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勇者「全身を呪いの装備で固めてしまった」
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~ダンジョン~
勇者「このダンジョンもここで最後だな」
勇者「さっき倒したボスっぽいヤツの先には一体どんな物が…」ゴクッ
勇者「いざ!」ガチャ
勇者「!」
勇者「こ、これは……剣だ!お札っぽいのが貼られてる…!」
勇者「あと骸骨邪魔だな…」ベギッ
骸骨「コレデ…ワガ…クルシミカラ──」
勇者「うるせぇ! 骸骨ごときが勇者に話しかけんじゃねぇよ!」ドガッ
勇者「さて、この剣は……」
勇者「お、おお……。なんかすっごい禍々しい感じだな…」
勇者「それにドス黒い雰囲気って言うかなんと言うか…」
勇者「たぶんアレだな。さっきの骸骨が長時間触れてたせいでこうなったんだな」
勇者「それによく見たらカッコいいし…!間違いない!これこそが俺の捜し求めていた伝説の剣に違いない!」
勇者「早速装備だ!このはがねのつるぎは捨てる!」
勇者は皆殺しの剣を装備した!
勇者は呪われてしまった!
勇者「ぬあああああ!! またかよ! また呪われてるのかよ!」
─────── ─────── ────
皆殺しの剣「ククク……良くぞ私を蘇らせた…」
皆殺しの剣「さぁ我に生者の血を──」
死の兜「よう新入り、まぁ落ち着けよ」
皆殺しの剣「えっ?」
呪いの鎧「あー、剣って大体それ一本しか装備されねぇからなぁ」
怨霊の靴「まぁアレだ、気負いすぎると良いことないぜ?」
悪魔の篭手「そうそう、ましてやコイツだしな」
復讐の腰当「そういやこれで全身呪い装備でコンプじゃね?」
破滅の盾「そういやそうだな」
皆殺しの剣「え、待って……」
皆殺しの剣「え?なにこれ?なんなの?」
死の兜「なにって…解呪しない呪い装備の集いだよ」
皆殺しの剣「バカじゃないの?」
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勇者「くっそぉ……今度こそは伝説の剣と思ったんだけどなぁ」
勇者「厳重に封印されてたし、なによりかっこよかったから間違いないと思ったんだが」
勇者「なんでだ?」
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剣「なんでだ?じゃねぇよ。どこに伝説の剣と思う要素があったんだよ」
剣「明らかにヤバイ要素しかないだろ」
兜「ま、コイツの判断基準はカッコいいかどうかだから」
剣「なんだよその判断基準!」
剣「それ以前に、こんなに呪い装備付けてておかしいだろ!解呪する金持ってないのかコイツは!」
鎧「いや、金は持ってる」
鎧「が、薬草と聖水でほぼ消えてるな」
鎧「それにコイツは外したくないらしい。教会にも行ってないしな」
剣「本当にバカじゃないの?」
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勇者「はぁ……悔やんでも仕方ない。このまま次に行くか」
勇者「けど町に入れるかなぁ……。前に行った町では門前払いだったからなぁ」
勇者「やっぱり顔が悪いからなのか?俺もイケメンに生まれたかった…」
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剣「頭が悪いからだと思うぞ」
兜「この見た目の装備で町に入れるわけないよなぁ」
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勇者「えーっと……今回の剣で俺に付いた呪いはなんだろうか」
勇者「攻撃したら自分にもダメージがいく的なのは嫌だなぁ…」
勇者「回復呪文はダメージ受けるから使えないし…困ったなぁ」ハァ
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剣「残念だが察しの通りだ。ダメージ喰らう系の呪いだ」
兜「というと、またダメージ系がコイツに付与されたのか」
鎧「これで能力的には最強だけど色々残念な勇者が完成されたな」
剣「能力的にはな……ってちょっと待て!俺含めた呪いって全部でなんだ?」
兜「ん?全部でそうだなぁ……。箇条書きで説明するとこうなる」
・数ターンごとにダメージ
・回復呪文のダメージ化
・反射ダメージ
・最大HP&MP半減
・防御以外全能力半減
・行動速度鈍化
・たまに行動不能
・魔物呼び寄せ
・町に入れない(見た目効果)
剣「もう冒険やめたら?」
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勇者「でも攻撃力高そうだしいいか!それにカッコいいし!」
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剣「ポジティブすぎるにも程があるだろ」
剣「よくこんな装備で冒険出来るな…」
兜「まともな装備なら、今頃魔王倒して冒険終えているだろうな」
鎧「基礎能力がべらぼうに高いからな。半減していても流石勇者と言ったところか」
剣「いやでも、流石にこれだけ呪われていれば──」
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勇者「お、魔物が現れたな…。丁度いい、試し切りするか!」
勇者「先手必勝!うらぁ死に晒せ雑魚がぁッ!!」ザシュ
魔物「」
勇者「ぐふぅ…。や、やはりダメージ系武器か…」ゴフッ
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剣「………」
兜「ま、コイツが規格外すぎるんだわ」
鎧「返り血だけしか浴びてないからな、あと吐血」
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勇者「くっ…流石に呪いがキツイな…」
勇者「薬草で少し回復しないと…」モグモグ
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剣「なぁ、薬草って食うものなの?傷口に当てるものじゃないの?」
兜「世間一般では塗るものだな」
鎧「呪われて外せないから食ってるんだとさ」
剣「そこはまぁ…仕方ないか」
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勇者「くそっ、薬草だけじゃ回復が間に合わないか…」
勇者「なら聖水を飲むか」ゴクゴク
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剣「なぁ、聖水って飲むものなの?普通振り掛けるものじゃないの?」
兜「世間一般では振り掛けるものだな」
鎧「普通飲まないよな、もっと別の飲むよな」
剣「脳筋なのコイツは?」
腰当「えー、もう薬草聖水コンボ決めたの?」
腰当「そろそろ俺の呪い適当に解いてくれ」
鎧「あいよー」
篭手「分かった、新入りも呪い解いてくれよな」
腰当「いつもわりぃな、俺のわがままに付き合ってくれて」
兜「いいってことよ、流石に腰当が気の毒でなぁ」
剣「お前ら呪い装備として恥とかないの?」
兜「そうは言ってもなぁ…。解呪しないと色々やべぇんだよ」
剣「ヤバイって何が──」
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勇者「んあっ…あぁ……」ビクンビクン
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剣「あっこれヤバイやつだ」
兜「だから言ったろ?さっさと呪い解いてくれ」
剣「お、おう…。でもなんでこんな事になるんだ?」
兜「あくまで憶測だが、聖水の力と薬草の回復が俺らの呪いと反作用を起こしていると思う」
兜「それが結果的に、快感としてアイツに与えられているんじゃないか?」
篭手「最初はこんなんじゃなかったんだけどな…」
鎧「色々装備を固めてきた頃からだな…。こうなっちまったのは」
鎧「最初は痛いとか言って激痛に悶えていたが次第にこうなっちまったんだよ」
剣「人間ってこえぇわ」
兜「全くだ」
兜「せめて女なら眼福物なんだが…」
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勇者「ふぅ…ふぅーっ……。な、なんとか今日も大丈夫だったな…」ギン
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腰当「大丈夫じゃねぇからな。本当に腰当として生まれたことを呪うよ」
剣「い、生きていれば良い事もあるさ……たぶん」
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勇者「よしっ!体力も万全とはいかないまでも回復したし、そろそろ行くか!」
勇者「本当なら戦士とか僧侶とか仲間にいてくれれば良かったんだが…。無い物ねだりしても仕方ない」
勇者「その為に俺は努力を重ねてきたんだ!」
勇者「俺は俺一人の手で魔王を倒す!!」グッ
勇者「うひっ…あっこれイイ……」ビクッ
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剣「もう勇者じゃなくて変態だろ」
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~数日後~
勇者「群がってくる魔物の群れを倒してきて分かったことがある」
勇者「この剣は敵を倒せばその分だけ攻撃力を上げる武器だ」
勇者「剣として切れ味が増しているのが分かる…やはりこれは聖剣なのでは?」
勇者「魔物を倒すと攻撃力が上がるってところが最高に聖剣じゃないか!」
勇者「それになんかかっこよくなってきてるっぽいし!」
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剣「あーそれはな、生き血を啜ってるから攻撃力が上がってるんだわ」
剣「別に血なら人でも良いんだけど……もうツッコむ気にもなれんわ」
剣「でもまぁよく剣の事を見てるヤツだ……流石勇者と言うべきか」
兜「お前ソッチのけがあるのか?」
剣「ちげぇよ!おいやめろ、そんな疑いをかけるな!」
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勇者「さて…そろそろ回復を……」ゴソゴソ
勇者「!!!」
勇者「薬草が…無いだと……?」
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兜「おっと、これはヤバイな」
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勇者「くっ……残りのHPから考えて、次の町にギリギリたどり着けるか…?」
勇者「途中の雑魚はなるべく少ない攻撃手段で倒していったとしても………いや間に合わないな」
勇者「くそっ…俺はこんな所で魔王にも会えずに呪いで死ぬのか…?」
勇者「いや、まだ死んだと決まったわけじゃない!持ってくれよ俺!」
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剣「普通に持ち堪えそうなところが滲み出てくるのがすげぇよな」
兜「そろそろこんな時が来ると思っていたが……。一度会議を開こうか」
兜「題して、どうやって勇者を生き延ばそうの会を開く!」
剣「いや待て待て!」
剣「どう考えてもおかしいだろ。それはもう呪いの装備としていいのか?」
兜「そうは言ってもなぁ」
兜「だが考えてもみろ」
兜「勇者は全身呪い装備だ。誰がどう見てもヤバイ装備をしてる」
剣「まぁそうだな…。それがどうした?」
兜「そう慌てるな、これから説明していく」
兜「例えば、勇者が途中で死んだらどうなる?俺たちはこんな人目につく場所で皆で仲良く鎮座だ」
兜「そこに運悪く冒険者が来てあからさまにヤバイのが大量に転がってるとどうなる?」
剣「触ろうともしないだろうな」
剣「いやむしろ、危険だからこそ近隣の国に報告を──」
剣「!!」
剣「まさか!」
兜「そのまさかだよ」
兜「つまり、勇者の危機は俺らの危機なんだよ」
兜「仮に呪いを完全に解かれてしまうことがあれば、俺らは揃いも揃って粉々に砕け散る」
剣「いやでも、そこまでは流石に──」
兜「万に一つでも可能性があってはいけないんだよ」
鎧「俺らは人を呪い、それを糧にして武具として生きながらえている」
鎧「強大な力と引き換えにってとこだがな」
篭手「本来なら人目の付かない場所でひっそりとしている物が、町まですぐ近くにいる訳だ」
剣「なるほど……。リスクがあまりにも高すぎるってことか」
兜「そういうことだ」
兜「だが、呪いを完全に解くと俺らの存在そのものが意義をなさなくなる。それだけは絶対にあってはならない」
剣「でもさ、薬草聖水の時はほぼ解いたよな?」
腰当「それはそれ、これはこれだ。勇者はトリップしてて覚えてないだろうしセーフ」
剣「アッハイ」
兜「じゃあまず回復呪文の被ダメ量軽減ね。たぶん勇者は回復呪文を使わないだろうけど念のため」
兜「次にスリップダメージのダメージ量微減少」
兜「反射ダメージ量も少し抑えていく」
兜「異論は無いな?」
剣「そうでもしなきゃ死ぬからな」
兜「行動不能回数は抑え目にしてくれ」
兜「あと魔物呼び寄せの頻度も控えてくれ」
兜「それと後は……」
兜「勇者が無事、町にたどり着いて入れることを祈る!」
剣「こういうとき、この格好してると不便だよな…。自業自得だが」
剣「ちなみに別世界だと、呪い装備で全身を固めるとデメリットが消えると聞いたが?」
兜「そんな甘ったるい世界な訳ないだろ」
兜「マイナスかけるマイナスでプラスになるほど甘い世界じゃないんだよ、ここは」
兜「全て足し算だ。掛け算方式はこの世界には無い」
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~数時間後~
勇者「目が……霞む……ごほっ」
勇者「はぁ…はぁ……あ、あと少し…げほっごほっ!」
勇者「だ、ダメ…だ……もう、体が…」グラッ
勇者「ここまで来て……」ドサッ
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剣「むしろよく数時間も歩けたな…。やっぱコイツ色々おかしいわ」
剣「だがあと少しだ勇者!動いてくれ!頼むっ!」
兜「ちくしょう…!あと少しだってのにっ!!くそっ! なんだって俺は呪われてるんだよ!」
剣「落ち着け兜!まだ、まだ望みはある!」
剣「ええいっ!本当にあと少しなんだ…!そこのバカ面下げた衛兵が勇者に気付いてさえくれればっ!」
剣「頼むっ…気付いてくれ!」
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キラッ
衛兵「ん?何か視界に──」
衛兵「!!」
衛兵「あそこに誰か倒れてないか!?」
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剣「きたっ!救いの手が遂に!」
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衛兵「ど、どうし──」
衛兵「うわっ!?なんだこれ!!」
勇者「た……たす…け」ズリッ
衛兵「ひっ…!!くっ、くるなぁ!化け物め!」
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剣「化け物とは酷い言い方だな。仮にも勇者なんだが」
兜「実際化け物染みた格好と強さをしてる」
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衛兵「こ、この化け物目めっ!これでも喰らえっ!」グッ
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鎧「あ、これマズイわ」
剣「確かにマズイな……。今は1ダメージも惜しいところだ」
鎧「いや違う。あの衛兵、剣を離さなきゃそのまま腕持ってかれる」
剣「は?」
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ガギィッ!!
衛兵「はぁっ!ぐっ…硬いっ!」
衛兵「んっ…?な、なんだ……?剣が鎧に張り付いて──」
衛兵「いや、これは剣が喰われっ──」
衛兵「ひ、引っ張られ──う、うわぁっ!」
衛兵「ひっ…ひいぃ!」ポロ
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鎧「おお、よくあの状況で剣を離せたな。これだけ狂気にまみれた装備によく精神が飲まれなかった」
鎧「いや、恐怖によるものか?まぁ犠牲が出なくてよかった」
剣「お前ってかなり危ない装備なんじゃないか?」
剣「それ以前にどんな防具なんだよ」
鎧「俺か?この鎧に触れたもの全てを吸収する能力だ」
鎧「まぁ防御以外の全てを犠牲にさせてるからな、このぐらいのメリットはねぇと」
剣「それもそうか、呪い装備だしな」
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上官衛兵「だ、だがこの禍々しさ…。やはり魔の物か?」
僧侶「あの…ど、どうかされたのでしょうか?」
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剣「おおっ!可愛い女の子じゃん!」
兜「やっとまともそうなのが出てきたな…。回復させてくれるかが問題だが」
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僧侶「なにやら凄い邪の気配を感じたのですが……」
上官衛兵「むっ?僧侶殿であったか…」
上官衛兵「この者なのだが……。私にはどうにも人とは思えなくてな」
僧侶「うっ…た、確かにそうですが……。で、でもこの方は…人、です」
僧侶「酷い出血と全身に付けられた禍々しき装備ですが、確かにこの方は人です」
上官衛兵「人だと!? にわかには信じがたいが、僧侶殿が言うならばそうなのだろう」
僧侶「それより、この邪な気配は……呪い?」
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剣「ん?あ、これヤバくね?」
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上官衛兵「呪いだと!? だ、だが呪いとはその者のみにかかるものでは?」
僧侶「確かにそうです…。ですが、この方はあまりにも負のものを浴びすぎています」
僧侶「本来なら解呪の儀を行わなければいけませんが、そうこうしてる時間がありません」
僧侶「聖水……それもそれなりの数を用意して、まずは触れられる程度に浄化しないと…」
上官衛兵「聖水だな…分かった。部下に伝えて用意させよう」
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剣「お、おい…浄化って大丈夫なのかよ」
兜「まぁ平気だろ。ちゃんとした正規の解呪手段じゃないし呪い自体は解けやしないさ」
剣「そうだといいんだが…」
兜「つーかこれでもかなりセーブかけてやってんのに、人間はこれ程度でもヤバイのか?」
剣「そりゃ全身呪われてりゃヤバイだろうな、勇者が異端過ぎるだけだ」
兜「それもそうだな。普通の人間なら、俺を着けた時点で正常な判断なんか出来ないぐらい精神を蝕まれるからなぁ」
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上官衛兵「僧侶殿、とりあえず聖水を20ほどかき集めたが」
僧侶「なんとかその数なら…」
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兜「おいおい、20個とか用意しすぎだろ。勇者程度なら3個でもあれば足りるだろ」
剣「勇者程度って…。あ、僧侶さんコイツの鎧には触ったらダメだぜ…。って聞こえちゃいねぇよな」
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僧侶「これで良し…。あとはこの方が動けるまでに回復を…」パァ
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剣「あっバカ!コイツに回復呪文はダメだって!」
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勇者「うっ…ぐぅぅ……」ジュゥゥ
僧侶「なっ!まさか回復呪文に対しての呪いもっ!?」
僧侶「あっ、あぅ…えっと、えっとぉ……どうしよう…」
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剣「ああもうじれったいなぁ!早く薬草投げつけろコイツに!」
剣「というより早くしないとマジで死ぬから早く!」
剣「それと解呪の儀なんてやめてくれよな!フリじゃねぇからな!絶対だぞ!」
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僧侶「か、回復…。そうだ、薬草を!早くお願いします!」
僧侶「………」
僧侶「一応薬草を肌の見えている所に当ててみましたが…」
勇者「うっ……こ、ここは……」ヨロ
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剣「回復するの異常に早いな。コイツ本当に人間じゃないわ」
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僧侶「あっ!まだ立ってはいけません!そのままで──」スッ
勇者「待った…いつつ……装備にだけは触れないでくれ…色々面倒ごとが起きる」
勇者「特に鎧だけはダメだ…あと盾も」
僧侶「ふぇっ!?あ、危なかった…」
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剣「この僧侶、一々反応が可愛いな。呪って歪んだ笑みを見たくなるぞ」
剣「ちなみに鎧以外は何か特徴とかってあるのか?」
盾「俺に触れたものは原型を保てなくなる。つまり、絶対無敵って訳だ」
剣「うわっ、それ盾として持ってたらいけない能力だろ。強すぎだわ」
盾「そうでもなきゃ呪われてる意味が無いだろ。まぁ勇者が俺を使ったことは一度も無いけどな」
剣「まぁそうだな、一応呪い装備だしな」
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勇者「なんとか……動けるように、なったかな」フラッ
僧侶「だ、ダメですよ!そんな大怪我をした状態で動いたらいけません!」
勇者「そうは言ってもなぁ…。俺にはやらなきゃいけない事があるんだ」
勇者「俺は魔王を倒し、この世に平和をもたらさなきゃいけない…」
勇者「勇者として、休んでいる暇はないんだ!」
僧侶「えっ!?勇者だったんですか!?」
勇者「どこからどう見ても勇者だろ!」
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剣「どこからどう見てもお前ただの怪物だよ」
兜「100歩譲っても、とてもじゃないが勇者とは言えないわな」
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勇者「そんなことより助けてくれてありがとう…。何かお礼をしたいのだが」
僧侶「い、いえ…私は僧侶として当然の事をしただけで、そんな…」
勇者「だが、何もしない訳には……」
衛兵「ま、魔物だ!魔物の大群が押し寄せてきたぞ!」
上官衛兵「皆、臨戦態勢を取るんだ!魔物たちを迎え討つぞ!」
勇者「魔物か…。じゃあこうしよう、俺が魔物を全部倒す」
僧侶「そんな無茶な!」
勇者「ここらの魔物なら飽きるほど戦い慣れてる。これでも余裕で倒せるだろう」
僧侶「で、ですが、その怪我で動くのは…」
勇者「こんなの日常茶飯事だよ。むしろ一番良い状態といっても良いかもしれない」
─────── ─────── ────
篭手「空気読まずにすまん。たぶんこの魔物、俺の魔物を呼ぶ呪いのせいだわ」
剣「そういうのは分かってても言わない流れだろ」
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勇者「ひとりでやるつもりだったけど……。結局僧侶さんもついてきてしまった…」
勇者「さてと、魔物の数は100ぐらいか? 随分と少ないな」
勇者「遠めで確認できるのは……キラーストーカーと地獄の騎士、あとはマドハンドの群れってとこか」
勇者「この程度なら全力を出さなくてもよさそうだな。ようがんげんじんの群れだったらやばかったか」
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剣「地獄の騎士も大概だと思うがな」
兜「まぁ攻撃される前に全滅させるんだからいつもと変わらんよ」
兜「ただHPが多いやつだと呪いダメージが多いから嫌いなだけだろうな」
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僧侶「あの…本当に大丈夫なのでしょうか?あんなに魔物がいるんですよ?」
勇者「ん?あれぐらいなら皆毎日のように倒してるでしょ?」
僧侶「えっ」
勇者「え?俺なんか変なこと言った?」
勇者「と、とりあえず、あいつらが町に近づく前に全部片付けないとな」
勇者「見たところアンデッド系モンスターが多そうだから…」
勇者「火属性で攻めるのが定石だな。あと広範囲に散らせたいから風と組み合わせて…」ブツブツ
僧侶「あの、勇者さんは一体何を?」
勇者「おっと、危ないから離れてくれ」
勇者「トルネード!ファイアッ!」ボゥッ!
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剣「またすごい魔法を使ったな」
兜「あれでもかなり抑え気味だぞ」
剣「魔法適性も高いのか。もはやなんでも有りだなこの勇者は」
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僧侶「す、凄い…!あんなにいた魔物が今の魔法でほぼ全滅…」
上官衛兵「な、なんという技なのだ……。まさしくこれは勇者様のなしえた奇跡なのか…?」
勇者「おっしゃぁあ!今から残党狩りだァ!」ザシュ
勇者「おらおらぁ!ついでに薬草とか聖水を落とせぇ!」ズバァッ
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剣「本当に呪いダメージ関係無く暴れるな」
剣「これで本当の実力の半分近くしか出せてないってんだから恐ろしい」
剣「まぁ俺としては暴れさせてくれて有り難いんだが」
─────── ─────── ────
勇者「こいつで最後だ!」ズバッ
マドハンド「」
勇者「ふぅー、いい運動したなぁ。いででっ」ゴフッ
衛兵「一人であの魔物の群れを全て退治してしまった……これは夢なのだろうか…?」
勇者「さて、これでこの町も暫くは魔物からの脅威は無くなるだろう」
上官衛兵「なんとお礼を申し上げたら良いのか…」
勇者「世界救う為に勇者やってんだからそんなのいいって」
勇者「それに俺は助けられた立場だから。これでチャラってことにしてくれないかな?」
勇者「そんなことより薬草と聖水を買わせてくれたら有りがたいかな」
上官衛兵「そんな!この町の危機から救って下さった勇者様からお金を頂戴するなんてとんでもない!」
勇者「いやそうは言ってもさ…。たぶんこの魔物は俺のせいで呼び寄せられたものだと思うんだよね…。見た目じゃ分からないだろうけど、俺、呪われててさ」
勇者「全身伝説っぽい装備で固めてるのは分かるだろ?だけど年季が経ちすぎた影響なのか全部呪われてるんだ」
勇者「以前魔王が復活したのが何百年も前だからこうなるのも仕方ないよなぁ……勇者も辛いもんだ」
上官衛兵(それはひょっとしてギャグで言っているのか!?)
