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第二十六話
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「う・・・」
鎖をつけられた直後、自分の中からかなり大量の魔力が強制的に引き出されていく感覚があった。しかし、朦朧としていた意識は急速にはっきりと冴えわたって、自分を抱きかかえているセヴランのたくましい腕の筋肉の硬さや、密着した胸板をとおして伝わる心臓の鼓動の熱さが、恐ろしいほどクリアに感じられる。まるでセヴランと一体化してしまったか、脳や感覚神経が繋がってしまったかのようだ。朝、イネスに教えてもらって結界を張った時のように、自分の魔力がシールドを張るのがわかるけれど、自分でやっているのではない。奈々実の魔力を、セヴランが引き出してコントロールしてシールドを張っている。シエストレムの鎖は、以前にイネスに見せてもらった時に首や肩が痛くなりそうだと怖かった、あの重そうなオリジナルとはあきらかに何かが違う。単に材質がというのではなく、軽いけれどそこに込められている魔効の種類が違う。
「イネス殿、こちらで防御できる、もう大丈夫だ」
セヴランはゆっくりと立ち上がり、慎重にシールドをキープしながら奈々実のことも立たせてしっかりと支えてやる。セヴランの声はベアトリスには聞こえていない。イネスが意図的にゆっくりとシールドを弱めるのを、魔力が欠如し始めたと思ったのだろう。ベアトリスは人を嘲笑する下卑た笑みを隠そうともせず、奈々実を狙って攻撃魔法の青い刃波を飛ばして来る。しかしその刃波は、まばゆい金のシールドに弾き飛ばされた。
「なっ・・・!?」
驚いて立ち竦むベアトリスに、自分のシールドを消したイネスが言う。
「ベアトリス嬢、貴女の攻撃はセヴラン様が防いでおられます。シールド魔法は大量の魔力を消費します。貴女が攻撃を続ければ、セヴラン様の生命が消費されます。よろしいのですか?」
「そんな! まさか!?」
ベアトリスは青褪める。怒りに燃え盛っていた目がセヴランの手に握られたものを見て、驚きに限界まで見開かれた。
「それは・・・、シエストレムの鎖・・・? そんな・・・、ウソ・・・」
ベアトリスの敵意が急速に萎えていくのを確認し、もう攻撃してこないことを慎重に見極めながら、セヴランもゆっくりとシールドを消した。ふうっと息をついた次の瞬間、たくましい身体がぐらりと傾いだ。鎖で繋がれて腕の中にいた奈々実もろとも、縺れ合うように一緒に地面に叩きつけられる。
「ぐえっ!」
引っ張られた首が痛くて蛙が踏みつぶされたような声が出てしまったが、倒れた衝撃は、地面ではなくセヴランの腕と胸の筋肉に包まれていた。セヴランは自分の上に奈々実を乗せるように抱き寄せて、奈々実が地面に激突するのを防いでくれたのだった。
イネスがそばに膝をついて、覗き込んでくる。
「セヴラン様、ナナミ、大丈夫?」
奈々実はベアトリスの攻撃で頬や鎖骨から胸の上あたりに裂傷を負い、出血も酷かったし、吹っ飛ばされたために痣やかすり傷もたくさんできて精神的な疲労は大きかったが、今は意識のほうははっきりしていた。セヴランのほうが、ぜいぜいと苦しげな息をしていて脂汗にまみれ、ぐったりとしていた。直前にすごい力で抱き寄せられたのが信じられない。奈々実をしっかりと抱き寄せたままの腕を動かすことすらできないらしいので、奈々実は重く絡みつくセヴランの腕をゆっくりと慎重に自分の身体から離した。
上体を起こし、セヴランの顔を覗き込んで、奈々実は息をのんだ。脂汗にまみれ、土気色の顔で苦しげに息をしているセヴランは、閉じたままの目の下に真っ黒なクマができていて、頬がこけ、病み衰えた老人のようにやつれてしまっていたのだ。なまじ、もとが端整な美貌であったから余計に、その消耗による容貌の激変は凄絶で、普通ではありえない異常現象であることを感じさせる。
「ひいっ!」
ふらふらと近づいてきたベアトリスが、セヴランの顔を見て怪鳥のような声を上げる。がっくりと膝をつき、それでもこわごわと手を伸ばしてきた。
「・・・セヴラン様・・・?」
恋い慕う男の生命力を大量に消費させた実感が、やっと認識されたのだろうか。蒼白な顔でさしのべてくるベアトリスの手を、セヴランは力の入らない手で払った。払い除けられた手を、ベアトリスはどうすればいいのかわからず、自分がそれほどまでにセヴランに疎まれていた現実を、まだ、受け入れることができなくて茫然自失としている。
