[BL]魔王さまは神子を溺愛したい

瑞祥 啓可

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本編

第八節 神族の森1

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 この世界では太陽がふたつ、月がふたつある。しかもそれぞれが地球上にあるものとは違うようで、本来時を太陽で測るのはとても難しい。
 代わりに基準にしているものはノーブル星というものらしいが、計測するにしても本来、魔族やヒト族が計算できるものではないらしい。
 しかしそこは魔道具があればなんとかなるらしく重力だの何だのという地球にいたら心配することもなくて、なるほどこれがご都合主義というやつか、と遠目ながら空を浮かぶ太陽を見ながらぼんやり思う。
 ちなみにこの話は、ロー先生に聞いた。
 あれから何事もなく、俺達はコトー村へとたどり着く事ができた。
 一般的な馬車であれば一晩は野営する事になるようだけど、王族が使う馬車はスピードも頑丈さもかなりのものらしく、俺が持っていた腕時計は、城を出てから6時間ほどしか経過していなくて、現時刻、夕方4時すぎを差していた。
 俺の時計は、何故か自分専用のマジックアイテムとなっているらしく、この世界でもうまく正しい時間が解るようになっていた。そのせいで実はロー先生には驚かせてしまったし、ちょっとした一悶着があったのだけどこの際スルーしておく。
 とにかく、日を跨がずに到着できたのはよかったと思う。さすが、走っていた馬が魔種であるだけある。きっと、ごく普通の馬ならば2、3日はかかっただろう。そのぐらいの距離はあったからな。

 コトー村へ入っていくと、女子供は弱りながらも生きていたが、男の存在を確認することができず、しかもあまりに在住民達の数が少ない状態に愕然とした。
「これは…一体……」
「魔王様!?まさかもう来てくださるとは…!」
 泣きながら向かってくる村人の一人に驚いていると、その村人は、はっとしたのか地べたに座って屈んできたのでさらに驚いた。
「申し訳ありません、ただいま男どもが森へと薬草探しに行ってしまいまして…本来ならば絶対に中に入る事などしないのに、私達女子供を救うためにと、なりふり構わず中に入ってしまって…もうすでに二晩は経っています。何事もなければいいのですが。」
 地べたに張りつくようにして言う姿に、必死さを感じ取る。
 貧困に見舞われているせいなのか、それとも病魔に脅かされているせいなのか、目の前の村人である女性は少し、やせ細っている気がする。
 そのせいか、村全体も寂れてしまっているように見えて、俺は不安になってしまう。
 オスカル様が、地べたに張りつかなくていいから、俺達が泊まる建物に案内してくれと言って、彼女を起こしてやると、すいません、と言ってようやく立ち上がっていく。
 「申し遅れました、わたしはミヤと言います。魔王様方をお泊めする施設へとご案内しますのでどうぞ付いてきてください」
 女性のミヤはそう言うと、こちらですと言って指をさしていった。

 それほど遠く離れていないところに見える建物は、小さな村にしては大きすぎていて、王族が利用する建物であると容易に知らしめているのがよく解る。
「ここの管理を任されていた者は先日から、病気で倒れていまして。私が代理になっています。鍵はすでに開けて掃除もすませてありますから、ご自由にお使いください」
「ありがとう。ああ、君は管理を任せていたゲールの孫か?どことなく似ている気がする」
 ミヤの言葉に返事をしたのはオスカル様だった。何気ない反応に、ミヤは驚いている。
「え、祖父をご存知なのですか?」
「ああ。彼は、私の父の親友でね。だから、最近調子を悪くしていたのも聞いていた。後で彼にも会わせてくれ。……こちらも出来る限りの事はする。よろしく頼む」
 遠い過去に、ミヤのお爺さんと会ったことがあるのだろう。とても優しそうな顔で言うものだから、珍しく感じてしまう。
 