僧侶「あの……勇者様、少しよろしいでしょうか?」
勇者「ん?薬草落ちてた?」
僧侶「それはもう袋に入りきらないぐらいに!」
僧侶「──じゃない!そうじゃなくて、その、お体は大丈夫なのでしょうか?」
勇者「体?ああ、この程度なら全然余裕だよ。このまま次の町までスキップしていけるぐらいには」
僧侶「嘘言わないでください!」
勇者「お、おう…」
勇者(本当の事なんだけど…)
僧侶「勇者様は確かに強いです。びっくりするぐらいに。ですが魔物を倒すたびに魔物の血と一緒に勇者様も怪我をされていましたよね?」
僧侶「私は勇者様が傷ついていくのが悲しいです…」ウルッ
僧侶「そんなに一人で無理しないで下さい…っ!」ポロ
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兜「あーあ、勇者が女の子泣かせた!この可愛い女の子泣かせた!」
兜「勇者失格だな!このクズ野郎!やっぱりコイツは人じゃねぇわ」
剣「そこまで言わなくてもいいんじゃないか?」
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勇者「ご、ごめん…」
僧侶「謝っても許しません!その装備は完全に悪いものです!さぁ、こっちに来てください!」
僧侶「勇者様が安全に冒険できるように解呪してあげますから!」
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兜「やっぱり僧侶ってクソだわ」
鎧「本当にクソだわ、俺らの事を何も分かっちゃいねぇ」
盾「俺らが可哀想だと思わないのか!この悪魔!」
剣「よーしお前ら、さっき自分が言った言葉を思い出そうか」
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勇者「うぇっ!?か、解呪だって!?そんなのお断りだ!」
勇者「それにこれは悪いものじゃない!紛れもない本物の伝説の装備だ!」
勇者「現に俺はこの装備に幾度と無く助けられた…」
勇者「それに超カッコいい!だからダメだ!」
僧侶「そんなのが伝説の装備な訳ないじゃないですか!さぁ早く!」
勇者「絶対嫌だ!そんなに解呪して欲しければ魔王倒してからにしてくれってんだ!」
勇者「まぁ倒したとしても頼まないと思うけどな!」
僧侶「うっ…ぐっ……」
僧侶「そ、そこまで解呪したくないんですね?」
勇者「ああ!」
僧侶「なら………私も勇者様の旅に同行します!」
─────── ─────── ────
剣「あ、それは辞めた方がいいと思う」
─────── ─────── ────
勇者「あー……その、気持ちはありがたいんだけど…この町にいた方がいいと思うよ」
僧侶「じゃあ解呪してください」
勇者「それは嫌だ」
僧侶「じゃあ同行します!絶対に呪われた装備から開放してみせます!」
勇者「いや…いやいや!ハッキリ言って寝る暇なんて無いよ?三日三晩歩き続けとかでもいいの?」
勇者「それに、俺のすぐ近くに魔物が沸いて出るんだ!それも時間問わずに!」
勇者「本当にそれでもいいの?」
僧侶「いいんです!私だって伊達や酔狂で僧侶やってるわけじゃありません!」
僧侶「勇者様が傷付く姿が見たくないだけなんです!」
─────── ─────── ────
剣「なんかこの会話聞いてると苛々してくるな…」
靴「遠回りで俺らを批判してるだけだよな」
剣「お、基本無口な靴が喋った」
靴「いつも歩かせられてるから喋る暇が無かっただけだ」
─────── ─────── ────
勇者「そこまで考えてくれていたなんて…!なんていい人なんだ…ッ!」
勇者「正直なところ、実は不安だったんだ…。また今日みたいなことがあってしまうのかと思って」
勇者「そろそろ魔物も強くなってきていて一人で冒険できるか不安でもあったんだ」
勇者「ありがとう…こんな俺を心配してくれて!」
僧侶「い、いえ…そんな……」
僧侶「じゃあ少し準備してきますので待っててください!」
─────── ─────── ────
剣「勇者チョロすぎじゃね?」
剣「それにただの僧侶をつれだして本当に大丈夫なのか?」
兜「まぁ大丈夫だろ。腐っても勇者なんだし僧侶は怪我しないって」
剣「いやそうじゃなくてさ、俺らの呪いの弊害だよ、彼女三日持たないんじゃないかなぁ」
兜「怪我じゃなくて呪いの弊害に心配する日が来るとは思わなかったわ」
─────── ─────── ────
僧侶「お待たせしました!」ズシッ
勇者「ああ、待ってたよ──ってやけに荷物が多くないか?」
僧侶「当然ですよ!回復呪文が使えなくてオマケに魔物がひっきりなしに来るのならこれぐらい用意しないとです!」
僧侶「それに神様にお祈りする用の簡易祭壇とかも必須です!」
勇者「本当にそれ必要…?まぁ僧侶だから必要なのかな?」
僧侶「それとテントと寝袋とあとはおやつも入っていますから後で一緒に食べましょうね!」
僧侶「冒険が飽きないようにカードゲームも沢山用意してますから絶対楽しい旅になりますよ!」
僧侶「特にお勧めなのが遊戯お──」
勇者「うん、とりあえずカードゲームだけは置いていこうか」
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剣「ピクニック気分で行く気かよ」
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勇者「ふぅ…これで終わりか」
焦慮「朝から毎度お疲れ様です。はい、薬草です」
僧侶は祝福された薬草を手渡した!
勇者は呪われた薬草を食べた!
勇者「うん、疲れた体に薬草は効くなぁ」
僧侶「まだおかわりは沢山ありますから食べてってくださいね!」
─────── ─────── ────
剣「おい、勇者が持った瞬間に呪われたぞ」
篭手「まぁ俺を通して薬草触ってるしな、そりゃ呪われるだろ」
剣「そういや篭手も呪われてるんだったな…」
剣「いやおい僧侶、お前仮にも僧侶だろ?それどうにかしろよ」
剣「つーか食わせるなよ」
─────── ─────── ────
勇者「しかし、俺が冒険をし始めてから魔物が格段に強くなってきてるな…。ダメージがキツイや」
僧侶「大丈夫ですか?あまり無茶はしないで下さいね?」
勇者「大丈夫だって、この程度なら許容範囲内だ」
僧侶「そうならいいんですが……。気になっていたんですが、勇者様が冒険を始めたときからそういう格好だったんですか?」
勇者「いや、木の棒と私服で冒険開始」
僧侶「え」
僧侶(想像できないなぁ…勇者様のその格好)
勇者「王様から渡された金も薬草一個がギリギリ買える程度にしか渡されなくてな…」
僧侶「よくそんな状態からここまで進化…いえ、冒険できましたね」
勇者「まぁ昔から鍛えてはいたからさ、冒険は何事もなく進んでいたよ」
勇者「こう見えて王国一の剣術と魔術の使い手だからな」
勇者「なんだかんだあって勝手に勇者に仕立て上げられて冒険を始めさせられたわけだ」
僧侶「そうですか…そしてなんでそんな格好に?」
勇者「そうだなぁ…冒険を進めていけば伝説の装備の話は聞こえてくる」
勇者「魔王城に向かいつつ怪しい洞窟とかに行ってたらあったんだよ、それがこの伝説の装備だ!」
─────── ─────── ────
剣「伝説級に呪われてる装備だがな」
─────── ─────── ────
僧侶「伝説の装備ってこんな禍々しい装備でしたっけ…」
勇者「まぁ時間が経ってるしそれは仕方ないさ。それにお札とかで厳重に封印がされてたし周りに装備守るボスもいたから間違いないって」
勇者「なんたってこの黒々しい輝き、この刺々しい見た目、カッコいいじゃないか!」
僧侶「もう伝説の装備でいいです、突っ込むのも疲れました」
勇者「まぁカッコいいから俺は呪いとか関係なく一生装備していくけどな」
─────── ─────── ────
剣「一生発言出ちゃったよ、風呂にもその格好で入るつもりか」
兜「脱がずに入るところまで用意に想像できてしまったんだが…」
─────── ─────── ────
勇者「よっと!」ザシュ
僧侶「えいっ!」ゴスッ
僧侶「はぁ…はぁっ……ま、また魔物ですか…はふぅ…」
勇者「まぁ慣れたけどね」
僧侶「よく慣れますね…でも、これで最後っ!」ブンッ
魔物「グゲッ!」バタッ
僧侶「ふぅー…これで一休みでき──」
勇者「避けろ僧侶! 」ダッ
僧侶「え?」
魔物「グァアアッ!」ブンッ
僧侶「あっ…」
勇者(くそっ!剣を振りかぶってる暇がねぇ…せめて体当たりでアイツの体勢を崩すことが出来ればっ!)
勇者「この野郎ッ!」ドガッ
魔物「ゲギッ!」
─────── ─────── ────
鎧「………」
剣「ん?鎧、どうした?」
鎧「いや、なんでもねぇよ…。ただ、初めて勇者が体当たりをしたって事がな」
剣「そういやお前魔物戦で初めて使われたんじゃないか?」
鎧「まぁ、な……」
剣「でもまぁお前の効果で魔物は確実に息絶えるだろうな、咄嗟の判断としては上出来じゃないか?」
鎧「それが普通の鎧だったらな…。まぁ、これからどうなるかだな」
剣「?」
─────── ─────── ────
勇者「クソッタレ!この野郎!離れやがれ!」ドガッバキッ
魔物「ウギィ……」
僧侶「勇者様…お、落ち着いて……」
ズリュ ゴギィ
魔物「――ッ……」
僧侶「そ、そんな…魔物が鎧に吸収されている…?」
勇者「くそっ!この……っ!」
勇者「はぁ…はぁ……この鎧は…魔物まで吸収、するのか……」
ズギィ!
勇者「ぐぅっ!な、なんだ…?体…が…」ガクッ
僧侶「勇者様…?どうなされたのでしょうか?」
勇者「ぐぅ……ぁ……ぁ…」ガクガク
─────── ─────── ────
剣「お、おい…なんか様子がおかしくないか?」
鎧「いや、正常だぜ?」
剣「どうみてもおかしいだろうが!これのどこが正常だと──」
鎧「あのな、俺は吸収するんだぞ?それが物理的に触れるものならなんでもな」
鎧「勇者は魔物を丸々一匹喰った。今はそれの処理をしてるだけさ。何もおかしいところはない」
剣「大丈夫なのかよ…。よくこういった流れだと正気失って人じゃなくなるみたいなのあるじゃん?」
鎧「ああ、その認識で間違いない」
剣「だったらお前、勇者は…っ!」
鎧「まぁ落ち着け。一つ例え話をしようか。人間は牛をそのまま一頭丸ごと食えるか?」
剣「いきなり何を……」
鎧「いいからいいから」
剣「……ま、無理だな。何かしら料理をしないと食えないだろう」
鎧「そうだ。だが勇者は丸ごと一匹喰ったわけだ。そりゃこうなるよな?」
剣「なるほど……。無理矢理食った物を消化しているって訳か。しかし勇者とはいえ人だぞ?大丈夫なのか?」
鎧「あのな、勇者は数ヶ月もほぼ全身呪われてる状態だぞ?そんな奴が魔物一匹ごときでイカれちまうと思うか?」
剣「イカれないわ。ごめん俺がバカだった」
─────── ─────── ────
僧侶「勇者様!勇者様!大丈夫ですか!?」
勇者「う…ぐっ……」
勇者(せ、聖水を飲まなきゃ…。これは、マズイっ!)ゴソゴソ
勇者「んっぐっ……」ゴクゴク
僧侶「え?聖水を飲んでいる!?」
僧侶「それって振り掛けるものじゃ……」
─────── ─────── ────
剣「やっとマトモな突っ込みが入ったな」
─────── ─────── ────
勇者「んぁああああああッ!!!」ビクッビクッ
僧侶「わっ!な、なに?なにが起きてるの!?」
勇者「おふっ!アヒィッ!!あっ…んぁあっ!!」ガクガク
勇者「イイッ!!だめぇ…お母さんごめんなさいっ!!!」
勇者「んほぉおおおお!!!」
僧侶「ゆ、勇者様…?」
─────── ─────── ────
剣「勇者の尊厳とプライドの為にこれ以上見ないでくれると助かる」
─────── ─────── ────
勇者「………」
僧侶「………」
勇者「………」
僧侶「あの……ひ、人には色々ありますから……。私は、き、気にしない、ですから……。あ、あはは…」
僧侶「そ、それより次の町に行きましょう…!次の町の宿屋にはお風呂があるといいですね!」
勇者(誰か俺を殺してくれ…)
─────── ─────── ────
腰当「戻れない場所の一歩手前で踏みとどまったのだけは評価してやる」
剣「勇者が色んな意味の勇者に成り代わった瞬間を俺は見てしまった」
─────── ─────── ────
勇者「はぁ…」トボトボ
僧侶(あの日から勇者様の元気が無い…)
僧侶(魔物に対しても昔は掛け声と共に倒してたけど今は…)
勇者「はぁ……」ヒュバッ
魔物「」
僧侶(ため息つきながら何も無かったかのように魔物を倒してる…)
僧侶「あ、薬草」
勇者「…え?薬草?」
僧侶(薬草にも気が付かないなんて…。少し前は落ちた瞬間に食べてたぐらいに元気あったのに…)
僧侶「あの…本当に気にしてないですから……。元気出してください、勇者様」
勇者「いや、そのことはもう自分の中で区切りが付いたんだ…。あれも呪いの一部だって気付いたし」
─────── ─────── ────
剣「そんな呪い付けてねぇよ」
─────── ─────── ────
僧侶「ですが、あの日から様子がおかしいままですよ!そんなの勇者様らしくありません!」
勇者「………」
勇者「あのさ……あの時、なぜか俺の母さんの顔が思い浮かんだんだ」
勇者「もうずっと会ってないのに突然……はは、おかしいよな?」
勇者「母さん……」
僧侶(もしかして勇者様のご両親は既に……)
勇者「はやくおうちに帰りたい…」
僧侶「ホームシックかよ」
僧侶「はぁ…勇者様のご両親は生きていらっしゃるんですね?」
勇者「ああ、元気に過ごしてるよ。そういえば、男だけじゃなくて女の子も欲しいとか親父と喋ってたりもしてたな」
僧侶「元気ありすぎですよそれ!」
僧侶「全くもう、仮にも由緒正しき勇者の血統を継ぐんですからそんな弱音を吐かないでください!」
勇者「あー、そういや言ってなかったな」
勇者「俺、勇者の代役なんだわ」
僧侶「え?」
僧侶「ど、どういうことですか?」
勇者「まぁ要するに、俺は元々ただの戦士だったわけよ」
勇者「本当なら俺が勇者をやるんじゃなくて、ちゃんとした勇者の血統を受け継いだ奴がやる予定だったんだ」
勇者「だが、本当の勇者さんは部屋から出てこないんだ」
勇者「聞いたところによると、冒険とかめんどくさくてやりたくないらしい」
勇者「で、しょうがなく俺になったわけだ」
僧侶「ニートってやつですか?」
勇者「間違いなくニートだな」
僧侶「親御さんが泣いてますよね…。少し親御さんに同情します」
─────── ─────── ────
剣「親の事を心配する言葉が一番攻撃力あるよな」
─────── ─────── ────
僧侶「そうこうしているうちに次の町が見えてきましたよ勇者様!」
僧侶「地図で見ると……たぶんあの町が魔王城に至る中で最後に立ち寄る町のようです」
勇者「つまり、最後に休憩できる町って訳か…」
僧侶「そうなりますね。魔物との最前線なわけですから屈強な人々も揃っているはずです」
勇者「なるほど…。その人たちを仲間に加えられれば……」
勇者「って、ここまで来ると今更感すごいな…」
勇者「それより、ちゃんと町の中に入れるかな…」
僧侶「たぶん無理だと思います。しかし一つだけ方法が」
─────── ─────── ────
兜「解呪だろ、させねぇよ」
鎧「やれるもんならやってみな!相手してやるぜ!」
剣「意気込んでるとこ悪いが、俺らが抗える術は無いと思うぞ」
─────── ─────── ────
勇者「なに!?それは本当か!」
僧侶「えぇ、あります。しかし、それには苦痛を伴いますがよろしいでしょうか?」
勇者「苦痛!?まさか、整形手術なのか!」
僧侶「違います。そもそも勇者様の顔はその兜で殆ど隠れてるじゃないですか」
勇者「なら言っておくが、解呪だけはしないからな?」
勇者「仮にもこれは伝説の装備なんだぞ!そんなことあってたまるか!」
勇者「それにこの装備を外せば……俺は勇者じゃなくなってしまう…。それだけは嫌なんだ」
僧侶「ちっ…これならうまくいくと思ったのに!」
勇者「いま聞き捨てならない言葉が聞こえたような──」
僧侶「気のせいじゃないですか?」
─────── ─────── ────
兜「おい!今の録音した奴いるか!重要な証拠だぞ!」
剣「俺らに録音機能があるわけないだろ!」
─────── ─────── ────
僧侶「じゃあどうするんです?そんな格好で町になんて入れないですよ?」
勇者「それをどうするか…。俺も久々に風呂に入りたいし、僧侶だってふかふかな布団で寝たいだろ?」
僧侶「まぁそうですねぇ…。あっ、いい考えが浮かびました!」
~最後の町 門前~
勇者「ど、どうも…」
門番「待て!お前らは何をしにここまで来た」
勇者「そりゃ世界をすく──」
僧侶「私達は王様のご使命で、この近辺の魔物の生態を勇者様に伝えるべく調査をしに来ました」
門番「ふん、なるほどな。貴様はともかく、そこの者はなんだ?まるで化け物ではないか!」
勇者「なんだと!この──」
僧侶「うっさい!少し黙ってて!」
僧侶「あ、申し訳ありません。無礼な態度をお見せしました」
門番「あ、ああ、構わんよ…」
僧侶「えっとですね、この者は暗黒騎士なのです。見た目は少し…いえ、かなりアレですが、これでもかなり腕の立つ者でして──」
勇者「いや、俺はゆ──」
僧侶「黙れって言ってんのがわからないの!?」
僧侶「私の苦労も少しは考えてくださいよ!毎度毎度あなたの装備でこう言われる身にもなってくださいよ!」
僧侶「今度生意気な口出すと容赦しませんからね!グーで殴りますよ!グーですからね!」
勇者「ご、ごめんなさい…」
僧侶「分かればよろしい。で、あの…入れて頂けませんかね?」
門番「う、うん…いいよ……。あ、宿屋はそこの角を曲がったとこにあるからそこで休むといい」
僧侶「わぁ!本当ですか!ありがとうございます!」
僧侶「さぁ行きましょう!ゆ…暗黒騎士さん!」
門番(おっかねぇ…。あの僧侶怒らせたらいけない人だわ)
~町内~
僧侶「ごめんなさい勇者様!あそこを乗り切るにはこう言うしか無くて…」
勇者「いや別に気にしてないよ…。うん、気にしてない」
僧侶「でも流石最後の町だけあって、勇者様のその格好でもそこまで怪訝な顔をされずに済みましたね」
勇者「格好は問題ないと思うんだけどなぁ…。ただちょっと風化されすぎてるだけで──」
僧侶「はいはい、そういうことにしておきます。あ、宿屋が見えてきましたよ!」
勇者「久々に宿屋に入れるな…。温泉とかあるといいなぁ」
僧侶「えっと…勇者様、どうやってお風呂に入るつもりですか?」
勇者「え?そりゃ脱げないからこのままで──」
僧侶「いやいや!それは流石にダメですって!」
─────── ─────── ────
鎧「なぁ、俺らって湯に浸かったら錆びる?」
兜「錆びるんじゃね?」
靴「錆びた呪われた装備って嫌だなぁ…」
腰当「なんとか俺らが生き残りつつ、風呂と布団で寝るときだけ外せるようなそんなアイテムとかってないかなぁ」
剣「そんなご都合主義なアイテムあるわけないだろ…」
─────── ─────── ────
僧侶「と、言うことで用意してました!教会に一セット分しかなかったこの装備を外せるお札!」
─────── ─────── ────
剣「あるのかよ!都合良すぎだろオイ!」
兜「やったじゃん。なんだかんだ言って頼りになる奴だわ」
鎧「やっぱ最後に頼りになるのは僧侶だわ」
剣「おうお前ら、少し前に僧侶に対して言った台詞もう一度言ってみろや」
─────── ─────── ────
勇者「そんな便利アイテムがあったなんて…!凄い世の中になったもんだ」
勇者「じゃあ風呂入る時と寝る時はそれを使わせてもらうかな」
僧侶(きたっ!これで私の解呪の計画が大幅に進む!)
僧侶「そりゃもうドンドン使ってください!」
勇者「ああ、ありがたく使わせてもらうよ。それも解呪までしてくれるなんて僧侶はいい人だなぁ」
僧侶「でしょう?さっすが勇者様、私の計画が言わなくても分かるなんて──はっ!?」
僧侶「あっいや、これは違って──」
勇者「さて、どうやって保管しておくかな」
僧侶「あたしって…ホント馬鹿……」
─────── ─────── ────
剣「バカで助かったぁっ!」
兜「バカは呪いを救う。これは名言になりそうだ」
─────── ─────── ────
~宿屋~
店主「いらっしゃい。一人一泊150ゴールドだよ」
店主「それにプラス300ゴールドで開放感溢れる素敵な露天風呂と夕食、朝食セットも付くからお得だよ」
勇者「じゃあそれにしようかな。すいません、それを二部屋で」
店主「一部屋で二人寝れる部屋も案内出来るけど…それでも良いのか?」
店主「防音もバッチリしてるからどんな大声出してもお隣には聞こえないさ」
勇者「大声?あぁ…」
僧侶「なぁっ!?そ、そんな…私達はそんな関係じゃ…」
勇者(解呪の儀の時に色々言うんだろうな…。お隣さんに迷惑がかからないようにって配慮かな?)
