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第六話
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隣の部屋はかなり広く、真ん中に大きなテーブルと椅子があった。テーブルの上には五人分の食器が並べられていて、ちょっと意外なことに男の人が料理を運んでいた。イネスと同じようなキレイな金髪を短く整えた、背が高くて細マッチョの男性は、奈々実と江里香を見て人懐こい笑顔を見せたが、その顔を見て、奈々実はぽかんとしてしまう。
「え・・・? タツ・・・?」
幼馴染みのバスケバカである須藤達宏に瓜二つ・・・だけれど、髪の色が違う、眸の色が違う。着ている服も、古代ギリシャっぽい民族衣装的なものの男性用らしきものだし、なによりも、きちっというか、きりっとした立ち居振る舞いだとか物腰? そういったものが、生まれ育った現代ジャパンのがさつな脳筋高校生とはあまりにも違った。料理を運んでいるが、接客業的な身のこなしではなく、礼儀正しいけれどサービス業的ではない。目の前の達宏のそっくりさんは、顔は達宏にそっくりだけれどとにかく挙措動作が、洗練されていて美しい。
「私の顔になにかついていますか?」
声まで達宏と全く同じだが、おそらくは達宏よりも少し年上だろうと思われる。推定、二十代前半くらいだろうか。
「いえ、あの、幼馴染みにそっくりでいらっしゃるもので、びっくりして・・・」
ヘーゼルの眸を瞬かせ、達宏にそっくりな顔が不思議そうにかたむけられる。
「幼馴染みさんに・・・、ですか? 私が?」
達宏にしてもこの目の前のそっくりさんにしても、ものすごいイケメンというのではない。絶世の美女と言ってもまだ足らないほど美しいイネスの弟なのに、確かに似ているのに不思議なことだが、アンリは美形とかイケメンという感じではないのだ。身長補正込みで、まあ感じの良い好青年、といった雰囲気だ。親しみやすさが前面に出ているからだろうか。しかし折り目正しい物腰というのは、何割増しかでイケメン度が上がる。達宏の高級ヴァージョン、と奈々実が失礼な位置づけをしたことなど知りもせず、好青年は困ったような顔をイネスにむけた。
「わたしの弟でアンリっていうの。そしてそちらにおられる方がセヴラン様よ。貴女たちを見つけてここへ運んでくださったのですからね。きちんとお礼を言いなさいね?」
言われたほうに顔を向けると、大きなソファに深く身体を埋めて、長い脚を組んでいる仏頂面の男がいた。服装はアンリと同じようだけれどもう少し高級っぽいので、歳の頃はやや上、イネスと同じくらいか。アンリと違って髪と眸の色合いは地味だが、その目鼻立ちは恐ろしいほどに整った、正真正銘のイケメンだった。怜悧な美貌、とでもいうのだろうか。美しいけれど女性的な意味ではなく、少し、日に焼けて逞しい、広い肩幅と細く見えるけれどよく鍛えられた筋肉でできた身体の上に、テレビでも見たことがないと思うような完璧な顔がある。その端整な顔の左の頬に、まだ新しい大きな傷があるのが、見る者の心を絞り上げるように無残だ。肩や腕にも包帯を巻いている。髪の色はダークブロンドで、眸は北極や南極の海のような硬質の深いブルーグレーで、表情が読めない。それよりも傷を見てしまうことがつらくて正視もできない。
「助けていただいて、どうもありがとうございました」
江里香に促されて、奈々実は頭を下げる。尊大な無表情、という傲慢極まりない態度も、イケメンならば絵になってしまうのか。傲岸不遜なイケメンは、オレサマキャラの見本のようで、目の前にいるだけで不安になってしまう。ひょっとして意識が無い奈々実の魔力波で怪我をさせられたことを怒っているのだろうか。
「あの・・・、あの、怪我をさせてしまったとうかがいました。本当に申し訳ありませんでした」
裸を見られているような、眼光に射竦められるいたたまれなさに消えてしまいたい。
「お前は意識が無かった。意識があって、明確な意思をもって攻撃してきたわけではないのだから、不可抗力だろう」
だから気にしなくていい、とセヴランは言うが、自分が人を怪我させた事実は、ものすごい罪悪感だ。生まれて初めて経験するものだ。心がすくみ上る。
それなのに。
「傷は、痛むのか?」
セヴランは逆に奈々実の身体を気遣ってくる。申し訳なくていたたまれない。顔は仏頂面なのに声は心まで鷲掴みにされるような、腰にくるイケボで、頭がくらくらする。
「だっ、大丈夫・・・、です・・・」
呼吸が跳ね上がって、声が裏返りそうになる。クラスメイトに影で小荷物と呼ばれていた奈々実は、父親と達宏以外の男性と、まともに喋ったことがほとんどない。イケメンというのはあくまでテレビの中の生き物であって、リアルで顔を合わせて喋ることなんてありえない存在、雲の上の存在、違う世界の人々のはずだった。・・・まあここは本当に『違う世界』なわけだけれど。
