15 / 17
本編
第十節 神族の森3
しおりを挟む
「ほらよ」
じっと俺を睨みつけているアナイ、カナイという双子の兄妹を横目に俺は、その兄妹の親から温かいごはんらしきものを受け取っていく。
器の中に入っているものはどうやら穀類の何かと、葉物がごった煮になっているようで、日本にいた時にたまに食べていた鍋もののシメのおじやに、残り物の葉物がそのまま入っているようなものにも見える。
スプーンでそれを掬って口に含んでいくと、穀類はどちらかいうと麦米に近いのか少し硬く感じるものの、温かなそれは俺の胃袋を満たしていく。
「…おいしい」
思わずそんな風に俺が言うと、目の前の女性は、ふはっ、と笑い出した。
「…あの?」
「いや、すまないね。あんたがそんな素直に褒めてくれるとは思わなかったから…はははっ!こりゃいい!」
俺の反応の何が面白かったのか解らないが、悪い気はしていないのだろう。
そんな彼女の反応にホッとしていると、アナイが俺から器を奪って、また目の前にある鍋からよそっておかわりどうぞ、とでも思っているのか無言で俺の目の前に突き出した。
「…ありがとう。」
「別に」
おそらく彼女らは、ニンゲン、というよりも神族以外の種族を毛嫌いしているのだろう。決して俺に何かを言おうとはしない。
双子の兄らしいカナイもそのようで、母親と妹を守ろうと警戒心バリバリで俺を睨んでいるし、それは間違いないだろう。けれど、俺もただ黙ってここで、カルロス達を待っている訳にもいかない。
下手に動いてさらに最悪の事態になっても仕方ないけれど、俺はまだ、カルロスやオスカル様の守りがなかったら、ただの何もできない人間にすぎないのだ。一応、神子だとか言われているけれど、ちゃんとした技を使うにしてもその引き金すら引くことができないのだからどうしようもない。
おかわりもすっかり完食して、食事のお礼を兼ねて彼らに訊ねていく。
「あの、こんな温かいご飯、ありがとうございます。…ええと、俺は、ユカリって言うんだ。たまたまこの辺に来る用があって森をつっきっていたんだけど…ここがどこかは、教えてくれないか?」
彼らは俺の言葉に、しばらく沈黙のままでいると、ずっと黙っていたカナイがギロリと睨みながら俺に言った。
「お前、何者だ?さっきからステータスを確認しても、お前の名前と年齢以外なにも写らない。しかもお前が今、耳につけているピアス。《魔王の雫》だろ。隠蔽と守護の魔法がかけられてる。見た所、ただのヒト族のようだけど…それなのにその仰々しい服といい、嫌な予感しかないんだが」
「え…」
確かに、ピアスは城で今の神子服に着替えた時に、念のためつけておいてくださいと、ユーリから受け取っていたもの。しかも、彼が言う《魔王の雫》で間違いないのならば、これは十中八九、魔王さん直々が用意した品物で間違いない。
城内ならばつけていても問題ないだろうが、余計に警戒される物をつけさせられたと思うと、忌々しい…。何やってるんだよあのへっぽこ魔王。
救援活動の手伝いをするはずが余計な事をされたせいで俺は、俺がはぐれた事を知らない魔王さんに向かって、恨み言を投げつけるほかしか浮かぶことができなかった。
「お兄ちゃん、そういう時はピアス外させれはいいんじゃないの?」
「ぐっ」
「お前は、だからアナイに馬鹿にされるんだよ」
俺が何かを言い訳するまえに、女性陣がカナイに向かって苦言を投げつけるものだから、彼は勝手に自滅…というか落ち込んでしまった。
うわあ、さすが女性。頭いいな!まあ俺も少しは思ったけれど!
