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第百八話
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翌朝、江里香は昼過ぎまで部屋から出てこなかったけれど、午後になって奈々実に充電済みのスマホを渡されると、あまりにも想定外なことにびっくりしたためか、憔悴しきっていた顔に少しだけJKらしい表情が戻った。
「番号とメアド、教えてくれる? ネットやアプリは使えないみたいなんだけど、通話とメールはできるんだよ」
午前中、カミーユのガラケーとの間でそれができることを確認した。冗談のような話だが、ネットができないのはまあ想定内として、通話とメールはできるのだ。ただし、通話はものすごくバッテリーを消耗する。昔のコインやカードの公衆電話の場合の長距離通話料金のように、えげつないほどの勢いで消耗するのだ。それに対して、メールであればそんなに消耗しない。何度もメールをやりとりすればもちろん消耗するが、通話ほどではない。ラ〇ンのように短文を何度もやりとりすることは控えて、手紙のように長い文章にして回数を減らせば、バッテリーの消耗はかなり抑えられる。
「ラ〇ンはできないの?」
「使えないよ。アプリはなにも使えない。写真は撮れるけど加工はできないってこと」
写真は撮れるが加工はできない、動画撮影やボイレコは、あまり長くなければできる。メールに添付して、送信もできる。
「ただ、魔力で充電するのがちょー大変なの。わたしがやって、三時間かかった。カミーユさんのガラケーも、二時間かかった」
だから奈々実も、目の下にクマがあるのか、と江里香は納得した。本当は別の事情があって奈々実は寝不足なのだが、そこは内緒である。
「エルネストさんに頼んだら、充電ケーブルを作ってくれないかな、と思うんだけど・・・」
血晶石の側にコンセントプラグが無いわけで、現状では奈々実が魔力で三時間かけて地道に充電するしかない、というわけだ。
「エルネストさんって、誰?」
「主都で会ったの。セヴラン様のお兄さん。ちょーヤバイ人だった」
悪戯小僧、長じてマッド・サイエンティストで顔はすごいキレイだけど、中身はひきこもりのニートでワガママで自分勝手で駄々っ子で運動神経ゼロで体力ゼロの三十歳児で、この世界で初めての空飛ぶお盆を作った人、と聞いて、江里香の目は点になってしまった。
「・・・本当にセヴラン様のお兄さんなの?」
「うん。しかもありえないんだけど、ベアトリスさんのことをずうっと好きだったんだって」
エルネストの筒井筒の恋の顛末を聞いて、江里香の顔にようやく、少しだけ笑顔が戻る。
「蓼食う虫も好き好きとはいえ・・・、わたしが男だったらちょっと、ベアトリスさんはご遠慮申し上げたいなあ」
「わたしだってそうだよ。でもねえ、捨てる神あれば拾う神あり、でしょ? セヴラン様も、なんか肩の荷が下りたみたいな顔してたよ」
それと、少しだけ、コントロールできる魔力の量が多くなったし、なめらかになった、と報告する奈々実に、江里香の心が微細にささくれ立つ。奈々実には無限といっていいほどの魔力があって、それなのに自由には使いこなせなくて、そのことに腹が立つけれど、でも少しずつコントロールできる量が増えていって、いつかはイネスみたいにすごい魔力量をきちんとコントロールできるようになるのだろうか。今はできないのに。なんで奈々実だけ、努力すればひらけていく明るい未来が約束されているの? と、悔しい気持ちになってしまう。マリエルを救うには間に合わなかったのに、いつかは誰かを救えるようになって、感謝される存在になるのだろうか。奈々実だけが。魔力が無い江里香には、そんな輝かしい未来は保障されていないのに。
「番号とメアド、教えてくれる? ネットやアプリは使えないみたいなんだけど、通話とメールはできるんだよ」
午前中、カミーユのガラケーとの間でそれができることを確認した。冗談のような話だが、ネットができないのはまあ想定内として、通話とメールはできるのだ。ただし、通話はものすごくバッテリーを消耗する。昔のコインやカードの公衆電話の場合の長距離通話料金のように、えげつないほどの勢いで消耗するのだ。それに対して、メールであればそんなに消耗しない。何度もメールをやりとりすればもちろん消耗するが、通話ほどではない。ラ〇ンのように短文を何度もやりとりすることは控えて、手紙のように長い文章にして回数を減らせば、バッテリーの消耗はかなり抑えられる。
「ラ〇ンはできないの?」
「使えないよ。アプリはなにも使えない。写真は撮れるけど加工はできないってこと」
写真は撮れるが加工はできない、動画撮影やボイレコは、あまり長くなければできる。メールに添付して、送信もできる。
「ただ、魔力で充電するのがちょー大変なの。わたしがやって、三時間かかった。カミーユさんのガラケーも、二時間かかった」
だから奈々実も、目の下にクマがあるのか、と江里香は納得した。本当は別の事情があって奈々実は寝不足なのだが、そこは内緒である。
「エルネストさんに頼んだら、充電ケーブルを作ってくれないかな、と思うんだけど・・・」
血晶石の側にコンセントプラグが無いわけで、現状では奈々実が魔力で三時間かけて地道に充電するしかない、というわけだ。
「エルネストさんって、誰?」
「主都で会ったの。セヴラン様のお兄さん。ちょーヤバイ人だった」
悪戯小僧、長じてマッド・サイエンティストで顔はすごいキレイだけど、中身はひきこもりのニートでワガママで自分勝手で駄々っ子で運動神経ゼロで体力ゼロの三十歳児で、この世界で初めての空飛ぶお盆を作った人、と聞いて、江里香の目は点になってしまった。
「・・・本当にセヴラン様のお兄さんなの?」
「うん。しかもありえないんだけど、ベアトリスさんのことをずうっと好きだったんだって」
エルネストの筒井筒の恋の顛末を聞いて、江里香の顔にようやく、少しだけ笑顔が戻る。
「蓼食う虫も好き好きとはいえ・・・、わたしが男だったらちょっと、ベアトリスさんはご遠慮申し上げたいなあ」
「わたしだってそうだよ。でもねえ、捨てる神あれば拾う神あり、でしょ? セヴラン様も、なんか肩の荷が下りたみたいな顔してたよ」
それと、少しだけ、コントロールできる魔力の量が多くなったし、なめらかになった、と報告する奈々実に、江里香の心が微細にささくれ立つ。奈々実には無限といっていいほどの魔力があって、それなのに自由には使いこなせなくて、そのことに腹が立つけれど、でも少しずつコントロールできる量が増えていって、いつかはイネスみたいにすごい魔力量をきちんとコントロールできるようになるのだろうか。今はできないのに。なんで奈々実だけ、努力すればひらけていく明るい未来が約束されているの? と、悔しい気持ちになってしまう。マリエルを救うには間に合わなかったのに、いつかは誰かを救えるようになって、感謝される存在になるのだろうか。奈々実だけが。魔力が無い江里香には、そんな輝かしい未来は保障されていないのに。
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