僧侶(待って…。勇者様とはそんな関係じゃ…。でもよく見たら、勇者様ってキリっとした目つきだし…)チラッ
僧侶(口には出してないけど、勇者様から幾度と無く助けられたし…それに)
僧侶(それに…あの装備の下ってどうなってるのか…気になる)
僧侶「ど、どうします?わ、私は…いい、ですよ?」
勇者「………」
勇者「いや、やっぱり二部屋にしてもらえるかな」
店主「お、おやおや…。その彼女さんがいいって言ってるのに…本当にいいんだね?」
勇者「えぇ、大丈夫です。むしろ相部屋だとどんな事が起きるか不安で…」
勇者(朝起きて俺の装備が粉々になってたら立ち直れないし…)
僧侶「そう、ですね……。その方がお互いのためにも良いですよね」
店主「そうかい…。なら900ゴールドを頂くよ」
─────── ─────── ────
兜「これは…どう見る?チキンな勇者と見るのが正解か?」
鎧「いや、勇者はバカだ。ソッチのこととは全く気付いてないだろう」
篭手「じゃあ僧侶はどうなんだ?どう考えてもソッチの事を匂わせた発言をしていたが」
腰当「あー、僧侶に関しては最初はソッチの方を考えたな。が、途中で考えを改めた感じだな」
靴「あの目つきから察するに、大方勇者のこの装備の下ってどうなってるか気になったんだろうな」
盾「ま、俺らとしちゃ解呪されなきゃなんでもいいんだけどな」
─────── ─────── ────
勇者「ふぅー」
勇者「数ヶ月ぶりの宿屋か…。風呂入る前にハサミとか髭剃りとか用意しておかないと…」
勇者「あ、僧侶は先に風呂にでも入ってくれ」
勇者「長旅と道中の魔物との戦いで疲れただろ。しっかりと休んでくれ」
僧侶「そうですね。ではお言葉に甘えさせていただきます」
勇者「僧侶が風呂に入ってる間に、俺は売店で少し買い物でも済ませておくかなぁ」
勇者「っと、その前に荷物を部屋に置いて……」
勇者「ん?なんだこの紙切れは?」
【使いたくなったらいつでもどうぞ】
勇者「なんだこれ?」
勇者「素材はゴムか?こんなの何に使うんだ?」
勇者「………」
勇者「!」
勇者「そうか!これで薬草を束ねておけってことか!いやぁあの店主さんもいい人だなぁ!」
勇者「じゃあありがたく使わせてもらうか!」ベリッ
─────── ─────── ────
鎧「あー、それは大人の方だ」
剣「そのまま町の外まで行ったら真の勇者だな」
─────── ─────── ────
僧侶「勇者様!いいお湯加減でしたぁ!」
僧侶「あ、お札を貼りますね!」
勇者「もう上がってたのか。じゃあお願いするかな」
僧侶「それじゃあ…鎧とかに肌が触れないように注意してっと…」ペタッ
─────── ─────── ────
剣「ははっ!あんなお札貼っただけで、簡易的とはいえ俺らが封印されるわけ無いよな!」
鎧「」
剣「鎧?え?マジ?」
剣「あっちょっ…や、優しくお願いしま」
─────── ─────── ────
僧侶「これで全部ですかね」
勇者「お、おお。なんだか体が軽くなったような…これがそのお札の効果か?」
僧侶「まぁ一時的にですけど、持って一晩が限界だと思います」
勇者「一晩が限界か…。このまま冒険続けられれば苦労も無いんだけどなぁ」
僧侶「それだと解呪するしかないです…。でも解呪だけはしたくないんですよね?」
勇者「それをやったらこの装備が壊れるからな」
僧侶「……」ジーッ
勇者「あの、僧侶さん?そう見られると脱げないんだが…」
僧侶「あ、そ、そうですね!ごめんなさい!」
勇者「はぁ…。全く、じゃあ俺も風呂に入ってくるよ」トコトコ
僧侶「……」トコトコ
勇者「……」トコトコ
僧侶「……」トコトコ
勇者「あの……なんで付いてくるの?」
僧侶「なんでって…おかしいですかね?」
勇者「僧侶、お前もしかして疲れてるのか?」
勇者「ふぅ…。やっと僧侶が我に返って部屋に戻っていった…」
勇者「さてと…この装備を脱げる日が来るとは…」ヌギッ
勇者「んぉおっ!?脱いだ瞬間に体から羽が生えたような開放感がするぞ!?」
勇者「これは…待ちに待ち望んだ風呂に入れるという喜びからなのか!?」
勇者「もう我慢できん!サッと体洗ってじっくり風呂に入って今までの疲れを癒す!」
~翌日~
勇者「おはよう、僧侶」
僧侶「はぁ……結局、勇者様の素顔を見れなかった」
勇者「ん?なんか言ったか?」
僧侶「え?あ、いえ、何も!」
僧侶「それより、明日から魔王城に向けて出発するんですから今からルートを決めておかないと」
勇者「そうだったな……。魔王城まで最短でどのくらいかかりそうだ?」
僧侶「地図を見る限りですと、大体一週間と言ったところでしょうか」
僧侶「早く見積もっても五日、遅ければ九日でしょう」
僧侶「でもこのルートだと、かなり険しい道のりを突っ切るのであまり得策とは言えません」
勇者「じゃあ回り道をした場合は?」
僧侶「んーっと、この場合はかなり遠回りをすることになりそうです」
僧侶「大体二週間近くかかるかもしれません」
勇者「そうか…。二週間も野宿していくのはこの先厳しいものがあるな」
僧侶「ましてや、ひっきりなしに魔物が襲い掛かってくる旅ですからね」
勇者「そうだなぁ…。よし、最短ルートで行く!」
勇者「僧侶はどうする?もしあれなら、ここで待っていてもらっても構わないけど…」
僧侶「いえ、私は勇者様のサポートをする為にここまで来たんです。最後まで一緒に行きますよ!」
僧侶「薬草だって勇者様一人だと持ちきれないですよね?」
僧侶(それに、魔王と戦う前には解呪したいし……。流石に呪われたままで戦うのは無理があります)
僧侶(いやでも、勇者様ならそのままでも勝てそうな気が…)
勇者「そっか、それを聞けて安心したよ…。ありがとう」
僧侶「いえいえ、お礼を言うのは魔王を倒してからにしましょう」
勇者「それもそうだな」
僧侶「あの…勇者様はどうして魔王を倒そうと決心したんですか?」
勇者「ん?そうだなぁ……。元々俺は勇者様御一行に付いて行くために修行をしていたんだ」
勇者「子供の頃から親父に、お前は世界一の剣士になれって言われて」
勇者「母さんには世界一の魔法使いになれって言われてきたよ」
勇者「で、めんどくさくて全部やったわけよ」
勇者「そのときにさ、魔物が近所に現れたんだ」
勇者「あの時の俺はまだ弱くて、魔物を3匹倒したところで疲れ果てたんだ」
勇者「でも親父と母さんは違った。涼しい顔してその後も魔物を蹴散らしてた」
僧侶「………」
勇者「その時に決心したんだ」
勇者「魔王を倒せば親を超えられるんじゃないかって。それが動機かな」
僧侶「そうですか……。かなり話が飛躍しすぎている気もしなくはないですが分かりました」
僧侶「それって、勇者様が何歳の頃の出来事だったんですか?」
勇者「忘れもしないさ、あの時の俺は7歳だ」
僧侶「………」
勇者「ん?どうした?」
僧侶「なんというか、勇者様って凄いんですね」
勇者「凄くないさ。本当の勇者に比べたら俺なんかまだまださ」
僧侶「ってことは、本当の勇者様はもっと強いんですか?」
勇者「そりゃそうだ。由緒ある血統を継ぐ者だから強くて当たり前だな」
勇者「前に一度戦ったことがあるけど、全力を出してないのが分かったさ」
僧侶「戦ったことがあったんですか!?」
勇者「まぁな…。王国主催の剣術大会の決勝で戦ったよ」
勇者「結果としては俺が勝ったんだが、本当の勇者は全く力を入れてなかったんだ…」
勇者「表情だけはいかにも全力出してますよって感じでさ。俺に対して配慮したんだろうな、あれ」
勇者「全力を出せば一瞬でケリがつくからってさ、悔しかったなぁ…」
勇者「俺が勝ったあと、全力を出し切ったような顔して無言で立ち去るし…。別次元で生きてるってことを思い知ったよ」
僧侶(もしかして、本物の勇者様は全力だったんじゃ……)
僧侶(あぁなるほど。だから部屋から出て来なくなった訳ですか……)
勇者「ついに魔王城に向けて出発か…。気を引き締めていこう」
僧侶「ですね、方角的にはこの湿地帯を進むことになります」
僧侶「その後にあの山を越えたら魔王城まで一気に行けると思います」
勇者「そっか…。じゃあまずはこの手厚い歓迎をしに来た魔物を蹴散らしながら進むか!」チャキ
─────── ─────── ────
剣「昨日はよく寝たし、状態は万全だ」
篭手「一晩ぶりとは言え、腕が鳴るな…」
剣「篭手だけにってか…?ちなみに篭手の能力はなんなんだ?」
篭手「俺は限界以上に筋力を引き出させる能力だ。ミスリルゴーレムと腕相撲勝負できる位にはな」
篭手「まぁそんなことしたら腕がもげるけど、勇者なら平気か」
剣「まぁ勇者だしな」
─────── ─────── ────
僧侶「やあっ!」ボコッ
魔物「グッ…」
僧侶「もう一発!確実に仕留めます!」ボコ
僧侶「はふぅ…。これで、終わりですね」
勇者「みたいだね。僧侶さんも近接戦闘がだいぶ板についてきたと思うよ」
僧侶「本職ではないんですけど、こうも魔物が多いと必然的と言えますね」
勇者「でも僧侶さんがいてくれて助かってるよ。ここらの魔物はHPが多くて厄介だからなぁ」
僧侶「勇者様に出来ることと言えば、薬草を渡すことと戦うことぐらいしかできないですから…」
僧侶「あ、そうだ!勇者様、口を開けてください!」
勇者「ん?あ、あー」
僧侶「じゃあ薬草を食べさせてあげますね?」
勇者「んんっ!い、いやそれはいいよ…。自分で食べれるから」
僧侶「あーん!」
勇者「はい…」
─────── ─────── ────
剣「爆ぜろ」
兜「ムカつくわぁこれ、見せ付けんならよそでやれ」
─────── ─────── ────
勇者「ふぅー、やはり山登りは結構キツイな」
勇者「オマケにこんな山道でも魔物が襲ってくるなんてな…よっと!」ザシュ
僧侶「はぁ……はぁ…」
勇者「少し休憩するかな。もう少し先に休憩できそうな場所が見える。今日はそこで野宿しようか」
僧侶「は、はい…」
勇者「はぁ…山道なら少しは魔物も減るかと思ったが、そう甘くは無かったみたいだな」
僧侶「よく、こんな場所で戦えますね…」
勇者「むしろ広範囲に散らばってないから戦いやすいかな。とりあえず僧侶さんは休んでてくれ」
僧侶「そうします…。すいません、足手纏いになることばかりで」
勇者「いや、足手纏いなんて思ってないよ。むしろ、ピオリムをかけてくれたりして助かってるよ」
勇者「補助呪文に関してはあまり得意じゃないから本当にありがたいよ」
─────── ─────── ────
剣「だからコイツは自分で補助呪文をかけてなかったのか」
兜「自前の能力だけで全て解決してきたからな。それと俺らの効果も多少あるが」
剣「そういや兜ってどんな効果なんだ?」
兜「俺は魔力を限界以上に引き出す能力だ。常時全開状態で魔力を出す」
兜「普通なら一時間も持たずに廃人になるが…。今回は勇者だからな」
剣「やっぱり人間じゃないなコイツ」
─────── ─────── ────
~翌日~
勇者「よいしょっと…。ここらの魔物も全て倒したし、この尾根を越えれば…」
勇者「見えたな…。あの城が魔王がいると言われる魔王城か…」
僧侶「そうですね…。ここにいるだけでも瘴気が肌で感じます」
勇者「そうか…。遂にここまで来たんだな」
勇者「あとは魔王を倒して、それで終わりか…。長かったな」
僧侶「それなんですけど勇者様、そろそろ解呪しませんか?」
勇者「丸腰で魔王と戦えと?」
僧侶「案外勝てそうじゃないですかね、勇者様なら」
─────── ─────── ────
鎧「サラッととんでもないこと言ったぞ」
剣「だが、それを完全に否定出来ないのがな」
─────── ─────── ────
勇者「一応理由を聞いておくけど…どうして?」
僧侶「そうですね…。いくら勇者様とは言え呪われたまま魔王と戦うのはあまり良いとは言えません」
僧侶「であれば、ここで解呪をしておくのが良いかと思いまして」
勇者「いや、俺はこのまま魔王と戦う」
僧侶「ですが、やはり呪われたままなのは危険だと思います」
勇者「それはそうだけどさ…」
勇者「パンツ一丁で魔王と相対するのって絵面的にどうなのよ」
僧侶「そこは…勇者様のオーラ的なのでなんとかカバー出来ませんかね?」
─────── ─────── ────
剣「パンツ一丁で魔王と戦うところを見てみたいと思ってしまった」
兜「後世に語り継がれる内容が、パンツだけの勇者が~ってなるのもそれはそれで見てみたいな」
─────── ─────── ────
勇者「オーラって…俺そんなの出せないからね?」
僧侶「なんとかこう……頑張ってください!」
勇者「頑張ってと言われても…。いやいや、ダメでしょ」
勇者「とにかく、俺はこの見た目が好きだからこのまま行く!パンツだけで戦うのも無し!」
僧侶「くぅっ…やはり解呪は出来ませんでしたか…」
勇者「まぁこのままでも何とかなるって。それより魔物さん達がお出迎えしてきてるぞ!」ズバッ
僧侶「サポートします!ピオリム!」
僧侶「これだけ唱えておくだけで、あとは勇者様が蹴散らしてくれるんですけどね」
僧侶「やっぱりパンツ一丁だけでも勇者様なら勝てるんじゃないかなぁ…」
僧侶「あっ倒し漏れ…えいっ!」ゴス
─────── ─────── ────
剣「僧侶がこの旅に順応しきってるわ」
兜「積極的に殴りに行く僧侶とか前代未聞だよ」
─────── ─────── ────
~魔王城前~
勇者「ここが……魔王城」
僧侶「うっ…くっ……凄い瘴気…」
勇者「聖水もここまで来ると殆ど効果が現れないか…」
勇者「だがここまで来たんだ…!気を緩めずに行くぞ!」
僧侶「はいっ!」
─────── ─────── ────
剣「俺の刀身にも震え来る…。ゾクゾクしてくるな」
靴「けど勇者は震えてはいない…。覚悟が決まってる証拠だな」
剣「靴か。聞きそびれてたけどお前の効果ってなんだ?」
靴「俺は全状態異常無効だな」
剣「つまり酒を飲みすぎても酔わなくなるって事か?」
靴「そういうのは無理だな。毒とかそういう外部からの効果によるものだけ防げる」
─────── ─────── ────
~魔王城内部~
勇者「さすが魔王の根城だけあって敵も強いな」
僧侶「そうは言っても、勇者様攻撃受けてないじゃないですか」
勇者「まぁそうなんだけど反射ダメージが結構厳しくてな。薬草じゃ回復が間に合わないんだ」
勇者「聖水も合わせて飲むとしばらく動けないし…」
僧侶「そ、そうですよね…。あんな状態ですと戦えませんからね」
勇者「思い出して凄い恥ずかしくなってきた……」
僧侶「ま、まぁまぁ気にしてないですから…。あ、今のうちに薬草を食べさせてあげますか?」
勇者「それはそれで恥ずかしいんだけど…。だが、また魔物が出てきたみたいだな」
僧侶「またですか…。少しは手加減して欲しいですね」
勇者「それだけ魔物も本気だって事さ!バックアップは任せる!」ダッ
僧侶「分かりました!」
─────── ─────── ────
剣「よくもまぁあんなに魔物と戦って体力が持つもんだ」
腰当「無駄に体力はあるからなぁ…。変なとこでも体力はあるけど」
剣「そういえば腰当のメリット効果聞いてなかったな…どんなのだ?」
腰当「俺は無理やり体を動かせる。平たく言えば怯み無効だな」
剣「そんな効果なのか?あまりぱっとしないな」
腰当「そうでもないぞ?攻撃後の硬直を無くせるし、基本的にはどんな状態でも体を動かせる。普通に考えてとんでもない能力だぞ」
剣「なるほどな…。縁の下の力持ちって感じか」
腰当「まぁそんなとこだな。ダメージ負ってないから俺の効果の殆ど使われてねぇけど」
─────── ─────── ────
勇者「ふぅ…。やっと魔物を全部倒し終えたかな」
勇者「沢山出てくるから根こそぎ全部倒せばと思ったら、案の定後半は魔物が出てこなくなったし」
僧侶「全部倒しきってしまうのは流石としか言いようがないです」
勇者「正直少しやりすぎたかと思ったけど案外なんとかなるもんだな」
─────── ─────── ────
剣「やりすぎってレベルじゃねーぞ」
剣「一応ここ最難関の最後のダンジョン、魔王城だぞ?それっていいのかよ」
─────── ─────── ────
勇者「ここが最後の扉か……」
僧侶「この先に魔王がいるんですね…」
僧侶「勇者様……。私は覚悟が出来ています」
勇者「あぁ…。正真正銘最後の戦いだ…。行くぞ!」
ガチャ
ビリィッ!
勇者「なん、だ…?」
僧侶「うぐっ!か、体がっ……」
─────── ─────── ────
剣「うおっ!俺にもビリってきたぞ!」
兜「お前にもか、実は俺もだわ」
鎧「ビリってきたぁ…うおおぉ……」
剣「装備にも効果が来るとか魔王の力パねぇわ…」
─────── ─────── ────
~魔王城 最後の間~
魔王「来たか…勇者よ──」
魔王「ってなんだお前っ!?」
魔王(なんだあの装備…?)
魔王(これって見た目も変わる的な魔法だったのか……?)
勇者「なんだお前とはなんだ!俺は正真正銘の勇者だ!」
魔王「ふっ、哀れだな勇者よ。そんな格好をしていて、まだ自身の変化に気付いておらぬのか?」
勇者「なにっ!?貴様、何をした!」
魔王「自身の変化に気付かずここで朽ち果てるとは…実に憐れだ」
魔王「我は“魔王”」
魔王「全ての魔を率い、全ての魔の頂点に立つ者だ」
魔王「忌々しき勇者よ。我は幾度と無く貴様らに辛酸を舐めさせられてきた…」
魔王「その忌々しき装備さえ無ければっ!!」
─────── ─────── ────
剣「えっ!俺らってマジモンの伝説装備だったの!?」
兜「嘘だろ……?だが、魔王本人が言ってるって事はそうだよな…」
鎧「勇者ってマジすげぇわ…。よく見抜いたな、俺らのこと」
─────── ─────── ────
勇者「やはりこれは伝説の装備だったのか…」
魔王「ふっ、気付いていなかったとは愚かなものだ…」
魔王「まあよい。我はその忌々しき装備に打ち勝つ術をもう施しておる」
魔王「もはや貴様に我を打ち滅ぼす手段は残されておらぬのだ!」
勇者「くっ……」
魔王「ふははははっ!悔しくて声も出せぬか?勇者よ!」
魔王「貴様は何も出来ずに死ぬのだ!さらばだ、忌々しき勇者よ」
魔王はマヒャドを連続で唱えた!
勇者「そんな魔法、全部たたっ斬ってやる!」ガギッ
僧侶「凄い…!次々と襲い掛かってくるマヒャドを全て斬っている…」
魔王「ほう…流石は勇者というべきか。そうでなくてはな」
勇者「今だッ!」ダッ
魔王「それに素早さもそれなりにあるか…。だが、まだ気付いておらぬようだな」
魔王は突風を放った!
