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第百十二話
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「エリカの父親は、どのようなお人だったのだ?」
アンリに悪気は無かったのだろう。しかし、アンリの質問にすっと表情が消えた江里香の眸を奈々実は見てしまった。
「うちは・・・、私が小さい時に離婚して、父親は家を出ていったんです。だから、本当の父親のことはほとんど覚えてないんです。」
「そうか・・・」
アンリも自分が言わないほうがいいことを言ってしまったらしいと、敏感に悟ったようだ。
「うちは、逆。母親のほうが出て行ったよ。小学校・・二年生の時だったかな?」
「そうなのか?」
「はい。だからお母さんと一緒だった江里香ちゃんが羨ましいです。江里香ちゃんのお母さんだったら、きっとすごい美人で、女子力も高そうだし。髪、あんなに伸ばしていたのだって、羨ましかった。キレイだったのにもったいないことしたって思うよ。また伸ばすの?」
「う~ん・・・、アルヴィーンから戻ってきたら、かな」
アンリの質問に答えていたのに後半部分は自分に問いかけが来たことに答えながら、江里香は少し、反省する。自分が継父の虐待に苦しんだ過去があるように、奈々実には『母親が自分を棄てて出て行ってしまった』過去があるのだ。
「そんなにジョシ―な母親でもなかったよ。料理はまあまあ上手かったけど、掃除は手抜きだったし」
自分の娘が性的虐待されていても見て見ぬフリをしてたし、とは、声に出さずに言う。アンリには言う必要が無いことだ。
奈々実は話題を『父親』に関することから逸らそうとして、どうも巧くいかない。
「父親だけしかいないと、髪を伸ばすなんてありえないんだよ。ずうっとショートヘア。食事もコンビニ飯とかヨシ牛とかスーパーの惣菜とかカップ麺でさ。小五くらいからは自分で作ったりとかするようになった。」
時、既に遅しで、その頃にはもう、奈々実はすっかりデブになっていた。自分でキッチンに立つようになっても、覚えて作れるようになったのはカロリー度外視のオトコ飯ばかりだった。涙ぐましい努力として、袋のラーメンを作るときには野菜をたくさん入れたりしたけれど、父が揚げ物を買ってくれば一緒に食べていたから、カロリー過多は変わらなかった。
「トリートメントを初めて使ったのが、中学入ってからだったんだよ? お小遣いで買ってさあ。普通は髪質考えて母親が選んでくれるものじゃないの?」
お小遣いでトリートメントを買ったことを当時の友人にびっくりされた、という奈々実の話を聞いて、江里香もびっくりした。髪が痛むからとスイミングをやめてから、髪を伸ばし始めたけれど、母親は市販のではなくて美容室のトリートメントを使えと言って買ってきてくれていたのを思い出す。おかげで食べたものを吐いたりして不健康な身体だったわりには、髪はキレイな状態を保っていた。
本物の父親と母親が二人揃って、ただ普通にいてほしいだけなのに、そんなシンプルな願いのかなわない子供が、もといた世界にはどのくらいいたのだろう。いてほしくない継父とか継母なんかがいることを我慢してる子供も、どのくらいいたのだろう。もちろん、『生みの親より育ての親』、というように、継父母でもきちんと育ててくれる人もいるだろうけれど、そんなに立派な人ばかりではない。
アンリに悪気は無かったのだろう。しかし、アンリの質問にすっと表情が消えた江里香の眸を奈々実は見てしまった。
「うちは・・・、私が小さい時に離婚して、父親は家を出ていったんです。だから、本当の父親のことはほとんど覚えてないんです。」
「そうか・・・」
アンリも自分が言わないほうがいいことを言ってしまったらしいと、敏感に悟ったようだ。
「うちは、逆。母親のほうが出て行ったよ。小学校・・二年生の時だったかな?」
「そうなのか?」
「はい。だからお母さんと一緒だった江里香ちゃんが羨ましいです。江里香ちゃんのお母さんだったら、きっとすごい美人で、女子力も高そうだし。髪、あんなに伸ばしていたのだって、羨ましかった。キレイだったのにもったいないことしたって思うよ。また伸ばすの?」
「う~ん・・・、アルヴィーンから戻ってきたら、かな」
アンリの質問に答えていたのに後半部分は自分に問いかけが来たことに答えながら、江里香は少し、反省する。自分が継父の虐待に苦しんだ過去があるように、奈々実には『母親が自分を棄てて出て行ってしまった』過去があるのだ。
「そんなにジョシ―な母親でもなかったよ。料理はまあまあ上手かったけど、掃除は手抜きだったし」
自分の娘が性的虐待されていても見て見ぬフリをしてたし、とは、声に出さずに言う。アンリには言う必要が無いことだ。
奈々実は話題を『父親』に関することから逸らそうとして、どうも巧くいかない。
「父親だけしかいないと、髪を伸ばすなんてありえないんだよ。ずうっとショートヘア。食事もコンビニ飯とかヨシ牛とかスーパーの惣菜とかカップ麺でさ。小五くらいからは自分で作ったりとかするようになった。」
時、既に遅しで、その頃にはもう、奈々実はすっかりデブになっていた。自分でキッチンに立つようになっても、覚えて作れるようになったのはカロリー度外視のオトコ飯ばかりだった。涙ぐましい努力として、袋のラーメンを作るときには野菜をたくさん入れたりしたけれど、父が揚げ物を買ってくれば一緒に食べていたから、カロリー過多は変わらなかった。
「トリートメントを初めて使ったのが、中学入ってからだったんだよ? お小遣いで買ってさあ。普通は髪質考えて母親が選んでくれるものじゃないの?」
お小遣いでトリートメントを買ったことを当時の友人にびっくりされた、という奈々実の話を聞いて、江里香もびっくりした。髪が痛むからとスイミングをやめてから、髪を伸ばし始めたけれど、母親は市販のではなくて美容室のトリートメントを使えと言って買ってきてくれていたのを思い出す。おかげで食べたものを吐いたりして不健康な身体だったわりには、髪はキレイな状態を保っていた。
本物の父親と母親が二人揃って、ただ普通にいてほしいだけなのに、そんなシンプルな願いのかなわない子供が、もといた世界にはどのくらいいたのだろう。いてほしくない継父とか継母なんかがいることを我慢してる子供も、どのくらいいたのだろう。もちろん、『生みの親より育ての親』、というように、継父母でもきちんと育ててくれる人もいるだろうけれど、そんなに立派な人ばかりではない。
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