38 / 200
第三十七話
しおりを挟む
「いずれ、戻る方法が見つかるかもしれないし、見つからないかもしれない。戻りたいのか戻りたくないのか今はわからないのなら、今、決める必要はないだろう? とりあえずは俺が繋留者になった以上、魔力を自分で制御できなくても危険な目に遭うことは無いから、街へ出るのもマルシェに買い物に行くのも自由にすればいい」
「はあ・・・」
返事だかため息だか中途半端な奈々実の返事を聞いても、セヴランは眉ひとつ動かさない。奈々実の心の底まで覗き込むようなブルーグレーの双眸で、真正面から見つめてくる。
その時、ドアの外から遠慮がちなノックの音がした。
「おはようございます。セヴラン様。お目覚めでしょうか? 朝食をお持ちいたしましたが、入ってもよろしいでしょうか?」
クロエの声だ。セヴランが返事をすると、パンやフルーツを乗せた大きなトレイを持ったまま、器用にドアを開けて入ってくる。テーブルの上のあらかた食べ終えた状況を見て、首を傾げた。
「あら、これは、昨夜の・・・?」
「昨夜は食べずに眠ってしまったからな。先ほど、いただいたよ」
違うだろ~、と奈々実は心の中でつっこむ。眠るより前に口にするのも憚られるような、人の精神力をごりごり削りまくることをいろいろしていたから、夕食が届けられているなんて知らなかっただけだ。今朝になってから見つけたのだ。
「さようでございますか」
平然と受け流して、クロエはテーブルを片付け始める。
「せっかく準備してくれたパンは是非いただきたいね。クロエのパンは絶品だからな、昼にカミーユと食べるから、持って行けるように包んでくれないか」
「かしこまりました」
「それと・・・」
クロエから奈々実に目線を移動させて、セヴランは意味深に笑う。
「髪飾りでももっと華やかなキトンでも欲しいなら言え、といいたいところだが、それよりもトレーニング用の服が必要だな」
「トレーニング用の服?」
「普通なら愛しい女には花とか飾り物を贈るものなのかもしれないが・・・、色気の無いものですまないが軍の新兵に支給される訓練着をプレゼントしてやる。さいわい、ベテラン教育官もいることだし、軍隊式のトレーニングをして、身体を鍛えて体力をつけろ」
「えええっ!?」
軍隊式って、軍隊式って、ナントカ・ブートキャンプみたいなやつ!? 運動音痴のデブスがいきなり軍隊式のメソッドなどできるはずがない。奈々実は真っ青になったが、セヴランは楽しげに笑っている。
「クロエ・ドヌーヴ元教育官」
突然、セヴランの口調が変わる。奈々実は驚いたが、クロエのほうは落ち着いて片付けを中断し、直立してきれいな敬礼をした。
「指令を賜ります、セヴラン・フェザンディエ港湾警備隊長」
「えっ、クロエさんって、元軍人だったんですか!?」
人は見かけによらない。よらなすぎる。普通の家政婦のおばさんだと思っていたのに、まさかの退役軍人? ベテラン教育官?
「退役して久しいが貴様の新兵教育の手腕がなまってはいないことを披露してもらおうか。新兵が気を悪くするレベルの体力しかない輩だと思うが」
セヴランの意味ありげな指令を、クロエは正確に理解する。
「ナナミとエリカに体力をつけさせろということですね。かしこまりました」
ざあっと音をたてて奈々実の顔から血の気が引く。体育の授業が嫌いだから勉強を一生懸命したのに! 体育の授業が選択制の進学校に行ったのに!
「もっと体力があったら医者になりたかったのだろう? ドヌーヴ元教育官は医療関係の勉強がしたくて退役したのだから、医療系の知識も豊富だぞ。俺はお前の痩せたいという願望はよくわからないがな、理想通りになるまで助力は惜しまないし、とにかく体力をつけてもらわなければ、不埒なこともできないだろう?」
セヴランの言う『助力』とは、昨夜のような行為のことだと、目が語っている。奈々実がまだ未成年だから、男の欲望のままに貫くような無体なことはしないけれど、裸にして、洗ったり触ったり弄ったり指だけでイかせるような破廉恥なことをして、『身体を意識させる』ことによって、ダイエットに弾みをつけることを、セヴランは『助力』と言っているのだ。一転して今度はかあっと真っ赤に染まる奈々実の頬に口を寄せ、セヴランは囁いた。
「食べごろになるまでちゃんと待っていてやる。美味い身体を作り上げてくれ」
「はあ・・・」
返事だかため息だか中途半端な奈々実の返事を聞いても、セヴランは眉ひとつ動かさない。奈々実の心の底まで覗き込むようなブルーグレーの双眸で、真正面から見つめてくる。
その時、ドアの外から遠慮がちなノックの音がした。
「おはようございます。セヴラン様。お目覚めでしょうか? 朝食をお持ちいたしましたが、入ってもよろしいでしょうか?」
クロエの声だ。セヴランが返事をすると、パンやフルーツを乗せた大きなトレイを持ったまま、器用にドアを開けて入ってくる。テーブルの上のあらかた食べ終えた状況を見て、首を傾げた。
「あら、これは、昨夜の・・・?」
「昨夜は食べずに眠ってしまったからな。先ほど、いただいたよ」
