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本編
第二節 傍仕えの従者さんができました。
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俺がじっと、魔王さんを睨んでいるのが解ったのか、魔王さんは、苦笑いをして部屋を後にしていった。代わりに、我に返ったらしい従者さんがスッと、何個か重ねて持ってきていたらしい籠を俺に見せてくれた。
「これは?」
「おそらく先程の服だけでは心もとないでしょう。ほかにも用意させていただきましたので、それをお持ちしました。」
ソファ近くのテーブルに籠を置いた従者が言う。
籠の中を見ると、この国としてはごく普通の衣服らしい、シンプルな素材の服が入っていた。
どうやら前かがみ気味だったのは、荷物が多くて落としそうになっていたようだった。
渡された籠は3つほどあり、その中には下着と室内着、寝間着、それに普段使い用の神子服が入っていた。
神子服は、着せられた物とは違って、肌が透けて見える事もない。黒地に白のラインが入っている物から、グレー生地に白のラインが入っている物、それに白地にグレーのラインが入っているものまで色とりどりとあって、着替えの心配がないぐらいの量があって目を白黒して驚いてしまった。
ラノベやアニメなどでよくある、いつ着替えているのかすら解らない衣服の事情とは違うようで、清潔好きの日本人としては非常に助かります。
それでも、正式な衣装はやはり今着ているものらしいので、何かある時にはこの露出度の高い服を着てほしいみたいだ。
「ユカリ様は、肌がとてもお綺麗ですから、できれば布地で肌を痛めることがないようにしたいのです。ここの国の服の布地は少し頑丈すぎまして…外から来られた方には少し、刺激が強いのですよ」
魔王の従者の一人らしい、ユーリウス・ラインベルツ子爵が俺に向かって言う。
ユーリウス…愛称ユーリと呼ばせる彼は、魔族とヒトのハーフらしい。それでも魔族の血が濃いらしく、瞳の色は紫かかったものだが、髪の色は漆黒で頭に父親譲りらしい、羊の角のようなものが頭部から生えていてなんとも不思議な姿に見える。
黒髪はショートカットであるものの、ストレートヘアでもあるせいかワンレンっぽく額からサイドに流している。しかも均整のとれた顔立ちをしているものだから、角があるなしに関わらず、とても真面目なタイプのイケメンと言うに相応しい雰囲気を持っていて、男である俺であっても惚れ惚れとしてしまう。
「ユカリ様?」
「な、なんでもない」
俺は、はっとした。うっかり見惚れていたようだ。
ユーリが籠の中の物を、タンスとクローゼットの中に入れておきましょうと言ってくれていたのを思い出す。
タンスの少し下の部分を開けようと、屈んでいたユーリの姿は煽情的で、とても色っぽく見える。基本的に魔族の人たちは、美形が多いようだけれど、彼もきっと、モテるんだろうなと思えてくる。
うっかり腐男子フィルターが出てきてしまいそうになる。魔王さん×ユーリ、とかおいしそう…いやいやいや。
ごめん、ユーリ。
ユーリは服を片付け終えると、俺の傍仕えの従者にと魔王さんより厳命が言い渡されたらしく、その事を俺に教えてくれた。メイドさんが俺の傍仕えになるのは躊躇われるのでとても有難い申し出だった。これからは何かありましたら私めに気軽に言ってくださいね、と言って一旦、部屋を出ていった。
これから夕飯の支度と、明日の準備があるらしいので仕方ないのかもしれない。
出る前に、明日の予定を教えてもらった。
まずはこの国の事を細かく知る必要があるだろうと、用意している家庭教師との面談と、勉強の下準備、そして城内の案内があるから覚えておいてくださいとの事だった。
一からまた勉強するのは面倒だけれど、この国の事を知らなければ、救うにしても何もできない。まだ救うという事の本当の意味も解らないけれど、勉強がこの国の未来に繋がるのなら頑張ってみるのもいいのかもしれない。
夕食は、豪勢なごちそうが出ると思っていたけれど割と普通のものだった。
ワイバーンの肉のステーキはあるけれど、野菜類が少なく、パンもどことなく固い。一緒についてきてたスープがなければ、俺には食べられない気がする。
実家はごく普通の一般家庭だったけれど、ステーキは時々食わせてもらっていたし、サラダや付け合わせなんかもしっかりあって美味しかったのを思い出す。
パンは、黒パンほど固いものではないが、いかにも作ってからだいぶ経っていますという感じが否めない。見た目はフランスパンみたいな物みたいだけれど、あまりにも固すぎてつい、スープの汁をパンに吸わせて食べてしまった。
「ユカリ様、お食事はお口に合わなかったですか?」
「多分、食文化の違いだと思うんだけど、パンの固さがね。」
心配するユーリの姿に、俺はパンの事だけ伝える。他の食材についてはまた今度だな。