 挨拶が終わると、早々に荷物を邸内に運び込まれていった。
 馬車の中に入っていたものの大半は、俺たちの為の物資にすぎない。
 村人達の為に必要なものは解らないからと、現状把握してから転移魔法で届けてもらう予定となっているらしい。
 そんな状態だから、荷物運びはそんな時間がかからないからと騎士兵の人たちが行っていた。
 暇だ、と断言するほどでもないけれど俺は、邪魔にしかならなさそうと早々に諦めて、ミヤさんからこの辺りの地図を貰って、睨めっこすることにした。
 この村はほぼ、森で覆われている形になっているせいで、方角を間違えやすい。建物がなかったら間違いなく、迷ってしまうだろう。しかも、囲っている森は2つある。南東に位置する森は、Cの字を書くように森の北部分が覆っていて、北西にある森は、漢字のカンムリ部分を書くように位置しているせいで、下手をすれば森同士が繋がってしまい兼ねないらしく、中に生息しているであろう魔物たちが下手に増殖しないようにする為にもと、定期的に森の端部分に限り、木の伐採が行われているらしい。
 ちなみに伐採された木は、簡易建築材料として使われるようだ。
 そういった理由もあって、俺を含めた救援隊は木の伐採も並行作業として行わなければならないらしく、鉈などの工具も借りる事になって、余計なものがオスカル様達の背中に背負われていてなんだか変な格好をしていた。
 王族の直属の配下が伐採のまねごとをするっていうだけでもシュールだというのに、工具を背負う恰好はどこか笑いが込み上げてくる。

 魔王さんはさすがに背負うなんて事はしないし、中に入る事もしないらしい。というか、オスカル様に村で待っているように怒られてた。
「いいですね?貴方は、唯でさえ破壊神なんですから、変な事はしないでくださいね?帰ってきたらいなかった…なんて事があったら、帰った後、仕事が増えていると思ってくださいね?」
「わ、解った解った。だから仕事量は増やすな!」
 うっわ、めっちゃ尻に敷かれてる。オスカル様強いなあ。
 魔王さんは苦笑いしながらお手上げと、両手を軽くあげているし、オスカル様は、疑いの眼差しで「本当ですね?言質とりましたからね?」と念を押している。
 多分だけど、魔王さん、前に何度かやらかしたんだろうな。
 渋々…本当ーに、渋々、詰まらないといった顔で俺達が使わせてもらっている豪邸の中に入っていくのを見送ると、俺達は今度こそ森の中、村の男達を回収するべく中へと入っていった。



 森の中はそれほど荒れ放題ではないらしく、人がある程度歩けるように整備されていて、肌に何かが刺さってしまう、といったような事はまずなく、安全にある事ができた。
 時折、どうしたらそんな鳴き声がするのかわからない、腹に響くような鳴き声や、虫の羽が勢いよく震えているような音が鳴ってくるので、恐ろしさというよりも気持ち悪い感覚に悪寒が走ってきてしまい、精神的にクるものがあるんだけど、俺以外の人達はケロッとしているので、余計疲れが出てきてしまっている。
「ユカリ殿、大丈夫か?」
「あ~…うん…。俺が知っている生き物の鳴き声が聞こえないせい…っていうか、俺の世界にある生物の音と勘違いして聞いちゃうんだよね。そのどれもが、一般人には嫌悪されやすい生物のある音だから余計疲れちゃうっていうか…ごめんなさい」
 げんなりとしている顔からは、明らかに顔色も悪くなっているだろう。本当ならば俺も魔王さんと待っていた方がいいのだろうけれど、男の人達が見つかった時に、俺がするべきことがあるかもしれないという可能性を考えると、同行しない訳にはいかない。
 それも、カルロスもオスカル様も解っているからか、苦笑いするしかないみたいで、悪いな、とこぼしてくれる。
 
 そうこうしているうちに歩き続けていくと、少し幅広いスペースができた所が見えてきた。おや、と思って周囲を見回すと、どうやら誰かが、魔物と戦った痕のようでギクリとした。
 木が何本か、倒されていて、しかも真っ二つに割れている。さっき、カルロスが何本か木を倒した時に解ったのだけれど、ここの木は頑丈にできている。日本で確認される木なんかとは比べ物にならないほどの固さだ。どうやらこの国の特徴のようだけど、少し、石のような固さがある気さえする。その木が割れているので、余計不安が増していってしまう。
 ガサリという音にギクッとして俺は振り向いた。
「誰…⁉」

 耳が長い、エルフのような存在を見た…と思った。
 だけれど、唐突に眠気が襲ってくる。
 こんな場所で寝ちゃ駄目なのに―――――――ぐらりと、闇が視界を覆ってきて、俺は意識を手放す事になった。


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