異世界ダイエット

第百五十三話

　モニークの上司に該当する、実質的にこのベルチノアの魔力政策を左右する女性は、御簾のようなものの向こう側にいる上にヴェールのようなものを被っていて、しかも奈々実は頭を下げているので、全然顔が見えなかった。あのイケメン王太子リシャールのお姉さん、ということは王女様で、もといた世界の感覚で言うなら斎宮とか巫女とか、そういう役職に相当する存在であるらしい。お言葉も、側仕えの女官のオバサンによってリレーされて伝えられてくるので、どんな声なのかも全然わからない。
　もどかしいやりとりの末になんとか把握したのは、奈々実は容姿端麗ではないのに容姿端麗なセヴランに繋留されてそばにいて、コンプレックスを感じないのかとか、ゴールドのマジカル・スターがあるのにちゃんとコントロールできない、そのコンプレックスは無いのかとか、そんな質問をされている、らしい、ということだ。奈々実を呼び出して、そんな庶民的なというかＪＫみたいな幼稚な質問をしてくるって、もしかしてからかわれているのだろうかと思う。
　奈々実は自分が生まれ育った環境を話した。昨夜、夢を見たせいか、なんだか映画を見た直後に友達と感動を語り合うような、妙に熱が入ってなまなましい感じが溢れてしまった。母親はそこそこ美人だったのに全然似てなくて、父親からは『ブスだから嫁にもらってくれる男なんかいないだろうから、司法試験に合格して弁護士になれ』、と言われて、毎日毎日法律の書物を暗唱させられて育った。だから生まれ育った国の法律を全部暗唱できるから、セヴラン様は大切にしてくださるんです。たぶん、容姿に関してはそういう部分と相殺されているんですよ、と奈々実が言うと、御簾の向こう側からは戸惑いのような困惑のような、複雑な空気が漏れてきた。