異世界ダイエット

Shiori

文字の大きさ
上 下
14 / 200

第十三話

しおりを挟む
 それからしばらくの間は、奈々実はひたすら家にこもって魔石を作って魔力をコントロールする訓練と、家の掃除をして過ごした。クロエと一緒に血晶石を拾い集めに海岸へ行ったり、食料の買い出しにマルシェに行ったりする江里香が羨ましいと思わなくもない。けれど、魔力をきちんとコントロールできなければ、外へ行くのは危険だと、イネスもアンリも繰り返し言う。ゴールドのマジカル・スターがあるのに首輪をつけて外を歩くなど、身体が金銀財宝でできた馬が馬子とはぐれてさまよっているようなもの、だそうだ。
「魔力がコントロールできない人間を誘拐して行って、どうするつもりなんでしょう?」
ちょっと疑問に思ったので、奈々実はイネスに質問してみた。
「シエストレムの魔力研究者達は、無理矢理に管理すればいいって思っているのかもね。魔力のある女性を奴隷にして、魔力を王の意のままに使えるようにすることを至上命題にされているから。もともとは家族を人質にして、殺されたくなかったら言うことを聞け、ってやってたし、今もそうやって使役してるらしいけど、でも人質の管理維持にコストがかかるでしょう? アドルフ王はどうしても魔力がある女性を、・・・っていうか、魔力を自分の思い通りに使いたくて、こんなものを作らせたの」
イネスがじゃらりと音をさせて取り出したのは、『シエストレムの鎖』と呼ばれる魔法用具だった。
「魔力封じの首輪にこの鎖をつなぐと、その女性の魔力を借りて使うことができるのよ、ほんの少しだけだけど」
奈々実は初めて見る魔法用具というものを恐々と覗き込む。大型犬に使うような、重くて頑丈そうな、もしもつながれたら首から肩にたいへんな負担がかかりそうな鎖だ。山登りに行くと岩場にあるようなやつだ。こんな物騒なものが、シエストレムの魔法用具屋ではしばらく前から売られているのだそうだ。もちろん値段は、庶民がおいそれと買えるようなものではないらしいが。
「これを使われたら、魔力がある女性はアドルフ王の思い通りに利用されちゃうんですか?」
不安そうな顔で見上げてくる奈々実に、イネスはお転婆な少女のようないたずらっぽい笑みを見せる。誰もがうっとりと見惚れてしまうほど美しいのに、気さくで優しくて、頭がよくてなにもかもが完璧なのに、こんなチャーミングな笑顔も見せるイネスに、奈々実は日々、強く惹きつけられる。幼少期の思い出の母親しか知らない奈々実は、美冬に対してもそうだったが年上の魅力的な女性への憧憬が、同じ年ごろの少女たちに比較して異常に強い。
「魔法理論上はね、魔力封じの首輪にシエストレムの鎖をつなげば、その女性の魔力を少しだけ、自分のものとして使えるわ。でもね、世の中そうそう巧くはいかないわよ。魔力が無い人間が魔法を使う場合、代償っていうか、対価が必要だったのよ」
「対価?」
「最初、シエストレムの魔力研究者達もわからなかったみたい。わかっていたことは、鎖によって魔力を借りるためにはその女性を愛さなければならないってことだけだったのですって。アドルフ王はゴールドのマジカル・スターの女性を探し出して、鎖につないだの。主都から遠く離れた農村で畑仕事をしていた、農家のおかみさんを、旦那さんといっしょに連行して、旦那さんを人質にして、王宮に閉じ込めて愛妾にしたのですって」
「酷い・・・」
奈々実は泣きそうだが、イネスの話はまだ終わらない。
「愛妾にすることが愛することにはならないわ。おかみさんを何人もの兵士に押さえつけさせて、おとなしくしなければ旦那を殺すぞ、って脅して、無理矢理身体をつなげたのですって。そんなの、愛じゃないでしょう?」
奈々実は肯く。確かにそんなのは愛ではなくて、酷い暴力だ。
「実際にアドルフ王はおかみさんの魔力をほんの少しだけ借りて、魔法を使うことができたわ。そういう意味ではアドルフ王はこの世界初の、『魔法を使えた男』よ。あの強大なアルヴィーン帝国のパトリシア女帝に肩を並べた、って有頂天になったらしいわ」
魔法を『使える』のではなく『使えた』と過去形なのは、今は使えないということなのだろうか。
「今は使えないんですか?」
「使えると思うわよ。でも、使わないと思うわ」
「どうしてですか?」
「対価を支払うのが、嫌だからだと思うわ」
「何が対価なんですか?」
お金とか宝石とか地位とかではないのは確かだろう。そうしたものが対価になりうるなら、アドルフ王はもっともっと際限なくおかみさんの魔力を借りて使いまくったはずだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

【R18】もう一度セックスに溺れて

ちゅー
恋愛
-------------------------------------- 「んっ…くっ…♡前よりずっと…ふか、い…」 過分な潤滑液にヌラヌラと光る間口に亀頭が抵抗なく吸い込まれていく。久しぶりに男を受け入れる肉道は最初こそ僅かな狭さを示したものの、愛液にコーティングされ膨張した陰茎を容易く受け入れ、すぐに柔らかな圧力で応えた。 -------------------------------------- 結婚して五年目。互いにまだ若い夫婦は、愛情も、情熱も、熱欲も多分に持ち合わせているはずだった。仕事と家事に忙殺され、いつの間にかお互いが生活要員に成り果ててしまった二人の元へ”夫婦性活を豹変させる”と銘打たれた宝石が届く。

私は何人とヤれば解放されるんですか?

ヘロディア
恋愛
初恋の人を探して貴族に仕えることを選んだ主人公。しかし、彼女に与えられた仕事とは、貴族たちの夜中の相手だった…

冷徹&ドSの公爵令息様の性処理メイドをヤらせてもらいます!

天災
恋愛
 冷徹&ドSの公爵令息さまぁ!

【R18】貧しいメイドは、身も心も天才教授に支配される

さんかく ひかる
恋愛
王立大学のメイド、レナは、毎晩、天才教授、アーキス・トレボーの教授室に、コーヒーを届ける。 そして毎晩、教授からレッスンを受けるのであった……誰にも知られてはいけないレッスンを。 神の教えに背く、禁断のレッスンを。 R18です。長編『僕は彼女としたいだけ』のヒロインが書いた異世界恋愛小説を抜き出しました。 独立しているので、この話だけでも楽しめます。

【R18】突然召喚されて、たくさん吸われました。

茉莉
恋愛
【R18】突然召喚されて巫女姫と呼ばれ、たっぷりと体を弄られてしまうお話。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

処理中です...