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第百六十五話
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「奈々実ちゃんへ。
いよいよ明日、クタを出発します。声が出なくなっちゃったフロランはここにとどまって、治療に専念することになりました。アンジーがさ、もう片時も離れないの(笑)。わたしのこと、本当に男の子だったら入り婿に捕まえるって言ってたのは幻聴だったのかな!? 一年後にわたしたちがここに戻ってきた時、フロランは一緒にベルチノアに帰れるのか!?(笑) フロランの代わりにニコラスが一緒にアルヴィーンに行くことになったの。雇ったガイドさんはメルダキアの荒野のオアシスとかはわかるけど、中央高山帯に近いハヴィガンのほうに関しては、ニコラスのほうが詳しいんだって。
ここ数日、駱駝に乗る練習をしていました。駱駝は馬よりも大きくて、すごい力持ちなんだそうです。三百㎏くらいの荷物を積めるんだって。だから人間を二人乗せるくらいは全然問題無いらしいです。そうは言っても人間同士のほうがひっついてると暑くて疲れるけど(笑)。それに、前のメールで水筒に小さい魔石を入れると数百倍の量の水を携帯できるって言ったでしょ、荷物も魔石で縮小して持ち運べるんだよ。特に食料はね、そのほうが長期保存もできるし。あ、ちなみにねえ、駱駝は魔石とは関係無しに、一度に二百リットルもの水を飲むことができるんだって。できるからっていつもやらせるわけじゃなくて、普通は三日から一週間くらい毎にオアシスに着いてちゃんと水を飲ませてあげれるようにガイドさんがルートとか一日の移動距離を決めるらしいけどね。でも、熱い季節で二、三週間、寒い季節は四、五週間も水を飲まなくても生きていられるんだって。もといた世界がさ、地球温暖化で砂漠化して人類は絶滅しても、ゴキブリと駱駝は生き残るっていうのは、マジだわ、と思った! あ、背中のコブに水を溜めてるんだと思っていたでしょう? ぶー! 違うから! あれはね、脂肪! 奈々実ちゃんの胸と同じ!(ごめんなさい、言い過ぎました)健康で大きい駱駝のコブは百㎏とかあるんだって。食べ物が無い時にエネルギーになるだけじゃなくて、鼻から吸い込んだ酸素と結合して水に変わるんだって。イオン代謝だよ、すごくない? 駱駝がそんなにもハイテクな生き物だなんて、全然知らなかった。人間なんてさあ、体重の一割だっけ? の水分を失ったら死んじゃうはずだよね。駱駝は体重の三割の水分を失っても生きていられるんだって。オシッコもねえ、あんなでっかい身体で人間よりもちょっとしか出ないようになってて、水分を無駄にしないんだよ。もといた世界でさ、ずっと前に読んだ本にあったんだけど、『湯水のように』って表現、わたしたちはガンガン使っちゃう、の意味で覚えたけど、通訳の人が砂漠の国で意訳しないでまんまの表現したら、あっちの人はちょっとずつちょっとずつ、の意味だと受け止めるんだって書いてあったの。読んだ時はただふうん、としか思わなかったけど、マジ、砂漠ではそうだよね。日本って本当に水が豊かな国だったんだなあ、って思うよ。
駱駝は座ってくれているところに乗ってから、立ち上がってくれるので、奈々実ちゃんみたいに馬に乗れなかった場合でもおkだよ(笑)。でもね、立ち上がってくれる時に後ろ脚を先に立てるから、しっかりつかまってないと前にのめって落ちそうになる! それとね、馬の場合の鐙が無いんだよ、足が宙ぶらりんなの! 半日も乗ってると脚が怠くなってくる。
斜対歩と側対歩ってわかる? 簡単に言っちゃうと、馬は斜対歩で駱駝は側対歩。専門用語? 『そくたいほ』って入力したら即逮捕って変換されたから、一般的な言葉ではないよね、きっと。赤ちゃんがハイハイする様子とか、猫や犬が歩くのを思い出してみて。右手と左脚、左手と右脚が同時に動くでしょ? 動物だと、右前肢と左後肢、左前肢と右後肢が同時に動く、って言うべきかな。それが斜対歩。側対歩は右前肢と右後肢、左前肢と左後肢がセットで動くんだって。一般的に、大型動物は側対歩だから、ゾウとかキリンは側対歩だよ。わたし、馬は大型動物だと思っていたのね。だから側対歩だと思っていたら、馬は斜対歩なんだよね。そのほうが速く走るけど、上下に揺れる感じ。もといた世界の流鏑馬に使う馬とか道産子とかは側対歩だよ、知ってた? ばんえい競馬とか、農作業に働く馬とか、あと大型動物じゃないけどロバとか、力仕事には側対歩ってことなのかな?
