異世界ダイエット

Shiori

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第四十五話

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 愛戯に疲れ果て、腕の中で眠る奈々実を見る。十月に十七歳になる、ということは、まだあと一年以上も、奈々実と正式に心も身体も結ばれることは許されない。一年とちょっと、しっかりダイエットをしたら、このぷくぷくのぷにょぷにょの身体はスリムになって、もっとしっかり筋肉と体力がついて、自分の想いを総て受け入れてくれるだろうか。
 奈々実に愛撫をすることで猛ってしまった自分の下半身をもてあます。この熱を奈々実の中に放出したいけれど、今はそれをしてはならない。そして、奈々実以外の女性に放出することもできない。イネスが改良したシエストレムの鎖の魔効が、それを許さない。奈々実には黙っていたが、それが改良版シエストレムの鎖とオリジナルとの重要な違いのひとつである。
 オリジナルで農家のおかみさんを繋いだアドルフ王の場合、王妃やその他の愛妾とまぐわうことも可能だが、セヴランが奈々実を『繋留』した改良版では、奈々実以外の女性と関係を持つことは生涯許されない身となる。一生を捧げると誓ってくれた男との恋を政治的な事情で諦めなければならなかったイネスの個人的な思念が、魔効に凝結されてしまった所以だろうと、セヴランは思っている。奈々実以外の女性には欲情すら許されなくなる。
 『繋留』とはそういうことだ。繋留されるのは、奈々実ではない。セヴランが奈々実に繋留されるのだ。
 奈々実を起こさないように気をつけながらそろりと身体を起こし、自分の膨れ上がった逸物を握る。奈々実の無防備な寝顔を見ながら、強く扱いて放出を促す。こんなふうに自己処理をするのは、二十代になってからでは数えるくらいしかなかったと思う。
 奈々実に出会う前、ベアトリスの存在の煩わしさから逃避するために、セヴランは玄人の女たちを利用していた。ベアトリスと同じように化粧が濃く、ベアトリスと同じように自分が美しいことを誇示したり利用して生きる娼婦たちは、けれどベアトリスとは違って、金さえ払えばせっせともてなしてサービスをしてくれる便利な存在だった。金銭ではないものをセヴランに望む女もいないではなかったが、ベアトリスの振りかざす公爵家の威光に逆らうことなど、場末の娼婦にできるはずもなかった。ベアトリスから逃げ回って娼婦街に潜伏するセヴランを自分の褥に引き摺り込むことができるなら仕事なんか後回しだとか、あの高慢ちきでヒステリックな公爵令嬢の目を掠めてセヴランを癒してさしあげることができるなら、金なんかいらないよ、とか言う娼婦が、港町の娼婦宿には十人はくだらないらしいと、まことしやかに囁かれていた。
 「う・・・、んっ・・・」
単なる生理現象として玄人の女に抜いてもらうのが当たり前になっていた身に、奈々実への欲望は初夏の陽射しのように鮮烈で、同時に毒のように刺激的だった。とりたてて巧いというほどでもないセヴランの愛戯にあっさりと陥落して身も世も無く溺れ、なすがままになる幼い身体は、雲のようにぷにょぷにょとやわらかく、新雪のようにまっさらなのに、女として成熟に向かう途上の不可思議な位置にあって、いけないことだと戒められれば余計に欲しい気持ちを煽り立てられる、禁断の果実だった。セヴランは奈々実の寝顔を見ながら、夢中で自分自身を扱いた。
 もしも欲望のままに未成年の奈々実にこの猛り狂うものを突き刺したなら、自分一人だけではなくフェザンディエ伯爵家の恥で、父の顔に泥を塗ることになる。おかしな趣味に没頭してただでさえ縁談がまとまらない兄を、さらに婚姻から遠ざけてしまうことも否定できない。
 筋トレと詐称している破廉恥な行為だって、ばれたら罷免程度ではすまない。イネスもアンリもクロエも、よもやセヴランが未成年である奈々実に不埒な行為には及ぶまいと信用しているから二人きりにさせてくれているのだろうが、肝心の奈々実本人に、成人するまで男に身を任せてはいけないという認識が無い。処女であることは確かなのに、そして男性に免疫が無いのに、セヴランを完全に信じてしまう無防備さがあまりにもアンバランスで、セヴランの理性を揺さぶってやまない。もしもセヴランが禁を破ろうと思えば、それこそ赤子の手をひねるよりも簡単で、奈々実はキーキーキャーキャーと口では大騒ぎをするだろうが、自分がセヴランを受け入れることがセヴランを破滅に追い込むとは、全然わかっていないのだ。奈々実だけがそうなのではないらしいのは、江里香の様子を見れば明白だ。二人が生まれ育った世界は、奈々実の話を聞く限り、アルヴィーンにも劣らない法治国家で民主主義の確立された、高度な文明社会である様子なのに、性的なモラルに関してはこの世界よりもずいぶんと緩いらしいという印象をぬぐえない。魔法が存在せず、魔力ではないエネルギーが豊富にあるから、成人前に性行為をしていい、ということにはならないはずなのに。
「・・・く、うっ!」
硬くはりつめたそれが限界を迎えた。自ら放ったものを手近な手巾で受け止める。明日、奈々実に見られないうちに処分するしかないな、と苦笑して、セヴランは眠りについた。
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