「ってことで、ええと、ユカリ、さん?ピアス、外してもらっても?」
「うーん。俺の一存では決められないな。なんせ、同行してた人達のリーダーに付けるように命令されたようなもんだし」
「そうなんだ?」
「実際に言われた訳じゃないけれど、実質的にはそういう感じ。まさか、このピアスの宝石にそんな仰々しい名前が付いているとは思わなかったよ。たぶん、ただ俺を守ろうとしたかっただけなんだろうけどね」
俺の素直な感想にアナイは目を丸くして、ついには笑い出した。
「ふはっ、なにそれ、貴方、籠の鳥かなんかにされてるの?」
「え、まさか!違う違う。俺、ここの国の人間じゃないし、数日前に来たばかりだもん。そんな人間があっちこっち見知らぬ土地を歩き回ったら何が起こるかわからないからっていうただの心配性なだけだと思うよ?それに籠の鳥だったらまず、ここにだって来られないでしょ」
「あー、まあね。ここは、ご覧の通り私達神族が住まう里よ。神族の里は、闘争心の高い種族を嫌うの。少しの守護と祈りの力、それにちょっとだけの緑と風の力が私たちの力の糧であり生き様。だからこそ、ヒト族とも魔族とも相容れないんだけど、何だか貴方からは不思議な風と匂いを感じるわ」
彼女が言う言葉にぎくりとした。
彼女たちには見ることはできないらしいけれど、俺には魔力属性は全てあるってことは風属性もあるって事だし、なにより彼女達が力としている守護と祈りの力は、俺の持つスキルと似たものに違いがないのだ。真実を、言うべきではないだろうかと、俺の意志は揺らがらずを得なかった。
◆
俺の知らないところで、暗躍している人…もとい魔族の王様がひとり。
コトー村の、俺達の拠点となる建物の一室で、執務に勤しみながら、望遠映像を手元に送れる機能の付いている、とある虫達で俺やカルロス達を追うように仕向けて、見守って…いや見張っていた。
そして彼は知る。
俺が、神族に捕まってしまったことを。
カルロス達の一瞬の隙があだとなって、カルロス達も俺を探している事を。
不吉な…いや不憫で不気味な顔で彼は部屋の隅で独り言ちる。
たまたまお茶を出しに来たミヤが、うわあ…と残念そうな顔をしているのにも気づかないまま。
「ユカリ…ああ、無事でよかった…しかし、そんな神族共相手にそんな媚びを売るなんて…もしかしてお前はあの女が良いのか⁉……カルロスはさておいてオスカル…お前は後でお仕置きだからな……ふふふふ…ふふふふふ…」
________
※大変長らく連載をお休みしていて申し訳ありませんでした。
次回は2話連続更新予定のつもりでいます。その時には、表紙も変わる予定です。(力尽きたのでもう少しで終わらせたいマン)
じっと俺を睨みつけているアナイ、カナイという双子の兄妹を横目に俺は、その兄妹の親から温かいごはんらしきものを受け取っていく。
器の中に入っているものはどうやら穀類の何かと、葉物がごった煮になっているようで、日本にいた時にたまに食べていた鍋もののシメのおじやに、残り物の葉物がそのまま入っているようなものにも見える。
スプーンでそれを掬って口に含んでいくと、穀類はどちらかいうと麦米に近いのか少し硬く感じるものの、温かなそれは俺の胃袋を満たしていく。
「…おいしい」
思わずそんな風に俺が言うと、目の前の女性は、ふはっ、と笑い出した。
「…あの?」
「いや、すまないね。あんたがそんな素直に褒めてくれるとは思わなかったから…はははっ!こりゃいい!」
俺の反応の何が面白かったのか解らないが、悪い気はしていないのだろう。
そんな彼女の反応にホッとしていると、アナイが俺から器を奪って、また目の前にある鍋からよそっておかわりどうぞ、とでも思っているのか無言で俺の目の前に突き出した。
「…ありがとう。」
「別に」
おそらく彼女らは、ニンゲン、というよりも神族以外の種族を毛嫌いしているのだろう。決して俺に何かを言おうとはしない。
双子の兄らしいカナイもそのようで、母親と妹を守ろうと警戒心バリバリで俺を睨んでいるし、それは間違いないだろう。けれど、俺もただ黙ってここで、カルロス達を待っている訳にもいかない。
下手に動いてさらに最悪の事態になっても仕方ないけれど、俺はまだ、カルロスやオスカル様の守りがなかったら、ただの何もできない人間にすぎないのだ。一応、神子だとか言われているけれど、ちゃんとした技を使うにしてもその引き金すら引くことができないのだからどうしようもない。
おかわりもすっかり完食して、食事のお礼を兼ねて彼らに訊ねていく。
「あの、こんな温かいご飯、ありがとうございます。…ええと、俺は、ユカリって言うんだ。たまたまこの辺に来る用があって森をつっきっていたんだけど…ここがどこかは、教えてくれないか?」
彼らは俺の言葉に、しばらく沈黙のままでいると、ずっと黙っていたカナイがギロリと睨みながら俺に言った。
「お前、何者だ?さっきからステータスを確認しても、お前の名前と年齢以外なにも写らない。しかもお前が今、耳につけているピアス。《魔王の雫》だろ。隠蔽と守護の魔法がかけられてる。見た所、ただのヒト族のようだけど…それなのにその仰々しい服といい、嫌な予感しかないんだが」
「え…」
確かに、ピアスは城で今の神子服に着替えた時に、念のためつけておいてくださいと、ユーリから受け取っていたもの。しかも、彼が言う《魔王の雫》で間違いないのならば、これは十中八九、魔王さん直々が用意した品物で間違いない。
城内ならばつけていても問題ないだろうが、余計に警戒される物をつけさせられたと思うと、忌々しい…。何やってるんだよあのへっぽこ魔王。
救援活動の手伝いをするはずが余計な事をされたせいで俺は、俺がはぐれた事を知らない魔王さんに向かって、恨み言を投げつけるほかしか浮かぶことができなかった。
「お兄ちゃん、そういう時はピアス外させれはいいんじゃないの?」
「ぐっ」
「お前は、だからアナイに馬鹿にされるんだよ」
俺が何かを言い訳するまえに、女性陣がカナイに向かって苦言を投げつけるものだから、彼は勝手に自滅…というか落ち込んでしまった。
うわあ、さすが女性。頭いいな!まあ俺も少しは思ったけれど!
