異世界ダイエット

Shiori

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第三十七話

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 「いずれ、戻る方法が見つかるかもしれないし、見つからないかもしれない。戻りたいのか戻りたくないのか今はわからないのなら、今、決める必要はないだろう? とりあえずは俺が繋留者になった以上、魔力を自分で制御できなくても危険な目に遭うことは無いから、街へ出るのもマルシェに買い物に行くのも自由にすればいい」
「はあ・・・」
返事だかため息だか中途半端な奈々実の返事を聞いても、セヴランは眉ひとつ動かさない。奈々実の心の底まで覗き込むようなブルーグレーの双眸で、真正面から見つめてくる。
 その時、ドアの外から遠慮がちなノックの音がした。
「おはようございます。セヴラン様。お目覚めでしょうか? 朝食をお持ちいたしましたが、入ってもよろしいでしょうか?」
クロエの声だ。セヴランが返事をすると、パンやフルーツを乗せた大きなトレイを持ったまま、器用にドアを開けて入ってくる。テーブルの上のあらかた食べ終えた状況を見て、首を傾げた。
「あら、これは、昨夜の・・・?」
「昨夜は食べずに眠ってしまったからな。先ほど、いただいたよ」
違うだろ~、と奈々実は心の中でつっこむ。眠るより前に口にするのも憚られるような、人の精神力をごりごり削りまくることをいろいろしていたから、夕食が届けられているなんて知らなかっただけだ。今朝になってから見つけたのだ。
「さようでございますか」
平然と受け流して、クロエはテーブルを片付け始める。
「せっかく準備してくれたパンは是非いただきたいね。クロエのパンは絶品だからな、昼にカミーユと食べるから、持って行けるように包んでくれないか」
「かしこまりました」
「それと・・・」
クロエから奈々実に目線を移動させて、セヴランは意味深に笑う。
「髪飾りでももっと華やかなキトンでも欲しいなら言え、といいたいところだが、それよりもトレーニング用の服が必要だな」
「トレーニング用の服?」
「普通なら愛しい女には花とか飾り物を贈るものなのかもしれないが・・・、色気の無いものですまないが軍の新兵に支給される訓練着をプレゼントしてやる。さいわい、ベテラン教育官もいることだし、軍隊式のトレーニングをして、身体を鍛えて体力をつけろ」
「えええっ!?」
軍隊式って、軍隊式って、ナントカ・ブートキャンプみたいなやつ!? 運動音痴のデブスがいきなり軍隊式のメソッドなどできるはずがない。奈々実は真っ青になったが、セヴランは楽しげに笑っている。
 「クロエ・ドヌーヴ元教育官」
突然、セヴランの口調が変わる。奈々実は驚いたが、クロエのほうは落ち着いて片付けを中断し、直立してきれいな敬礼をした。
「指令を賜ります、セヴラン・フェザンディエ港湾警備隊長」
「えっ、クロエさんって、元軍人だったんですか!?」
人は見かけによらない。よらなすぎる。普通の家政婦のおばさんだと思っていたのに、まさかの退役軍人? ベテラン教育官?
「退役して久しいが貴様の新兵教育の手腕がなまってはいないことを披露してもらおうか。新兵が気を悪くするレベルの体力しかない輩だと思うが」
セヴランの意味ありげな指令を、クロエは正確に理解する。
「ナナミとエリカに体力をつけさせろということですね。かしこまりました」
 ざあっと音をたてて奈々実の顔から血の気が引く。体育の授業が嫌いだから勉強を一生懸命したのに! 体育の授業が選択制の進学校に行ったのに!
「もっと体力があったら医者になりたかったのだろう? ドヌーヴ元教育官は医療関係の勉強がしたくて退役したのだから、医療系の知識も豊富だぞ。俺はお前の痩せたいという願望はよくわからないがな、理想通りになるまで助力は惜しまないし、とにかく体力をつけてもらわなければ、不埒なこともできないだろう?」
セヴランの言う『助力』とは、昨夜のような行為のことだと、目が語っている。奈々実がまだ未成年だから、男の欲望のままに貫くような無体なことはしないけれど、裸にして、洗ったり触ったり弄ったり指だけでイかせるような破廉恥なことをして、『身体を意識させる』ことによって、ダイエットに弾みをつけることを、セヴランは『助力』と言っているのだ。一転して今度はかあっと真っ赤に染まる奈々実の頬に口を寄せ、セヴランは囁いた。
「食べごろになるまでちゃんと待っていてやる。美味い身体を作り上げてくれ」
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