鎖をつけられた直後、自分の中からかなり大量の魔力が強制的に引き出されていく感覚があった。しかし、朦朧としていた意識は急速にはっきりと冴えわたって、自分を抱きかかえているセヴランのたくましい腕の筋肉の硬さや、密着した胸板をとおして伝わる心臓の鼓動の熱さが、恐ろしいほどクリアに感じられる。まるでセヴランと一体化してしまったか、脳や感覚神経が繋がってしまったかのようだ。朝、イネスに教えてもらって結界を張った時のように、自分の魔力がシールドを張るのがわかるけれど、自分でやっているのではない。奈々実の魔力を、セヴランが引き出してコントロールしてシールドを張っている。シエストレムの鎖は、以前にイネスに見せてもらった時に首や肩が痛くなりそうだと怖かった、あの重そうなオリジナルとはあきらかに何かが違う。単に材質がというのではなく、軽いけれどそこに込められている魔効の種類が違う。
「イネス殿、こちらで防御できる、もう大丈夫だ」
セヴランはゆっくりと立ち上がり、慎重にシールドをキープしながら奈々実のことも立たせてしっかりと支えてやる。セヴランの声はベアトリスには聞こえていない。イネスが意図的にゆっくりとシールドを弱めるのを、魔力が欠如し始めたと思ったのだろう。ベアトリスは人を嘲笑する下卑た笑みを隠そうともせず、奈々実を狙って攻撃魔法の青い刃波を飛ばして来る。しかしその刃波は、まばゆい金のシールドに弾き飛ばされた。
「なっ・・・!?」
驚いて立ち竦むベアトリスに、自分のシールドを消したイネスが言う。
「ベアトリス嬢、貴女の攻撃はセヴラン様が防いでおられます。シールド魔法は大量の魔力を消費します。貴女が攻撃を続ければ、セヴラン様の生命が消費されます。よろしいのですか?」
「そんな! まさか!?」
ベアトリスは青褪める。怒りに燃え盛っていた目がセヴランの手に握られたものを見て、驚きに限界まで見開かれた。
「それは・・・、シエストレムの鎖・・・? そんな・・・、ウソ・・・」
ベアトリスの敵意が急速に萎えていくのを確認し、もう攻撃してこないことを慎重に見極めながら、セヴランもゆっくりとシールドを消した。ふうっと息をついた次の瞬間、たくましい身体がぐらりと傾いだ。鎖で繋がれて腕の中にいた奈々実もろとも、縺れ合うように一緒に地面に叩きつけられる。
「ぐえっ!」
引っ張られた首が痛くて蛙が踏みつぶされたような声が出てしまったが、倒れた衝撃は、地面ではなくセヴランの腕と胸の筋肉に包まれていた。セヴランは自分の上に奈々実を乗せるように抱き寄せて、奈々実が地面に激突するのを防いでくれたのだった。
イネスがそばに膝をついて、覗き込んでくる。
「セヴラン様、ナナミ、大丈夫?」
奈々実はベアトリスの攻撃で頬や鎖骨から胸の上あたりに裂傷を負い、出血も酷かったし、吹っ飛ばされたために痣やかすり傷もたくさんできて精神的な疲労は大きかったが、今は意識のほうははっきりしていた。セヴランのほうが、ぜいぜいと苦しげな息をしていて脂汗にまみれ、ぐったりとしていた。直前にすごい力で抱き寄せられたのが信じられない。奈々実をしっかりと抱き寄せたままの腕を動かすことすらできないらしいので、奈々実は重く絡みつくセヴランの腕をゆっくりと慎重に自分の身体から離した。
上体を起こし、セヴランの顔を覗き込んで、奈々実は息をのんだ。脂汗にまみれ、土気色の顔で苦しげに息をしているセヴランは、閉じたままの目の下に真っ黒なクマができていて、頬がこけ、病み衰えた老人のようにやつれてしまっていたのだ。なまじ、もとが端整な美貌であったから余計に、その消耗による容貌の激変は凄絶で、普通ではありえない異常現象であることを感じさせる。
「ひいっ!」
ふらふらと近づいてきたベアトリスが、セヴランの顔を見て怪鳥のような声を上げる。がっくりと膝をつき、それでもこわごわと手を伸ばしてきた。
「・・・セヴラン様・・・?」
恋い慕う男の生命力を大量に消費させた実感が、やっと認識されたのだろうか。蒼白な顔でさしのべてくるベアトリスの手を、セヴランは力の入らない手で払った。払い除けられた手を、ベアトリスはどうすればいいのかわからず、自分がそれほどまでにセヴランに疎まれていた現実を、まだ、受け入れることができなくて茫然自失としている。
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