「ってことで、ええと、ユカリ、さん?ピアス、外してもらっても?」
「うーん。俺の一存では決められないな。なんせ、同行してた人達のリーダーに付けるように命令されたようなもんだし」
「そうなんだ?」
「実際に言われた訳じゃないけれど、実質的にはそういう感じ。まさか、このピアスの宝石にそんな仰々しい名前が付いているとは思わなかったよ。たぶん、ただ俺を守ろうとしたかっただけなんだろうけどね」
俺の素直な感想にアナイは目を丸くして、ついには笑い出した。
「ふはっ、なにそれ、貴方、籠の鳥かなんかにされてるの?」
「え、まさか!違う違う。俺、ここの国の人間じゃないし、数日前に来たばかりだもん。そんな人間があっちこっち見知らぬ土地を歩き回ったら何が起こるかわからないからっていうただの心配性なだけだと思うよ?それに籠の鳥だったらまず、ここにだって来られないでしょ」
「あー、まあね。ここは、ご覧の通り私達神族が住まう里よ。神族の里は、闘争心の高い種族を嫌うの。少しの守護と祈りの力、それにちょっとだけの緑と風の力が私たちの力の糧であり生き様。だからこそ、ヒト族とも魔族とも相容れないんだけど、何だか貴方からは不思議な風と匂いを感じるわ」
彼女が言う言葉にぎくりとした。
彼女たちには見ることはできないらしいけれど、俺には魔力属性は全てあるってことは風属性もあるって事だし、なにより彼女達が力としている守護と祈りの力は、俺の持つスキルと似たものに違いがないのだ。真実を、言うべきではないだろうかと、俺の意志は揺らがらずを得なかった。
◆
俺の知らないところで、暗躍している人…もとい魔族の王様がひとり。
コトー村の、俺達の拠点となる建物の一室で、執務に勤しみながら、望遠映像を手元に送れる機能の付いている、とある虫達で俺やカルロス達を追うように仕向けて、見守って…いや見張っていた。
そして彼は知る。
俺が、神族に捕まってしまったことを。
カルロス達の一瞬の隙があだとなって、カルロス達も俺を探している事を。
不吉な…いや不憫で不気味な顔で彼は部屋の隅で独り言ちる。
たまたまお茶を出しに来たミヤが、うわあ…と残念そうな顔をしているのにも気づかないまま。
「ユカリ…ああ、無事でよかった…しかし、そんな神族共相手にそんな媚びを売るなんて…もしかしてお前はあの女が良いのか⁉……カルロスはさておいてオスカル…お前は後でお仕置きだからな……ふふふふ…ふふふふふ…」
________
※大変長らく連載をお休みしていて申し訳ありませんでした。
次回は2話連続更新予定のつもりでいます。その時には、表紙も変わる予定です。(力尽きたのでもう少しで終わらせたいマン)
0
お気に入りに追加
127
あなたにおすすめの小説


美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜
飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。
でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。
しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。
秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。
美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。
秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。


悪役令息に転生したけど…俺…嫌われすぎ?
「ARIA」
BL
階段から落ちた衝撃であっけなく死んでしまった主人公はとある乙女ゲームの悪役令息に転生したが...主人公は乙女ゲームの家族から甘やかされて育ったというのを無視して存在を抹消されていた。
王道じゃないですけど王道です(何言ってんだ?)どちらかと言うとファンタジー寄り
更新頻度=適当

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる