[BL]魔王さまは神子を溺愛したい

瑞祥 啓可

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本編

第三節 勘違いと服従の儀

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「おいあんた!ユーリを解放しろ!」

 ツカツカと速足でやってきたかと思うと、カルロスという男は俺を責めているかのように胸ぐらを掴みかかろうとしてきた。
「ちょっと…カルロス様⁉何をなさろうと!」
 ユーリは驚愕した様子でカルロスを止めにかかろうと、間に割って入っていく。
 うん、何か誤解されてるような雰囲気半端ない。
「アンタ何者だ?なぜユーリを囲う」
「えっと…?それはどういう意味かな…?」
「ユーリはつい最近まで魔王様の傍仕えだったんだぞ!何故馬の骨とも知らない奴のとこに追いやられるんだよ!オレと一緒にずっと切磋琢磨していたこいつを!」
 カルロスは、完全に俺が地球から召喚された『勇者』らしい事を聞いていないってことがビンビンに伝わってくる、怒りを籠った言葉に、俺は苦笑いせざるを得ない。
 俺が召喚された時、その場にいたのは魔王さんと騎士団長と副団長に高貴族らしきヒトが2名に、それに召喚師がいたぐらいだった。召喚の儀が行われた事実は周知されているとは言え、俺の存在を肉眼で見ている者はそれほどいなかった。それ故に彼のようになってしまっても仕方ない部分は確かにあった。

 正直、ユーリとカルロスの関係がどういったものか、意味深な部分もありそうで非常にドキドキしてしまう。けれど今はそれどころではない。
 さて、どうやって彼に説明しようかなと思いはじめると、ユーリは眉間に皺を寄せてきた。ユーリは俺の傍仕えになった事もあるだろうけれど、非常に俺よりの意見を出してくれる珍しいタイプだと思う。

「この方は、『勇者』の神子様であらせられる、ユカリ・フジサト様でいらっしゃいますよ。カルロス様、私めは別に左遷された訳でもなんでもありません。これ以上の愚行はいくら私でも許しませんよ」
「はあ⁉こんなちんちくりんが『勇者』ぁ⁉嘘だろ⁉」

 カルロスは、案の定驚愕の目で俺を改めて、指を差しながら失礼な事を言う。
ちんちくりんは失礼だと思うけれど、魔族のイケメン度は俺なんかと違ってカンストしている分、どうしても比べてしまう部分はあるのだろう。
 まじまじと見てくるその姿に、俺はついため息が出てしまう。
「カルロス様?」
 ユーリは聞き捨てならないとでも言うかのように、暗黒の笑顔を見せているようだった。
 その姿にカルロスは、ヒッ、と言葉を飲み込んで後ずさりした。
 俺も、その暗黒の笑顔を浴びせさせられていたらきっと、悲鳴を上げていたかもしれない。ちょっと可哀そうかも、なんて思ってしまったものだから俺は助け船をだすことにした。
「ユーリ、もういいよ。どうせこの人、俺の事知らされてなかったんだろ?」
「それは、そう…なんですが…」
「いいから。多分だけど、ユーリの友達、なんだろ?心配してくれたんだ、俺は別に傷つけられたわけじゃないし。ね?」
「……っ貴方様は、本当に優しいですね…」
 上目遣い気味にしてユーリを宥めていく。
 俺のその姿に、何故か一瞬顔を赤く染め上げていたけれど、最後には、ため息をひとつこぼして、ようやく納得してくれたのか、怒りを納めてくれた。
 
 俺とユーリの姿に、カルロスは不思議なものを見たのか、呆気にとられているようだった。
「…っ、悪かったよ。オレもちゃんと確認していなかったし…すまなかったな」
 意外と素直に謝ってきて、俺は吃驚する。
「悪かったと思うのなら、ここに来る前にちゃんと事実確認を最後までしてから来てください」
「ぐっ」
 ユーリは手厳しく言う。でも、これ以上は荒立てる事はしたくないな。
「ユーリ、彼は謝罪してくれてるんだから、それ以上は苛めたら可哀相だよ」
 さすがに苦笑いしてしまうものの、もういいからと言うと、ようやくユーリも落ち着きを見せてくれた。


「それにしても、よくここが解りましたね?」
 俺は改めて、カルロスに聞いた。
「ああ、俺達魔族は互いを魔力で認知していくからな。…いや、ホントすまなかった神子殿。」
「もういいですって。あと神子って何なんです?名前で呼んでください。でもそっか、俺にはそういうの使った事ないから解らないけど、魔族ってすごいんだね」
 笑って言うと、カルロスはうぐ、と顔を真っ赤にしてきた。あれ?可笑しなこと言ったかな?しかも、はあ~、と思いっきりため息をつかれてしまった。
 
 カルロスは、改めて姿勢を正して、左拳を心臓の位置に充てて俺に向かって軽くお辞儀をする。
「オレはカルロス・アッパティーニ。そいつと同じ子爵位の一族の者だ。オレは普段、炎の騎士団の隊長を務めさせてもらっている。何かの折には、この借り、返させていただきます。オレの失言をここだけの事に留めていただき感謝する」
 
 畏まった台詞に、俺は思わず動揺してしまった。
 というか、魔王さんは別としても、ここまで丁寧な挨拶なんて、ここに来てからされたことがない。
 なんだかくすぐったいような、照れくさいような不思議な感情が溢れ出てきそうになる。

 ふと、ユーリがなんだかガタガタと震えだしてきているのに気付いて俺は彼のほうを見やった。
 明らかに動揺した様子でユーリがめちゃくちゃ震えている。さっきまでの真面目~な雰囲気のユーリが家出しているようにも見えて、俺は戸惑ってしまう。

「ちょ…ちょっと、カルロス…⁉」

 ユーリがめちゃくちゃ動揺した声でカルロスに向かって叫びに近い状態で張り上げた。

「貴方、何でそういう事…‼」

 あまりの状況に俺は、不安になっていく。

「え?何々?どうしたの?」

 頭を仰ぎながら言っている状態に、目を顰めるしかなくて、眉間に皺をよせながらユーリの様子を見ていく。
 きっと、大変な状態が起きているに違いないだろう。

「いえ…問題は、ない…と言いたいのですが…今の挨拶は、略式ではありますが貴方様に服従しますという意味も込められた服従の儀でもあるのです。
彼、手を拳上にして心臓に充てていたでしょう?心臓は、魔王様など、『主』と認めた方を示しているのです。
手は、己ですね。手を、心臓に充てて礼をする…つまり、永遠に貴方に従います、という意味になる。
魔王様が怒る事はないでしょうが…後々、大変なことになるかもしれません…。ユカリ様すいません…」

 服従の儀という爆弾に、俺は今度こそ固まってしまった。
 えええ…カルロス、何やってるの…!
  
 
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