「腹が減っているだろう? そちらに座れ」
配膳が終わったテーブルを指し示されたが、この世界に上座とか下座とかあるのかわからないし、どの席に座っていいものかと躊躇していると、アンリが椅子を指定してくれた。
「え・・・? タツ・・・?」
幼馴染みのバスケバカである須藤達宏に瓜二つ・・・だけれど、髪の色が違う、眸の色が違う。着ている服も、古代ギリシャっぽい民族衣装的なものの男性用らしきものだし、なによりも、きちっというか、きりっとした立ち居振る舞いだとか物腰? そういったものが、生まれ育った現代ジャパンのがさつな脳筋高校生とはあまりにも違った。料理を運んでいるが、接客業的な身のこなしではなく、礼儀正しいけれどサービス業的ではない。目の前の達宏のそっくりさんは、顔は達宏にそっくりだけれどとにかく挙措動作が、洗練されていて美しい。
「私の顔になにかついていますか?」
声まで達宏と全く同じだが、おそらくは達宏よりも少し年上だろうと思われる。推定、二十代前半くらいだろうか。
「いえ、あの、幼馴染みにそっくりでいらっしゃるもので、びっくりして・・・」
ヘーゼルの眸を瞬かせ、達宏にそっくりな顔が不思議そうにかたむけられる。
「幼馴染みさんに・・・、ですか? 私が?」
達宏にしてもこの目の前のそっくりさんにしても、ものすごいイケメンというのではない。絶世の美女と言ってもまだ足らないほど美しいイネスの弟なのに、確かに似ているのに不思議なことだが、アンリは美形とかイケメンという感じではないのだ。身長補正込みで、まあ感じの良い好青年、といった雰囲気だ。親しみやすさが前面に出ているからだろうか。しかし折り目正しい物腰というのは、何割増しかでイケメン度が上がる。達宏の高級ヴァージョン、と奈々実が失礼な位置づけをしたことなど知りもせず、好青年は困ったような顔をイネスにむけた。
「わたしの弟でアンリっていうの。そしてそちらにおられる方がセヴラン様よ。貴女たちを見つけてここへ運んでくださったのですからね。きちんとお礼を言いなさいね?」
言われたほうに顔を向けると、大きなソファに深く身体を埋めて、長い脚を組んでいる仏頂面の男がいた。服装はアンリと同じようだけれどもう少し高級っぽいので、歳の頃はやや上、イネスと同じくらいか。アンリと違って髪と眸の色合いは地味だが、その目鼻立ちは恐ろしいほどに整った、正真正銘のイケメンだった。怜悧な美貌、とでもいうのだろうか。美しいけれど女性的な意味ではなく、少し、日に焼けて逞しい、広い肩幅と細く見えるけれどよく鍛えられた筋肉でできた身体の上に、テレビでも見たことがないと思うような完璧な顔がある。その端整な顔の左の頬に、まだ新しい大きな傷があるのが、見る者の心を絞り上げるように無残だ。肩や腕にも包帯を巻いている。髪の色はダークブロンドで、眸は北極や南極の海のような硬質の深いブルーグレーで、表情が読めない。それよりも傷を見てしまうことがつらくて正視もできない。
「助けていただいて、どうもありがとうございました」
江里香に促されて、奈々実は頭を下げる。尊大な無表情、という傲慢極まりない態度も、イケメンならば絵になってしまうのか。傲岸不遜なイケメンは、オレサマキャラの見本のようで、目の前にいるだけで不安になってしまう。ひょっとして意識が無い奈々実の魔力波で怪我をさせられたことを怒っているのだろうか。
「あの・・・、あの、怪我をさせてしまったとうかがいました。本当に申し訳ありませんでした」
裸を見られているような、眼光に射竦められるいたたまれなさに消えてしまいたい。
「お前は意識が無かった。意識があって、明確な意思をもって攻撃してきたわけではないのだから、不可抗力だろう」
だから気にしなくていい、とセヴランは言うが、自分が人を怪我させた事実は、ものすごい罪悪感だ。生まれて初めて経験するものだ。心がすくみ上る。
それなのに。
「傷は、痛むのか?」
セヴランは逆に奈々実の身体を気遣ってくる。申し訳なくていたたまれない。顔は仏頂面なのに声は心まで鷲掴みにされるような、腰にくるイケボで、頭がくらくらする。
「だっ、大丈夫・・・、です・・・」
呼吸が跳ね上がって、声が裏返りそうになる。クラスメイトに影で小荷物と呼ばれていた奈々実は、父親と達宏以外の男性と、まともに喋ったことがほとんどない。イケメンというのはあくまでテレビの中の生き物であって、リアルで顔を合わせて喋ることなんてありえない存在、雲の上の存在、違う世界の人々のはずだった。・・・まあここは本当に『違う世界』なわけだけれど。
「腹が減っているだろう? そちらに座れ」
配膳が終わったテーブルを指し示されたが、この世界に上座とか下座とかあるのかわからないし、どの席に座っていいものかと躊躇していると、アンリが椅子を指定してくれた。
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