9 / 200
第八話
しおりを挟む
奈々実がきょとんとしていると、セヴランの眸に剣呑な光が浮かぶ。苛立っているのか、それとも怒っているのか、しかし自分がどうしてセヴランを怒らせているのか、まるでわからない。
「イネス殿は、今は魔力が最減期なのだぞ。それでも力を振り絞って、皆のスープを温めてくれていたのだ。お前はまる四日意識が無い状態でも、マジカル・スターの色がゴールドのまま変わらないじゃないか。スープを温めるくらい、たやすいはずだ」
「はあ・・・?」
見れば、イネスは顔色が悪く、額の桃色の輝きもほとんど見えないくらいに弱くなっている。つまり、さきほどまでスープも料理もずっと温かいままだったのは、イネスが魔力で保温してくれていたということらしい。
「あ、あの、魔力って、そういうふうに使うものなんですか・・・?」
おろおろしながら訊ねる奈々実に、セヴランは片方の眉をはね上げる。
「お前は今までその膨大な魔力をどんなことに使っていたんだ。人のために役立てず、自分のためだけに使うようなわがままで贅沢な生き方をしていたのか?」
きつい言い方で非難されて、唖然としてしまう。魔力なんて無い世界から来て、いきなり最高レベルの魔力量があるとか言われただけでも茫然としているのに、それを人びとのために使うのが当たり前だろうとか言われても、この国の当たり前とか常識とか全然知らないし、魔力の使い方自体を全く知らないのに、どうしろというのか。
それに今は、魔力封じの首輪とかいうものをされている。これをつけたのは、セヴラン本人ではなかったのか。もしかして、意識が無い奈々実の魔力波で怪我をさせられた、そのことで、やっぱり怒っているのだろうか。
スープカップを持ったまま、泣きそうになっている奈々実を、セヴランは不機嫌さを隠そうともしない冷たい目で見る。蔑まれていることに耐えられず、奈々実の目からはポロポロと涙がこぼれだした。
「・・・う・・・、ひっく・・・、そ、そんなの、知らないのに、わからないのに、・・・、どうすればいいんですか・・・?」
魔法とか魔力なんて、マンガやゲームや小説、映画の世界のことである。作り話でしかないそんなものがある世界にいきなり転移したらしいだけでもびっくりなのに、使い方もわからないのに、世のため人のために使うのが当たり前とか言われても、どうすればいいのか。
スープカップを置き、奈々実は涙を手の甲で擦った。顔色の良くないイネスが立ち上がり、奈々実の後ろにまわって、肩に優しく手を置いて、セヴランに目線を向ける。
「魔力封じの首輪を外します。セヴラン様、後悔はなさいませんね?」
イネスに念を押され、セヴランは仏頂面で頷く。イネスはゆっくりと奈々実の首輪を外し、奈々実の髪を撫でた。
「ナナミ、泣き止んで。心をおちつけて。頭の中で温かいスープを思い浮かべて。大丈夫、おちついて、ゆっくりでいいの。温かい美味しいスープをイメージして・・・」
イネスに言われて、奈々実はさきほど味わった、美味しい温かいスープを思い出そうとする。ゆっくり、と言われたけれど、奈々実が温かいスープを思い浮かべ始めてすぐに、テーブルの上の五人のそれぞれのスープカップが、地震の時のようにカタカタと振動を始める。
「ナナミ、思い浮かべるのを止めて!」
イネスが叫ぶ。びっくりして温かいスープのイメージが雲散霧消した瞬間、比較的中身が少なくなっていたアンリと江里香のスープカップが、銃撃でも受けたかのように粉々に砕け散った。
「イネス殿は、今は魔力が最減期なのだぞ。それでも力を振り絞って、皆のスープを温めてくれていたのだ。お前はまる四日意識が無い状態でも、マジカル・スターの色がゴールドのまま変わらないじゃないか。スープを温めるくらい、たやすいはずだ」
「はあ・・・?」
見れば、イネスは顔色が悪く、額の桃色の輝きもほとんど見えないくらいに弱くなっている。つまり、さきほどまでスープも料理もずっと温かいままだったのは、イネスが魔力で保温してくれていたということらしい。
「あ、あの、魔力って、そういうふうに使うものなんですか・・・?」
おろおろしながら訊ねる奈々実に、セヴランは片方の眉をはね上げる。
「お前は今までその膨大な魔力をどんなことに使っていたんだ。人のために役立てず、自分のためだけに使うようなわがままで贅沢な生き方をしていたのか?」
きつい言い方で非難されて、唖然としてしまう。魔力なんて無い世界から来て、いきなり最高レベルの魔力量があるとか言われただけでも茫然としているのに、それを人びとのために使うのが当たり前だろうとか言われても、この国の当たり前とか常識とか全然知らないし、魔力の使い方自体を全く知らないのに、どうしろというのか。
それに今は、魔力封じの首輪とかいうものをされている。これをつけたのは、セヴラン本人ではなかったのか。もしかして、意識が無い奈々実の魔力波で怪我をさせられた、そのことで、やっぱり怒っているのだろうか。
スープカップを持ったまま、泣きそうになっている奈々実を、セヴランは不機嫌さを隠そうともしない冷たい目で見る。蔑まれていることに耐えられず、奈々実の目からはポロポロと涙がこぼれだした。
「・・・う・・・、ひっく・・・、そ、そんなの、知らないのに、わからないのに、・・・、どうすればいいんですか・・・?」
魔法とか魔力なんて、マンガやゲームや小説、映画の世界のことである。作り話でしかないそんなものがある世界にいきなり転移したらしいだけでもびっくりなのに、使い方もわからないのに、世のため人のために使うのが当たり前とか言われても、どうすればいいのか。
スープカップを置き、奈々実は涙を手の甲で擦った。顔色の良くないイネスが立ち上がり、奈々実の後ろにまわって、肩に優しく手を置いて、セヴランに目線を向ける。
「魔力封じの首輪を外します。セヴラン様、後悔はなさいませんね?」
イネスに念を押され、セヴランは仏頂面で頷く。イネスはゆっくりと奈々実の首輪を外し、奈々実の髪を撫でた。
「ナナミ、泣き止んで。心をおちつけて。頭の中で温かいスープを思い浮かべて。大丈夫、おちついて、ゆっくりでいいの。温かい美味しいスープをイメージして・・・」
イネスに言われて、奈々実はさきほど味わった、美味しい温かいスープを思い出そうとする。ゆっくり、と言われたけれど、奈々実が温かいスープを思い浮かべ始めてすぐに、テーブルの上の五人のそれぞれのスープカップが、地震の時のようにカタカタと振動を始める。
「ナナミ、思い浮かべるのを止めて!」
イネスが叫ぶ。びっくりして温かいスープのイメージが雲散霧消した瞬間、比較的中身が少なくなっていたアンリと江里香のスープカップが、銃撃でも受けたかのように粉々に砕け散った。
0
お気に入りに追加
33
あなたにおすすめの小説


淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活
XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。
黒の神官と夜のお世話役
苺野 あん
恋愛
辺境の神殿で雑用係として慎ましく暮らしていたアンジェリアは、王都からやって来る上級神官の夜のお世話役に任命されてしまう。それも黒の神官という異名を持ち、様々な悪い噂に包まれた恐ろしい相手だ。ところが実際に現れたのは、アンジェリアの想像とは違っていて……。※完結しました
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる