異世界ダイエット

第百十話

　「クロエさん、長い布、まだありましたよね？」
自分の無駄に大きい胸を抑えるためにいつも巻いているのと同じ長い布を、エリカの絶壁の胸にぐるぐると巻いてあげる。首の傷も手早く止血をし、イネスに教えてもらって、魔力をそうっと流してみると、傷は跡形も無く消えた。江里香は見えなかったけれど、奈々実が魔法で傷を治したのだと、わかった。やっぱり、自分は奈々実の側にはいられないと思う。奈々実は純粋で、一生懸命でイイ人だ。奈々実を憎みたくないと、心の底から思う。自分のためにも奈々実のためにも、自分は奈々実から離れたほうがいいと思う。
「江里香ちゃんの髪を短くしてあげてもらえますか？　男の子みたいに」
髪をベリー・ショートに整え、港湾警備軍の少年兵に支給される制服を借りて来て着せると、華奢な美少女の面影はどこにも無くなった。どう見てもまだ声変わりしていない、初々しい少年兵だ。
「うん、似合う！　こんな弟がいたらいいな、って感じ。イネス様になった気分だよ！」
奈々実ににっこりと言われて、江里香もようやく、涙に濡れた頬に笑みを浮かべる。
「アンリ様、お願いします。江里香ちゃんを連れて行ってあげてください」
アンリに頼み込む奈々実を、セヴランとイネスは複雑な思いで見ている。奈々実は本当に知らないのだということが、二人の胸にあらためて去来する。あの四日間にあったことを、奈々実に言うべきなのか、言わないほうがいいのか。