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第十五話
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欠陥商品、という奈々実の表現に、イネスは面白そうに笑った。
「欠陥商品! いいわね! それ。まさにそのとおりよ。でもね、自業自得なのよ、アドルフ王はね、魔力研究者たちに魔力のある女性を奴隷化して王の意のままにできる魔法用具を作れって命じた時にね、『研究者たちの家族を人質にして』命令したのよ」
アドルフ王というのは、ひょっとしてバカなのだろうか、と、奈々実は思った。大切な家族を人質にされて、誰が喜んで命令を聞くだろうか。もしも自分が研究者の立場だったら、絶対になにか、報復になるような要素をこっそり組み入れて忍ばせると思う。嫌がる女性の魔力を無理矢理に借りて使うと髪が抜けて禿げてしまうとか、嫌がる女性を無理矢理繋ぐようなバカ男の股間のものが腐ってもげてしまうというのはどうだろう。そこまでやったら人質にされている家族や自分の命が危ないから、魔法研究者たちはささやかな抵抗として、愛さなければならないとか対価が運命だとか代償の呪いを魔効に組み入れたのだろうか。
「ベルチノアでは、そういう魔法用具を作ろうとはしなかったんですか?」
「そうね、方向性が全然違うわね。魔石を備蓄して食料と交換できるようにすることによって、王だけじゃなくて誰でもが魔力の恩恵に与れる社会を作るのが、我が国の陛下の方針なの。最初にこの地にたどり着いた現陛下の御先祖様の話をしたじゃない? その後妻になられた方と侍女が、海辺にごろごろある血晶石に目をつけて、魔力を充填して使えるってことがわかって、今の方針の基礎になったのよ。だから研究の主題は圧縮の仕方とか、出力の調整とか、魔石をどんなことに使えるかとかそういうことだわね。他国の魔法用具をいろいろとこうやって実物を手に入れて調査してはいるけど、シエストレムの鎖は、正常な神経の男性には需要は無いわね」
「正常な神経じゃない男の人には、需要がありますか?」
「無くはないと思う。生命力を失っても魔法を使いたいと考える男性がいないとは言い切れないし、わたしも試みているけど、シエストレムの鎖の魔効が改良される可能性もあるでしょ? だから、ナナミは気をつけてって言っているの。」
「はい」
このベルズポート・タウンは名前の通りの港町で、交易のために他国の船がたくさん出入りしている。他国の船乗りに船に連れ込まれたりしたらどこへ連れて行かれるかわからず、この場所に生きて帰って来られる保証は無い。
異世界転移などという厨二病全開な体験をしてしまったけれど、こちらの世界で最初に出会った人達がイネスやアンリやセヴランのようなまともな人達で、言葉も通じてしかも江里香が一緒で、本当によかったと思う。一人だけで、言葉が通じなかったり、悪人に捕まって奴隷にされていたらと思うと、震えが走る。ただ、キトンを一人で着付けできるようにはなったけれど、パンツ無しの生活だけは、どうにも慣れることができない。
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アドルフ王というのは、ひょっとしてバカなのだろうか、と、奈々実は思った。大切な家族を人質にされて、誰が喜んで命令を聞くだろうか。もしも自分が研究者の立場だったら、絶対になにか、報復になるような要素をこっそり組み入れて忍ばせると思う。嫌がる女性の魔力を無理矢理に借りて使うと髪が抜けて禿げてしまうとか、嫌がる女性を無理矢理繋ぐようなバカ男の股間のものが腐ってもげてしまうというのはどうだろう。そこまでやったら人質にされている家族や自分の命が危ないから、魔法研究者たちはささやかな抵抗として、愛さなければならないとか対価が運命だとか代償の呪いを魔効に組み入れたのだろうか。
「ベルチノアでは、そういう魔法用具を作ろうとはしなかったんですか?」
「そうね、方向性が全然違うわね。魔石を備蓄して食料と交換できるようにすることによって、王だけじゃなくて誰でもが魔力の恩恵に与れる社会を作るのが、我が国の陛下の方針なの。最初にこの地にたどり着いた現陛下の御先祖様の話をしたじゃない? その後妻になられた方と侍女が、海辺にごろごろある血晶石に目をつけて、魔力を充填して使えるってことがわかって、今の方針の基礎になったのよ。だから研究の主題は圧縮の仕方とか、出力の調整とか、魔石をどんなことに使えるかとかそういうことだわね。他国の魔法用具をいろいろとこうやって実物を手に入れて調査してはいるけど、シエストレムの鎖は、正常な神経の男性には需要は無いわね」
「正常な神経じゃない男の人には、需要がありますか?」
「無くはないと思う。生命力を失っても魔法を使いたいと考える男性がいないとは言い切れないし、わたしも試みているけど、シエストレムの鎖の魔効が改良される可能性もあるでしょ? だから、ナナミは気をつけてって言っているの。」
「はい」
このベルズポート・タウンは名前の通りの港町で、交易のために他国の船がたくさん出入りしている。他国の船乗りに船に連れ込まれたりしたらどこへ連れて行かれるかわからず、この場所に生きて帰って来られる保証は無い。
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