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第五十四話
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「アルヴィーンでも奴隷制はあるのですか?」
「すくなくとも奴隷という言葉だけは廃止されているな。咎人を強制労働させることが、実質的には奴隷制の代用と言っていい状態だ。アルヴィーンの法律はすごいぞ。帝都警備軍は究極のエリート軍団だから、パンひとつでも盗んだ者は必ず捕らえられて弁償額ぶんの強制労働に従事させられるのだが、金さえ払えばいいだろう、ではすまされないところがすごいんだ。罰金として徴収した金を懐に入れる悪徳官吏をはびこらせない、袖の下で罪を免れようとする者を絶対に許さない。どんな罪も労働で贖わせることを徹底している。斬首だの火刑といった死刑の類は一切無い。だから重罪人は、実質的に奴隷のようなものだ」
重罪の場合は頬に、中程度の罪の場合は腕に、罪状の重さを示す刺青を入れられ、強制労働に従事させられる。終身強制労働でも足らない超一級の重罪の場合は、男性器の切除などの特殊な刑罰もあるが、基本的には死刑や処刑というものは無い。
「治安のよさは折り紙付きだ。夜間に女子供だけで街を歩けるのは、大陸広しといえどもアルヴィーンの都だけだ」
逆を言えばアルヴィーンの主都以外は、女子供が夜間には出歩けないということだ。いくら女性に暴力的な性行為を強いてはいけないと先人が言い含めようが法律を定めて取り締まろうが、男の欲望を完全に抑え込むことなど、できるはずがない。低俗で卑劣で能力も実力も無い小狡い男ほど、魔力が多い女性を暴力で意のままにして労せず邪な野望を達成しようと考える。辺境の後進国などは、表面的には法治国家の体裁を整えていても内情はお粗末なもので、薄皮のような理性や見栄で、獣欲をかろうじて覆い隠しているにすぎない。
はからずして奈々実という魔力が多い女性、ゴールド・スターの少女を繋留してしまったセヴランは、それをやっかむ輩からあらぬ疑いをかけられ、指弾されるかもしれない。それは、未成年に性行為を強制したのだろうというロリコン疑惑の辱めであり、奈々実の魔力を使って国家を乗っ取るつもりだろうという悪意に満ちた疑惑だ。セヴランを貶め蹴落としたいとする勢力がどんな誹謗中傷をしてくるか、全くわからない。
セヴランは、このベルチノアもいつの日か、アルヴィーンの都のように夜間に女子供が出歩いても身の危険など感じないような治安のいい場所にしたいという崇高な志を抱いている。あまりにも遠大な夢で、誰にも話したことなど無いし、もしも奈々実が『セヴランにエロいダイエットをさせられた』などと漏らしたりしたら、その志に邁進するどころかセヴランの人生は終わると言っていい。だったらダイエットと詐称する卑猥なことをしないか、くれぐれも迂闊なことを言ってはいけないと奈々実に口留めをすればいいのだが、なぜかセヴランはそうする気にならなかった。奈々実を信じたい、あるいは試してみたい気持ちと、奈々実にそのことを暴露されて人生を終わりにすることによって重責から解放されたいような気持ちが渦を巻いている。自分は意外とヘタレのクズ野郎だったのだな、と苦笑いが浮かぶ。
「なにを笑っているんですか?」
奈々実は目敏い。身長差のために思いっきりぐいっと顔を上げてくる視線が愛らしい。上目遣いはよくないとクロエに言われて、奈々実はしっかりと顔を上げてセヴランと目線を合わせて喋るようになった。その顔の上げ方がなんだか仔犬のようで、無性にそのむちむちの身体をモフりたくなる。奈々実に対するいとおしさは、イネスには愛していると大見得を切ったが、女性に対するというより犬猫を愛玩する感覚に近いと思う。それこそ女性に対する冒涜だと怒られそうなので、絶対に言えないことだ。
「すくなくとも奴隷という言葉だけは廃止されているな。咎人を強制労働させることが、実質的には奴隷制の代用と言っていい状態だ。アルヴィーンの法律はすごいぞ。帝都警備軍は究極のエリート軍団だから、パンひとつでも盗んだ者は必ず捕らえられて弁償額ぶんの強制労働に従事させられるのだが、金さえ払えばいいだろう、ではすまされないところがすごいんだ。罰金として徴収した金を懐に入れる悪徳官吏をはびこらせない、袖の下で罪を免れようとする者を絶対に許さない。どんな罪も労働で贖わせることを徹底している。斬首だの火刑といった死刑の類は一切無い。だから重罪人は、実質的に奴隷のようなものだ」
重罪の場合は頬に、中程度の罪の場合は腕に、罪状の重さを示す刺青を入れられ、強制労働に従事させられる。終身強制労働でも足らない超一級の重罪の場合は、男性器の切除などの特殊な刑罰もあるが、基本的には死刑や処刑というものは無い。
「治安のよさは折り紙付きだ。夜間に女子供だけで街を歩けるのは、大陸広しといえどもアルヴィーンの都だけだ」
逆を言えばアルヴィーンの主都以外は、女子供が夜間には出歩けないということだ。いくら女性に暴力的な性行為を強いてはいけないと先人が言い含めようが法律を定めて取り締まろうが、男の欲望を完全に抑え込むことなど、できるはずがない。低俗で卑劣で能力も実力も無い小狡い男ほど、魔力が多い女性を暴力で意のままにして労せず邪な野望を達成しようと考える。辺境の後進国などは、表面的には法治国家の体裁を整えていても内情はお粗末なもので、薄皮のような理性や見栄で、獣欲をかろうじて覆い隠しているにすぎない。
はからずして奈々実という魔力が多い女性、ゴールド・スターの少女を繋留してしまったセヴランは、それをやっかむ輩からあらぬ疑いをかけられ、指弾されるかもしれない。それは、未成年に性行為を強制したのだろうというロリコン疑惑の辱めであり、奈々実の魔力を使って国家を乗っ取るつもりだろうという悪意に満ちた疑惑だ。セヴランを貶め蹴落としたいとする勢力がどんな誹謗中傷をしてくるか、全くわからない。
セヴランは、このベルチノアもいつの日か、アルヴィーンの都のように夜間に女子供が出歩いても身の危険など感じないような治安のいい場所にしたいという崇高な志を抱いている。あまりにも遠大な夢で、誰にも話したことなど無いし、もしも奈々実が『セヴランにエロいダイエットをさせられた』などと漏らしたりしたら、その志に邁進するどころかセヴランの人生は終わると言っていい。だったらダイエットと詐称する卑猥なことをしないか、くれぐれも迂闊なことを言ってはいけないと奈々実に口留めをすればいいのだが、なぜかセヴランはそうする気にならなかった。奈々実を信じたい、あるいは試してみたい気持ちと、奈々実にそのことを暴露されて人生を終わりにすることによって重責から解放されたいような気持ちが渦を巻いている。自分は意外とヘタレのクズ野郎だったのだな、と苦笑いが浮かぶ。
「なにを笑っているんですか?」
奈々実は目敏い。身長差のために思いっきりぐいっと顔を上げてくる視線が愛らしい。上目遣いはよくないとクロエに言われて、奈々実はしっかりと顔を上げてセヴランと目線を合わせて喋るようになった。その顔の上げ方がなんだか仔犬のようで、無性にそのむちむちの身体をモフりたくなる。奈々実に対するいとおしさは、イネスには愛していると大見得を切ったが、女性に対するというより犬猫を愛玩する感覚に近いと思う。それこそ女性に対する冒涜だと怒られそうなので、絶対に言えないことだ。
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