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第五十五話
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翌早朝、主都へと出発する準備を整えた奈々実の前に、セヴランは鞍を置いていない馬を厩舎から引き出してきた。
「馬車じゃないんですか?」
「荷物とカミーユは馬車だ。あいつは馬が怖いらしいからな。だが三時間もチンタラ箱詰めになっているのは、俺は退屈だし時間の無駄だ」
ちょうど馬の背の高さに近い石垣がある。後ろから登ってきて腰掛けるように奈々実に指示すると、セヴランは馬をその横につける。
「ニケというんだ。一番賢くておとなしい馬だ。二人で乗る場合には鞍は置けない。鞍を置かないということは鐙も無いということだ。わかるか?」
頭ではわかる。しかし、だからどうすればいいのかは、まったくわからない。石垣に腰かけたまま、奈々実がおろおろしていると、セヴランは仕方がないというように、まずは自分が石垣に足をかけて、勝利の女神の名をつけられた馬の背に軽々と跨った。そして不安そうな奈々実の腕を掴んで、石垣の上から自分の前に引いた。
「ぎょええっ!?」
相変わらず色気もへったくれもない声を上げ、馬の背にうつぶせの腹這いに、まるで荷物のように乗せられてしまう。馬の背中というのは、見るよりも乗ってみるとはるかに高く、怖いものだ。落ちたら絶対に大怪我をすると、落ちなくてもわかる。落ちまいと必死にしがみつき、じたじたと藻掻くその腰のあたりを大きな手で支え、セヴランは苦笑しながら奈々実を跨らせてやった。キトンは身体を横から挟んでいるだけでしかない単なる一枚布なんだから、よじれてしまう、ノーパンなんだから脚を上げて跨ったらちょーヤバイじゃん、下半身全部見えちゃうじゃん! と半泣きのパニックになりながら、奈々実はどうにか馬に跨らせてもらった。背後からセヴランにしっかりと抱き支えられているが、鐙が無いということはセヴランの足もぶらんと宙にあるわけで、このまま主都まで行くつもりなのだろうかと途方に暮れる。三時間箱詰めのほうがよっぽどいいと思う。ノーパンなのに脚をがばっと開いて馬に跨るなんて、キトンの布地一枚隔てるだけで馬の背中にお尻が密着しているなんて、ありえない、絶対にありえない。キトンが摺り上がって、ぶっとい脚が剥き出しになっているのが、むちゃくちゃ恥ずかしい。
―――どんな罰ゲームよう・・・―――
例えばパンツをはいて、乗馬用ズボンとまでは言わないがせめてなにか長ズボン的なものがあればいいのに。そうだ、訓練着! 訓練着があったじゃないか! あれなら動きやすいし、ズボンの形をしているじゃないか! 今からでも着替えさせてもらえれば! しかし奈々実がそれを告げるより早く、セヴランはさっと馬首を廻らす。奈々実は慌てて馬の鬣を掴んだ。バランスをとって必死に自分の上体を維持する。セヴランは奈々実の背後から両腕を回してしっかりと抱き込むようにして手綱を握り、奈々実の胴をささえ、街でも高台にあるイネスの家よりもさらに上、丘の頂上へとニケを進めていく。
「馬車じゃないんですか?」
「荷物とカミーユは馬車だ。あいつは馬が怖いらしいからな。だが三時間もチンタラ箱詰めになっているのは、俺は退屈だし時間の無駄だ」
ちょうど馬の背の高さに近い石垣がある。後ろから登ってきて腰掛けるように奈々実に指示すると、セヴランは馬をその横につける。
「ニケというんだ。一番賢くておとなしい馬だ。二人で乗る場合には鞍は置けない。鞍を置かないということは鐙も無いということだ。わかるか?」
頭ではわかる。しかし、だからどうすればいいのかは、まったくわからない。石垣に腰かけたまま、奈々実がおろおろしていると、セヴランは仕方がないというように、まずは自分が石垣に足をかけて、勝利の女神の名をつけられた馬の背に軽々と跨った。そして不安そうな奈々実の腕を掴んで、石垣の上から自分の前に引いた。
「ぎょええっ!?」
相変わらず色気もへったくれもない声を上げ、馬の背にうつぶせの腹這いに、まるで荷物のように乗せられてしまう。馬の背中というのは、見るよりも乗ってみるとはるかに高く、怖いものだ。落ちたら絶対に大怪我をすると、落ちなくてもわかる。落ちまいと必死にしがみつき、じたじたと藻掻くその腰のあたりを大きな手で支え、セヴランは苦笑しながら奈々実を跨らせてやった。キトンは身体を横から挟んでいるだけでしかない単なる一枚布なんだから、よじれてしまう、ノーパンなんだから脚を上げて跨ったらちょーヤバイじゃん、下半身全部見えちゃうじゃん! と半泣きのパニックになりながら、奈々実はどうにか馬に跨らせてもらった。背後からセヴランにしっかりと抱き支えられているが、鐙が無いということはセヴランの足もぶらんと宙にあるわけで、このまま主都まで行くつもりなのだろうかと途方に暮れる。三時間箱詰めのほうがよっぽどいいと思う。ノーパンなのに脚をがばっと開いて馬に跨るなんて、キトンの布地一枚隔てるだけで馬の背中にお尻が密着しているなんて、ありえない、絶対にありえない。キトンが摺り上がって、ぶっとい脚が剥き出しになっているのが、むちゃくちゃ恥ずかしい。
―――どんな罰ゲームよう・・・―――
例えばパンツをはいて、乗馬用ズボンとまでは言わないがせめてなにか長ズボン的なものがあればいいのに。そうだ、訓練着! 訓練着があったじゃないか! あれなら動きやすいし、ズボンの形をしているじゃないか! 今からでも着替えさせてもらえれば! しかし奈々実がそれを告げるより早く、セヴランはさっと馬首を廻らす。奈々実は慌てて馬の鬣を掴んだ。バランスをとって必死に自分の上体を維持する。セヴランは奈々実の背後から両腕を回してしっかりと抱き込むようにして手綱を握り、奈々実の胴をささえ、街でも高台にあるイネスの家よりもさらに上、丘の頂上へとニケを進めていく。
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