で、駱駝は側対歩。砂漠の船って言われるのは、輸送能力的な意味なんだろうけど、この揺れの感じが、船っぽいな、と思いました。実際の船って意味じゃなくて、ロマンティックなイメージなんだよね。本当に砂漠とか荒野とか行ったら、ロマンティックなんて言ってられない、ちょー過酷な環境なんだろうけど」
そこまで読んで、奈々実は床に手と膝をついてハイハイをしてみた。なにも考えないでやってみると、たしかに右手と左脚、左手と右脚が同時に動いた。これが斜対歩ということか。右手と右脚、左手と左脚を同時に動かそうとすると、いちいち考えなければできなかった。膝をつかずに伸ばしてやってみると、膝をついた場合よりも考えないで動かせる感じだし、力を入れやすいような感じがした。
いよいよ明日、クタを出発します。声が出なくなっちゃったフロランはここにとどまって、治療に専念することになりました。アンジーがさ、もう片時も離れないの(笑)。わたしのこと、本当に男の子だったら入り婿に捕まえるって言ってたのは幻聴だったのかな!? 一年後にわたしたちがここに戻ってきた時、フロランは一緒にベルチノアに帰れるのか!?(笑) フロランの代わりにニコラスが一緒にアルヴィーンに行くことになったの。雇ったガイドさんはメルダキアの荒野のオアシスとかはわかるけど、中央高山帯に近いハヴィガンのほうに関しては、ニコラスのほうが詳しいんだって。
ここ数日、駱駝に乗る練習をしていました。駱駝は馬よりも大きくて、すごい力持ちなんだそうです。三百㎏くらいの荷物を積めるんだって。だから人間を二人乗せるくらいは全然問題無いらしいです。そうは言っても人間同士のほうがひっついてると暑くて疲れるけど(笑)。それに、前のメールで水筒に小さい魔石を入れると数百倍の量の水を携帯できるって言ったでしょ、荷物も魔石で縮小して持ち運べるんだよ。特に食料はね、そのほうが長期保存もできるし。あ、ちなみにねえ、駱駝は魔石とは関係無しに、一度に二百リットルもの水を飲むことができるんだって。できるからっていつもやらせるわけじゃなくて、普通は三日から一週間くらい毎にオアシスに着いてちゃんと水を飲ませてあげれるようにガイドさんがルートとか一日の移動距離を決めるらしいけどね。でも、熱い季節で二、三週間、寒い季節は四、五週間も水を飲まなくても生きていられるんだって。もといた世界がさ、地球温暖化で砂漠化して人類は絶滅しても、ゴキブリと駱駝は生き残るっていうのは、マジだわ、と思った! あ、背中のコブに水を溜めてるんだと思っていたでしょう? ぶー! 違うから! あれはね、脂肪! 奈々実ちゃんの胸と同じ!(ごめんなさい、言い過ぎました)健康で大きい駱駝のコブは百㎏とかあるんだって。食べ物が無い時にエネルギーになるだけじゃなくて、鼻から吸い込んだ酸素と結合して水に変わるんだって。イオン代謝だよ、すごくない? 駱駝がそんなにもハイテクな生き物だなんて、全然知らなかった。人間なんてさあ、体重の一割だっけ? の水分を失ったら死んじゃうはずだよね。駱駝は体重の三割の水分を失っても生きていられるんだって。オシッコもねえ、あんなでっかい身体で人間よりもちょっとしか出ないようになってて、水分を無駄にしないんだよ。もといた世界でさ、ずっと前に読んだ本にあったんだけど、『湯水のように』って表現、わたしたちはガンガン使っちゃう、の意味で覚えたけど、通訳の人が砂漠の国で意訳しないでまんまの表現したら、あっちの人はちょっとずつちょっとずつ、の意味だと受け止めるんだって書いてあったの。読んだ時はただふうん、としか思わなかったけど、マジ、砂漠ではそうだよね。日本って本当に水が豊かな国だったんだなあ、って思うよ。
駱駝は座ってくれているところに乗ってから、立ち上がってくれるので、奈々実ちゃんみたいに馬に乗れなかった場合でもおkだよ(笑)。でもね、立ち上がってくれる時に後ろ脚を先に立てるから、しっかりつかまってないと前にのめって落ちそうになる! それとね、馬の場合の鐙が無いんだよ、足が宙ぶらりんなの! 半日も乗ってると脚が怠くなってくる。
斜対歩と側対歩ってわかる? 簡単に言っちゃうと、馬は斜対歩で駱駝は側対歩。専門用語? 『そくたいほ』って入力したら即逮捕って変換されたから、一般的な言葉ではないよね、きっと。赤ちゃんがハイハイする様子とか、猫や犬が歩くのを思い出してみて。右手と左脚、左手と右脚が同時に動くでしょ? 動物だと、右前肢と左後肢、左前肢と右後肢が同時に動く、って言うべきかな。それが斜対歩。側対歩は右前肢と右後肢、左前肢と左後肢がセットで動くんだって。一般的に、大型動物は側対歩だから、ゾウとかキリンは側対歩だよ。わたし、馬は大型動物だと思っていたのね。だから側対歩だと思っていたら、馬は斜対歩なんだよね。そのほうが速く走るけど、上下に揺れる感じ。もといた世界の流鏑馬に使う馬とか道産子とかは側対歩だよ、知ってた? ばんえい競馬とか、農作業に働く馬とか、あと大型動物じゃないけどロバとか、力仕事には側対歩ってことなのかな?
で、駱駝は側対歩。砂漠の船って言われるのは、輸送能力的な意味なんだろうけど、この揺れの感じが、船っぽいな、と思いました。実際の船って意味じゃなくて、ロマンティックなイメージなんだよね。本当に砂漠とか荒野とか行ったら、ロマンティックなんて言ってられない、ちょー過酷な環境なんだろうけど」
そこまで読んで、奈々実は床に手と膝をついてハイハイをしてみた。なにも考えないでやってみると、たしかに右手と左脚、左手と右脚が同時に動いた。これが斜対歩ということか。右手と右脚、左手と左脚を同時に動かそうとすると、いちいち考えなければできなかった。膝をつかずに伸ばしてやってみると、膝をついた場合よりも考えないで動かせる感じだし、力を入れやすいような感じがした。
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