「ユカリ様のお住まいだった所ではパンはどういったものだったのですか?」
「まず、中の生地が柔らかい。たぶんこのパンも最初は柔らかいものだと思うんだけど、ここまで固くなる前に食べきってしまう事が多いんだ」
俺がそういうと、ユーリも納得したようで、ああ、と焼きたての時のパンの状態を思い出しているようだった。その様子に、やはり焼きたての時の固さ、というより柔らかさがしっかりある事を容易に知らせてくれる。
もしかしたら他の食事も、もっといい状態で出てくる可能性もありそうだ。
「ああなるほど。私達魔族は、本来、こういった食事は殆どしませんからね。元々、顎と歯が頑丈ですから失念していました。
では、明日のパンは料理長に、明日作ってもらうようにお願いしておきますね」
二コリと笑ってユーリは、俺にワインらしきものを差し出してきた。
お詫びに、なのかもしれない。一口、ごくりと飲んでみると、たしかにワインらしい芳醇な味わいが口の中に広がっていった。
「これ、ワイン?」
「解りますか?」
「うん、これ美味しいな」
素直に言って、このワインは美味しかった。飲みやすくて、すこしジュースの感覚で飲みきってしまいそうな感じもする。日本にいる頃、俺の口は、ワインは白よりも赤が好みだった。香りと味わいをしっかり楽しむのならば、赤が一番いいと思っているぐらい、赤ワインは好きで、よく飲んでいたのを思い出す。
「ユカリ様の食事は、預からせてもらっているユカリ様の所持品を媒体として、元の世界の食事がどういったものか、調べさせてもらっていますから。
少しでもお口に合うものがあるようにと、工夫させてもらっているのです」
「へえ…それは嬉しいな。多分、ここの食事も食べられない事はないんだろうけど、でもやっぱり、食べなれた物が食べられるのは助かる」
俺の所持品の一部を媒体に元の世界の食事事情を調べるやり方はよく解らないけれど、予想が正しければ念写のような形で、所持品から見せてくれる食べ物をうまく調理しようと、工夫してくれているに違いない。
この国の食事事情はよくは把握していないけれど、ワイバーンの肉が出るぐらいだから、地球じゃまず見られない植物や食べ物があってもおかしくない。
そう思うと、こうして俺が食べられるように工夫してくれてるのは非常にありがたいものだった。
食事も殆ど終わり、お茶を飲んでいると、ドタドタと騒々しい音と共に、俺が食事をとっていた部屋の扉がバターン!と開いていった。
「ユーリ!お前、なんで急に消えた⁉」
「…カルロス様…静かに願えますか…」
見知らぬ男だった。赤髪に漆黒の瞳、そして尖った耳と鬼のような形の角。
粗野とは言い切れない振る舞いをするその男は、ギロリと俺を睨んだ。
「これは?」
「おそらく先程の服だけでは心もとないでしょう。ほかにも用意させていただきましたので、それをお持ちしました。」
ソファ近くのテーブルに籠を置いた従者が言う。
籠の中を見ると、この国としてはごく普通の衣服らしい、シンプルな素材の服が入っていた。
どうやら前かがみ気味だったのは、荷物が多くて落としそうになっていたようだった。
渡された籠は3つほどあり、その中には下着と室内着、寝間着、それに普段使い用の神子服が入っていた。
神子服は、着せられた物とは違って、肌が透けて見える事もない。黒地に白のラインが入っている物から、グレー生地に白のラインが入っている物、それに白地にグレーのラインが入っているものまで色とりどりとあって、着替えの心配がないぐらいの量があって目を白黒して驚いてしまった。
ラノベやアニメなどでよくある、いつ着替えているのかすら解らない衣服の事情とは違うようで、清潔好きの日本人としては非常に助かります。
それでも、正式な衣装はやはり今着ているものらしいので、何かある時にはこの露出度の高い服を着てほしいみたいだ。
「ユカリ様は、肌がとてもお綺麗ですから、できれば布地で肌を痛めることがないようにしたいのです。ここの国の服の布地は少し頑丈すぎまして…外から来られた方には少し、刺激が強いのですよ」
魔王の従者の一人らしい、ユーリウス・ラインベルツ子爵が俺に向かって言う。
ユーリウス…愛称ユーリと呼ばせる彼は、魔族とヒトのハーフらしい。それでも魔族の血が濃いらしく、瞳の色は紫かかったものだが、髪の色は漆黒で頭に父親譲りらしい、羊の角のようなものが頭部から生えていてなんとも不思議な姿に見える。
黒髪はショートカットであるものの、ストレートヘアでもあるせいかワンレンっぽく額からサイドに流している。しかも均整のとれた顔立ちをしているものだから、角があるなしに関わらず、とても真面目なタイプのイケメンと言うに相応しい雰囲気を持っていて、男である俺であっても惚れ惚れとしてしまう。
「ユカリ様?」
「な、なんでもない」
俺は、はっとした。うっかり見惚れていたようだ。
ユーリが籠の中の物を、タンスとクローゼットの中に入れておきましょうと言ってくれていたのを思い出す。