勇者「ぐぅっ!近寄れないっ!」
魔王「ここまで来れた事は褒めてやろう、哀れな勇者よ…」
魔王「褒美に教えてやろう」
魔王「貴様が何故我に勝てぬのかをな」
魔王「貴様の装備は今、魔の属性となっておるのだ」
勇者「なに…!?魔の属性だと!」
魔王「ふっ…伝説の装備は確かに強力無比だ…。それも魔を滅する為に作られた物であるからな」
魔王「だが、我はこの場において貴様ら人間の持つ力を全て真逆の性質にしたのだ…」
魔王「聖なる物は魔に…」
魔王「ククク、この意味がいくら貴様でも分かるだろう?」
魔王「故に我は貴様らの装備では一切傷を負わぬのだ!」
─────── ─────── ────
剣「……ん?」
兜「あれ待って。これ魔王自爆してね?」
鎧「というより俺らの体なんか浄化されてね?」
篭手「あ、ホントだ…。呪い効果が逆になったから祝福されてるわ」
盾「魔王もバカとか冗談にもならねぇよ」
─────── ─────── ────
勇者「なん…だと!?」
勇者「くそっ…!俺では、魔王に敵わないのかっ!」
僧侶「いや、その…とりあえず勇者様、攻撃してみたらどうですか?」
勇者「無駄だっ!だってこの装備はっ!」
僧侶「一回攻撃してみましょうよ。試しもしないで諦めるのは早いですって」
勇者「………」
勇者「それもそうだな!いくぜ魔王!」グッ
魔王「それでもなお足掻くか…。面白い、ならばどこからでも切りかかってくるが良い!」
勇者「うぉおおおおっ!!喰らえ魔王!」ザンッ
魔王「貴様らの攻撃など微塵も──」
魔王「げっふぅううううううっ!!!」
─────── ─────── ────
剣「めっちゃ効いたな」
兜「バカだろコイツ」
─────── ─────── ────
勇者「まだいける!もう一度だ!魔王ッ!!」ザシュ
魔王「ガァアアアアアッ!!!」ヨロ
魔王「バ、バカなっ!こんな筈ではっ!」
勇者「効いている!?なら…これで最後だ!」
勇者「トドメだ魔王!!!」ズバァッ
魔王「ウグハァッ!!こ、こんな筈ではっ…!」
僧侶「………」
勇者「はぁ…はぁ…」
僧侶「なんというか、あっけなかったですね勇者様」
勇者「あ、ああ…。今まで戦ってきたどの魔物よりも弱かったかもしれん」
魔王「何故だ……何故ッ!?」
僧侶「何故って…勇者様の装備が全身呪われてるからに決まってるじゃないですか」
魔王「呪いだとっ!?こんな、こんなふざけた勇者に…我が……」
魔王「ウグォオオオオッ!!!」
─────── ─────── ────
兜「なぁ、魔王って何したっけ?」
鎧「マヒャドと突風しかしてないな」
腰当「こんな終わり方酷すぎるだろ…」
剣「つかさ、今の俺らってどうなってんのよ?」
兜「ん?呪いが反転して祝福された作用を勇者に引き起こさせてるな」
剣「そこだよそこ。呪いと祝福で相殺されてるのか?」
鎧「いや、見た限りだとこれは相殺されてねぇな…」
剣「つまり?」
兜「だから…呪いが逆になってんだよ。箇条書きで説明するとこうなる」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
剣:反射ダメージ
兜:最大HP&MP半減
鎧:防御以外全能力半減
盾:回復呪文のダメージ化
腰:数ターンごとにダメージ
篭手:魔物呼び寄せ
靴:行動速度鈍化、たまに行動不能
↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓
剣:反射回復
兜: 最大HP&MP倍増
鎧:防御以外全能力倍増
盾:回復呪文倍回復
腰当:数ターンごとに回復
篭手:エンカウントなし
靴:行動速度高速化、たまに二連続攻撃
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
剣「いじめってレベルじゃねーぞ!」
剣「でもさ、全て逆になるとしたら鎧とかのメリット効果も逆になるんじゃないか?」
鎧「そこなんだが、どうやら全部が全部逆になってるわけじゃないっぽいな」
鎧「全部逆になってたら、あのバカがバカじゃなくなって天才になるだろ」
剣「あぁ、それもそうか…」
鎧「俺の考えだと、元からある効果はそのままで、後から付いた効果が変わってる」
鎧「メリット効果は俺が鎧として生まれた時からあるものだ」
鎧「逆に呪い効果は後から付いたものだ」
剣「あーなるほど。じゃあ俺らって今は呪い装備じゃなくて最強装備?つーか、祝福装備?」
剣「祝福装備の俺らがこんなアホみたいな会話してるのって……なんか変じゃね?」
鎧「……」
篭手「……」
兜「勇者君!僕たちの力を存分に使って一緒に魔王を倒そう!」
剣「今更口調変えても遅いわ!」
─────── ─────── ────
勇者「やったか!?」
僧侶「あの攻撃を受け、立っていられるはずもありません…」
─────── ─────── ────
剣「おいバカ共、それをフラグって言うんだよ」
─────── ─────── ────
魔王「グッ……ヌァアアアア!!!まだだ!まだ我は死なぬ!!」
勇者「なにっ…!まだ立ち上がれるだけの余力を残していただと!」
勇者「ならばもう一度ぶった切るだけだ!」ズバッ
魔王「グヌッァアアアアア!!!」ドサッ
勇者「今度こそやったか!?」
魔王「くっはっはっは!実は我は第三形態まで進化できるのだ!」
勇者「うぉおおおお!今度こそ仕留める!」ザシュッ
魔王「ば、馬鹿な……おのれ、勇者めぇええええ!」
勇者「流石の魔王もこれなら…」
僧侶(あれこの流れって……。すっごい面白そうな流れになるんじゃ…)
僧侶「私も混ぜてください勇者様!何回魔王が起き上がるか数えましょう!」
─────── ─────── ────
剣「魔王で遊ぶな」
鎧「俺たちは何を見せられているんだ…」
─────── ─────── ────
勇者「いくらしぶとい魔王でも今度こそはっ!」
僧侶「やけに第三形態の出し惜しみをしてますよね?早く変わってくださいよ!」ボコッ
勇者「あの、僧侶さん?やけに好戦的じゃないかな?」
僧侶「だってこんなおもしろ……」
僧侶「いえ、人類の敵である魔王が何度でも蘇るのですよ!」
僧侶「僧侶として見逃せるわけがないじゃないですか!」
勇者「僧侶さん……分かった!魔王が完全に滅びるまで俺達で何度でもやっつけてやるぞ!」
僧侶「その意気です、勇者様!」
─────── ─────── ────
剣「魔王が不憫すぎて同情するわ…」
鎧「超強化された勇者が一撃で魔王を倒してその後にフラグを言ってるのがもう…な」
兜「僧侶が悪い遊びを覚えなければいいんだが…」
剣「つか魔王も無駄に体力あるよな。さっさとやられりゃいいのに」
兜「倒す度に勇者がフラグを言うから魔王も乗ってるんだろう」
剣「端から見ると弱いものいじめだよな」
兜「まさかこれが魔王対勇者の対決とは思えないわな」
兜「魔王も魔法を解除したいんだろうが起き上がる瞬間にメッタ切りにされてるからなぁ…」
剣「あのさ、魔王がこの魔法を解除する前に勇者が魔王を滅ぼしたら俺らはどうなるんだ?」
鎧「どうもこうも、まず最初に魔法の効果が切れて俺らは元に戻る」
鎧「それにここに入ったときになったあの変な感覚…たぶんこれは空間を弄っているんだろう」
鎧「勇者が魔王を倒さずともここを出て行けば俺らは元の生活に戻れるって訳だ」
剣「なるほどなぁ…」
剣「折角の最強状態が一撃でやられる魔王相手だとつまんねぇな」
兜「これってやっぱりパンツ一丁でも倒せたんじゃね?」
剣「魔王弱いし結構余裕でいけてただろ」
─────── ─────── ────
魔王「グ……ググ、ただでは、死なぬ……。勇者よ、貴様も黄泉へと道連れにしてくれるわ!」
グンッ!
僧侶「あ、ちょっと遊びすぎたかも…」
─────── ─────── ────
剣「さすがに魔王もこのループに気付いて流れ変えてきたわ…」
剣「つーかこれヤバくね?」
─────── ─────── ────
勇者「こ、コイツ、最後の力でなにを…っ!」
魔王「ふっ……ふははははは……!貴様は…魔の狭間に…永久に出れぬ地で…朽ち果てるが…よい…」
勇者「か、体が引きずり込まれ…マズいっ!」
僧侶「勇者様ぁ!」
勇者「う、うわぁあああ―――………」
シュンッ
~魔の狭間~
勇者「うぉおああああっ!」
ドシッ
勇者「いででっ……。くそっ、魔王め…!死ぬなら俺を巻き込むなっ!」
勇者「出口はどこだ!はやく戻らないと…」
勇者「出口……の前に早速魔物のお出ましか」
勇者「はは、ちょっと魔物が……多すぎるんじゃないかな」
─────── ─────── ────
剣「万は越えてるな。もしかしたら億はいそうだ」
兜「流石の勇者でも、これはもうダメかもしれんね」
─────── ─────── ────
勇者「出口を探すのはこいつらを全部倒した後にしろって事かよ」
勇者「それにここに来てからなんだか体が重くなった気がするし…」
勇者「まぁいい!とりあえずこいつらを片付けるのが先だ!」
~数時間後~
勇者「はぁ…はぁ…まだ、いるのかよ……。少しは休憩させてくれ」
勇者「うぐっ…ダメージが……キツイな」
勇者「ゲホッ……くそっ…」
魔物「グァアアッ!」
勇者「!」
勇者「しまっ…」ドガッ
─────── ─────── ────
剣「おいやべぇぞ!このままじゃ本当に死んじまうんじゃねぇのか!?」
鎧「いや、今回は大丈夫だな。むしろいいタイミングだったかもな」
剣「はぁ!?何言ってるんだよ!お前の効果だと逆に勇者が苦しむだろうが!」
鎧「俺のことは俺が一番知ってる。まぁ見てな」
─────── ─────── ────
勇者「ぐっ…この、野郎っ!」
勇者(ダメだ…力が、コイツを振り払う力が沸いてこねぇ…)
勇者(このまま……俺は、死ぬのか?)
ゴギュ…ゴギ…
勇者「うぐっ…ぐっ……ん…んん?」
勇者「な、なんだ?力が…回復、した?」
─────── ─────── ────
剣「どうなってんだ、こりゃあ一体……」
鎧「前にも言ったが、俺は吸収しているんだ。どんなものでもな」
剣「そんなことは知ってる。だが、どういうことなんだ?」
鎧「そうだなぁ…。前回同じような状況になった時、勇者はダメージなんて受けてなかっただろ?」
剣「あぁ、僧侶守った時か」
鎧「そうそれ。だが今回は疲労困憊、もう戦えませんって状況だったな」
鎧「最初の時は過剰すぎる回復を勇者に与え、今回は丁度良い回復を与えただけだ、デメリットはねぇよ」
鎧「あまりにも強すぎる回復は時として毒になる…薬と一緒だな」
剣「お前って…呪い装備だよな?」
鎧「最初に作られたときは呪われてなんかなかったさ、それはお前だってそうだろ?」
剣「まぁそうだが…」
鎧「俺が作られた当初の目的は、回復役を必要としない完璧な戦士を作り上げることだったわけだ」
鎧「もっとも、過剰回復については不具合として出てきた訳で、これが呪いを生み出す要因になったわけだが……。まぁここは説明しなくていいか」
鎧「とにかく、今回初めて勇者が俺を本来の目的で使いこなしたと言う訳だ」
剣「そうか…そういうことだったのか」
─────── ─────── ────
勇者「なるほど……。この鎧はこの時の為にこの効果があったわけか!」
勇者「なら、俺はまだ戦えるっ!」
魔物「――ッ!!」カァッ
魔物はベギラゴンを唱えた!
勇者「おっと…盾でガード!」
勇者「そして呪文の唱え終わりが一番の弱点だ!踏み込み切り!」ザシュ
勇者「ははっ…こりゃすごい。初めて盾を使ったけど便利だな」
勇者「これなら、こいつらを全て倒せるな」
勇者「魔の狭間だかなんだかしらねぇけど…。魔って付く位なんだからその魔を全部倒せばいいって訳だろ!」
勇者「っしゃあ!やってやるか!勇者様と伝説の装備が相手してやるぜ!」
─────── ─────── ────
剣「ヤバイ、惚れそう…」
兜「やっぱりお前ソッチの趣味あったんじゃねぇかよ」
剣「い、言い間違えだ!」
─────── ─────── ────
勇者「もう何時間?何日?いや、何年経ったかわかんねぇや……」
勇者「ただひたすらに戦い続けた……。けど、お前で最後だ!」
魔物「ゲヒュッ…」
勇者「あーーっ!終わったぁ!疲れた…。これ以上はもう無理だ、戦えねぇ」ドサッ
勇者「って言っても、どうせ帰れないよなぁ。魔物全滅させたらもしかしてとか思ったけどさ」
勇者「………」
勇者「僧侶さん、きっと心配してるよなぁ……」
勇者「いやでも、魔王を倒してからどのぐらい経ってるか分からないし、もう俺のことなんて忘れてるか」
勇者「実はもう何百年も経ってて別の魔王や勇者が生まれてたりしてな!」
勇者「その時は俺も加勢して今度こそ魔王を完全に倒しに行きたいもんだ…」
勇者「………」
勇者「僧侶さん、可愛かったなぁ……」
勇者「………」
剣「かーっ、こんな時まで色恋沙汰取り出すとかやってらんねぇわ」
勇者「!!」
勇者「なんだ!?どこから声がした?」
兜「俺らが封印されてるときに一発僧侶とヤっておけば良かったんだよ」
剣「でもよ、このバカがそんな考えまで持ち出せるわけねぇだろ」
勇者「バ、バカとはなんだ!俺は勇──」
腰当「あーはいはい、勇者だろ?聖水飲むと決まって──」
剣「え?ちょっと待って…」
剣「まさか俺らの声が聞こえてる的な?」
鎧「こりゃーすごい」
剣「ちょっと待て勇者!緊急呪い会議開くからお前は黙っとけよ!」
勇者「呪い会議って…」
剣「だから黙っとけって言っただろ!」
剣「なぁ、これはどういうことだ?」
鎧「こんなの初めてだ、俺に聞くな」
兜「いぇーい勇者!聞こえてるぅ?」
勇者「うるさいほどに聞こえてるよ…。というかこの声って誰だ?神様なのか?」
盾「ちげーわボケ、お前がいつも身に着けてる物だよ」
勇者「パンツなのか?」
剣「パンツじゃねーよ!お前を呪い殺……せなかったわ」
剣「つーかお前、何勝手に俺らの会話に割り込んできてるんだよ」
勇者「勝手にと言われてもな…。聞こえてくるんだから仕方ないだろ」
勇者「でも、話し相手に困ることは無くてよかったよ」
剣「まさかお前、このままこの何もない場所で一生を終えるつもりか?」
勇者「元の世界へ戻る手段が見つからないんだから仕方ないだろ」
剣「お前なぁ…仮にも魔王を倒した勇者だろ?こんな所で諦めてどうすんだよ」
剣「それにこんな何も無い場所でお前と一緒に居たくねぇしこっちから願い下げだ」
剣「あとお前は剣術と魔術を覚える前に一般教養を覚えろよ!」
剣「薬草と聖水を一緒に飲み食いする時点で色々勉強しなおせ!」
勇者「いやぁでもさ、あれ結構回復するんだよ、ケアルラぐらいに」
剣「ケアルラってなんだよ、せめてベホイミって言えよ!」
勇者「そうは言ってもそう例えるしかないんだって…。あ、聖水飲んで良い?」
腰当「ばっかおめぇそれだけはやめろ。俺にナニをくっつけんじゃねぇ、ガチで呪い殺すぞ」
勇者「………」
腰当「つってもお前には呪いが通用しねぇからなぁ……。あぁもう呪い装備としてやってらんねぇわ」
勇者「それは…ごめん?」
腰当「俺が装備じゃなけりゃ勃起不全の呪いも付けてやるのによ…。装備だから出来ねぇし」
腰当「つか、そんな事したら勇者のガキを拝めねぇからな…。お前も男ならさっさと僧侶を襲っちまえってんだ」
腰当「そんで僧侶だけにナニを使え…。俺に使うな、イカ臭くなっちまうだろうが」
勇者「善処してみる…」
腰当「善処じゃなくやれ。これは俺からの命令だ、いいな?」
腰当「あとこれはお前の為に言ってるんじゃない。俺の身を守るために言ってるんだ、勘違いすんじゃねぇぞ?」
剣「腰当ってツンデレとか言われた事ない?」
腰当「言われたことねぇし……。おいやめろバカ共、俺を見るな」
勇者「………」
勇者「そっか……。信じたくはなかったけど、この装備は伝説の装備じゃなかった訳か…」
剣「誰がどう見たって違うって分かるだろ」
勇者「そうは言ってもなぁ。長年放置されてたり、封印がされていたりしたらそう思うだろ?」
剣「あのなぁ…。確かに俺らは封印されてたけどこの封印は閉じ込める的な封印だぞ」
剣「悪い意味の封印だ。伝説要素なんて皆無だよ」
勇者「………」
勇者「それでも、俺はこの装備を伝説の装備として使い続けていくさ」
勇者「なんていったって、俺の冒険を支え続けてくれた紛れもない装備だからな」
剣「………」
剣「気色悪ぃなぁ。けどまぁ気持ちだけは受け取っておくぜ」
兜「一番活躍したの剣だもんな、そう照れるなよ」
剣「ばっ…!うっせ、黙れ!」
兜「おもしれぇ奴だ。けどまぁ勇者もイカれずによく装備し続けたな」
勇者「はは、もしかしたらもうとっくの昔からイカれてるのかもな!」
剣「ちげぇねぇ。全身呪い装備で固める奴なんて今後絶対出てこねぇよ」
勇者「そこは嘘でもイカれてないと言ってほしかったよ」
兜「そう考えると、俺らがこうやって揃っていけるのは勇者が最初で最後になるって訳か…」
兜「勇者が俺らを使わなくなったら、俺らはお別れか……」
剣「………」
兜「………」
鎧「………」
盾「………」
腰当「………」
篭手「………」
靴「………」
剣「そういうの……やめろよ」
勇者「………」
鎧「勇者、お前が俺らを揃えてくれて良かった。やっぱ色んな意味でお前は化け物だ」
盾「最後の最後でやっと俺も使ってくれたしな…。正直忘れられてるかと思ったぜ」
篭手「呪い装備同士、話し合えて楽しかったぜ…。勿論勇者、お前もな」
腰当「ナニをつけてくるのだけは嫌だったがお前はまさしく勇者だ。俺が認める」
靴「この見た目で勇者ってのもおかしな話だが、一人くらいこんなのがいても良いよな」
剣「このしみったれた空気は俺らには似合わねぇな…。けど、最後ぐらいはいいか」
勇者「あぁ、俺もこの装備に出会えて本当に良かったさ」
勇者「しかし…どうやって帰ればいいものか」
剣「魔王が死に際に放った魔法をお前も使ってみればいいんじゃね?」
勇者「俺はそんな魔法なんて知らないぞ。第一使えたとしても魔力が足りるかどうか…」
剣「ルーラとかは使えるだろ。確かあれって行きたい場所を念じるだけで行けたりする魔法だったよな」
剣「それで最後にあんだけボコボコにした魔王の場所をイメージしたら、案外いけるんじゃないか?」
勇者「だが、そんな正確な場所を指定するとなると、どれだけ魔力を使うか…」
剣「………はぁ、しかたねぇな」
剣「本当だったら最後まで黙っておくつもりだったけど……」
剣「“俺の魔力を使え”」
勇者「お前…攻撃力が上がるだけの武器じゃなかったのか!?」
剣「そんな安っぽい武器な訳ないだろ……。一応俺が作られた理由を話すか」
剣「いいか?人間ってのは魔力の限界が誰にだってある」
剣「過去の人間ってのはその限界を超えた魔力を求めたって訳だ」
剣「兜は限界を超えた魔力を引き出せるように作られたが俺は違う」
剣「殺した奴の魔力を蓄えておけるんだよ」
剣「まぁ大半が使い物にならない魔力だから、そこを攻撃力に割り振ってるわけでこれが原因で呪いが……って今はそんな事どうでもいいか」
剣「とにかく、山ほど魔物を倒してきたんだから帰れるぐらいには溜まってるだろ」
剣「ここで使わないなんて勿体無いし、勇者がこの魔力を使って俺らを元の世界に戻してくれた方がいい訳だ」
剣「仮にも魔王を倒した勇者様が行方不明じゃ寝覚めが悪いからな」
勇者「そっか……ありがとう。お前の魔力、ありがたく使わせてもらうよ」
剣「礼なんていらねぇ。俺はその為に作られた訳だからな」
兜「ほら……さっさとルーラ的なの唱えろ。天井に頭ぶつけたりとかはしないはずだ」
勇者「……よし、じゃあ帰るぞ!魔王もまさか帰ってくるとは思わなかっただろうな!」
剣「ちげぇねぇ」
勇者「じゃあ行くぞ…!」
勇者「“転移魔法”!!」
兜「あ、そこは明確な呪文名じゃないんだ」
剣「………」
剣(この魔力を使っちまったら、もうお前と話せなくなるなんて…)
剣「そんなカッコ悪いこと言えねぇよ」
~魔王城 最後の間~
僧侶「勇者様を返してください!」ボコッ
僧侶「いつまで寝てるんですか!魔王ならさっさと起きて勇者様をここに呼び戻してください!」ドガッ
僧侶「さっきまでの元気の良さはどうしたんですか!ほら、早く起きて…」
僧侶「勇者様を…あの優しい勇者様を……返して……」ポロッ
僧侶「ぅ……ぅぅ……」グスッ
シュンッ
勇者「………はっ!」
僧侶「……ゆう…しゃ、様…?」
勇者「ここは……?戻れた、のか?」
勇者「そうか……戻れたのか」
勇者「僧侶さん……心配かけてごめん」
僧侶「勇者様ぁ……」
勇者「ははっ、僧侶さん涙出しすぎだって…」
僧侶「本当に……本当に勇者様なんですよね?偽物じゃないですよね…?」
勇者「偽物じゃないって……。いやでも本家がいるから俺はやっぱり偽物か?」
勇者「じゃあ勇者代行?いやでも魔王倒したしやっぱり俺は勇者か?」
僧侶「ふふっ、本物の勇者様でした」
勇者「落ち着いたところで少しいいかな?魔王を倒してからどのぐらい経った?」
僧侶「そうですね…。大体30分ぐらいですかね」
勇者「30分!?」
勇者「そっか……。あの世界はこっちとは時間の流れが違うのか」
僧侶「時間の流れってどういうことですか?」
勇者「いや、なんでもない……。ところで俺ってどこか変わっていたりしてないかな?」
僧侶「えっと…見た目的には特にこれといった変化は見られないです」
勇者「そっか、それは良かった…。あの世界は時間が緩やかに流れていた世界だったのかもな」
勇者「それじゃあ帰るか。魔王を倒したってことを皆に伝えるまでが冒険だ!」
僧侶「でしたら最後まで一緒にいきますよ!勇者様だってことを私が伝えないと町に入れませんからね!」
勇者「そうだった……。その時はお願いするよ」
僧侶「お安い御用です!」
勇者「それと、この装備と共にな!」
勇者「………」
勇者「あれ、おかしいな」
僧侶「どうかしたんですか勇者様?」
勇者「………」
勇者「そっか……そういうことだったのか。剣も良い格好見せやがって」
僧侶「え、えっと…?」
勇者「いや、なんでもない!もう聞こえないけど、今頃色々言い合ってるのが居るって思ってさ」
僧侶「は、はぁ……」
勇者「今度こそ帰ろう!皆が俺たちの帰りを待ってるぞ!」
僧侶「はい!」
勇者「全身を呪いの装備で固めてしまった」
勇者「だけど俺にとっては──」
伝 説 の 装 備 だ ! !
──END──
勇者「このダンジョンもここで最後だな」
勇者「さっき倒したボスっぽいヤツの先には一体どんな物が…」ゴクッ
勇者「いざ!」ガチャ
勇者「!」
勇者「こ、これは……剣だ!お札っぽいのが貼られてる…!」
勇者「あと骸骨邪魔だな…」ベギッ
骸骨「コレデ…ワガ…クルシミカラ──」
勇者「うるせぇ! 骸骨ごときが勇者に話しかけんじゃねぇよ!」ドガッ
勇者「さて、この剣は……」
勇者「お、おお……。なんかすっごい禍々しい感じだな…」
勇者「それにドス黒い雰囲気って言うかなんと言うか…」
勇者「たぶんアレだな。さっきの骸骨が長時間触れてたせいでこうなったんだな」
勇者「それによく見たらカッコいいし…!間違いない!これこそが俺の捜し求めていた伝説の剣に違いない!」
勇者「早速装備だ!このはがねのつるぎは捨てる!」
勇者は皆殺しの剣を装備した!
