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第八十二話
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イネスと別れて、リゼットはエリカを小さな子供たちの棟に連れて行った。部屋に入ると、すぐに小さな女の子たちがリゼットの周りに集まって来る。
「リゼットさまあ、今日は何して遊ぶのお?」
「リゼねえさま、見て見て! マリエルねえ、三つ編みできるようになったんだよ!」
幼稚園とか保育園くらいだろうか。茶色の髪をくちゃくちゃの三つ編みにした女の子が、自分の髪をリゼットに見てほしくてピョンピョンと飛び跳ねる。
「マリエル、頑張ったねえ、偉いぞ! こっちのお姉さんに教えてもらったら、もっと上手にできるかもしれないよ?」
リゼットがそう言って江里香の背中を押す。押されて一歩前に出た江里香を見て、マリエルは最初はちょっとびっくりした顔をしたが、江里香の腰まである長い三つ編みを見ると、ぱあっと顔を輝かせた。
「すごーいっ! キレイ! どうやったらそんなにキレイにできるの!?」
江里香の漆黒の直毛は、この世界ではめずらしい。絹糸のように艶やかな真っ黒の髪がきっちりと編まれている様子に、マリエルの目は釘付けになっている。
「・・・練習すれば、きっと上手にできるようになるよ。もっと髪が長くなったら、一緒に練習しようか?」
しかしマリエルは頑強に首を振る。
「やだー! 今! 今できるようになりたいの! 今、教えて! お願い!」
マリエルの異常なほどの熱意に、江里香はちょっと腰が引けてしまう。
「教えてあげてくれる? エリカ。この子に」
「あ、はい」
リゼットの声は穏やかなのに嫌とは言わせない何かがあった。マリエルに櫛や鏡を持ってくるように言い、リゼットは江里香にありがとう、と微笑む。
机に鏡を置いて、江里香はマリエルを自分の膝の上に座らせた。くちゃくちゃの三つ編みを解き、櫛で髪をとかすと、長さがばらばらなので三つ編みは難しいと、江里香は思った。それに、まるで病気の人のように、櫛をとおすとぎょっとするほどたくさんの髪が抜けてしまう。
「・・・もう少し髪が伸びたら、毛先を少し切り揃えてもらったらいいんじゃないかな。そうしたら、もっときれいに三つ編みできるようになると思うよ?」
江里香がそう言うと、鏡に映るマリエルの眸にみるみる涙が盛り上がった。
「切らなきゃダメ? ママが帰って来るまでずうっと伸ばしていいよって、パパとリゼねえさまは言ったよ? マリエル、髪、切りたくないの。ママが帰って来たら、ママに三つ編み見せるの」
涙に驚いた江里香はおろおろしてしまったけれど、小さな子供の夢を壊すわけにはいかないと、気を引き締める。
「・・・ママは、いつ帰って来るの?」
「わかんない。でも、絶対帰って来るよ!」
「そっか・・・、じゃあ、マリエルの髪が早く伸びるように、これ、あげるね」
江里香は自分の長い三つ編みの先端に結んであった、繊細なレースのリボンを解いた。ちょっと前にマルシェで見つけて、気に入って買ったものだ。
「わたしは魔力が無いからお祈りしかできないけど、マリエルの髪が早くのびますように、って、ずうっとお祈りしているよ」
奈々実がイネスにしてもらっていたように、江里香はマリエルの髪をそうっとハーフアップにして、リボンを結んであげた。
「ありがとう! これつけていたら、お姉さんみたいにキレイに長い髪になる?」
「なるように、ずうっとお祈りする。約束」
「ありがとう! ・・・えーっと、なにお姉さん?」
「エリカっていうの。よろしくね、マリエル」
「うん。エリカお姉さん! 髪が長くなったら三つ編み教えてね!」
