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第三十九話
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クロエの高度な専門知識は、食事管理の面でも存分に披露された。昼はさして変化はなかったが、二人の食べる様子を観察し、体質や運動量や体重とのバランスを考慮した結果として、夕食は奈々実と江里香それぞれに対して完璧に考案された、ダイエットと筋肉作りや体力作りのための高タンパク低カロリーのヘルシーなメニューが用意されて、完食するようにとの指令が出た。
「美味しい! でもこんなにお肉食べられないんだけどなあ」
もともと食が細い江里香は、それでもせっせと自分のための食事を胃に収めていくが、奈々実のほうは全く食がすすまない。以前ならぺろりとたいらげていた量だと思うし、ポテチやチョコレートなどの間食をだらだらと食べながら勉強したり、『デブ活』と揶揄されるような高カロリー食ばかりを父と一緒に摂取していた身には、たくさんの野菜と江里香より控えめながらも肉も魚介類もバランスよくつかわれている素晴らしい食事を、ありがたいと思うし美味しいと思うのだけれど、どんなに頑張っても半分しか食べられなかった。頭の中にセヴランの声が響いて、ぽわーっと霞がかかったようになってしまって、身体中が筋肉痛で痛いのにふわふわと浮いているような気がする。セヴランの言葉を思い出す度に、身体の中からじゅわりと熱くなって、セヴランに触れられたところが今も触れられているかのようで、セヴランに言われた言葉を思い出すだけで、頭も心も甘く蕩けてしまって、恥ずかしいのに幸せで、胸がいっぱいで、食事が喉を通らないのだ。
『ナナミを大切に想っている』
とか。
『お前の心の傷の痛みは俺の痛みだ』
とか。
あのイケボで言われて、ときめかない女なんていないと思う。あのブルーグレーの双眸で見つめられて、うっとりしない女なんていないと思う。そんなイケメンにあ~んなことやこ~んなことをされた。あまつさえ、美味い身体を作り上げるまで待っていてやるなんて言われて、心臓が爆発するかと思うほど高鳴る。風邪をひいて高熱が出た時のようにぼうっとして、夢の中にいるように上の空で、食卓も江里香やイネスのことも見えていない。
「恋する乙女ちゃ~ん、聞こえてますか~? 見えてますか~?」
耳のすぐそばで大声を出され、目の前で手を振られて、はっと現実に戻る。食事が終わってからも夢遊病のようなままの奈々実に呆れて、江里香がちょっかいをかけてきたのだ。ぱっちりと大きな目の可愛い顔が、意味ありげというかもの言いたげな表情で、至近距離から覗き込んでくる。
「エロい顔してますね~、なに考えてるのかな~? セヴラン様のことかな~?」
「ちっ、違うってば! んぎゃあっ!」
江里香にいきなり胸を鷲掴みにされて、奈々実は蛙が潰されたような声を上げ、身体を丸めて江里香の手から逃げようともがく。セヴランの大きな骨太の指にそうっと触られるのと、江里香の細く華奢な手で遠慮もへったくれもなくつかまれるのはあまりにも違っていて、とにかく必死で身を捩る。
「やっぱり胸がでっかいのっていいな~、羨ましい~」
「ぎゃああああっ!」
もみもみもみ・・・、と無遠慮に触りまくる江里香の指は細いので、喰い込むと痛い。死に物狂いで逃げる奈々実に、江里香は不満そうに頬をふくらませた。
「触るくらいいーじゃん! 奈々実ちゃんのケチ~!」
「だって、江里香ちゃんの指、細いから喰い込んで痛いんだもん!」
「セヴラン様に触られるのは、痛くなかった?」
最強に可愛い笑顔で覗き込まれても、まさか肯定はできない。
「ノッ、ノーコメントッ!」
だらだらと嫌な汗が、首筋や背中に流れる。
「昨夜さあ~、経過観察室にお夕飯運んで行ったの、わたしなんだよね。奈々実ちゃんがあんあん言ってる声、ちょっと聞こえちゃった」
「美味しい! でもこんなにお肉食べられないんだけどなあ」
もともと食が細い江里香は、それでもせっせと自分のための食事を胃に収めていくが、奈々実のほうは全く食がすすまない。以前ならぺろりとたいらげていた量だと思うし、ポテチやチョコレートなどの間食をだらだらと食べながら勉強したり、『デブ活』と揶揄されるような高カロリー食ばかりを父と一緒に摂取していた身には、たくさんの野菜と江里香より控えめながらも肉も魚介類もバランスよくつかわれている素晴らしい食事を、ありがたいと思うし美味しいと思うのだけれど、どんなに頑張っても半分しか食べられなかった。頭の中にセヴランの声が響いて、ぽわーっと霞がかかったようになってしまって、身体中が筋肉痛で痛いのにふわふわと浮いているような気がする。セヴランの言葉を思い出す度に、身体の中からじゅわりと熱くなって、セヴランに触れられたところが今も触れられているかのようで、セヴランに言われた言葉を思い出すだけで、頭も心も甘く蕩けてしまって、恥ずかしいのに幸せで、胸がいっぱいで、食事が喉を通らないのだ。
『ナナミを大切に想っている』
とか。
『お前の心の傷の痛みは俺の痛みだ』
とか。
あのイケボで言われて、ときめかない女なんていないと思う。あのブルーグレーの双眸で見つめられて、うっとりしない女なんていないと思う。そんなイケメンにあ~んなことやこ~んなことをされた。あまつさえ、美味い身体を作り上げるまで待っていてやるなんて言われて、心臓が爆発するかと思うほど高鳴る。風邪をひいて高熱が出た時のようにぼうっとして、夢の中にいるように上の空で、食卓も江里香やイネスのことも見えていない。
「恋する乙女ちゃ~ん、聞こえてますか~? 見えてますか~?」
耳のすぐそばで大声を出され、目の前で手を振られて、はっと現実に戻る。食事が終わってからも夢遊病のようなままの奈々実に呆れて、江里香がちょっかいをかけてきたのだ。ぱっちりと大きな目の可愛い顔が、意味ありげというかもの言いたげな表情で、至近距離から覗き込んでくる。
「エロい顔してますね~、なに考えてるのかな~? セヴラン様のことかな~?」
「ちっ、違うってば! んぎゃあっ!」
江里香にいきなり胸を鷲掴みにされて、奈々実は蛙が潰されたような声を上げ、身体を丸めて江里香の手から逃げようともがく。セヴランの大きな骨太の指にそうっと触られるのと、江里香の細く華奢な手で遠慮もへったくれもなくつかまれるのはあまりにも違っていて、とにかく必死で身を捩る。
「やっぱり胸がでっかいのっていいな~、羨ましい~」
「ぎゃああああっ!」
もみもみもみ・・・、と無遠慮に触りまくる江里香の指は細いので、喰い込むと痛い。死に物狂いで逃げる奈々実に、江里香は不満そうに頬をふくらませた。
「触るくらいいーじゃん! 奈々実ちゃんのケチ~!」
「だって、江里香ちゃんの指、細いから喰い込んで痛いんだもん!」
「セヴラン様に触られるのは、痛くなかった?」
最強に可愛い笑顔で覗き込まれても、まさか肯定はできない。
「ノッ、ノーコメントッ!」
だらだらと嫌な汗が、首筋や背中に流れる。
「昨夜さあ~、経過観察室にお夕飯運んで行ったの、わたしなんだよね。奈々実ちゃんがあんあん言ってる声、ちょっと聞こえちゃった」
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