勇者は呪われてしまった!
勇者「ぬあああああ!! またかよ! また呪われてるのかよ!」
─────── ─────── ────
皆殺しの剣「ククク……良くぞ私を蘇らせた…」
皆殺しの剣「さぁ我に生者の血を──」
死の兜「よう新入り、まぁ落ち着けよ」
皆殺しの剣「えっ?」
呪いの鎧「あー、剣って大体それ一本しか装備されねぇからなぁ」
怨霊の靴「まぁアレだ、気負いすぎると良いことないぜ?」
悪魔の篭手「そうそう、ましてやコイツだしな」
復讐の腰当「そういやこれで全身呪い装備でコンプじゃね?」
破滅の盾「そういやそうだな」
皆殺しの剣「え、待って……」
皆殺しの剣「え?なにこれ?なんなの?」
死の兜「なにって…解呪しない呪い装備の集いだよ」
皆殺しの剣「バカじゃないの?」
─────── ─────── ────
勇者「くっそぉ……今度こそは伝説の剣と思ったんだけどなぁ」
勇者「厳重に封印されてたし、なによりかっこよかったから間違いないと思ったんだが」
勇者「なんでだ?」
─────── ─────── ────
剣「なんでだ?じゃねぇよ。どこに伝説の剣と思う要素があったんだよ」
剣「明らかにヤバイ要素しかないだろ」
兜「ま、コイツの判断基準はカッコいいかどうかだから」
剣「なんだよその判断基準!」
剣「それ以前に、こんなに呪い装備付けてておかしいだろ!解呪する金持ってないのかコイツは!」
鎧「いや、金は持ってる」
鎧「が、薬草と聖水でほぼ消えてるな」
鎧「それにコイツは外したくないらしい。教会にも行ってないしな」
剣「本当にバカじゃないの?」
─────── ─────── ────
勇者「はぁ……悔やんでも仕方ない。このまま次に行くか」
勇者「けど町に入れるかなぁ……。前に行った町では門前払いだったからなぁ」
勇者「やっぱり顔が悪いからなのか?俺もイケメンに生まれたかった…」
─────── ─────── ────
剣「頭が悪いからだと思うぞ」
兜「この見た目の装備で町に入れるわけないよなぁ」
─────── ─────── ────
勇者「えーっと……今回の剣で俺に付いた呪いはなんだろうか」
勇者「攻撃したら自分にもダメージがいく的なのは嫌だなぁ…」
勇者「回復呪文はダメージ受けるから使えないし…困ったなぁ」ハァ
─────── ─────── ────
剣「残念だが察しの通りだ。ダメージ喰らう系の呪いだ」
兜「というと、またダメージ系がコイツに付与されたのか」
鎧「これで能力的には最強だけど色々残念な勇者が完成されたな」
剣「能力的にはな……ってちょっと待て!俺含めた呪いって全部でなんだ?」
兜「ん?全部でそうだなぁ……。箇条書きで説明するとこうなる」
・数ターンごとにダメージ
・回復呪文のダメージ化
・反射ダメージ
・最大HP&MP半減
・防御以外全能力半減
・行動速度鈍化
・たまに行動不能
・魔物呼び寄せ
・町に入れない(見た目効果)
剣「もう冒険やめたら?」
─────── ─────── ────
勇者「でも攻撃力高そうだしいいか!それにカッコいいし!」
─────── ─────── ────
剣「ポジティブすぎるにも程があるだろ」
剣「よくこんな装備で冒険出来るな…」
兜「まともな装備なら、今頃魔王倒して冒険終えているだろうな」
鎧「基礎能力がべらぼうに高いからな。半減していても流石勇者と言ったところか」
剣「いやでも、流石にこれだけ呪われていれば──」
─────── ─────── ────
勇者「お、魔物が現れたな…。丁度いい、試し切りするか!」
勇者「先手必勝!うらぁ死に晒せ雑魚がぁッ!!」ザシュ
魔物「」
勇者「ぐふぅ…。や、やはりダメージ系武器か…」ゴフッ
─────── ─────── ────
剣「………」
兜「ま、コイツが規格外すぎるんだわ」
鎧「返り血だけしか浴びてないからな、あと吐血」
─────── ─────── ────
勇者「くっ…流石に呪いがキツイな…」
勇者「薬草で少し回復しないと…」モグモグ
─────── ─────── ────
剣「なぁ、薬草って食うものなの?傷口に当てるものじゃないの?」
兜「世間一般では塗るものだな」
鎧「呪われて外せないから食ってるんだとさ」
剣「そこはまぁ…仕方ないか」
─────── ─────── ────
勇者「くそっ、薬草だけじゃ回復が間に合わないか…」
勇者「なら聖水を飲むか」ゴクゴク
─────── ─────── ────
剣「なぁ、聖水って飲むものなの?普通振り掛けるものじゃないの?」
兜「世間一般では振り掛けるものだな」
鎧「普通飲まないよな、もっと別の飲むよな」
剣「脳筋なのコイツは?」
腰当「えー、もう薬草聖水コンボ決めたの?」
腰当「そろそろ俺の呪い適当に解いてくれ」
鎧「あいよー」
篭手「分かった、新入りも呪い解いてくれよな」
腰当「いつもわりぃな、俺のわがままに付き合ってくれて」
兜「いいってことよ、流石に腰当が気の毒でなぁ」
剣「お前ら呪い装備として恥とかないの?」
兜「そうは言ってもなぁ…。解呪しないと色々やべぇんだよ」
剣「ヤバイって何が──」
─────── ─────── ────
勇者「んあっ…あぁ……」ビクンビクン
─────── ─────── ────
剣「あっこれヤバイやつだ」
兜「だから言ったろ?さっさと呪い解いてくれ」
剣「お、おう…。でもなんでこんな事になるんだ?」
兜「あくまで憶測だが、聖水の力と薬草の回復が俺らの呪いと反作用を起こしていると思う」
兜「それが結果的に、快感としてアイツに与えられているんじゃないか?」
篭手「最初はこんなんじゃなかったんだけどな…」
鎧「色々装備を固めてきた頃からだな…。こうなっちまったのは」
鎧「最初は痛いとか言って激痛に悶えていたが次第にこうなっちまったんだよ」
剣「人間ってこえぇわ」
兜「全くだ」
兜「せめて女なら眼福物なんだが…」
─────── ─────── ────
勇者「ふぅ…ふぅーっ……。な、なんとか今日も大丈夫だったな…」ギン
─────── ─────── ────
腰当「大丈夫じゃねぇからな。本当に腰当として生まれたことを呪うよ」
剣「い、生きていれば良い事もあるさ……たぶん」
─────── ─────── ────
勇者「よしっ!体力も万全とはいかないまでも回復したし、そろそろ行くか!」
勇者「本当なら戦士とか僧侶とか仲間にいてくれれば良かったんだが…。無い物ねだりしても仕方ない」
勇者「その為に俺は努力を重ねてきたんだ!」
勇者「俺は俺一人の手で魔王を倒す!!」グッ
勇者「うひっ…あっこれイイ……」ビクッ
─────── ─────── ────
剣「もう勇者じゃなくて変態だろ」
─────── ─────── ────
~数日後~
勇者「群がってくる魔物の群れを倒してきて分かったことがある」
勇者「この剣は敵を倒せばその分だけ攻撃力を上げる武器だ」
勇者「剣として切れ味が増しているのが分かる…やはりこれは聖剣なのでは?」
勇者「魔物を倒すと攻撃力が上がるってところが最高に聖剣じゃないか!」
勇者「それになんかかっこよくなってきてるっぽいし!」
─────── ─────── ────
剣「あーそれはな、生き血を啜ってるから攻撃力が上がってるんだわ」
剣「別に血なら人でも良いんだけど……もうツッコむ気にもなれんわ」
剣「でもまぁよく剣の事を見てるヤツだ……流石勇者と言うべきか」
兜「お前ソッチのけがあるのか?」
剣「ちげぇよ!おいやめろ、そんな疑いをかけるな!」
─────── ─────── ────
勇者「さて…そろそろ回復を……」ゴソゴソ
勇者「!!!」
勇者「薬草が…無いだと……?」
─────── ─────── ────
兜「おっと、これはヤバイな」
─────── ─────── ────
勇者「くっ……残りのHPから考えて、次の町にギリギリたどり着けるか…?」
勇者「途中の雑魚はなるべく少ない攻撃手段で倒していったとしても………いや間に合わないな」
勇者「くそっ…俺はこんな所で魔王にも会えずに呪いで死ぬのか…?」
勇者「いや、まだ死んだと決まったわけじゃない!持ってくれよ俺!」
─────── ─────── ────
剣「普通に持ち堪えそうなところが滲み出てくるのがすげぇよな」
兜「そろそろこんな時が来ると思っていたが……。一度会議を開こうか」
兜「題して、どうやって勇者を生き延ばそうの会を開く!」
剣「いや待て待て!」
剣「どう考えてもおかしいだろ。それはもう呪いの装備としていいのか?」
兜「そうは言ってもなぁ」
兜「だが考えてもみろ」
兜「勇者は全身呪い装備だ。誰がどう見てもヤバイ装備をしてる」
剣「まぁそうだな…。それがどうした?」
兜「そう慌てるな、これから説明していく」
兜「例えば、勇者が途中で死んだらどうなる?俺たちはこんな人目につく場所で皆で仲良く鎮座だ」
兜「そこに運悪く冒険者が来てあからさまにヤバイのが大量に転がってるとどうなる?」
剣「触ろうともしないだろうな」
剣「いやむしろ、危険だからこそ近隣の国に報告を──」
剣「!!」
剣「まさか!」
兜「そのまさかだよ」
兜「つまり、勇者の危機は俺らの危機なんだよ」
兜「仮に呪いを完全に解かれてしまうことがあれば、俺らは揃いも揃って粉々に砕け散る」
剣「いやでも、そこまでは流石に──」
兜「万に一つでも可能性があってはいけないんだよ」
鎧「俺らは人を呪い、それを糧にして武具として生きながらえている」
鎧「強大な力と引き換えにってとこだがな」
篭手「本来なら人目の付かない場所でひっそりとしている物が、町まですぐ近くにいる訳だ」
剣「なるほど……。リスクがあまりにも高すぎるってことか」
兜「そういうことだ」
兜「だが、呪いを完全に解くと俺らの存在そのものが意義をなさなくなる。それだけは絶対にあってはならない」
剣「でもさ、薬草聖水の時はほぼ解いたよな?」
腰当「それはそれ、これはこれだ。勇者はトリップしてて覚えてないだろうしセーフ」
剣「アッハイ」
兜「じゃあまず回復呪文の被ダメ量軽減ね。たぶん勇者は回復呪文を使わないだろうけど念のため」
兜「次にスリップダメージのダメージ量微減少」
兜「反射ダメージ量も少し抑えていく」
兜「異論は無いな?」
剣「そうでもしなきゃ死ぬからな」
兜「行動不能回数は抑え目にしてくれ」
兜「あと魔物呼び寄せの頻度も控えてくれ」
兜「それと後は……」
兜「勇者が無事、町にたどり着いて入れることを祈る!」
剣「こういうとき、この格好してると不便だよな…。自業自得だが」
剣「ちなみに別世界だと、呪い装備で全身を固めるとデメリットが消えると聞いたが?」
兜「そんな甘ったるい世界な訳ないだろ」
兜「マイナスかけるマイナスでプラスになるほど甘い世界じゃないんだよ、ここは」
兜「全て足し算だ。掛け算方式はこの世界には無い」
─────── ─────── ────
~数時間後~
勇者「目が……霞む……ごほっ」
勇者「はぁ…はぁ……あ、あと少し…げほっごほっ!」
勇者「だ、ダメ…だ……もう、体が…」グラッ
勇者「ここまで来て……」ドサッ
─────── ─────── ────
剣「むしろよく数時間も歩けたな…。やっぱコイツ色々おかしいわ」
剣「だがあと少しだ勇者!動いてくれ!頼むっ!」
兜「ちくしょう…!あと少しだってのにっ!!くそっ! なんだって俺は呪われてるんだよ!」
剣「落ち着け兜!まだ、まだ望みはある!」
剣「ええいっ!本当にあと少しなんだ…!そこのバカ面下げた衛兵が勇者に気付いてさえくれればっ!」
剣「頼むっ…気付いてくれ!」
─────── ─────── ────
キラッ
衛兵「ん?何か視界に──」
衛兵「!!」
衛兵「あそこに誰か倒れてないか!?」
─────── ─────── ────
剣「きたっ!救いの手が遂に!」
─────── ─────── ────
衛兵「ど、どうし──」
衛兵「うわっ!?なんだこれ!!」
勇者「た……たす…け」ズリッ
衛兵「ひっ…!!くっ、くるなぁ!化け物め!」
─────── ─────── ────
剣「化け物とは酷い言い方だな。仮にも勇者なんだが」
兜「実際化け物染みた格好と強さをしてる」
─────── ─────── ────
衛兵「こ、この化け物目めっ!これでも喰らえっ!」グッ
─────── ─────── ────
鎧「あ、これマズイわ」
剣「確かにマズイな……。今は1ダメージも惜しいところだ」
鎧「いや違う。あの衛兵、剣を離さなきゃそのまま腕持ってかれる」
剣「は?」
─────── ─────── ────
ガギィッ!!
衛兵「はぁっ!ぐっ…硬いっ!」
衛兵「んっ…?な、なんだ……?剣が鎧に張り付いて──」
衛兵「いや、これは剣が喰われっ──」
衛兵「ひ、引っ張られ──う、うわぁっ!」
衛兵「ひっ…ひいぃ!」ポロ
─────── ─────── ────
鎧「おお、よくあの状況で剣を離せたな。これだけ狂気にまみれた装備によく精神が飲まれなかった」
鎧「いや、恐怖によるものか?まぁ犠牲が出なくてよかった」
剣「お前ってかなり危ない装備なんじゃないか?」
剣「それ以前にどんな防具なんだよ」
鎧「俺か?この鎧に触れたもの全てを吸収する能力だ」
鎧「まぁ防御以外の全てを犠牲にさせてるからな、このぐらいのメリットはねぇと」
剣「それもそうか、呪い装備だしな」
─────── ─────── ────
上官衛兵「だ、だがこの禍々しさ…。やはり魔の物か?」
僧侶「あの…ど、どうかされたのでしょうか?」
─────── ─────── ────
剣「おおっ!可愛い女の子じゃん!」
兜「やっとまともそうなのが出てきたな…。回復させてくれるかが問題だが」
─────── ─────── ────
僧侶「なにやら凄い邪の気配を感じたのですが……」
上官衛兵「むっ?僧侶殿であったか…」
上官衛兵「この者なのだが……。私にはどうにも人とは思えなくてな」
僧侶「うっ…た、確かにそうですが……。で、でもこの方は…人、です」
僧侶「酷い出血と全身に付けられた禍々しき装備ですが、確かにこの方は人です」
上官衛兵「人だと!? にわかには信じがたいが、僧侶殿が言うならばそうなのだろう」
僧侶「それより、この邪な気配は……呪い?」
─────── ─────── ────
剣「ん?あ、これヤバくね?」
─────── ─────── ────
上官衛兵「呪いだと!? だ、だが呪いとはその者のみにかかるものでは?」
僧侶「確かにそうです…。ですが、この方はあまりにも負のものを浴びすぎています」
僧侶「本来なら解呪の儀を行わなければいけませんが、そうこうしてる時間がありません」
僧侶「聖水……それもそれなりの数を用意して、まずは触れられる程度に浄化しないと…」
上官衛兵「聖水だな…分かった。部下に伝えて用意させよう」
─────── ─────── ────
剣「お、おい…浄化って大丈夫なのかよ」
兜「まぁ平気だろ。ちゃんとした正規の解呪手段じゃないし呪い自体は解けやしないさ」
剣「そうだといいんだが…」
兜「つーかこれでもかなりセーブかけてやってんのに、人間はこれ程度でもヤバイのか?」
剣「そりゃ全身呪われてりゃヤバイだろうな、勇者が異端過ぎるだけだ」
兜「それもそうだな。普通の人間なら、俺を着けた時点で正常な判断なんか出来ないぐらい精神を蝕まれるからなぁ」
─────── ─────── ────
上官衛兵「僧侶殿、とりあえず聖水を20ほどかき集めたが」
僧侶「なんとかその数なら…」
─────── ─────── ────
兜「おいおい、20個とか用意しすぎだろ。勇者程度なら3個でもあれば足りるだろ」
剣「勇者程度って…。あ、僧侶さんコイツの鎧には触ったらダメだぜ…。って聞こえちゃいねぇよな」
─────── ─────── ────
僧侶「これで良し…。あとはこの方が動けるまでに回復を…」パァ
─────── ─────── ────
剣「あっバカ!コイツに回復呪文はダメだって!」
─────── ─────── ────
勇者「うっ…ぐぅぅ……」ジュゥゥ
僧侶「なっ!まさか回復呪文に対しての呪いもっ!?」
僧侶「あっ、あぅ…えっと、えっとぉ……どうしよう…」
─────── ─────── ────
剣「ああもうじれったいなぁ!早く薬草投げつけろコイツに!」
剣「というより早くしないとマジで死ぬから早く!」
剣「それと解呪の儀なんてやめてくれよな!フリじゃねぇからな!絶対だぞ!」
─────── ─────── ────
僧侶「か、回復…。そうだ、薬草を!早くお願いします!」
僧侶「………」
僧侶「一応薬草を肌の見えている所に当ててみましたが…」
勇者「うっ……こ、ここは……」ヨロ
─────── ─────── ────
剣「回復するの異常に早いな。コイツ本当に人間じゃないわ」
─────── ─────── ────
僧侶「あっ!まだ立ってはいけません!そのままで──」スッ
勇者「待った…いつつ……装備にだけは触れないでくれ…色々面倒ごとが起きる」
勇者「特に鎧だけはダメだ…あと盾も」
僧侶「ふぇっ!?あ、危なかった…」
─────── ─────── ────
剣「この僧侶、一々反応が可愛いな。呪って歪んだ笑みを見たくなるぞ」
剣「ちなみに鎧以外は何か特徴とかってあるのか?」
盾「俺に触れたものは原型を保てなくなる。つまり、絶対無敵って訳だ」
剣「うわっ、それ盾として持ってたらいけない能力だろ。強すぎだわ」
盾「そうでもなきゃ呪われてる意味が無いだろ。まぁ勇者が俺を使ったことは一度も無いけどな」
剣「まぁそうだな、一応呪い装備だしな」
─────── ─────── ────
勇者「なんとか……動けるように、なったかな」フラッ
僧侶「だ、ダメですよ!そんな大怪我をした状態で動いたらいけません!」
勇者「そうは言ってもなぁ…。俺にはやらなきゃいけない事があるんだ」
勇者「俺は魔王を倒し、この世に平和をもたらさなきゃいけない…」
勇者「勇者として、休んでいる暇はないんだ!」
僧侶「えっ!?勇者だったんですか!?」
勇者「どこからどう見ても勇者だろ!」
─────── ─────── ────
剣「どこからどう見てもお前ただの怪物だよ」
兜「100歩譲っても、とてもじゃないが勇者とは言えないわな」
─────── ─────── ────
勇者「そんなことより助けてくれてありがとう…。何かお礼をしたいのだが」
僧侶「い、いえ…私は僧侶として当然の事をしただけで、そんな…」
勇者「だが、何もしない訳には……」
衛兵「ま、魔物だ!魔物の大群が押し寄せてきたぞ!」
上官衛兵「皆、臨戦態勢を取るんだ!魔物たちを迎え討つぞ!」
勇者「魔物か…。じゃあこうしよう、俺が魔物を全部倒す」
僧侶「そんな無茶な!」
勇者「ここらの魔物なら飽きるほど戦い慣れてる。これでも余裕で倒せるだろう」
僧侶「で、ですが、その怪我で動くのは…」
勇者「こんなの日常茶飯事だよ。むしろ一番良い状態といっても良いかもしれない」
─────── ─────── ────
篭手「空気読まずにすまん。たぶんこの魔物、俺の魔物を呼ぶ呪いのせいだわ」
剣「そういうのは分かってても言わない流れだろ」
─────── ─────── ────
勇者「ひとりでやるつもりだったけど……。結局僧侶さんもついてきてしまった…」
勇者「さてと、魔物の数は100ぐらいか? 随分と少ないな」
勇者「遠めで確認できるのは……キラーストーカーと地獄の騎士、あとはマドハンドの群れってとこか」
勇者「この程度なら全力を出さなくてもよさそうだな。ようがんげんじんの群れだったらやばかったか」
─────── ─────── ────
剣「地獄の騎士も大概だと思うがな」
兜「まぁ攻撃される前に全滅させるんだからいつもと変わらんよ」
兜「ただHPが多いやつだと呪いダメージが多いから嫌いなだけだろうな」
─────── ─────── ────
僧侶「あの…本当に大丈夫なのでしょうか?あんなに魔物がいるんですよ?」
勇者「ん?あれぐらいなら皆毎日のように倒してるでしょ?」
僧侶「えっ」
勇者「え?俺なんか変なこと言った?」
勇者「と、とりあえず、あいつらが町に近づく前に全部片付けないとな」
勇者「見たところアンデッド系モンスターが多そうだから…」
勇者「火属性で攻めるのが定石だな。あと広範囲に散らせたいから風と組み合わせて…」ブツブツ
僧侶「あの、勇者さんは一体何を?」
勇者「おっと、危ないから離れてくれ」
勇者「トルネード!ファイアッ!」ボゥッ!
