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第八話
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奈々実がきょとんとしていると、セヴランの眸に剣呑な光が浮かぶ。苛立っているのか、それとも怒っているのか、しかし自分がどうしてセヴランを怒らせているのか、まるでわからない。
「イネス殿は、今は魔力が最減期なのだぞ。それでも力を振り絞って、皆のスープを温めてくれていたのだ。お前はまる四日意識が無い状態でも、マジカル・スターの色がゴールドのまま変わらないじゃないか。スープを温めるくらい、たやすいはずだ」
「はあ・・・?」
見れば、イネスは顔色が悪く、額の桃色の輝きもほとんど見えないくらいに弱くなっている。つまり、さきほどまでスープも料理もずっと温かいままだったのは、イネスが魔力で保温してくれていたということらしい。
「あ、あの、魔力って、そういうふうに使うものなんですか・・・?」
おろおろしながら訊ねる奈々実に、セヴランは片方の眉をはね上げる。
「お前は今までその膨大な魔力をどんなことに使っていたんだ。人のために役立てず、自分のためだけに使うようなわがままで贅沢な生き方をしていたのか?」
きつい言い方で非難されて、唖然としてしまう。魔力なんて無い世界から来て、いきなり最高レベルの魔力量があるとか言われただけでも茫然としているのに、それを人びとのために使うのが当たり前だろうとか言われても、この国の当たり前とか常識とか全然知らないし、魔力の使い方自体を全く知らないのに、どうしろというのか。
それに今は、魔力封じの首輪とかいうものをされている。これをつけたのは、セヴラン本人ではなかったのか。もしかして、意識が無い奈々実の魔力波で怪我をさせられた、そのことで、やっぱり怒っているのだろうか。
スープカップを持ったまま、泣きそうになっている奈々実を、セヴランは不機嫌さを隠そうともしない冷たい目で見る。蔑まれていることに耐えられず、奈々実の目からはポロポロと涙がこぼれだした。
「・・・う・・・、ひっく・・・、そ、そんなの、知らないのに、わからないのに、・・・、どうすればいいんですか・・・?」
魔法とか魔力なんて、マンガやゲームや小説、映画の世界のことである。作り話でしかないそんなものがある世界にいきなり転移したらしいだけでもびっくりなのに、使い方もわからないのに、世のため人のために使うのが当たり前とか言われても、どうすればいいのか。
スープカップを置き、奈々実は涙を手の甲で擦った。顔色の良くないイネスが立ち上がり、奈々実の後ろにまわって、肩に優しく手を置いて、セヴランに目線を向ける。
「魔力封じの首輪を外します。セヴラン様、後悔はなさいませんね?」
イネスに念を押され、セヴランは仏頂面で頷く。イネスはゆっくりと奈々実の首輪を外し、奈々実の髪を撫でた。
「ナナミ、泣き止んで。心をおちつけて。頭の中で温かいスープを思い浮かべて。大丈夫、おちついて、ゆっくりでいいの。温かい美味しいスープをイメージして・・・」
イネスに言われて、奈々実はさきほど味わった、美味しい温かいスープを思い出そうとする。ゆっくり、と言われたけれど、奈々実が温かいスープを思い浮かべ始めてすぐに、テーブルの上の五人のそれぞれのスープカップが、地震の時のようにカタカタと振動を始める。
「ナナミ、思い浮かべるのを止めて!」
イネスが叫ぶ。びっくりして温かいスープのイメージが雲散霧消した瞬間、比較的中身が少なくなっていたアンリと江里香のスープカップが、銃撃でも受けたかのように粉々に砕け散った。
「イネス殿は、今は魔力が最減期なのだぞ。それでも力を振り絞って、皆のスープを温めてくれていたのだ。お前はまる四日意識が無い状態でも、マジカル・スターの色がゴールドのまま変わらないじゃないか。スープを温めるくらい、たやすいはずだ」
「はあ・・・?」
見れば、イネスは顔色が悪く、額の桃色の輝きもほとんど見えないくらいに弱くなっている。つまり、さきほどまでスープも料理もずっと温かいままだったのは、イネスが魔力で保温してくれていたということらしい。
「あ、あの、魔力って、そういうふうに使うものなんですか・・・?」
おろおろしながら訊ねる奈々実に、セヴランは片方の眉をはね上げる。
「お前は今までその膨大な魔力をどんなことに使っていたんだ。人のために役立てず、自分のためだけに使うようなわがままで贅沢な生き方をしていたのか?」
きつい言い方で非難されて、唖然としてしまう。魔力なんて無い世界から来て、いきなり最高レベルの魔力量があるとか言われただけでも茫然としているのに、それを人びとのために使うのが当たり前だろうとか言われても、この国の当たり前とか常識とか全然知らないし、魔力の使い方自体を全く知らないのに、どうしろというのか。
それに今は、魔力封じの首輪とかいうものをされている。これをつけたのは、セヴラン本人ではなかったのか。もしかして、意識が無い奈々実の魔力波で怪我をさせられた、そのことで、やっぱり怒っているのだろうか。
スープカップを持ったまま、泣きそうになっている奈々実を、セヴランは不機嫌さを隠そうともしない冷たい目で見る。蔑まれていることに耐えられず、奈々実の目からはポロポロと涙がこぼれだした。
「・・・う・・・、ひっく・・・、そ、そんなの、知らないのに、わからないのに、・・・、どうすればいいんですか・・・?」
魔法とか魔力なんて、マンガやゲームや小説、映画の世界のことである。作り話でしかないそんなものがある世界にいきなり転移したらしいだけでもびっくりなのに、使い方もわからないのに、世のため人のために使うのが当たり前とか言われても、どうすればいいのか。
スープカップを置き、奈々実は涙を手の甲で擦った。顔色の良くないイネスが立ち上がり、奈々実の後ろにまわって、肩に優しく手を置いて、セヴランに目線を向ける。
「魔力封じの首輪を外します。セヴラン様、後悔はなさいませんね?」
イネスに念を押され、セヴランは仏頂面で頷く。イネスはゆっくりと奈々実の首輪を外し、奈々実の髪を撫でた。
「ナナミ、泣き止んで。心をおちつけて。頭の中で温かいスープを思い浮かべて。大丈夫、おちついて、ゆっくりでいいの。温かい美味しいスープをイメージして・・・」
イネスに言われて、奈々実はさきほど味わった、美味しい温かいスープを思い出そうとする。ゆっくり、と言われたけれど、奈々実が温かいスープを思い浮かべ始めてすぐに、テーブルの上の五人のそれぞれのスープカップが、地震の時のようにカタカタと振動を始める。
「ナナミ、思い浮かべるのを止めて!」
イネスが叫ぶ。びっくりして温かいスープのイメージが雲散霧消した瞬間、比較的中身が少なくなっていたアンリと江里香のスープカップが、銃撃でも受けたかのように粉々に砕け散った。
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