異世界ダイエット

Shiori

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第四話

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 ・・・話が見えない。説明プリーズ、と顔中でうったえる奈々実に、イネスは根気よく説明してくれる。要約すると、つまり次のような状態であるらしい。
 この世界では、女性だけが魔力を有する。ただし、その魔力の量はものすごく個人差があって、魔力が全く無い女性もいれば、火山の噴火か隕石の落下に匹敵するほどに膨大な魔力を有する女性もいる。男性はすべて魔力は無い。
 しかも、魔力を有する女性でも、状況や体調や成育時期など様々な事情で、魔力量は増減変化する。イネスのように月の満ち欠けによって変動することもあれば、子供の頃には魔力量が多かったのに長ずるにつれて減っていく者、逆に、子供の頃には魔力量が少なかったのに大人になるにつれて増える者などもいるという。昼間は魔力が増えるけれど夜間には減る者、またその逆の者、痩せている時には魔力量が多かったのに太ったら減った者、またその逆の者。月の障りの時に増える者、減る者。空腹や食事量によって増える者、減る者。水の中に入ると増える者。高い所に上るほど増える者。その他にも魔力量の増減はあまりにも多種多様な状況によって違いがありすぎて、説明しきれないほどいろいろあるのだという。そして訓練して自在に魔力を使えるようになったとしても、ずうっと最大量が使えるというわけではないし、コントロールできるようになってもさらにまた魔力が増えて訓練が必要になったりなど、魔力というのは天候とか自然のように、人の手には完全には制御しきれない不思議なパワーなのだという。
 「マジカル・スターの色が変わるから、見ればわかるけどね。最大量の時は金、以下、銀、赤橙黄緑青藍紫の順に弱くなって、最弱で今の私のような薄い桃色。この状態の時はほとんど魔力は無いに等しいわ」
無いに等しいけれど、星は存在する。額に星が無い女性は、魔力は無い。魔力を有する女性と全く無い女性。それは水と油のように、同じ女性でも完全に異質な、似て非なる存在であるらしい。
「でも、わかりやすすぎて、危険でもあるの。この国ではそんなことは無いけど、他国では権力者が魔力を持つ女性を奴隷にして自分にとって都合のいいように酷使して、何人もの女性を死に至らしめてしまった例もあるわ。」
痩せれば痩せるほど魔力量が増えるタイプの女性を餓死するまで使役したり、年齢を重ねると魔力が増えるタイプの女性が老婆になって死ぬまで酷使された例などがあるという。昼間は魔力量が少ないのに夜間には増えるタイプの女性で、延々と昼夜逆転の生活を強いられた例などもあるらしい。
「あなた達が倒れていた浜辺は入江の奥で波も穏やかで、この街に近いから野性動物も滅多に出て来ない場所だから運がよかったわね。あと少し北に行くとそこから先の海岸線はずうっと断崖絶壁が何千ヴィアートも続いているの。次に入江や砂浜があるのは隣の国だから、そっちに倒れていたらアドルフ王に捕まっていたかもしれないわよ? 今言った例はすべて隣の国であったことだって、わたしは聞いたわ。隣って言ってもとても遠い国なのだけど、隣国シエストレムのアドルフ王は残虐な暴君で、この国を植民地化しようと企んでいるのよ。それは国内で魔力量の多い女性を死ぬまで酷使して、魔力がある女性が減ってしまったからで、この国の魔力がある女性を略奪しようと画策しているらしいのよ。だからナナミはくれぐれも気をつけてね? この国の中でも絶対的な安全は保障できないわ。港町だから異国人の往来も多くて、魔力量の多い女性を誘拐して隣国に売ろうとするような不心得者だって、いないとは言い切れないのよ」
ヴィアート、というのは距離の単位であるらしい。現状では一ヴィアートが何キロメートルくらいなのかわからないけども。
 「特に気をつけるべきなのは、どんな人ですか?」
隣国の暴君がいきなり目の前に現れる、ということは、おそらく無いはずだ。王というのはお城やら王宮やらの奥深くにいて、やたら着飾って大勢の臣下に傅かれているのであろうから、一般市民の姿をして単身で他国の民家や街中に現れるということはありえないと思う。
「そうねえ、一番わかりやすい、かつ、可能性が高いのは・・・」
複雑な表情で言葉を切り、イネスはいったん江里香を見た。
「男性全般と、あとは味方のフリをして近づいてくる、魔力が無い女性を、警戒したほうがいいわ」
思いもかけない言葉に、奈々実も江里香も驚いた。それでは誰のことも信用できないと言っているようなものだ。
「・・・どういうことでしょうか?」
「・・・隣国で国王に次いで、魔力がある女性に理不尽な労働を強いているのは、魔力が無い王妃と、その取り巻きだからよ」
魔力量の多い女性を拉致するために、王妃の配下の魔力が無い女性が暗躍するのだという。
「魔力が無いから警戒されないし、自由もきくでしょう? この国に潜入している疑惑はぬぐえないわ。魔力が無い女性には、気をつけなさい。親切な顔で近づいてきて、なにをするかわからないわ」
「はあ・・・」
目の前の江里香の存在が、はい、と返事をすることをためらわせる。江里香は隣国の女性じゃないのに。
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