─────── ─────── ────
剣「またすごい魔法を使ったな」
兜「あれでもかなり抑え気味だぞ」
剣「魔法適性も高いのか。もはやなんでも有りだなこの勇者は」
─────── ─────── ────
僧侶「す、凄い…!あんなにいた魔物が今の魔法でほぼ全滅…」
上官衛兵「な、なんという技なのだ……。まさしくこれは勇者様のなしえた奇跡なのか…?」
勇者「おっしゃぁあ!今から残党狩りだァ!」ザシュ
勇者「おらおらぁ!ついでに薬草とか聖水を落とせぇ!」ズバァッ
─────── ─────── ────
剣「本当に呪いダメージ関係無く暴れるな」
剣「これで本当の実力の半分近くしか出せてないってんだから恐ろしい」
剣「まぁ俺としては暴れさせてくれて有り難いんだが」
─────── ─────── ────
勇者「こいつで最後だ!」ズバッ
マドハンド「」
勇者「ふぅー、いい運動したなぁ。いででっ」ゴフッ
衛兵「一人であの魔物の群れを全て退治してしまった……これは夢なのだろうか…?」
勇者「さて、これでこの町も暫くは魔物からの脅威は無くなるだろう」
上官衛兵「なんとお礼を申し上げたら良いのか…」
勇者「世界救う為に勇者やってんだからそんなのいいって」
勇者「それに俺は助けられた立場だから。これでチャラってことにしてくれないかな?」
勇者「そんなことより薬草と聖水を買わせてくれたら有りがたいかな」
上官衛兵「そんな!この町の危機から救って下さった勇者様からお金を頂戴するなんてとんでもない!」
勇者「いやそうは言ってもさ…。たぶんこの魔物は俺のせいで呼び寄せられたものだと思うんだよね…。見た目じゃ分からないだろうけど、俺、呪われててさ」
勇者「全身伝説っぽい装備で固めてるのは分かるだろ?だけど年季が経ちすぎた影響なのか全部呪われてるんだ」
勇者「以前魔王が復活したのが何百年も前だからこうなるのも仕方ないよなぁ……勇者も辛いもんだ」
上官衛兵(それはひょっとしてギャグで言っているのか!?)
僧侶「あの……勇者様、少しよろしいでしょうか?」
勇者「ん?薬草落ちてた?」
僧侶「それはもう袋に入りきらないぐらいに!」
僧侶「──じゃない!そうじゃなくて、その、お体は大丈夫なのでしょうか?」
勇者「体?ああ、この程度なら全然余裕だよ。このまま次の町までスキップしていけるぐらいには」
僧侶「嘘言わないでください!」
勇者「お、おう…」
勇者(本当の事なんだけど…)
僧侶「勇者様は確かに強いです。びっくりするぐらいに。ですが魔物を倒すたびに魔物の血と一緒に勇者様も怪我をされていましたよね?」
僧侶「私は勇者様が傷ついていくのが悲しいです…」ウルッ
僧侶「そんなに一人で無理しないで下さい…っ!」ポロ
─────── ─────── ────
兜「あーあ、勇者が女の子泣かせた!この可愛い女の子泣かせた!」
兜「勇者失格だな!このクズ野郎!やっぱりコイツは人じゃねぇわ」
剣「そこまで言わなくてもいいんじゃないか?」
─────── ─────── ────
勇者「ご、ごめん…」
僧侶「謝っても許しません!その装備は完全に悪いものです!さぁ、こっちに来てください!」
僧侶「勇者様が安全に冒険できるように解呪してあげますから!」
─────── ─────── ────
兜「やっぱり僧侶ってクソだわ」
鎧「本当にクソだわ、俺らの事を何も分かっちゃいねぇ」
盾「俺らが可哀想だと思わないのか!この悪魔!」
剣「よーしお前ら、さっき自分が言った言葉を思い出そうか」
─────── ─────── ────
勇者「うぇっ!?か、解呪だって!?そんなのお断りだ!」
勇者「それにこれは悪いものじゃない!紛れもない本物の伝説の装備だ!」
勇者「現に俺はこの装備に幾度と無く助けられた…」
勇者「それに超カッコいい!だからダメだ!」
僧侶「そんなのが伝説の装備な訳ないじゃないですか!さぁ早く!」
勇者「絶対嫌だ!そんなに解呪して欲しければ魔王倒してからにしてくれってんだ!」
勇者「まぁ倒したとしても頼まないと思うけどな!」
僧侶「うっ…ぐっ……」
僧侶「そ、そこまで解呪したくないんですね?」
勇者「ああ!」
僧侶「なら………私も勇者様の旅に同行します!」
─────── ─────── ────
剣「あ、それは辞めた方がいいと思う」
─────── ─────── ────
勇者「あー……その、気持ちはありがたいんだけど…この町にいた方がいいと思うよ」
僧侶「じゃあ解呪してください」
勇者「それは嫌だ」
僧侶「じゃあ同行します!絶対に呪われた装備から開放してみせます!」
勇者「いや…いやいや!ハッキリ言って寝る暇なんて無いよ?三日三晩歩き続けとかでもいいの?」
勇者「それに、俺のすぐ近くに魔物が沸いて出るんだ!それも時間問わずに!」
勇者「本当にそれでもいいの?」
僧侶「いいんです!私だって伊達や酔狂で僧侶やってるわけじゃありません!」
僧侶「勇者様が傷付く姿が見たくないだけなんです!」
─────── ─────── ────
剣「なんかこの会話聞いてると苛々してくるな…」
靴「遠回りで俺らを批判してるだけだよな」
剣「お、基本無口な靴が喋った」
靴「いつも歩かせられてるから喋る暇が無かっただけだ」
─────── ─────── ────
勇者「そこまで考えてくれていたなんて…!なんていい人なんだ…ッ!」
勇者「正直なところ、実は不安だったんだ…。また今日みたいなことがあってしまうのかと思って」
勇者「そろそろ魔物も強くなってきていて一人で冒険できるか不安でもあったんだ」
勇者「ありがとう…こんな俺を心配してくれて!」
僧侶「い、いえ…そんな……」
僧侶「じゃあ少し準備してきますので待っててください!」
─────── ─────── ────
剣「勇者チョロすぎじゃね?」
剣「それにただの僧侶をつれだして本当に大丈夫なのか?」
兜「まぁ大丈夫だろ。腐っても勇者なんだし僧侶は怪我しないって」
剣「いやそうじゃなくてさ、俺らの呪いの弊害だよ、彼女三日持たないんじゃないかなぁ」
兜「怪我じゃなくて呪いの弊害に心配する日が来るとは思わなかったわ」
─────── ─────── ────
僧侶「お待たせしました!」ズシッ
勇者「ああ、待ってたよ──ってやけに荷物が多くないか?」
僧侶「当然ですよ!回復呪文が使えなくてオマケに魔物がひっきりなしに来るのならこれぐらい用意しないとです!」
僧侶「それに神様にお祈りする用の簡易祭壇とかも必須です!」
勇者「本当にそれ必要…?まぁ僧侶だから必要なのかな?」
僧侶「それとテントと寝袋とあとはおやつも入っていますから後で一緒に食べましょうね!」
僧侶「冒険が飽きないようにカードゲームも沢山用意してますから絶対楽しい旅になりますよ!」
僧侶「特にお勧めなのが遊戯お──」
勇者「うん、とりあえずカードゲームだけは置いていこうか」
─────── ─────── ────
剣「ピクニック気分で行く気かよ」
─────── ─────── ────
勇者「ふぅ…これで終わりか」
焦慮「朝から毎度お疲れ様です。はい、薬草です」
僧侶は祝福された薬草を手渡した!
勇者は呪われた薬草を食べた!
勇者「うん、疲れた体に薬草は効くなぁ」
僧侶「まだおかわりは沢山ありますから食べてってくださいね!」
─────── ─────── ────
剣「おい、勇者が持った瞬間に呪われたぞ」
篭手「まぁ俺を通して薬草触ってるしな、そりゃ呪われるだろ」
剣「そういや篭手も呪われてるんだったな…」
剣「いやおい僧侶、お前仮にも僧侶だろ?それどうにかしろよ」
剣「つーか食わせるなよ」
─────── ─────── ────
勇者「しかし、俺が冒険をし始めてから魔物が格段に強くなってきてるな…。ダメージがキツイや」
僧侶「大丈夫ですか?あまり無茶はしないで下さいね?」
勇者「大丈夫だって、この程度なら許容範囲内だ」
僧侶「そうならいいんですが……。気になっていたんですが、勇者様が冒険を始めたときからそういう格好だったんですか?」
勇者「いや、木の棒と私服で冒険開始」
僧侶「え」
僧侶(想像できないなぁ…勇者様のその格好)
勇者「王様から渡された金も薬草一個がギリギリ買える程度にしか渡されなくてな…」
僧侶「よくそんな状態からここまで進化…いえ、冒険できましたね」
勇者「まぁ昔から鍛えてはいたからさ、冒険は何事もなく進んでいたよ」
勇者「こう見えて王国一の剣術と魔術の使い手だからな」
勇者「なんだかんだあって勝手に勇者に仕立て上げられて冒険を始めさせられたわけだ」
僧侶「そうですか…そしてなんでそんな格好に?」
勇者「そうだなぁ…冒険を進めていけば伝説の装備の話は聞こえてくる」
勇者「魔王城に向かいつつ怪しい洞窟とかに行ってたらあったんだよ、それがこの伝説の装備だ!」
─────── ─────── ────
剣「伝説級に呪われてる装備だがな」
─────── ─────── ────
僧侶「伝説の装備ってこんな禍々しい装備でしたっけ…」
勇者「まぁ時間が経ってるしそれは仕方ないさ。それにお札とかで厳重に封印がされてたし周りに装備守るボスもいたから間違いないって」
勇者「なんたってこの黒々しい輝き、この刺々しい見た目、カッコいいじゃないか!」
僧侶「もう伝説の装備でいいです、突っ込むのも疲れました」
勇者「まぁカッコいいから俺は呪いとか関係なく一生装備していくけどな」
─────── ─────── ────
剣「一生発言出ちゃったよ、風呂にもその格好で入るつもりか」
兜「脱がずに入るところまで用意に想像できてしまったんだが…」
─────── ─────── ────
勇者「よっと!」ザシュ
僧侶「えいっ!」ゴスッ
僧侶「はぁ…はぁっ……ま、また魔物ですか…はふぅ…」
勇者「まぁ慣れたけどね」
僧侶「よく慣れますね…でも、これで最後っ!」ブンッ
魔物「グゲッ!」バタッ
僧侶「ふぅー…これで一休みでき──」
勇者「避けろ僧侶! 」ダッ
僧侶「え?」
魔物「グァアアッ!」ブンッ
僧侶「あっ…」
勇者(くそっ!剣を振りかぶってる暇がねぇ…せめて体当たりでアイツの体勢を崩すことが出来ればっ!)
勇者「この野郎ッ!」ドガッ
魔物「ゲギッ!」
─────── ─────── ────
鎧「………」
剣「ん?鎧、どうした?」
鎧「いや、なんでもねぇよ…。ただ、初めて勇者が体当たりをしたって事がな」
剣「そういやお前魔物戦で初めて使われたんじゃないか?」
鎧「まぁ、な……」
剣「でもまぁお前の効果で魔物は確実に息絶えるだろうな、咄嗟の判断としては上出来じゃないか?」
鎧「それが普通の鎧だったらな…。まぁ、これからどうなるかだな」
剣「?」
─────── ─────── ────
勇者「クソッタレ!この野郎!離れやがれ!」ドガッバキッ
魔物「ウギィ……」
僧侶「勇者様…お、落ち着いて……」
ズリュ ゴギィ
魔物「――ッ……」
僧侶「そ、そんな…魔物が鎧に吸収されている…?」
勇者「くそっ!この……っ!」
勇者「はぁ…はぁ……この鎧は…魔物まで吸収、するのか……」
ズギィ!
勇者「ぐぅっ!な、なんだ…?体…が…」ガクッ
僧侶「勇者様…?どうなされたのでしょうか?」
勇者「ぐぅ……ぁ……ぁ…」ガクガク
─────── ─────── ────
剣「お、おい…なんか様子がおかしくないか?」
鎧「いや、正常だぜ?」
剣「どうみてもおかしいだろうが!これのどこが正常だと──」
鎧「あのな、俺は吸収するんだぞ?それが物理的に触れるものならなんでもな」
鎧「勇者は魔物を丸々一匹喰った。今はそれの処理をしてるだけさ。何もおかしいところはない」
剣「大丈夫なのかよ…。よくこういった流れだと正気失って人じゃなくなるみたいなのあるじゃん?」
鎧「ああ、その認識で間違いない」
剣「だったらお前、勇者は…っ!」
鎧「まぁ落ち着け。一つ例え話をしようか。人間は牛をそのまま一頭丸ごと食えるか?」
剣「いきなり何を……」
鎧「いいからいいから」
剣「……ま、無理だな。何かしら料理をしないと食えないだろう」
鎧「そうだ。だが勇者は丸ごと一匹喰ったわけだ。そりゃこうなるよな?」
剣「なるほど……。無理矢理食った物を消化しているって訳か。しかし勇者とはいえ人だぞ?大丈夫なのか?」
鎧「あのな、勇者は数ヶ月もほぼ全身呪われてる状態だぞ?そんな奴が魔物一匹ごときでイカれちまうと思うか?」
剣「イカれないわ。ごめん俺がバカだった」
─────── ─────── ────
僧侶「勇者様!勇者様!大丈夫ですか!?」
勇者「う…ぐっ……」
勇者(せ、聖水を飲まなきゃ…。これは、マズイっ!)ゴソゴソ
勇者「んっぐっ……」ゴクゴク
僧侶「え?聖水を飲んでいる!?」
僧侶「それって振り掛けるものじゃ……」
─────── ─────── ────
剣「やっとマトモな突っ込みが入ったな」
─────── ─────── ────
勇者「んぁああああああッ!!!」ビクッビクッ
僧侶「わっ!な、なに?なにが起きてるの!?」
勇者「おふっ!アヒィッ!!あっ…んぁあっ!!」ガクガク
勇者「イイッ!!だめぇ…お母さんごめんなさいっ!!!」
勇者「んほぉおおおお!!!」
僧侶「ゆ、勇者様…?」
─────── ─────── ────
剣「勇者の尊厳とプライドの為にこれ以上見ないでくれると助かる」
─────── ─────── ────
勇者「………」
僧侶「………」
勇者「………」
僧侶「あの……ひ、人には色々ありますから……。私は、き、気にしない、ですから……。あ、あはは…」
僧侶「そ、それより次の町に行きましょう…!次の町の宿屋にはお風呂があるといいですね!」
勇者(誰か俺を殺してくれ…)
─────── ─────── ────
腰当「戻れない場所の一歩手前で踏みとどまったのだけは評価してやる」
剣「勇者が色んな意味の勇者に成り代わった瞬間を俺は見てしまった」
─────── ─────── ────
勇者「はぁ…」トボトボ
僧侶(あの日から勇者様の元気が無い…)
僧侶(魔物に対しても昔は掛け声と共に倒してたけど今は…)
勇者「はぁ……」ヒュバッ
魔物「」
僧侶(ため息つきながら何も無かったかのように魔物を倒してる…)
僧侶「あ、薬草」
勇者「…え?薬草?」
僧侶(薬草にも気が付かないなんて…。少し前は落ちた瞬間に食べてたぐらいに元気あったのに…)
僧侶「あの…本当に気にしてないですから……。元気出してください、勇者様」
勇者「いや、そのことはもう自分の中で区切りが付いたんだ…。あれも呪いの一部だって気付いたし」
─────── ─────── ────
剣「そんな呪い付けてねぇよ」
─────── ─────── ────
僧侶「ですが、あの日から様子がおかしいままですよ!そんなの勇者様らしくありません!」
勇者「………」
勇者「あのさ……あの時、なぜか俺の母さんの顔が思い浮かんだんだ」
勇者「もうずっと会ってないのに突然……はは、おかしいよな?」
勇者「母さん……」
僧侶(もしかして勇者様のご両親は既に……)
勇者「はやくおうちに帰りたい…」
僧侶「ホームシックかよ」
僧侶「はぁ…勇者様のご両親は生きていらっしゃるんですね?」
勇者「ああ、元気に過ごしてるよ。そういえば、男だけじゃなくて女の子も欲しいとか親父と喋ってたりもしてたな」
僧侶「元気ありすぎですよそれ!」
僧侶「全くもう、仮にも由緒正しき勇者の血統を継ぐんですからそんな弱音を吐かないでください!」
勇者「あー、そういや言ってなかったな」
勇者「俺、勇者の代役なんだわ」
僧侶「え?」
僧侶「ど、どういうことですか?」
勇者「まぁ要するに、俺は元々ただの戦士だったわけよ」
勇者「本当なら俺が勇者をやるんじゃなくて、ちゃんとした勇者の血統を受け継いだ奴がやる予定だったんだ」
勇者「だが、本当の勇者さんは部屋から出てこないんだ」
勇者「聞いたところによると、冒険とかめんどくさくてやりたくないらしい」
勇者「で、しょうがなく俺になったわけだ」
僧侶「ニートってやつですか?」
勇者「間違いなくニートだな」
僧侶「親御さんが泣いてますよね…。少し親御さんに同情します」
─────── ─────── ────
剣「親の事を心配する言葉が一番攻撃力あるよな」
─────── ─────── ────
僧侶「そうこうしているうちに次の町が見えてきましたよ勇者様!」
僧侶「地図で見ると……たぶんあの町が魔王城に至る中で最後に立ち寄る町のようです」
勇者「つまり、最後に休憩できる町って訳か…」
僧侶「そうなりますね。魔物との最前線なわけですから屈強な人々も揃っているはずです」
勇者「なるほど…。その人たちを仲間に加えられれば……」
勇者「って、ここまで来ると今更感すごいな…」
勇者「それより、ちゃんと町の中に入れるかな…」
僧侶「たぶん無理だと思います。しかし一つだけ方法が」
─────── ─────── ────
兜「解呪だろ、させねぇよ」
鎧「やれるもんならやってみな!相手してやるぜ!」
剣「意気込んでるとこ悪いが、俺らが抗える術は無いと思うぞ」
─────── ─────── ────
勇者「なに!?それは本当か!」
僧侶「えぇ、あります。しかし、それには苦痛を伴いますがよろしいでしょうか?」
勇者「苦痛!?まさか、整形手術なのか!」
僧侶「違います。そもそも勇者様の顔はその兜で殆ど隠れてるじゃないですか」
勇者「なら言っておくが、解呪だけはしないからな?」
勇者「仮にもこれは伝説の装備なんだぞ!そんなことあってたまるか!」
勇者「それにこの装備を外せば……俺は勇者じゃなくなってしまう…。それだけは嫌なんだ」
僧侶「ちっ…これならうまくいくと思ったのに!」
勇者「いま聞き捨てならない言葉が聞こえたような──」
僧侶「気のせいじゃないですか?」
─────── ─────── ────
兜「おい!今の録音した奴いるか!重要な証拠だぞ!」
剣「俺らに録音機能があるわけないだろ!」
─────── ─────── ────
僧侶「じゃあどうするんです?そんな格好で町になんて入れないですよ?」
勇者「それをどうするか…。俺も久々に風呂に入りたいし、僧侶だってふかふかな布団で寝たいだろ?」
僧侶「まぁそうですねぇ…。あっ、いい考えが浮かびました!」
~最後の町 門前~
勇者「ど、どうも…」
門番「待て!お前らは何をしにここまで来た」
勇者「そりゃ世界をすく──」
僧侶「私達は王様のご使命で、この近辺の魔物の生態を勇者様に伝えるべく調査をしに来ました」
門番「ふん、なるほどな。貴様はともかく、そこの者はなんだ?まるで化け物ではないか!」
勇者「なんだと!この──」
僧侶「うっさい!少し黙ってて!」
僧侶「あ、申し訳ありません。無礼な態度をお見せしました」
門番「あ、ああ、構わんよ…」
僧侶「えっとですね、この者は暗黒騎士なのです。見た目は少し…いえ、かなりアレですが、これでもかなり腕の立つ者でして──」
勇者「いや、俺はゆ──」
僧侶「黙れって言ってんのがわからないの!?」
僧侶「私の苦労も少しは考えてくださいよ!毎度毎度あなたの装備でこう言われる身にもなってくださいよ!」
僧侶「今度生意気な口出すと容赦しませんからね!グーで殴りますよ!グーですからね!」
勇者「ご、ごめんなさい…」
僧侶「分かればよろしい。で、あの…入れて頂けませんかね?」
門番「う、うん…いいよ……。あ、宿屋はそこの角を曲がったとこにあるからそこで休むといい」
僧侶「わぁ!本当ですか!ありがとうございます!」
僧侶「さぁ行きましょう!ゆ…暗黒騎士さん!」
門番(おっかねぇ…。あの僧侶怒らせたらいけない人だわ)
~町内~
僧侶「ごめんなさい勇者様!あそこを乗り切るにはこう言うしか無くて…」
勇者「いや別に気にしてないよ…。うん、気にしてない」
僧侶「でも流石最後の町だけあって、勇者様のその格好でもそこまで怪訝な顔をされずに済みましたね」
勇者「格好は問題ないと思うんだけどなぁ…。ただちょっと風化されすぎてるだけで──」
僧侶「はいはい、そういうことにしておきます。あ、宿屋が見えてきましたよ!」
勇者「久々に宿屋に入れるな…。温泉とかあるといいなぁ」
僧侶「えっと…勇者様、どうやってお風呂に入るつもりですか?」
勇者「え?そりゃ脱げないからこのままで──」
僧侶「いやいや!それは流石にダメですって!」
─────── ─────── ────
鎧「なぁ、俺らって湯に浸かったら錆びる?」
兜「錆びるんじゃね?」
靴「錆びた呪われた装備って嫌だなぁ…」
腰当「なんとか俺らが生き残りつつ、風呂と布団で寝るときだけ外せるようなそんなアイテムとかってないかなぁ」
剣「そんなご都合主義なアイテムあるわけないだろ…」
─────── ─────── ────
僧侶「と、言うことで用意してました!教会に一セット分しかなかったこの装備を外せるお札!」
─────── ─────── ────
剣「あるのかよ!都合良すぎだろオイ!」
兜「やったじゃん。なんだかんだ言って頼りになる奴だわ」
鎧「やっぱ最後に頼りになるのは僧侶だわ」
剣「おうお前ら、少し前に僧侶に対して言った台詞もう一度言ってみろや」
─────── ─────── ────
勇者「そんな便利アイテムがあったなんて…!凄い世の中になったもんだ」
勇者「じゃあ風呂入る時と寝る時はそれを使わせてもらうかな」
僧侶(きたっ!これで私の解呪の計画が大幅に進む!)
