砕けてしまったのを砂状に粉砕して、魔力を溜め込む性質の部分だけを分離、精製されたことはご存知ですか?」
「ほう?」
セヴランは初耳だった。なにでできているのかわからないけれど、ガラスのように透明の、けれど触った感じとしてはアクリルとかポリカーボネートのような感じの、細長い管を、奈々実はセヴランに見せた。中には血晶石が石の状態の時よりもキラキラして見える、砂状の状態で入っている。
「エルネストさんが作ったフライング・ソーサー、四角くすると浮いた時に安定が悪いようなことを言ってらしたでしょう? 砂状の魔石をこの管に詰めて、四角い枠みたいにしたら、安定性が増したそうなんです。問題は・・・」
精製して高純度になった砂状の魔石は、かなり魔力量の多い女性でなければチャージができないのだ。
「イネス様みたいに変動して時々、シルバーになる人は、主都には今、七人ほどいるそうです。安定している女性は、二人だそうです」
「・・・ナナミはシルバーの量は出せないだろう?」
「量としては出せませんね。でもゴールド・スターがあるのだから、時間をかければできるかもしれないし、訓練をするべきだと、モニーク様はおっしゃいました。それと・・・」
奈々実は言いよどむ。モニークから聞いた、この世界の摂理の重さが心の中に巨大な岩のように居座っている。
奈々実が生まれ育った世界には、軽々しく興味本位でロスト・ヴァージンしてしまう少女が一部にいたらしい。奈々実自身はデブスだからそういうことには無縁だったにしても、底辺校などでは平均して一年間に二人ほどは、妊娠して退学する女子生徒がいると聞いたことがある。そういう子たちと同じように安易に男・・・この場合はセヴランにだが、身を任せることは、あってはならない。自分のためだけではなく、セヴランのために。けれど既にセヴランに詐称ダイエットの破廉恥なスキンシップを何度もされている。このまま、だらだらとセヴランに身を任せていたら、セヴランだって男なのだから、性衝動を抑えられなくなってしまうかもしれない。それは、恩を仇で返すことになるのではないだろうか。セヴランを大切に想えばこそ、距離をおくことも考えるべきなのではないだろうか。
「ひゃっ!」
どうしてこういう変なタイミングで、セヴランは部屋に入って来るのだろう。狙っていたのだろうかと疑ってしまう。頭を下げていたせいで赤くなっていた顔が、さらに真っ赤になってしまうではないか。
「・・・え、江里香ちゃんがメールで、馬と駱駝では歩き方が違うんだよ、って教えてくれたから、やってみていただけです・・・」
「・・・」
一瞬、目が点になって言葉を失ってから、セヴランは噴き出すのを堪えている顔になった。目が点になった時には後ろにカラスが飛んでいるのが見え、噴き出すのを堪えている時にはプルプルしているように見えた。
「どう違うんだって?」
やって見せろ、と暗に言われている。絶対おもしろがって、からかっている。
江里香のメールの内容を読んで聞かせ、斜対歩と側対歩の説明をして、流鏑馬についても説明する。側対歩のほうが上下の揺れが少ない、という部分に、セヴランの目が光った。
「それは、調教すれば覚えるのかな?」
「さあ・・・? ちょっとわからないですけど、馬は頭いいから、覚えるかもしれませんね?」
騎馬隊に関してかつて聞いたエピソードを、セヴランは思い出す。ダクシニアとジョグラムは長く戦争を続けていて、全体的にはダクシニアが有利だけれど、騎馬隊の弓術だけはジョグラムのほうが上で、ダクシニア兵はかなわないらしい。ひょっとして、ジョグラムの騎馬隊の馬は側対歩なのかな、と思う。
「・・・で」
セヴランの目的は、その話題ではない。
「モニーク殿の家に一緒に住むように誘われたって?」
「あ、はい」
セヴランはひょい、と、奈々実のむちむちした身体を抱き上げて膝に乗せる。まるで猫とか犬などの愛玩動物の扱いである。ちょっとは痩せたとは言ってもこの身長の平均体重よりはまだまだドンと重いのに、よくもまあそんなに軽々と抱き上げられるな、と、いつもながら思う。
「リディアーヌ殿下が、血晶石が割れたり砕けてしまったのを砂状に粉砕して、魔力を溜め込む性質の部分だけを分離、精製されたことはご存知ですか?」
「ほう?」
セヴランは初耳だった。なにでできているのかわからないけれど、ガラスのように透明の、けれど触った感じとしてはアクリルとかポリカーボネートのような感じの、細長い管を、奈々実はセヴランに見せた。中には血晶石が石の状態の時よりもキラキラして見える、砂状の状態で入っている。
「エルネストさんが作ったフライング・ソーサー、四角くすると浮いた時に安定が悪いようなことを言ってらしたでしょう? 砂状の魔石をこの管に詰めて、四角い枠みたいにしたら、安定性が増したそうなんです。問題は・・・」
精製して高純度になった砂状の魔石は、かなり魔力量の多い女性でなければチャージができないのだ。
「イネス様みたいに変動して時々、シルバーになる人は、主都には今、七人ほどいるそうです。安定している女性は、二人だそうです」
「・・・ナナミはシルバーの量は出せないだろう?」
「量としては出せませんね。でもゴールド・スターがあるのだから、時間をかければできるかもしれないし、訓練をするべきだと、モニーク様はおっしゃいました。それと・・・」
奈々実は言いよどむ。モニークから聞いた、この世界の摂理の重さが心の中に巨大な岩のように居座っている。
奈々実が生まれ育った世界には、軽々しく興味本位でロスト・ヴァージンしてしまう少女が一部にいたらしい。奈々実自身はデブスだからそういうことには無縁だったにしても、底辺校などでは平均して一年間に二人ほどは、妊娠して退学する女子生徒がいると聞いたことがある。そういう子たちと同じように安易に男・・・この場合はセヴランにだが、身を任せることは、あってはならない。自分のためだけではなく、セヴランのために。けれど既にセヴランに詐称ダイエットの破廉恥なスキンシップを何度もされている。このまま、だらだらとセヴランに身を任せていたら、セヴランだって男なのだから、性衝動を抑えられなくなってしまうかもしれない。それは、恩を仇で返すことになるのではないだろうか。セヴランを大切に想えばこそ、距離をおくことも考えるべきなのではないだろうか。
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