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第六十九話
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奈々実も驚いて呆然となったが、セヴランは少し表情を険しくするものの、驚いた様子は無い。
―――事前にご存知でいらした・・・?―――
半裸の女性の身体は見えるが、顔はわからなかった。映像はそこで消えた。紫のマジカル・スターでは、そのくらいが限度であるらしい。アネットはひどく憔悴して、肩で息をしている。
「オランド公爵令嬢、意識が無い場合でも魔力攻撃は犯罪として成立するなら、明確な意思を持って人を魔法で傷つけるのは、これは明らかに暴力であり犯罪ですね?」
問われてもベアトリスは答えない。狼狽の限界に達しているのは明白で、顔色は青くなったり赤くなったりしていて、目は忙しく宙をさまよっている。くちびるはわなわなと震えながらも何かを言おうとしているが、言葉にならない。
「アネット・モロー、お疲れでしたら座ってください。大丈夫ですか? 水が欲しければ、どうぞ」
「ありがとうございます・・・」
消え入りそうな声で礼を言って、アネットは腰を下ろして水を飲むが、その手はぶるぶると震えている。絶対に原告席のほうを見ようとはせず、さきほど紅潮していた頬は血の気を失って真っ青だ。身体を固くして握りしめたカップを凝視している。
「アネット・モロー、先ほどの映像の中で、魔力で暴力をふるわれていた女性はどなたですか?」
「・・・同僚のシモーヌ・デザルグです」
傍聴席でユベールが息をのんだ。
大人の女性の半裸、キトンを捲り上げられて、痣だらけの素肌が露わになり、魔力による見えない打擲が行われる映像だけでも、子供には衝撃的すぎる光景だったが、まさかそれが自分の母親だったなんて、俄かには信じることはできない。
「ではアネット・モロー、シモーヌ・デザルグのキトンを捲り上げていた紫色の魔力波はどなたですか?」
アネットは言いよどむ。
「ご自身の魔力波だと、認めることができませんか?」
それって誘導尋問じゃないの? 奈々実はちょっと疑問に思ったが、黙って見ていた。
「魔力鑑定を行いましょうか?」
モニークは手元に並べた魔石の配置を変える。と、スクリーンから紫色の魔力の波動が細く伸びて、アネットのマジカル・スターに光の線となってつながった。
「アネット・モロー、キトンを捲り上げた紫色の魔力波は貴女ですね?」
「・・・」
「アネット・モロー」
「命令されたのです! 命令されて、逆らえませんでした! 申し訳ありませんでした!」
アネットは叫び、激しくすすり泣いた。
「ではアネット・モロー、シモーヌ・デザルグに魔力で暴力をふるっていたのはどなたですか?」
「・・・・・」
「アネット・モロー、答えてください」
泣いたことでいったん赤くなったアネットの顔が、ベルズポート・タウンの町並みの漆喰壁のように白くなる。呼吸が浅くなっているのが見てとれ、座っているけれどこのまま倒れて息絶えてしまうのではなかろうかと、奈々実ははらはらした。
「アネット・モロー、答えてください」
モニークの声は穏やかで、決して威圧的ではない。けれどこの時、モニークの声はアネットにとって最後の審判に強制的に臨まされるかのような、究極の決断を迫るものだった。
「・・・ベアトリスお嬢様です・・・」
―――事前にご存知でいらした・・・?―――
半裸の女性の身体は見えるが、顔はわからなかった。映像はそこで消えた。紫のマジカル・スターでは、そのくらいが限度であるらしい。アネットはひどく憔悴して、肩で息をしている。
「オランド公爵令嬢、意識が無い場合でも魔力攻撃は犯罪として成立するなら、明確な意思を持って人を魔法で傷つけるのは、これは明らかに暴力であり犯罪ですね?」
問われてもベアトリスは答えない。狼狽の限界に達しているのは明白で、顔色は青くなったり赤くなったりしていて、目は忙しく宙をさまよっている。くちびるはわなわなと震えながらも何かを言おうとしているが、言葉にならない。
「アネット・モロー、お疲れでしたら座ってください。大丈夫ですか? 水が欲しければ、どうぞ」
「ありがとうございます・・・」
消え入りそうな声で礼を言って、アネットは腰を下ろして水を飲むが、その手はぶるぶると震えている。絶対に原告席のほうを見ようとはせず、さきほど紅潮していた頬は血の気を失って真っ青だ。身体を固くして握りしめたカップを凝視している。
「アネット・モロー、先ほどの映像の中で、魔力で暴力をふるわれていた女性はどなたですか?」
「・・・同僚のシモーヌ・デザルグです」
傍聴席でユベールが息をのんだ。
大人の女性の半裸、キトンを捲り上げられて、痣だらけの素肌が露わになり、魔力による見えない打擲が行われる映像だけでも、子供には衝撃的すぎる光景だったが、まさかそれが自分の母親だったなんて、俄かには信じることはできない。
「ではアネット・モロー、シモーヌ・デザルグのキトンを捲り上げていた紫色の魔力波はどなたですか?」
アネットは言いよどむ。
「ご自身の魔力波だと、認めることができませんか?」
それって誘導尋問じゃないの? 奈々実はちょっと疑問に思ったが、黙って見ていた。
「魔力鑑定を行いましょうか?」
モニークは手元に並べた魔石の配置を変える。と、スクリーンから紫色の魔力の波動が細く伸びて、アネットのマジカル・スターに光の線となってつながった。
「アネット・モロー、キトンを捲り上げた紫色の魔力波は貴女ですね?」
「・・・」
「アネット・モロー」
「命令されたのです! 命令されて、逆らえませんでした! 申し訳ありませんでした!」
アネットは叫び、激しくすすり泣いた。
「ではアネット・モロー、シモーヌ・デザルグに魔力で暴力をふるっていたのはどなたですか?」
「・・・・・」
「アネット・モロー、答えてください」
泣いたことでいったん赤くなったアネットの顔が、ベルズポート・タウンの町並みの漆喰壁のように白くなる。呼吸が浅くなっているのが見てとれ、座っているけれどこのまま倒れて息絶えてしまうのではなかろうかと、奈々実ははらはらした。
「アネット・モロー、答えてください」
モニークの声は穏やかで、決して威圧的ではない。けれどこの時、モニークの声はアネットにとって最後の審判に強制的に臨まされるかのような、究極の決断を迫るものだった。
「・・・ベアトリスお嬢様です・・・」
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