僧侶「そりゃもうドンドン使ってください!」
勇者「ああ、ありがたく使わせてもらうよ。それも解呪までしてくれるなんて僧侶はいい人だなぁ」
僧侶「でしょう?さっすが勇者様、私の計画が言わなくても分かるなんて──はっ!?」
僧侶「あっいや、これは違って──」
勇者「さて、どうやって保管しておくかな」
僧侶「あたしって…ホント馬鹿……」
─────── ─────── ────
剣「バカで助かったぁっ!」
兜「バカは呪いを救う。これは名言になりそうだ」
─────── ─────── ────
~宿屋~
店主「いらっしゃい。一人一泊150ゴールドだよ」
店主「それにプラス300ゴールドで開放感溢れる素敵な露天風呂と夕食、朝食セットも付くからお得だよ」
勇者「じゃあそれにしようかな。すいません、それを二部屋で」
店主「一部屋で二人寝れる部屋も案内出来るけど…それでも良いのか?」
店主「防音もバッチリしてるからどんな大声出してもお隣には聞こえないさ」
勇者「大声?あぁ…」
僧侶「なぁっ!?そ、そんな…私達はそんな関係じゃ…」
勇者(解呪の儀の時に色々言うんだろうな…。お隣さんに迷惑がかからないようにって配慮かな?)
僧侶(待って…。勇者様とはそんな関係じゃ…。でもよく見たら、勇者様ってキリっとした目つきだし…)チラッ
僧侶(口には出してないけど、勇者様から幾度と無く助けられたし…それに)
僧侶(それに…あの装備の下ってどうなってるのか…気になる)
僧侶「ど、どうします?わ、私は…いい、ですよ?」
勇者「………」
勇者「いや、やっぱり二部屋にしてもらえるかな」
店主「お、おやおや…。その彼女さんがいいって言ってるのに…本当にいいんだね?」
勇者「えぇ、大丈夫です。むしろ相部屋だとどんな事が起きるか不安で…」
勇者(朝起きて俺の装備が粉々になってたら立ち直れないし…)
僧侶「そう、ですね……。その方がお互いのためにも良いですよね」
店主「そうかい…。なら900ゴールドを頂くよ」
─────── ─────── ────
兜「これは…どう見る?チキンな勇者と見るのが正解か?」
鎧「いや、勇者はバカだ。ソッチのこととは全く気付いてないだろう」
篭手「じゃあ僧侶はどうなんだ?どう考えてもソッチの事を匂わせた発言をしていたが」
腰当「あー、僧侶に関しては最初はソッチの方を考えたな。が、途中で考えを改めた感じだな」
靴「あの目つきから察するに、大方勇者のこの装備の下ってどうなってるか気になったんだろうな」
盾「ま、俺らとしちゃ解呪されなきゃなんでもいいんだけどな」
─────── ─────── ────
勇者「ふぅー」
勇者「数ヶ月ぶりの宿屋か…。風呂入る前にハサミとか髭剃りとか用意しておかないと…」
勇者「あ、僧侶は先に風呂にでも入ってくれ」
勇者「長旅と道中の魔物との戦いで疲れただろ。しっかりと休んでくれ」
僧侶「そうですね。ではお言葉に甘えさせていただきます」
勇者「僧侶が風呂に入ってる間に、俺は売店で少し買い物でも済ませておくかなぁ」
勇者「っと、その前に荷物を部屋に置いて……」
勇者「ん?なんだこの紙切れは?」
【使いたくなったらいつでもどうぞ】
勇者「なんだこれ?」
勇者「素材はゴムか?こんなの何に使うんだ?」
勇者「………」
勇者「!」
勇者「そうか!これで薬草を束ねておけってことか!いやぁあの店主さんもいい人だなぁ!」
勇者「じゃあありがたく使わせてもらうか!」ベリッ
─────── ─────── ────
鎧「あー、それは大人の方だ」
剣「そのまま町の外まで行ったら真の勇者だな」
─────── ─────── ────
僧侶「勇者様!いいお湯加減でしたぁ!」
僧侶「あ、お札を貼りますね!」
勇者「もう上がってたのか。じゃあお願いするかな」
僧侶「それじゃあ…鎧とかに肌が触れないように注意してっと…」ペタッ
─────── ─────── ────
剣「ははっ!あんなお札貼っただけで、簡易的とはいえ俺らが封印されるわけ無いよな!」
鎧「」
剣「鎧?え?マジ?」
剣「あっちょっ…や、優しくお願いしま」
─────── ─────── ────
僧侶「これで全部ですかね」
勇者「お、おお。なんだか体が軽くなったような…これがそのお札の効果か?」
僧侶「まぁ一時的にですけど、持って一晩が限界だと思います」
勇者「一晩が限界か…。このまま冒険続けられれば苦労も無いんだけどなぁ」
僧侶「それだと解呪するしかないです…。でも解呪だけはしたくないんですよね?」
勇者「それをやったらこの装備が壊れるからな」
僧侶「……」ジーッ
勇者「あの、僧侶さん?そう見られると脱げないんだが…」
僧侶「あ、そ、そうですね!ごめんなさい!」
勇者「はぁ…。全く、じゃあ俺も風呂に入ってくるよ」トコトコ
僧侶「……」トコトコ
勇者「……」トコトコ
僧侶「……」トコトコ
勇者「あの……なんで付いてくるの?」
僧侶「なんでって…おかしいですかね?」
勇者「僧侶、お前もしかして疲れてるのか?」
勇者「ふぅ…。やっと僧侶が我に返って部屋に戻っていった…」
勇者「さてと…この装備を脱げる日が来るとは…」ヌギッ
勇者「んぉおっ!?脱いだ瞬間に体から羽が生えたような開放感がするぞ!?」
勇者「これは…待ちに待ち望んだ風呂に入れるという喜びからなのか!?」
勇者「もう我慢できん!サッと体洗ってじっくり風呂に入って今までの疲れを癒す!」
~翌日~
勇者「おはよう、僧侶」
僧侶「はぁ……結局、勇者様の素顔を見れなかった」
勇者「ん?なんか言ったか?」
僧侶「え?あ、いえ、何も!」
僧侶「それより、明日から魔王城に向けて出発するんですから今からルートを決めておかないと」
勇者「そうだったな……。魔王城まで最短でどのくらいかかりそうだ?」
僧侶「地図を見る限りですと、大体一週間と言ったところでしょうか」
僧侶「早く見積もっても五日、遅ければ九日でしょう」
僧侶「でもこのルートだと、かなり険しい道のりを突っ切るのであまり得策とは言えません」
勇者「じゃあ回り道をした場合は?」
僧侶「んーっと、この場合はかなり遠回りをすることになりそうです」
僧侶「大体二週間近くかかるかもしれません」
勇者「そうか…。二週間も野宿していくのはこの先厳しいものがあるな」
僧侶「ましてや、ひっきりなしに魔物が襲い掛かってくる旅ですからね」
勇者「そうだなぁ…。よし、最短ルートで行く!」
勇者「僧侶はどうする?もしあれなら、ここで待っていてもらっても構わないけど…」
僧侶「いえ、私は勇者様のサポートをする為にここまで来たんです。最後まで一緒に行きますよ!」
僧侶「薬草だって勇者様一人だと持ちきれないですよね?」
僧侶(それに、魔王と戦う前には解呪したいし……。流石に呪われたままで戦うのは無理があります)
僧侶(いやでも、勇者様ならそのままでも勝てそうな気が…)
勇者「そっか、それを聞けて安心したよ…。ありがとう」
僧侶「いえいえ、お礼を言うのは魔王を倒してからにしましょう」
勇者「それもそうだな」
僧侶「あの…勇者様はどうして魔王を倒そうと決心したんですか?」
勇者「ん?そうだなぁ……。元々俺は勇者様御一行に付いて行くために修行をしていたんだ」
勇者「子供の頃から親父に、お前は世界一の剣士になれって言われて」
勇者「母さんには世界一の魔法使いになれって言われてきたよ」
勇者「で、めんどくさくて全部やったわけよ」
勇者「そのときにさ、魔物が近所に現れたんだ」
勇者「あの時の俺はまだ弱くて、魔物を3匹倒したところで疲れ果てたんだ」
勇者「でも親父と母さんは違った。涼しい顔してその後も魔物を蹴散らしてた」
僧侶「………」
勇者「その時に決心したんだ」
勇者「魔王を倒せば親を超えられるんじゃないかって。それが動機かな」
僧侶「そうですか……。かなり話が飛躍しすぎている気もしなくはないですが分かりました」
僧侶「それって、勇者様が何歳の頃の出来事だったんですか?」
勇者「忘れもしないさ、あの時の俺は7歳だ」
僧侶「………」
勇者「ん?どうした?」
僧侶「なんというか、勇者様って凄いんですね」
勇者「凄くないさ。本当の勇者に比べたら俺なんかまだまださ」
僧侶「ってことは、本当の勇者様はもっと強いんですか?」
勇者「そりゃそうだ。由緒ある血統を継ぐ者だから強くて当たり前だな」
勇者「前に一度戦ったことがあるけど、全力を出してないのが分かったさ」
僧侶「戦ったことがあったんですか!?」
勇者「まぁな…。王国主催の剣術大会の決勝で戦ったよ」
勇者「結果としては俺が勝ったんだが、本当の勇者は全く力を入れてなかったんだ…」
勇者「表情だけはいかにも全力出してますよって感じでさ。俺に対して配慮したんだろうな、あれ」
勇者「全力を出せば一瞬でケリがつくからってさ、悔しかったなぁ…」
勇者「俺が勝ったあと、全力を出し切ったような顔して無言で立ち去るし…。別次元で生きてるってことを思い知ったよ」
僧侶(もしかして、本物の勇者様は全力だったんじゃ……)
僧侶(あぁなるほど。だから部屋から出て来なくなった訳ですか……)
勇者「ついに魔王城に向けて出発か…。気を引き締めていこう」
僧侶「ですね、方角的にはこの湿地帯を進むことになります」
僧侶「その後にあの山を越えたら魔王城まで一気に行けると思います」
勇者「そっか…。じゃあまずはこの手厚い歓迎をしに来た魔物を蹴散らしながら進むか!」チャキ
─────── ─────── ────
剣「昨日はよく寝たし、状態は万全だ」
篭手「一晩ぶりとは言え、腕が鳴るな…」
剣「篭手だけにってか…?ちなみに篭手の能力はなんなんだ?」
篭手「俺は限界以上に筋力を引き出させる能力だ。ミスリルゴーレムと腕相撲勝負できる位にはな」
篭手「まぁそんなことしたら腕がもげるけど、勇者なら平気か」
剣「まぁ勇者だしな」
─────── ─────── ────
僧侶「やあっ!」ボコッ
魔物「グッ…」
僧侶「もう一発!確実に仕留めます!」ボコ
僧侶「はふぅ…。これで、終わりですね」
勇者「みたいだね。僧侶さんも近接戦闘がだいぶ板についてきたと思うよ」
僧侶「本職ではないんですけど、こうも魔物が多いと必然的と言えますね」
勇者「でも僧侶さんがいてくれて助かってるよ。ここらの魔物はHPが多くて厄介だからなぁ」
僧侶「勇者様に出来ることと言えば、薬草を渡すことと戦うことぐらいしかできないですから…」
僧侶「あ、そうだ!勇者様、口を開けてください!」
勇者「ん?あ、あー」
僧侶「じゃあ薬草を食べさせてあげますね?」
勇者「んんっ!い、いやそれはいいよ…。自分で食べれるから」
僧侶「あーん!」
勇者「はい…」
─────── ─────── ────
剣「爆ぜろ」
兜「ムカつくわぁこれ、見せ付けんならよそでやれ」
─────── ─────── ────
勇者「ふぅー、やはり山登りは結構キツイな」
勇者「オマケにこんな山道でも魔物が襲ってくるなんてな…よっと!」ザシュ
僧侶「はぁ……はぁ…」
勇者「少し休憩するかな。もう少し先に休憩できそうな場所が見える。今日はそこで野宿しようか」
僧侶「は、はい…」
勇者「はぁ…山道なら少しは魔物も減るかと思ったが、そう甘くは無かったみたいだな」
僧侶「よく、こんな場所で戦えますね…」
勇者「むしろ広範囲に散らばってないから戦いやすいかな。とりあえず僧侶さんは休んでてくれ」
僧侶「そうします…。すいません、足手纏いになることばかりで」
勇者「いや、足手纏いなんて思ってないよ。むしろ、ピオリムをかけてくれたりして助かってるよ」
勇者「補助呪文に関してはあまり得意じゃないから本当にありがたいよ」
─────── ─────── ────
剣「だからコイツは自分で補助呪文をかけてなかったのか」
兜「自前の能力だけで全て解決してきたからな。それと俺らの効果も多少あるが」
剣「そういや兜ってどんな効果なんだ?」
兜「俺は魔力を限界以上に引き出す能力だ。常時全開状態で魔力を出す」
兜「普通なら一時間も持たずに廃人になるが…。今回は勇者だからな」
剣「やっぱり人間じゃないなコイツ」
─────── ─────── ────
~翌日~
勇者「よいしょっと…。ここらの魔物も全て倒したし、この尾根を越えれば…」
勇者「見えたな…。あの城が魔王がいると言われる魔王城か…」
僧侶「そうですね…。ここにいるだけでも瘴気が肌で感じます」
勇者「そうか…。遂にここまで来たんだな」
勇者「あとは魔王を倒して、それで終わりか…。長かったな」
僧侶「それなんですけど勇者様、そろそろ解呪しませんか?」
勇者「丸腰で魔王と戦えと?」
僧侶「案外勝てそうじゃないですかね、勇者様なら」
─────── ─────── ────
鎧「サラッととんでもないこと言ったぞ」
剣「だが、それを完全に否定出来ないのがな」
─────── ─────── ────
勇者「一応理由を聞いておくけど…どうして?」
僧侶「そうですね…。いくら勇者様とは言え呪われたまま魔王と戦うのはあまり良いとは言えません」
僧侶「であれば、ここで解呪をしておくのが良いかと思いまして」
勇者「いや、俺はこのまま魔王と戦う」
僧侶「ですが、やはり呪われたままなのは危険だと思います」
勇者「それはそうだけどさ…」
勇者「パンツ一丁で魔王と相対するのって絵面的にどうなのよ」
僧侶「そこは…勇者様のオーラ的なのでなんとかカバー出来ませんかね?」
─────── ─────── ────
剣「パンツ一丁で魔王と戦うところを見てみたいと思ってしまった」
兜「後世に語り継がれる内容が、パンツだけの勇者が~ってなるのもそれはそれで見てみたいな」
─────── ─────── ────
勇者「オーラって…俺そんなの出せないからね?」
僧侶「なんとかこう……頑張ってください!」
勇者「頑張ってと言われても…。いやいや、ダメでしょ」
勇者「とにかく、俺はこの見た目が好きだからこのまま行く!パンツだけで戦うのも無し!」
僧侶「くぅっ…やはり解呪は出来ませんでしたか…」
勇者「まぁこのままでも何とかなるって。それより魔物さん達がお出迎えしてきてるぞ!」ズバッ
僧侶「サポートします!ピオリム!」
僧侶「これだけ唱えておくだけで、あとは勇者様が蹴散らしてくれるんですけどね」
僧侶「やっぱりパンツ一丁だけでも勇者様なら勝てるんじゃないかなぁ…」
僧侶「あっ倒し漏れ…えいっ!」ゴス
─────── ─────── ────
剣「僧侶がこの旅に順応しきってるわ」
兜「積極的に殴りに行く僧侶とか前代未聞だよ」
─────── ─────── ────
~魔王城前~
勇者「ここが……魔王城」
僧侶「うっ…くっ……凄い瘴気…」
勇者「聖水もここまで来ると殆ど効果が現れないか…」
勇者「だがここまで来たんだ…!気を緩めずに行くぞ!」
僧侶「はいっ!」
─────── ─────── ────
剣「俺の刀身にも震え来る…。ゾクゾクしてくるな」
靴「けど勇者は震えてはいない…。覚悟が決まってる証拠だな」
剣「靴か。聞きそびれてたけどお前の効果ってなんだ?」
靴「俺は全状態異常無効だな」
剣「つまり酒を飲みすぎても酔わなくなるって事か?」
靴「そういうのは無理だな。毒とかそういう外部からの効果によるものだけ防げる」
─────── ─────── ────
~魔王城内部~
勇者「さすが魔王の根城だけあって敵も強いな」
僧侶「そうは言っても、勇者様攻撃受けてないじゃないですか」
勇者「まぁそうなんだけど反射ダメージが結構厳しくてな。薬草じゃ回復が間に合わないんだ」
勇者「聖水も合わせて飲むとしばらく動けないし…」
僧侶「そ、そうですよね…。あんな状態ですと戦えませんからね」
勇者「思い出して凄い恥ずかしくなってきた……」
僧侶「ま、まぁまぁ気にしてないですから…。あ、今のうちに薬草を食べさせてあげますか?」
勇者「それはそれで恥ずかしいんだけど…。だが、また魔物が出てきたみたいだな」
僧侶「またですか…。少しは手加減して欲しいですね」
勇者「それだけ魔物も本気だって事さ!バックアップは任せる!」ダッ
僧侶「分かりました!」
─────── ─────── ────
剣「よくもまぁあんなに魔物と戦って体力が持つもんだ」
腰当「無駄に体力はあるからなぁ…。変なとこでも体力はあるけど」
剣「そういえば腰当のメリット効果聞いてなかったな…どんなのだ?」
腰当「俺は無理やり体を動かせる。平たく言えば怯み無効だな」
剣「そんな効果なのか?あまりぱっとしないな」
腰当「そうでもないぞ?攻撃後の硬直を無くせるし、基本的にはどんな状態でも体を動かせる。普通に考えてとんでもない能力だぞ」
剣「なるほどな…。縁の下の力持ちって感じか」
腰当「まぁそんなとこだな。ダメージ負ってないから俺の効果の殆ど使われてねぇけど」
─────── ─────── ────
勇者「ふぅ…。やっと魔物を全部倒し終えたかな」
勇者「沢山出てくるから根こそぎ全部倒せばと思ったら、案の定後半は魔物が出てこなくなったし」
僧侶「全部倒しきってしまうのは流石としか言いようがないです」
勇者「正直少しやりすぎたかと思ったけど案外なんとかなるもんだな」
─────── ─────── ────
剣「やりすぎってレベルじゃねーぞ」
剣「一応ここ最難関の最後のダンジョン、魔王城だぞ?それっていいのかよ」
─────── ─────── ────
勇者「ここが最後の扉か……」
僧侶「この先に魔王がいるんですね…」
僧侶「勇者様……。私は覚悟が出来ています」
勇者「あぁ…。正真正銘最後の戦いだ…。行くぞ!」
ガチャ
ビリィッ!
勇者「なん、だ…?」
僧侶「うぐっ!か、体がっ……」
─────── ─────── ────
剣「うおっ!俺にもビリってきたぞ!」
兜「お前にもか、実は俺もだわ」
鎧「ビリってきたぁ…うおおぉ……」
剣「装備にも効果が来るとか魔王の力パねぇわ…」
─────── ─────── ────
~魔王城 最後の間~
魔王「来たか…勇者よ──」
魔王「ってなんだお前っ!?」
魔王(なんだあの装備…?)
魔王(これって見た目も変わる的な魔法だったのか……?)
勇者「なんだお前とはなんだ!俺は正真正銘の勇者だ!」
魔王「ふっ、哀れだな勇者よ。そんな格好をしていて、まだ自身の変化に気付いておらぬのか?」
勇者「なにっ!?貴様、何をした!」
魔王「自身の変化に気付かずここで朽ち果てるとは…実に憐れだ」
魔王「我は“魔王”」
魔王「全ての魔を率い、全ての魔の頂点に立つ者だ」
魔王「忌々しき勇者よ。我は幾度と無く貴様らに辛酸を舐めさせられてきた…」
魔王「その忌々しき装備さえ無ければっ!!」
─────── ─────── ────
剣「えっ!俺らってマジモンの伝説装備だったの!?」
兜「嘘だろ……?だが、魔王本人が言ってるって事はそうだよな…」
鎧「勇者ってマジすげぇわ…。よく見抜いたな、俺らのこと」
─────── ─────── ────
勇者「やはりこれは伝説の装備だったのか…」
魔王「ふっ、気付いていなかったとは愚かなものだ…」
魔王「まあよい。我はその忌々しき装備に打ち勝つ術をもう施しておる」
魔王「もはや貴様に我を打ち滅ぼす手段は残されておらぬのだ!」
勇者「くっ……」
魔王「ふははははっ!悔しくて声も出せぬか?勇者よ!」
魔王「貴様は何も出来ずに死ぬのだ!さらばだ、忌々しき勇者よ」
魔王はマヒャドを連続で唱えた!
勇者「そんな魔法、全部たたっ斬ってやる!」ガギッ
僧侶「凄い…!次々と襲い掛かってくるマヒャドを全て斬っている…」
魔王「ほう…流石は勇者というべきか。そうでなくてはな」
勇者「今だッ!」ダッ
魔王「それに素早さもそれなりにあるか…。だが、まだ気付いておらぬようだな」
魔王は突風を放った!