違うだろ~、と奈々実は心の中でつっこむ。眠るより前に口にするのも憚られるような、人の精神力をごりごり削りまくることをいろいろしていたから、夕食が届けられているなんて知らなかっただけだ。今朝になってから見つけたのだ。
「さようでございますか」
平然と受け流して、クロエはテーブルを片付け始める。
「せっかく準備してくれたパンは是非いただきたいね。クロエのパンは絶品だからな、昼にカミーユと食べるから、持って行けるように包んでくれないか」
「かしこまりました」
「それと・・・」
クロエから奈々実に目線を移動させて、セヴランは意味深に笑う。
「髪飾りでももっと華やかなキトンでも欲しいなら言え、といいたいところだが、それよりもトレーニング用の服が必要だな」
「トレーニング用の服?」
「普通なら愛しい女には花とか飾り物を贈るものなのかもしれないが・・・、色気の無いものですまないが軍の新兵に支給される訓練着をプレゼントしてやる。さいわい、ベテラン教育官もいることだし、軍隊式のトレーニングをして、身体を鍛えて体力をつけろ」
「えええっ!?」
軍隊式って、軍隊式って、ナントカ・ブートキャンプみたいなやつ!? 運動音痴のデブスがいきなり軍隊式のメソッドなどできるはずがない。奈々実は真っ青になったが、セヴランは楽しげに笑っている。
「クロエ・ドヌーヴ元教育官」
突然、セヴランの口調が変わる。奈々実は驚いたが、クロエのほうは落ち着いて片付けを中断し、直立してきれいな敬礼をした。
「指令を賜ります、セヴラン・フェザンディエ港湾警備隊長」
「えっ、クロエさんって、元軍人だったんですか!?」
人は見かけによらない。よらなすぎる。普通の家政婦のおばさんだと思っていたのに、まさかの退役軍人? ベテラン教育官?
「退役して久しいが貴様の新兵教育の手腕がなまってはいないことを披露してもらおうか。新兵が気を悪くするレベルの体力しかない輩だと思うが」
セヴランの意味ありげな指令を、クロエは正確に理解する。
「ナナミとエリカに体力をつけさせろということですね。かしこまりました」
ざあっと音をたてて奈々実の顔から血の気が引く。体育の授業が嫌いだから勉強を一生懸命したのに! 体育の授業が選択制の進学校に行ったのに!
「もっと体力があったら医者になりたかったのだろう? ドヌーヴ元教育官は医療関係の勉強がしたくて退役したのだから、医療系の知識も豊富だぞ。俺はお前の痩せたいという願望はよくわからないがな、理想通りになるまで助力は惜しまないし、とにかく体力をつけてもらわなければ、不埒なこともできないだろう?」
セヴランの言う『助力』とは、昨夜のような行為のことだと、目が語っている。奈々実がまだ未成年だから、男の欲望のままに貫くような無体なことはしないけれど、裸にして、洗ったり触ったり弄ったり指だけでイかせるような破廉恥なことをして、『身体を意識させる』ことによって、ダイエットに弾みをつけることを、セヴランは『助力』と言っているのだ。一転して今度はかあっと真っ赤に染まる奈々実の頬に口を寄せ、セヴランは囁いた。
「食べごろになるまでちゃんと待っていてやる。美味い身体を作り上げてくれ」
0
お気に入りに追加
35
あなたにおすすめの小説
【R18】貧しいメイドは、身も心も天才教授に支配される
さんかく ひかる
恋愛
王立大学のメイド、レナは、毎晩、天才教授、アーキス・トレボーの教授室に、コーヒーを届ける。
そして毎晩、教授からレッスンを受けるのであった……誰にも知られてはいけないレッスンを。
神の教えに背く、禁断のレッスンを。
R18です。長編『僕は彼女としたいだけ』のヒロインが書いた異世界恋愛小説を抜き出しました。
独立しているので、この話だけでも楽しめます。
【R18】僕の筆おろし日記(高校生の僕は親友の家で彼の母親と倫ならぬ禁断の行為を…初体験の相手は美しい人妻だった)
幻田恋人
恋愛
夏休みも終盤に入って、僕は親友の家で一緒に宿題をする事になった。
でも、その家には僕が以前から大人の女性として憧れていた親友の母親で、とても魅力的な人妻の小百合がいた。
親友のいない家の中で僕と小百合の二人だけの時間が始まる。
童貞の僕は小百合の美しさに圧倒され、次第に彼女との濃厚な大人の関係に陥っていく。
許されるはずのない、男子高校生の僕と親友の母親との倫を外れた禁断の愛欲の行為が親友の家で展開されていく…
僕はもう我慢の限界を超えてしまった… 早く小百合さんの中に…
【R18】騎士たちの監視対象になりました
ぴぃ
恋愛
異世界トリップしたヒロインが騎士や執事や貴族に愛されるお話。
*R18は告知無しです。
*複数プレイ有り。
*逆ハー
*倫理感緩めです。
*作者の都合の良いように作っています。
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子
ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。
Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる