異世界ダイエット

Shiori

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第百六十三話

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 奈々実はセヴランにダイエットと詐称して破廉恥なスキンシップをされているけれど、最終形態としての結合はしていないのでまだ処女である。
 生まれ育った世界には性に関する猥雑な情報がこれでもかというほど溢れていて、男子も女子も、正しいか偏ったり間違っているかはさておき、正式な授業の形式の性教育をうけなくても、その気になれば性に関する情報をいくらでも得ることができる環境にあった。好奇心が強かったり愚かだったり金銭の誘惑に負けたりした子は中学高校で初体験をしてしまうという話も聞いたことがあるし、エンコーとかパパ活とか、性に関して歪んだ考え方の女子も存在すると知っていた。
 この世界のように男性の責任が極めて重大なほどには問われない状況だったから、性行為は生物として次世代に命を繋ぐための尊い行為ではなくて、弄ばれていたり金に換算されたりしていた。
 清く正しく美しい恋愛をして一点の曇りもなく華々しい結婚をして悲しい思いも痛い経験も一切知らない幸せな初夜を迎えるような女性なんて、どの程度いただろうかと思う。奈々実のようにデブスで最初から部外者だったり、オタクや腐女子なので不参加だったり、江里香のように悲しい棄権者だったり、人には知られたくない黒歴史を抱えていたり、九割以上がそんなふうだったのではないかと思う。多くの女性が血の滲む黒歴史を必死に隠してトライ&エラーを繰り返しているのだ。その誰もが、性に関してある程度の予備知識がおそらくはあったはずだ。あるからこそ、トライし続けることができる。
 男の人は、性に関して無知で初心な女の子を求めるけれど、無知であることは無防備であることとは同じだけれど、無知と初心は同じではないと、ほとんどの女性はわかっている。耳年増だけれど初心を装って恥らってあげる優しくて賢い女性が、生まれ育った世界、特に日本という国にはたくさんいた。正しいにこしたことはないけれど、間違っていても偏っていても、性に関する予備知識は、持っていないよりは持っていたほうが、つらい経験をしてしまう可能性を低くおさえられる。なんの予備知識も無しに男に身を任せたり、男の言うままになってしまうことは、結果として自分を大切にしていないし、恐ろしいことだと、奈々実は思う。
 この世界ではどうなのだろう、ひょっとして性教育とか無い、女性が全く予備知識の無いまっさらの無知の状態で、しかもセヴランがしてくれているように予行演習というか、破廉恥なスキンシップで徐々にエロいことに慣らす準備期間も無しで、初夜に臨むのだとしたら。いっさい全く何の予備知識も無かったら、レイプとか無理矢理ではなくても、性行為に衝撃を受けるのではないだろうか。もちろん、自分よりずうっと目上のモニークに、そんなことを根掘り葉掘り訊くなんてできないからわからないけれど、魔力の有無も関係して、この世界では性に関しては生まれ育った世界よりも真剣に向き合わなければならないと思う。
 「モニーク様」
「なあに?」
「セヴラン様が・・・、もしもわたしを抱いてしまわれたら、自殺なさるって言っていたのですけど、それは、この世界では普通のことなのですか?」
モニークはちょっと眉を上げ、それから少し笑って、肩の力を抜いた。
「セヴラン様がそうおっしゃったの?」
「はい」
「・・・まあ、『繋留』した以上は、そうした覚悟を奈々実に伝えておかなければフェアではないと思ったのでしょうね。セヴラン様なら」
「『繋留』してなかったら、自殺しなくてもいいのですか?」
「いいえ? 未成年の女の子に非道な振る舞いをした場合、去勢か自死のどちらかを選ばなければなりません。この世界の摂理に反することは、何人たりともできません」
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