勇者「ぐぅっ!近寄れないっ!」
魔王「ここまで来れた事は褒めてやろう、哀れな勇者よ…」
魔王「褒美に教えてやろう」
魔王「貴様が何故我に勝てぬのかをな」
魔王「貴様の装備は今、魔の属性となっておるのだ」
勇者「なに…!?魔の属性だと!」
魔王「ふっ…伝説の装備は確かに強力無比だ…。それも魔を滅する為に作られた物であるからな」
魔王「だが、我はこの場において貴様ら人間の持つ力を全て真逆の性質にしたのだ…」
魔王「聖なる物は魔に…」
魔王「ククク、この意味がいくら貴様でも分かるだろう?」
魔王「故に我は貴様らの装備では一切傷を負わぬのだ!」
─────── ─────── ────
剣「……ん?」
兜「あれ待って。これ魔王自爆してね?」
鎧「というより俺らの体なんか浄化されてね?」
篭手「あ、ホントだ…。呪い効果が逆になったから祝福されてるわ」
盾「魔王もバカとか冗談にもならねぇよ」
─────── ─────── ────
勇者「なん…だと!?」
勇者「くそっ…!俺では、魔王に敵わないのかっ!」
僧侶「いや、その…とりあえず勇者様、攻撃してみたらどうですか?」
勇者「無駄だっ!だってこの装備はっ!」
僧侶「一回攻撃してみましょうよ。試しもしないで諦めるのは早いですって」
勇者「………」
勇者「それもそうだな!いくぜ魔王!」グッ
魔王「それでもなお足掻くか…。面白い、ならばどこからでも切りかかってくるが良い!」
勇者「うぉおおおおっ!!喰らえ魔王!」ザンッ
魔王「貴様らの攻撃など微塵も──」
魔王「げっふぅううううううっ!!!」
─────── ─────── ────
剣「めっちゃ効いたな」
兜「バカだろコイツ」
─────── ─────── ────
勇者「まだいける!もう一度だ!魔王ッ!!」ザシュ
魔王「ガァアアアアアッ!!!」ヨロ
魔王「バ、バカなっ!こんな筈ではっ!」
勇者「効いている!?なら…これで最後だ!」
勇者「トドメだ魔王!!!」ズバァッ
魔王「ウグハァッ!!こ、こんな筈ではっ…!」
僧侶「………」
勇者「はぁ…はぁ…」
僧侶「なんというか、あっけなかったですね勇者様」
勇者「あ、ああ…。今まで戦ってきたどの魔物よりも弱かったかもしれん」
魔王「何故だ……何故ッ!?」
僧侶「何故って…勇者様の装備が全身呪われてるからに決まってるじゃないですか」
魔王「呪いだとっ!?こんな、こんなふざけた勇者に…我が……」
魔王「ウグォオオオオッ!!!」
─────── ─────── ────
兜「なぁ、魔王って何したっけ?」
鎧「マヒャドと突風しかしてないな」
腰当「こんな終わり方酷すぎるだろ…」
剣「つかさ、今の俺らってどうなってんのよ?」
兜「ん?呪いが反転して祝福された作用を勇者に引き起こさせてるな」
剣「そこだよそこ。呪いと祝福で相殺されてるのか?」
鎧「いや、見た限りだとこれは相殺されてねぇな…」
剣「つまり?」
兜「だから…呪いが逆になってんだよ。箇条書きで説明するとこうなる」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
剣:反射ダメージ
兜:最大HP&MP半減
鎧:防御以外全能力半減
盾:回復呪文のダメージ化
腰:数ターンごとにダメージ
篭手:魔物呼び寄せ
靴:行動速度鈍化、たまに行動不能
↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓
剣:反射回復
兜: 最大HP&MP倍増
鎧:防御以外全能力倍増
盾:回復呪文倍回復
腰当:数ターンごとに回復
篭手:エンカウントなし
靴:行動速度高速化、たまに二連続攻撃
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
剣「いじめってレベルじゃねーぞ!」
剣「でもさ、全て逆になるとしたら鎧とかのメリット効果も逆になるんじゃないか?」
鎧「そこなんだが、どうやら全部が全部逆になってるわけじゃないっぽいな」
鎧「全部逆になってたら、あのバカがバカじゃなくなって天才になるだろ」
剣「あぁ、それもそうか…」
鎧「俺の考えだと、元からある効果はそのままで、後から付いた効果が変わってる」
鎧「メリット効果は俺が鎧として生まれた時からあるものだ」
鎧「逆に呪い効果は後から付いたものだ」
剣「あーなるほど。じゃあ俺らって今は呪い装備じゃなくて最強装備?つーか、祝福装備?」
剣「祝福装備の俺らがこんなアホみたいな会話してるのって……なんか変じゃね?」
鎧「……」
篭手「……」
兜「勇者君!僕たちの力を存分に使って一緒に魔王を倒そう!」
剣「今更口調変えても遅いわ!」
─────── ─────── ────
勇者「やったか!?」
僧侶「あの攻撃を受け、立っていられるはずもありません…」
─────── ─────── ────
剣「おいバカ共、それをフラグって言うんだよ」
─────── ─────── ────
魔王「グッ……ヌァアアアア!!!まだだ!まだ我は死なぬ!!」
勇者「なにっ…!まだ立ち上がれるだけの余力を残していただと!」
勇者「ならばもう一度ぶった切るだけだ!」ズバッ
魔王「グヌッァアアアアア!!!」ドサッ
勇者「今度こそやったか!?」
魔王「くっはっはっは!実は我は第三形態まで進化できるのだ!」
勇者「うぉおおおお!今度こそ仕留める!」ザシュッ
魔王「ば、馬鹿な……おのれ、勇者めぇええええ!」
勇者「流石の魔王もこれなら…」
僧侶(あれこの流れって……。すっごい面白そうな流れになるんじゃ…)
僧侶「私も混ぜてください勇者様!何回魔王が起き上がるか数えましょう!」
─────── ─────── ────
剣「魔王で遊ぶな」
鎧「俺たちは何を見せられているんだ…」
─────── ─────── ────
勇者「いくらしぶとい魔王でも今度こそはっ!」
僧侶「やけに第三形態の出し惜しみをしてますよね?早く変わってくださいよ!」ボコッ
勇者「あの、僧侶さん?やけに好戦的じゃないかな?」
僧侶「だってこんなおもしろ……」
僧侶「いえ、人類の敵である魔王が何度でも蘇るのですよ!」
僧侶「僧侶として見逃せるわけがないじゃないですか!」
勇者「僧侶さん……分かった!魔王が完全に滅びるまで俺達で何度でもやっつけてやるぞ!」
僧侶「その意気です、勇者様!」
─────── ─────── ────
剣「魔王が不憫すぎて同情するわ…」
鎧「超強化された勇者が一撃で魔王を倒してその後にフラグを言ってるのがもう…な」
兜「僧侶が悪い遊びを覚えなければいいんだが…」
剣「つか魔王も無駄に体力あるよな。さっさとやられりゃいいのに」
兜「倒す度に勇者がフラグを言うから魔王も乗ってるんだろう」
剣「端から見ると弱いものいじめだよな」
兜「まさかこれが魔王対勇者の対決とは思えないわな」
兜「魔王も魔法を解除したいんだろうが起き上がる瞬間にメッタ切りにされてるからなぁ…」
剣「あのさ、魔王がこの魔法を解除する前に勇者が魔王を滅ぼしたら俺らはどうなるんだ?」
鎧「どうもこうも、まず最初に魔法の効果が切れて俺らは元に戻る」
鎧「それにここに入ったときになったあの変な感覚…たぶんこれは空間を弄っているんだろう」
鎧「勇者が魔王を倒さずともここを出て行けば俺らは元の生活に戻れるって訳だ」
剣「なるほどなぁ…」
剣「折角の最強状態が一撃でやられる魔王相手だとつまんねぇな」
兜「これってやっぱりパンツ一丁でも倒せたんじゃね?」
剣「魔王弱いし結構余裕でいけてただろ」
─────── ─────── ────
魔王「グ……ググ、ただでは、死なぬ……。勇者よ、貴様も黄泉へと道連れにしてくれるわ!」
グンッ!
僧侶「あ、ちょっと遊びすぎたかも…」
─────── ─────── ────
剣「さすがに魔王もこのループに気付いて流れ変えてきたわ…」
剣「つーかこれヤバくね?」
─────── ─────── ────
勇者「こ、コイツ、最後の力でなにを…っ!」
魔王「ふっ……ふははははは……!貴様は…魔の狭間に…永久に出れぬ地で…朽ち果てるが…よい…」
勇者「か、体が引きずり込まれ…マズいっ!」
僧侶「勇者様ぁ!」
勇者「う、うわぁあああ―――………」
シュンッ
~魔の狭間~
勇者「うぉおああああっ!」
ドシッ
勇者「いででっ……。くそっ、魔王め…!死ぬなら俺を巻き込むなっ!」
勇者「出口はどこだ!はやく戻らないと…」
勇者「出口……の前に早速魔物のお出ましか」
勇者「はは、ちょっと魔物が……多すぎるんじゃないかな」
─────── ─────── ────
剣「万は越えてるな。もしかしたら億はいそうだ」
兜「流石の勇者でも、これはもうダメかもしれんね」
─────── ─────── ────
勇者「出口を探すのはこいつらを全部倒した後にしろって事かよ」
勇者「それにここに来てからなんだか体が重くなった気がするし…」
勇者「まぁいい!とりあえずこいつらを片付けるのが先だ!」
~数時間後~
勇者「はぁ…はぁ…まだ、いるのかよ……。少しは休憩させてくれ」
勇者「うぐっ…ダメージが……キツイな」
勇者「ゲホッ……くそっ…」
魔物「グァアアッ!」
勇者「!」
勇者「しまっ…」ドガッ
─────── ─────── ────
剣「おいやべぇぞ!このままじゃ本当に死んじまうんじゃねぇのか!?」
鎧「いや、今回は大丈夫だな。むしろいいタイミングだったかもな」
剣「はぁ!?何言ってるんだよ!お前の効果だと逆に勇者が苦しむだろうが!」
鎧「俺のことは俺が一番知ってる。まぁ見てな」
─────── ─────── ────
勇者「ぐっ…この、野郎っ!」
勇者(ダメだ…力が、コイツを振り払う力が沸いてこねぇ…)
勇者(このまま……俺は、死ぬのか?)
ゴギュ…ゴギ…
勇者「うぐっ…ぐっ……ん…んん?」
勇者「な、なんだ?力が…回復、した?」
─────── ─────── ────
剣「どうなってんだ、こりゃあ一体……」
鎧「前にも言ったが、俺は吸収しているんだ。どんなものでもな」
剣「そんなことは知ってる。だが、どういうことなんだ?」
鎧「そうだなぁ…。前回同じような状況になった時、勇者はダメージなんて受けてなかっただろ?」
剣「あぁ、僧侶守った時か」
鎧「そうそれ。だが今回は疲労困憊、もう戦えませんって状況だったな」
鎧「最初の時は過剰すぎる回復を勇者に与え、今回は丁度良い回復を与えただけだ、デメリットはねぇよ」
鎧「あまりにも強すぎる回復は時として毒になる…薬と一緒だな」
剣「お前って…呪い装備だよな?」
鎧「最初に作られたときは呪われてなんかなかったさ、それはお前だってそうだろ?」
剣「まぁそうだが…」
鎧「俺が作られた当初の目的は、回復役を必要としない完璧な戦士を作り上げることだったわけだ」
鎧「もっとも、過剰回復については不具合として出てきた訳で、これが呪いを生み出す要因になったわけだが……。まぁここは説明しなくていいか」
鎧「とにかく、今回初めて勇者が俺を本来の目的で使いこなしたと言う訳だ」
剣「そうか…そういうことだったのか」
─────── ─────── ────
勇者「なるほど……。この鎧はこの時の為にこの効果があったわけか!」
勇者「なら、俺はまだ戦えるっ!」
魔物「――ッ!!」カァッ
魔物はベギラゴンを唱えた!
勇者「おっと…盾でガード!」
勇者「そして呪文の唱え終わりが一番の弱点だ!踏み込み切り!」ザシュ
勇者「ははっ…こりゃすごい。初めて盾を使ったけど便利だな」
勇者「これなら、こいつらを全て倒せるな」
勇者「魔の狭間だかなんだかしらねぇけど…。魔って付く位なんだからその魔を全部倒せばいいって訳だろ!」
勇者「っしゃあ!やってやるか!勇者様と伝説の装備が相手してやるぜ!」
─────── ─────── ────
剣「ヤバイ、惚れそう…」
兜「やっぱりお前ソッチの趣味あったんじゃねぇかよ」
剣「い、言い間違えだ!」
─────── ─────── ────
勇者「もう何時間?何日?いや、何年経ったかわかんねぇや……」
勇者「ただひたすらに戦い続けた……。けど、お前で最後だ!」
魔物「ゲヒュッ…」
勇者「あーーっ!終わったぁ!疲れた…。これ以上はもう無理だ、戦えねぇ」ドサッ
勇者「って言っても、どうせ帰れないよなぁ。魔物全滅させたらもしかしてとか思ったけどさ」
勇者「………」
勇者「僧侶さん、きっと心配してるよなぁ……」
勇者「いやでも、魔王を倒してからどのぐらい経ってるか分からないし、もう俺のことなんて忘れてるか」
勇者「実はもう何百年も経ってて別の魔王や勇者が生まれてたりしてな!」
勇者「その時は俺も加勢して今度こそ魔王を完全に倒しに行きたいもんだ…」
勇者「………」
勇者「僧侶さん、可愛かったなぁ……」
勇者「………」
剣「かーっ、こんな時まで色恋沙汰取り出すとかやってらんねぇわ」
勇者「!!」
勇者「なんだ!?どこから声がした?」
兜「俺らが封印されてるときに一発僧侶とヤっておけば良かったんだよ」
剣「でもよ、このバカがそんな考えまで持ち出せるわけねぇだろ」
勇者「バ、バカとはなんだ!俺は勇──」
腰当「あーはいはい、勇者だろ?聖水飲むと決まって──」
剣「え?ちょっと待って…」
剣「まさか俺らの声が聞こえてる的な?」
鎧「こりゃーすごい」
剣「ちょっと待て勇者!緊急呪い会議開くからお前は黙っとけよ!」
勇者「呪い会議って…」
剣「だから黙っとけって言っただろ!」
剣「なぁ、これはどういうことだ?」
鎧「こんなの初めてだ、俺に聞くな」
兜「いぇーい勇者!聞こえてるぅ?」
勇者「うるさいほどに聞こえてるよ…。というかこの声って誰だ?神様なのか?」
盾「ちげーわボケ、お前がいつも身に着けてる物だよ」
勇者「パンツなのか?」
剣「パンツじゃねーよ!お前を呪い殺……せなかったわ」
剣「つーかお前、何勝手に俺らの会話に割り込んできてるんだよ」
勇者「勝手にと言われてもな…。聞こえてくるんだから仕方ないだろ」
勇者「でも、話し相手に困ることは無くてよかったよ」
剣「まさかお前、このままこの何もない場所で一生を終えるつもりか?」
勇者「元の世界へ戻る手段が見つからないんだから仕方ないだろ」
剣「お前なぁ…仮にも魔王を倒した勇者だろ?こんな所で諦めてどうすんだよ」
剣「それにこんな何も無い場所でお前と一緒に居たくねぇしこっちから願い下げだ」
剣「あとお前は剣術と魔術を覚える前に一般教養を覚えろよ!」
剣「薬草と聖水を一緒に飲み食いする時点で色々勉強しなおせ!」
勇者「いやぁでもさ、あれ結構回復するんだよ、ケアルラぐらいに」
剣「ケアルラってなんだよ、せめてベホイミって言えよ!」
勇者「そうは言ってもそう例えるしかないんだって…。あ、聖水飲んで良い?」
腰当「ばっかおめぇそれだけはやめろ。俺にナニをくっつけんじゃねぇ、ガチで呪い殺すぞ」
勇者「………」
腰当「つってもお前には呪いが通用しねぇからなぁ……。あぁもう呪い装備としてやってらんねぇわ」
勇者「それは…ごめん?」
腰当「俺が装備じゃなけりゃ勃起不全の呪いも付けてやるのによ…。装備だから出来ねぇし」
腰当「つか、そんな事したら勇者のガキを拝めねぇからな…。お前も男ならさっさと僧侶を襲っちまえってんだ」
腰当「そんで僧侶だけにナニを使え…。俺に使うな、イカ臭くなっちまうだろうが」
勇者「善処してみる…」
腰当「善処じゃなくやれ。これは俺からの命令だ、いいな?」
腰当「あとこれはお前の為に言ってるんじゃない。俺の身を守るために言ってるんだ、勘違いすんじゃねぇぞ?」
剣「腰当ってツンデレとか言われた事ない?」
腰当「言われたことねぇし……。おいやめろバカ共、俺を見るな」
勇者「………」
勇者「そっか……。信じたくはなかったけど、この装備は伝説の装備じゃなかった訳か…」
剣「誰がどう見たって違うって分かるだろ」
勇者「そうは言ってもなぁ。長年放置されてたり、封印がされていたりしたらそう思うだろ?」
剣「あのなぁ…。確かに俺らは封印されてたけどこの封印は閉じ込める的な封印だぞ」
剣「悪い意味の封印だ。伝説要素なんて皆無だよ」
勇者「………」
勇者「それでも、俺はこの装備を伝説の装備として使い続けていくさ」
勇者「なんていったって、俺の冒険を支え続けてくれた紛れもない装備だからな」
剣「………」
剣「気色悪ぃなぁ。けどまぁ気持ちだけは受け取っておくぜ」
兜「一番活躍したの剣だもんな、そう照れるなよ」
剣「ばっ…!うっせ、黙れ!」
兜「おもしれぇ奴だ。けどまぁ勇者もイカれずによく装備し続けたな」
勇者「はは、もしかしたらもうとっくの昔からイカれてるのかもな!」
剣「ちげぇねぇ。全身呪い装備で固める奴なんて今後絶対出てこねぇよ」
勇者「そこは嘘でもイカれてないと言ってほしかったよ」
兜「そう考えると、俺らがこうやって揃っていけるのは勇者が最初で最後になるって訳か…」
兜「勇者が俺らを使わなくなったら、俺らはお別れか……」
剣「………」
兜「………」
鎧「………」
盾「………」
腰当「………」
篭手「………」
靴「………」
剣「そういうの……やめろよ」
勇者「………」
鎧「勇者、お前が俺らを揃えてくれて良かった。やっぱ色んな意味でお前は化け物だ」
盾「最後の最後でやっと俺も使ってくれたしな…。正直忘れられてるかと思ったぜ」
篭手「呪い装備同士、話し合えて楽しかったぜ…。勿論勇者、お前もな」
腰当「ナニをつけてくるのだけは嫌だったがお前はまさしく勇者だ。俺が認める」
靴「この見た目で勇者ってのもおかしな話だが、一人くらいこんなのがいても良いよな」
剣「このしみったれた空気は俺らには似合わねぇな…。けど、最後ぐらいはいいか」
勇者「あぁ、俺もこの装備に出会えて本当に良かったさ」
勇者「しかし…どうやって帰ればいいものか」
剣「魔王が死に際に放った魔法をお前も使ってみればいいんじゃね?」
勇者「俺はそんな魔法なんて知らないぞ。第一使えたとしても魔力が足りるかどうか…」
剣「ルーラとかは使えるだろ。確かあれって行きたい場所を念じるだけで行けたりする魔法だったよな」
剣「それで最後にあんだけボコボコにした魔王の場所をイメージしたら、案外いけるんじゃないか?」
勇者「だが、そんな正確な場所を指定するとなると、どれだけ魔力を使うか…」
剣「………はぁ、しかたねぇな」
剣「本当だったら最後まで黙っておくつもりだったけど……」
剣「“俺の魔力を使え”」
勇者「お前…攻撃力が上がるだけの武器じゃなかったのか!?」
剣「そんな安っぽい武器な訳ないだろ……。一応俺が作られた理由を話すか」
剣「いいか?人間ってのは魔力の限界が誰にだってある」
剣「過去の人間ってのはその限界を超えた魔力を求めたって訳だ」
剣「兜は限界を超えた魔力を引き出せるように作られたが俺は違う」
剣「殺した奴の魔力を蓄えておけるんだよ」
剣「まぁ大半が使い物にならない魔力だから、そこを攻撃力に割り振ってるわけでこれが原因で呪いが……って今はそんな事どうでもいいか」
剣「とにかく、山ほど魔物を倒してきたんだから帰れるぐらいには溜まってるだろ」
剣「ここで使わないなんて勿体無いし、勇者がこの魔力を使って俺らを元の世界に戻してくれた方がいい訳だ」
剣「仮にも魔王を倒した勇者様が行方不明じゃ寝覚めが悪いからな」
勇者「そっか……ありがとう。お前の魔力、ありがたく使わせてもらうよ」
剣「礼なんていらねぇ。俺はその為に作られた訳だからな」
兜「ほら……さっさとルーラ的なの唱えろ。天井に頭ぶつけたりとかはしないはずだ」
勇者「……よし、じゃあ帰るぞ!魔王もまさか帰ってくるとは思わなかっただろうな!」
剣「ちげぇねぇ」
勇者「じゃあ行くぞ…!」
勇者「“転移魔法”!!」
兜「あ、そこは明確な呪文名じゃないんだ」
剣「………」
剣(この魔力を使っちまったら、もうお前と話せなくなるなんて…)
剣「そんなカッコ悪いこと言えねぇよ」
~魔王城 最後の間~
僧侶「勇者様を返してください!」ボコッ
僧侶「いつまで寝てるんですか!魔王ならさっさと起きて勇者様をここに呼び戻してください!」ドガッ
僧侶「さっきまでの元気の良さはどうしたんですか!ほら、早く起きて…」
僧侶「勇者様を…あの優しい勇者様を……返して……」ポロッ
僧侶「ぅ……ぅぅ……」グスッ
シュンッ
勇者「………はっ!」
僧侶「……ゆう…しゃ、様…?」
勇者「ここは……?戻れた、のか?」
勇者「そうか……戻れたのか」
勇者「僧侶さん……心配かけてごめん」
僧侶「勇者様ぁ……」
勇者「ははっ、僧侶さん涙出しすぎだって…」
僧侶「本当に……本当に勇者様なんですよね?偽物じゃないですよね…?」
勇者「偽物じゃないって……。いやでも本家がいるから俺はやっぱり偽物か?」
勇者「じゃあ勇者代行?いやでも魔王倒したしやっぱり俺は勇者か?」
僧侶「ふふっ、本物の勇者様でした」
勇者「落ち着いたところで少しいいかな?魔王を倒してからどのぐらい経った?」
僧侶「そうですね…。大体30分ぐらいですかね」
勇者「30分!?」
勇者「そっか……。あの世界はこっちとは時間の流れが違うのか」
僧侶「時間の流れってどういうことですか?」
勇者「いや、なんでもない……。ところで俺ってどこか変わっていたりしてないかな?」
僧侶「えっと…見た目的には特にこれといった変化は見られないです」
勇者「そっか、それは良かった…。あの世界は時間が緩やかに流れていた世界だったのかもな」
勇者「それじゃあ帰るか。魔王を倒したってことを皆に伝えるまでが冒険だ!」
僧侶「でしたら最後まで一緒にいきますよ!勇者様だってことを私が伝えないと町に入れませんからね!」
勇者「そうだった……。その時はお願いするよ」
僧侶「お安い御用です!」
勇者「それと、この装備と共にな!」
勇者「………」
勇者「あれ、おかしいな」
僧侶「どうかしたんですか勇者様?」
勇者「………」
勇者「そっか……そういうことだったのか。剣も良い格好見せやがって」
僧侶「え、えっと…?」
勇者「いや、なんでもない!もう聞こえないけど、今頃色々言い合ってるのが居るって思ってさ」
僧侶「は、はぁ……」
勇者「今度こそ帰ろう!皆が俺たちの帰りを待ってるぞ!」
僧侶「はい!」
勇者「全身を呪いの装備で固めてしまった」
勇者「だけど俺にとっては──」
伝 説 の 装 備 だ ! !
──END──
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