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第五十九話
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貴族の住まう街区の中でも庶民階級の街区に近い一角に、セヴランの生家がある。ベアトリスの屋敷、オランド公爵邸のような壮麗なものではなく、庶民の家より少し大きい程度の家だ。門の前まで来ると、少年たちはきちんと辞去していった。門番などいない小さな門は開け放したままになっていて、さして広くない庭は手入れが行き届いている。
セヴランに助けてもらって、奈々実は馬から降ろしてもらう。目線が一気に低くなり、宙ぶらりんだった足が久しぶりに地面についたことに安堵する。
「ただいま戻りました」
セヴランが入り口で声を上げると、お帰りなさいませ、と声がして、大柄な老人が現れた。セヴランと同じくらい背が高くて肩幅が広く、眼光鋭く手足も長い。かつては勇猛な武人であったことをうかがわせる老人は、しかし意外なほど優し気な笑みを浮かべてセヴランと奈々実を迎え入れた。
「執事のアルフォンスだ。アルフォンス、こちらがナナミだ」
「よろしくお願い致します」
奈々実が深々と頭を下げると、アルフォンスは少し驚いたようだった。
「ご丁寧にありがとうございます。ですがどうか頭を上げてくださらないでしょうか。私はただの使用人にすぎません。ぼっちゃまを繋留された方に頭を下げられるなど、恐れ多いことでございます」
ん? と、奈々実は首をかしげる。『セヴランが奈々実を繋留した』のであって、『奈々実がセヴランを繋留した』のではないはずだ。
―――このご老体、大丈夫かな・・・?―――
認知症を疑った、その時。
アルフォンスと扉との影になっている死角から、なにか黒いものが奈々実に向かって振り下ろされてきた。
「危ないっ!」
セヴランが自分の身体で奈々実を守ろうと覆いかぶさるのと、アルフォンスが黒いものを腕で受け止めるのと、びっくりした奈々実がしゃがみ込むのが、ほぼ同時だった。
「ひゃああっ!?」
練習第三段階のチョーカーは、第二段階のものよりもさらに馬蹄に近く、奈々実の魔力の七割くらいまでしか、封じられていない。奈々実が自分で制御しなければならない三割が、驚いたせいで暴発した。
轟音が響き渡り、大地に激震が走った。
セヴランに助けてもらって、奈々実は馬から降ろしてもらう。目線が一気に低くなり、宙ぶらりんだった足が久しぶりに地面についたことに安堵する。
「ただいま戻りました」
セヴランが入り口で声を上げると、お帰りなさいませ、と声がして、大柄な老人が現れた。セヴランと同じくらい背が高くて肩幅が広く、眼光鋭く手足も長い。かつては勇猛な武人であったことをうかがわせる老人は、しかし意外なほど優し気な笑みを浮かべてセヴランと奈々実を迎え入れた。
「執事のアルフォンスだ。アルフォンス、こちらがナナミだ」
「よろしくお願い致します」
奈々実が深々と頭を下げると、アルフォンスは少し驚いたようだった。
「ご丁寧にありがとうございます。ですがどうか頭を上げてくださらないでしょうか。私はただの使用人にすぎません。ぼっちゃまを繋留された方に頭を下げられるなど、恐れ多いことでございます」
ん? と、奈々実は首をかしげる。『セヴランが奈々実を繋留した』のであって、『奈々実がセヴランを繋留した』のではないはずだ。
―――このご老体、大丈夫かな・・・?―――
認知症を疑った、その時。
アルフォンスと扉との影になっている死角から、なにか黒いものが奈々実に向かって振り下ろされてきた。
「危ないっ!」
セヴランが自分の身体で奈々実を守ろうと覆いかぶさるのと、アルフォンスが黒いものを腕で受け止めるのと、びっくりした奈々実がしゃがみ込むのが、ほぼ同時だった。
「ひゃああっ!?」
練習第三段階のチョーカーは、第二段階のものよりもさらに馬蹄に近く、奈々実の魔力の七割くらいまでしか、封じられていない。奈々実が自分で制御しなければならない三割が、驚いたせいで暴発した。
轟音が響き渡り、大地に激震が走った。
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