ハーフアップにしてもほろほろとすぐにおくれ毛が出て崩れてしまう頭で、ピョコン、とお辞儀をして、マリエルは走っていく。一瞬前まで膝の上にあったマリエルの体重や体温が、急に消えて、なんだか寂しい気がした。
「リゼットさまあ、今日は何して遊ぶのお?」
「リゼねえさま、見て見て! マリエルねえ、三つ編みできるようになったんだよ!」
幼稚園とか保育園くらいだろうか。茶色の髪をくちゃくちゃの三つ編みにした女の子が、自分の髪をリゼットに見てほしくてピョンピョンと飛び跳ねる。
「マリエル、頑張ったねえ、偉いぞ! こっちのお姉さんに教えてもらったら、もっと上手にできるかもしれないよ?」
リゼットがそう言って江里香の背中を押す。押されて一歩前に出た江里香を見て、マリエルは最初はちょっとびっくりした顔をしたが、江里香の腰まである長い三つ編みを見ると、ぱあっと顔を輝かせた。
「すごーいっ! キレイ! どうやったらそんなにキレイにできるの!?」
江里香の漆黒の直毛は、この世界ではめずらしい。絹糸のように艶やかな真っ黒の髪がきっちりと編まれている様子に、マリエルの目は釘付けになっている。
「・・・練習すれば、きっと上手にできるようになるよ。もっと髪が長くなったら、一緒に練習しようか?」
しかしマリエルは頑強に首を振る。
「やだー! 今! 今できるようになりたいの! 今、教えて! お願い!」
マリエルの異常なほどの熱意に、江里香はちょっと腰が引けてしまう。
「教えてあげてくれる? エリカ。この子に」
「あ、はい」
リゼットの声は穏やかなのに嫌とは言わせない何かがあった。マリエルに櫛や鏡を持ってくるように言い、リゼットは江里香にありがとう、と微笑む。
机に鏡を置いて、江里香はマリエルを自分の膝の上に座らせた。くちゃくちゃの三つ編みを解き、櫛で髪をとかすと、長さがばらばらなので三つ編みは難しいと、江里香は思った。それに、まるで病気の人のように、櫛をとおすとぎょっとするほどたくさんの髪が抜けてしまう。
「・・・もう少し髪が伸びたら、毛先を少し切り揃えてもらったらいいんじゃないかな。そうしたら、もっときれいに三つ編みできるようになると思うよ?」
江里香がそう言うと、鏡に映るマリエルの眸にみるみる涙が盛り上がった。
「切らなきゃダメ? ママが帰って来るまでずうっと伸ばしていいよって、パパとリゼねえさまは言ったよ? マリエル、髪、切りたくないの。ママが帰って来たら、ママに三つ編み見せるの」
涙に驚いた江里香はおろおろしてしまったけれど、小さな子供の夢を壊すわけにはいかないと、気を引き締める。
「・・・ママは、いつ帰って来るの?」
「わかんない。でも、絶対帰って来るよ!」
「そっか・・・、じゃあ、マリエルの髪が早く伸びるように、これ、あげるね」
江里香は自分の長い三つ編みの先端に結んであった、繊細なレースのリボンを解いた。ちょっと前にマルシェで見つけて、気に入って買ったものだ。
「わたしは魔力が無いからお祈りしかできないけど、マリエルの髪が早くのびますように、って、ずうっとお祈りしているよ」
奈々実がイネスにしてもらっていたように、江里香はマリエルの髪をそうっとハーフアップにして、リボンを結んであげた。
「ありがとう! これつけていたら、お姉さんみたいにキレイに長い髪になる?」
「なるように、ずうっとお祈りする。約束」
「ありがとう! ・・・えーっと、なにお姉さん?」
「エリカっていうの。よろしくね、マリエル」
「うん。エリカお姉さん! 髪が長くなったら三つ編み教えてね!」
ハーフアップにしてもほろほろとすぐにおくれ毛が出て崩れてしまう頭で、ピョコン、とお辞儀をして、マリエルは走っていく。一瞬前まで膝の上にあったマリエルの体重や体温が、急に消えて、なんだか寂しい気がした。
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