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3.お日様のハーブティー

すべての終わり

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 これですべての調香師会議の内容が終わった。
「では、ただいまをもって第百二十八回ユーゲンビリツ五大公国調香師会議を終了いたします。次回はフレングス大公国にて開かれます。お時間のある方はぜひ、ご参加くださるようお願いいたします」
 シャルロッタ院長が締めくくった言葉に一同から安堵の息、ほっとする気配を感じられた。

 ドーラは宿泊していた部屋に戻り、わずかばかりの荷物を鞄につめこんで、帰宅の準備をした。
 なんだか濃かったこの三日間。それでも“目の前のできごとから逃げない”ということを自分は覚えたのではないか。そんないい経験をさせてもらえた気がした。
 つめこんだ後、忘れ物がないか最終確認をして部屋を出ると、出入り口の近くにリュシルとオルガの二人がいた。もちろん、まだ言われたことを忘れていないから、少し気後れする部分もあったが、もう二人に気兼ね・・・する要素はない。

「あんた、なんなんあのフレグランスは。アイゼル=ワード女大公に取り引きしたんちゃうの?」

 オルガはやはりテレーゼに自分のものを選ぶようにと圧力をかけたのではないかと疑っていたようだ。最初と同じように、ここでもリュシルはなにも言わない。
「あの女が認めたからって、私はあんたのことは一切、信用しておりまへんで」
 彼女の言葉にどう反論しようかと思っていたが、考えるのをやめた。多分、反論したところで彼女は納得しない。

「そうですね。もしかしたら取引をしたのかもしれませんね。匿名でありませんし、売りこんではダメとは言われてませんから」

 そう。フレグランスコンテストは匿名ではない。
 シャルロッタ院長の研究報告にもあったが、ハーブとアロマは権力闘争に使われてきた。フレグランスコンテストもまた然り・・・・。匿名ではないので、公平ではなくなってしまうのは当たり前だ。
 じゃあと勢いづいたオルガを制して、フェオドーラは続けた。
「だったら、次回は公平になるように匿名でのフレグランスコンテストにして公平になるようなしくみを作られたらどうなんです? そうすれば、歴史に名前を刻めるかもしれませんよ?」
 半分はオルガに、半分はただつったっている・・・・・・・リュシルにそう嗤う。二人ともなんなの、この子と憤るが、ドーラは無視して歩きはじめる。
「では、ごきげんよう。次、いつお会いするか分かりませんが」
 そう言って、ドーラは荷物を持って降りるために階段に向かった。




「なんだか、めちゃくちゃ疲れてるな」
『ステルラ』に戻ると、すでにミールも戻ってきていて、温かいハーブティーを淹れてくれていた。すでにポットからいい香りが漂っている。
「うん。ちょっと精神的にね」
 最後の最後までリュシルとオルガには悩まされた。まさか、あそこまで言われるとは思わなかったから、ついつい言い返してしまった。それが疲れの原因になっても、仕方のないことだと割りきってはいるが。
「そうか。そういえば、見たぞ、お前の発言しているところ」
「え?」
 ミールの言葉にドーラは驚きを隠せなかった。あの場にはいなかったはずなのに。すると、ばつが悪そうな顔をする。
「ポローシェ侯爵んとこで動いてたんだけど、初日に人手不足だとかで給仕に回されてさ。要人の給仕ばっか疲れたから一息つこうと思って、会議室の前を通ったらお前の声が聞こえてきてさ」
 どうやらたまたま通っただけだったようだ。それでもドーラはしまったという顔をしたが、ミールはドーラの顔を優しく包んだ。
「おまえがしっかりと発言してるのが嬉しかった。俺がいるせいで、いや、おばさんがいなくなってから店に立つとき以外は自分の意見をしっかり言うのを聞いてなかったからな」
 彼の発言に納得がいく。たしかに自分はミールに頼ってばかりだった。それを今回はミールがいない状況でしっかりと言うことができたと思う。

「じゃあ、乾杯だ」
 淹れたてのハーブティーにさっぱりした風味をだすハーブチンキを加える。ひとくち口に含んだ瞬間、あの感覚が蘇る。
「これって……――」
 ドーラはまさかとミールを軽くにらむ。自分がしようと思っていたことを先にとられたという意味合いで。にらまれた方はバレたかと頭をかく。
「そう。教えてもらったんだ、ポローシェ侯爵あのおっさんに。まあ、本当の隠し味は知らないけど、結構似てると思うぜ」
「うん、似てるね」
 それはまるでお日様のようなハーブティーだった。心が暖まるようなぬくもりを感じる。
「ねぇ」
「なんだ?」
「これ、チンキとセットで商品化してもいい?」
 ドーラの提案にもちろんだと頷くミール。じゃあ、商品名はどうする? そう軽く聞いた彼にそうだねと考え込むがすぐに名前は決まった。

「じゃあ、『お日様のハーブティー』で」
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