タンスの少し下の部分を開けようと、屈んでいたユーリの姿は煽情的で、とても色っぽく見える。基本的に魔族の人たちは、美形が多いようだけれど、彼もきっと、モテるんだろうなと思えてくる。
うっかり腐男子フィルターが出てきてしまいそうになる。魔王さん×ユーリ、とかおいしそう…いやいやいや。
ごめん、ユーリ。
ユーリは服を片付け終えると、俺の傍仕えの従者にと魔王さんより厳命が言い渡されたらしく、その事を俺に教えてくれた。メイドさんが俺の傍仕えになるのは躊躇われるのでとても有難い申し出だった。これからは何かありましたら私めに気軽に言ってくださいね、と言って一旦、部屋を出ていった。
これから夕飯の支度と、明日の準備があるらしいので仕方ないのかもしれない。
出る前に、明日の予定を教えてもらった。
まずはこの国の事を細かく知る必要があるだろうと、用意している家庭教師との面談と、勉強の下準備、そして城内の案内があるから覚えておいてくださいとの事だった。
一からまた勉強するのは面倒だけれど、この国の事を知らなければ、救うにしても何もできない。まだ救うという事の本当の意味も解らないけれど、勉強がこの国の未来に繋がるのなら頑張ってみるのもいいのかもしれない。
夕食は、豪勢なごちそうが出ると思っていたけれど割と普通のものだった。
ワイバーンの肉のステーキはあるけれど、野菜類が少なく、パンもどことなく固い。一緒についてきてたスープがなければ、俺には食べられない気がする。
実家はごく普通の一般家庭だったけれど、ステーキは時々食わせてもらっていたし、サラダや付け合わせなんかもしっかりあって美味しかったのを思い出す。
パンは、黒パンほど固いものではないが、いかにも作ってからだいぶ経っていますという感じが否めない。見た目はフランスパンみたいな物みたいだけれど、あまりにも固すぎてつい、スープの汁をパンに吸わせて食べてしまった。
「ユカリ様、お食事はお口に合わなかったですか?」
「多分、食文化の違いだと思うんだけど、パンの固さがね。」
心配するユーリの姿に、俺はパンの事だけ伝える。他の食材についてはまた今度だな。
「ユカリ様のお住まいだった所ではパンはどういったものだったのですか?」
「まず、中の生地が柔らかい。たぶんこのパンも最初は柔らかいものだと思うんだけど、ここまで固くなる前に食べきってしまう事が多いんだ」
俺がそういうと、ユーリも納得したようで、ああ、と焼きたての時のパンの状態を思い出しているようだった。その様子に、やはり焼きたての時の固さ、というより柔らかさがしっかりある事を容易に知らせてくれる。
もしかしたら他の食事も、もっといい状態で出てくる可能性もありそうだ。
「ああなるほど。私達魔族は、本来、こういった食事は殆どしませんからね。元々、顎と歯が頑丈ですから失念していました。
では、明日のパンは料理長に、明日作ってもらうようにお願いしておきますね」
二コリと笑ってユーリは、俺にワインらしきものを差し出してきた。
お詫びに、なのかもしれない。一口、ごくりと飲んでみると、たしかにワインらしい芳醇な味わいが口の中に広がっていった。
「これ、ワイン?」
「解りますか?」
「うん、これ美味しいな」
素直に言って、このワインは美味しかった。飲みやすくて、すこしジュースの感覚で飲みきってしまいそうな感じもする。日本にいる頃、俺の口は、ワインは白よりも赤が好みだった。香りと味わいをしっかり楽しむのならば、赤が一番いいと思っているぐらい、赤ワインは好きで、よく飲んでいたのを思い出す。
「ユカリ様の食事は、預からせてもらっているユカリ様の所持品を媒体として、元の世界の食事がどういったものか、調べさせてもらっていますから。
少しでもお口に合うものがあるようにと、工夫させてもらっているのです」
「へえ…それは嬉しいな。多分、ここの食事も食べられない事はないんだろうけど、でもやっぱり、食べなれた物が食べられるのは助かる」
俺の所持品の一部を媒体に元の世界の食事事情を調べるやり方はよく解らないけれど、予想が正しければ念写のような形で、所持品から見せてくれる食べ物をうまく調理しようと、工夫してくれているに違いない。
この国の食事事情はよくは把握していないけれど、ワイバーンの肉が出るぐらいだから、地球じゃまず見られない植物や食べ物があってもおかしくない。
そう思うと、こうして俺が食べられるように工夫してくれてるのは非常にありがたいものだった。
食事も殆ど終わり、お茶を飲んでいると、ドタドタと騒々しい音と共に、俺が食事をとっていた部屋の扉がバターン!と開いていった。
「ユーリ!お前、なんで急に消えた⁉」
「…カルロス様…静かに願えますか…」
見知らぬ男だった。赤髪に漆黒の瞳、そして尖った耳と鬼のような形の角。
粗野とは言い切れない振る舞いをするその男は、ギロリと俺を睨んだ。
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