32 / 200
第三十一話
しおりを挟む
血晶石の魔石を使った給湯設備で、もといた世界と遜色なく、適温のお湯がふんだんに使える。男の人と二人でシャワーを浴びるなんて初めての体験で、緊張しすぎてカチンコチンになっている奈々実を、セヴランは傷が痛いのかと勘違いして、やさしく、こわれものを扱うように細やかに汚れをきれいに洗い流してくれてから、浴槽に誘った。
「傷にしみないか?」
「ちょっとだけ、です・・・、だ、大丈夫です」
奈々実を後ろから包み込むセヴランのたくましい腕に包まれて、心臓が飛び出しそうだと思う。余計な贅肉や脂肪なんかかけらも無い、実用的な筋肉だけでできている、セヴランの美しい肉体。逆に余計な贅肉と脂肪ばっかりで情けないほどだらしない自分の身体が恥ずかしくて、悲しくて、どんどん気が滅入っていく。けれどお尻の辺りに、セヴランの硬くなった『あれ』がぐりぐり当たって、存在を主張する。どういうつもりなのだろうと混乱してしまう。恥ずかしくて、お湯のせいだけではなくて、身体が、特に心臓と頭が、沸騰しそうに熱い。どうしてこんなに大きくなっているのだ。好きでもない、愛しているわけでもない、こんな醜いぶよぶよの身体でも女の身体があれば、男の下半身はそうなるものなのだろうか。
「傷口を、見せてくれ」
ベアトリスに攻撃された時に後ろにひっくり返って転がったことで、腕や脚には小さな擦過傷や痣がいくつもある。そのうちの一つ、腕の傷に、セヴランは奈々実を横炊きに抱きなおして、くちびるを寄せた。
「ん・・・」
セヴランがくちびるを寄せた傷の位置に、身体の内側で魔力が集まっていく。エネルギーが凝縮する感じで、その部分がカーッと熱くなる。そして、軽くくちづけられた後には、傷は跡形もなく消えて、元通りのきれいな肌になっていた。
「ここで全部の傷をひとつひとつ治していたら、のぼせてしまう。ベッドに行こうか」
抱き寄せられて、奈々実はこっくりと肯くしかできない。傷を擦らないようにやわらかい布でそうっと包み込むようにして水気を拭きとると、セヴランはコンプレックスの塊の奈々実の身体を軽々と抱き上げた。
「ひゃああっ!」
食肉センターに連れて行かれる食用のブタのように情けない声をあげる奈々実に、セヴランは困ったような、それでいておもしろくてたまらないような笑顔を寄せる。
「そんなに怖がるな。なにも捕って喰おうってわけじゃないんだから」
捕って喰うわけではないのなら、こんなふうに裸で密着しなくてもいいじゃないですか! デブスをからかってなにが面白いんですか? 疲労と緊張に半泣きでぐしゃぐしゃになっている奈々実は、そう叫びたいのに口が回らない。
奈々実をベッドに下ろすと、セヴランは野生の獣のように素早く戻ってバスルームから剣を回収してきて、枕元に立てかけた。反り返るほどギンギンに膨張している下半身の『それ』は、歩く時に邪魔ではないのだろうか。じろじろ見るわけにもいかないし、けれどセヴランが急いで動くとゆらゆらとして見たくなくても見えてしまうので、奈々実は慌ててうすい毛布を目の上まで引き上げた。そんな奈々実の焦燥など意にも介さず、セヴランは奈々実が引っ被ったうすっぺらい毛布をさっさと剥ぎ取り、首輪をつける。首輪は革だけれど改良版シエストレムの鎖はどんな素材でできているのかわからない。見た目はぶっとい鎖だけれど非常に軽くて、首や肩の負担にはならないようで、安心する。セヴランはゆっくりと奈々実の上に覆いかぶさり、先ほどと同じように傷の一つにくちびるをよせる。と、奈々実の身体の中で魔力が勝手にその場所に集まって、傷を修復する。
「大きい傷を治す。少し、我慢してくれ」
頬と、ざっくりと切れた鎖骨から胸付近の傷は、けれど思ったよりはあさく、ただ面積として広かっただけらしい。セヴランのくちびるが触れると、身体の中では自分の魔力が自分では意図しなくても、傷口へと流れる。熱くてむず痒い感触に、奈々実は顔を背けるようにして、じっと耐える。セヴランがそんな奈々実をじっと見つめたままでくちびるを寄せていることに気づかない。
「傷にしみないか?」
「ちょっとだけ、です・・・、だ、大丈夫です」
奈々実を後ろから包み込むセヴランのたくましい腕に包まれて、心臓が飛び出しそうだと思う。余計な贅肉や脂肪なんかかけらも無い、実用的な筋肉だけでできている、セヴランの美しい肉体。逆に余計な贅肉と脂肪ばっかりで情けないほどだらしない自分の身体が恥ずかしくて、悲しくて、どんどん気が滅入っていく。けれどお尻の辺りに、セヴランの硬くなった『あれ』がぐりぐり当たって、存在を主張する。どういうつもりなのだろうと混乱してしまう。恥ずかしくて、お湯のせいだけではなくて、身体が、特に心臓と頭が、沸騰しそうに熱い。どうしてこんなに大きくなっているのだ。好きでもない、愛しているわけでもない、こんな醜いぶよぶよの身体でも女の身体があれば、男の下半身はそうなるものなのだろうか。
「傷口を、見せてくれ」
ベアトリスに攻撃された時に後ろにひっくり返って転がったことで、腕や脚には小さな擦過傷や痣がいくつもある。そのうちの一つ、腕の傷に、セヴランは奈々実を横炊きに抱きなおして、くちびるを寄せた。
「ん・・・」
セヴランがくちびるを寄せた傷の位置に、身体の内側で魔力が集まっていく。エネルギーが凝縮する感じで、その部分がカーッと熱くなる。そして、軽くくちづけられた後には、傷は跡形もなく消えて、元通りのきれいな肌になっていた。
「ここで全部の傷をひとつひとつ治していたら、のぼせてしまう。ベッドに行こうか」
抱き寄せられて、奈々実はこっくりと肯くしかできない。傷を擦らないようにやわらかい布でそうっと包み込むようにして水気を拭きとると、セヴランはコンプレックスの塊の奈々実の身体を軽々と抱き上げた。
「ひゃああっ!」
食肉センターに連れて行かれる食用のブタのように情けない声をあげる奈々実に、セヴランは困ったような、それでいておもしろくてたまらないような笑顔を寄せる。
「そんなに怖がるな。なにも捕って喰おうってわけじゃないんだから」
捕って喰うわけではないのなら、こんなふうに裸で密着しなくてもいいじゃないですか! デブスをからかってなにが面白いんですか? 疲労と緊張に半泣きでぐしゃぐしゃになっている奈々実は、そう叫びたいのに口が回らない。
奈々実をベッドに下ろすと、セヴランは野生の獣のように素早く戻ってバスルームから剣を回収してきて、枕元に立てかけた。反り返るほどギンギンに膨張している下半身の『それ』は、歩く時に邪魔ではないのだろうか。じろじろ見るわけにもいかないし、けれどセヴランが急いで動くとゆらゆらとして見たくなくても見えてしまうので、奈々実は慌ててうすい毛布を目の上まで引き上げた。そんな奈々実の焦燥など意にも介さず、セヴランは奈々実が引っ被ったうすっぺらい毛布をさっさと剥ぎ取り、首輪をつける。首輪は革だけれど改良版シエストレムの鎖はどんな素材でできているのかわからない。見た目はぶっとい鎖だけれど非常に軽くて、首や肩の負担にはならないようで、安心する。セヴランはゆっくりと奈々実の上に覆いかぶさり、先ほどと同じように傷の一つにくちびるをよせる。と、奈々実の身体の中で魔力が勝手にその場所に集まって、傷を修復する。
「大きい傷を治す。少し、我慢してくれ」
頬と、ざっくりと切れた鎖骨から胸付近の傷は、けれど思ったよりはあさく、ただ面積として広かっただけらしい。セヴランのくちびるが触れると、身体の中では自分の魔力が自分では意図しなくても、傷口へと流れる。熱くてむず痒い感触に、奈々実は顔を背けるようにして、じっと耐える。セヴランがそんな奈々実をじっと見つめたままでくちびるを寄せていることに気づかない。
0
あなたにおすすめの小説
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている
井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。
それはもう深く愛していた。
変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。
これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。
全3章、1日1章更新、完結済
※特に物語と言う物語はありません
※オチもありません
※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。
※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。
今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
気がつけば異世界
波間柏
恋愛
芹沢 ゆら(27)は、いつものように事務仕事を終え帰宅してみれば、母に小さい段ボールの箱を渡される。
それは、つい最近亡くなった骨董屋を営んでいた叔父からの品だった。
その段ボールから最後に取り出した小さなオルゴールの箱の中には指輪が1つ。やっと合う小指にはめてみたら、部屋にいたはずが円柱のてっぺんにいた。
これは現実なのだろうか?
私は、まだ事の重大さに気づいていなかった。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
『出来損ない』と言われた私は姉や両親から見下されますが、あやかしに求婚されました
宵原リク
恋愛
カクヨムでも読めます。
完結まで毎日投稿します!20時50分更新
ーーーーーー
椿は、八代家で生まれた。八代家は、代々あやかしを従えるで有名な一族だった。
その一族の次女として生まれた椿は、あやかしをうまく従えることができなかった。
私の才能の無さに、両親や家族からは『出来損ない』と言われてしまう始末。
ある日、八代家は有名な家柄が招待されている舞踏会に誘われた。
それに椿も同行したが、両親からきつく「目立つな」と言いつけられた。
椿は目立たないように、会場の端の椅子にポツリと座り込んでいると辺りが騒然としていた。
そこには、あやかしがいた。しかも、かなり強力なあやかしが。
それを見て、みんな動きが止まっていた。そのあやかしは、あたりをキョロキョロと見ながら私の方に近づいてきて……
「私、政宗と申します」と私の前で一礼をしながら名を名乗ったのだった。
おばさんは、ひっそり暮らしたい
波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。
たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。
さて、生きるには働かなければならない。
「仕方がない、ご飯屋にするか」
栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。
「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」
意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。
騎士サイド追加しました。2023/05/23
番外編を不定期ですが始めました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる