53 / 69
3.お日様のハーブティー
プレゼンテーション
しおりを挟む
最後の特別審査は五大公へのプレゼンテーションだ。大広間には五ヶ国、計三十二人分のフレグランスオイルが並べられていて、その前で五大公や貴族たちにどのような特長を持っているのか、どのようなイメージで作られているのかなどを説明して、実際にフレグランスオイルを嗅いでもらう。
それぞれのフレグランスオイルが置かれるのは、それぞれのイメージした国ごと。ドーラはアイゼル=ワード大公国をイメージしているので、左右両隣ともアイゼル=ワード大公国のイメージされたフレグランスオイルだった。しかし、作製者はドーラと別のテーブルにいる三人以外は全員、アイゼル=ワード大公国所属の調香師だったため、一人で敵地に放りだされたような気がして少し緊張してしまった。
「緊張されてますね」
隣の調香師に話しかけられたドーラはおもわず飛びあがるように返事をしてしまった。
「はい。はじめての参加なもので」
「そうですか。人がいませんし、よければ互いのフレグランスオイルの紹介をしませんか?」
彼は穏やかな表情でそう尋ねてきた。今はまだ、審査員である五大公は来ていなく、ほかの調香師たちも暇そうにしている。はいと勢いよく頷き、紹介しあった。
彼が作ったものは、同じアイゼル=ワード大公国といっても、ドーラとは全く違うコンセプトのものだった。
「……――すごいですね」
スパイス系のナツメグやハーブ系の中でもさっぱりしているキャロットシードをふんだんに使ったというそのフレグランスオイルは、たしかに軍人の国、アイゼル=ワードを示していた。ドーラの白亜の宮殿をイメージしたフレグランスも甘さを控えめにしているが、また違った雰囲気が楽しめた。
「ちなみにもしかして、このなかにアニスシードかタラゴンが入ってます?」
少し気になった香りに気づいたので尋ねてみると、うん、そうだよ、よくわかったねと嬉しそうに答えてくれた。
「そうそう。ほんとは使わない予定だったけど、あの場にあったのがたまたまロシュール王国産のものだったから、アニスシードと一緒に入れてみたんだよ」
たしかに希少なロシュール王国産のものがあったのを覚えていたが、ドーラは反対に希少なものは使わない、比較的手に入りやすいものを使っていた。そうでしたかと自分との価値観の違いについてはなにも触れず、ただ感心するふりをしておいた。
ほかの調香師たちも参加して、互いのフレグランスについて説明しあっていると、人の塊が彼らに近づいてきた。
「来たようだね」
どうやら五大公が来たようだった。説明しあいっこしていた調香師たちは各々の作品の前に戻り、彼らが自分のところに来るのを今か今かと待っていた。
ドーラのところに来たのは一番後だった。くじ引きでもなんで決められたわけでもなく、非常に緊張が高まるものだった。
「では、ラススヴェーテ調香師、説明を」
シャルロッタ院長がそう促した。軍人のようにみえる大公、物語で描かれる王子様のような大公、渋い紳士な大公、男装の大公、そしていつも見なれてる大公の五人を目の前にして緊張しないわけはない。だけども、ここで逃げるわけにはいかない。
「はい」
ドーラはまわりの調香師たちを一瞬だけ見て、解説をはじめた。
「緊張したぁ」
プレゼンテーションが終わり、昼食会場でドーラは大きく伸びていた。十八歳のうら若き少女とは思えない姿に、そこまで緊張していたのかとエルスオング大公国の調香師たちは苦笑いしている。
「お疲れ様」
そんな彼女に正面から声をかけたのはフリードリヒだった。なにか用事があったのだろうか。たったひとりで来ていた。
「お疲れ様です」
ほかの調香師たちとともに彼に挨拶する。ちょっといいかいとドーラを調香師たちの中から連れだす。
「緊張していたみたいだったね」
どうやらフリードリヒもドーラの緊張した姿を見ていたようだった。はいとバツの悪そうな顔をしたドーラだったが、彼はそんなことを気にすることもなく、あのねと用件を切りだした。
「君の叔母さん、エリザベータ・フレッキ調香師が先日、アイゼル=ワード大公国付近で目撃されたらしい」
フリードリヒがもたらしてくれた情報はドーラに衝撃を走らせる。しかし、なぜ彼が叔母のことを知っているのだろうかと疑問に思った。
「まあ昨日、君が話してるのを偶然、聞いてね。そういえばアイゼル=ワードの会議で話題にあがってたなぁって思いだして」
どうやら昨日、ゲオルギーと話しているのを偶然、聞いていたようだ。しかし、その目撃証言からは日にちがたっている。仮にその場所に行き、そのあたりを探したところで、なにも出てこないだろう。フェオドーラはその目撃証言を頭の片隅に入れておくだけにした。ありがとうございました、そうフリードリヒに言って頭を下げた。ううん、僕こそ気をつかわせちゃったみたいだねと寂しそうに笑って、去っていく。その言葉にはなにか含んでいそうだったが、それを見抜けるドーラではなかった。
それぞれのフレグランスオイルが置かれるのは、それぞれのイメージした国ごと。ドーラはアイゼル=ワード大公国をイメージしているので、左右両隣ともアイゼル=ワード大公国のイメージされたフレグランスオイルだった。しかし、作製者はドーラと別のテーブルにいる三人以外は全員、アイゼル=ワード大公国所属の調香師だったため、一人で敵地に放りだされたような気がして少し緊張してしまった。
「緊張されてますね」
隣の調香師に話しかけられたドーラはおもわず飛びあがるように返事をしてしまった。
「はい。はじめての参加なもので」
「そうですか。人がいませんし、よければ互いのフレグランスオイルの紹介をしませんか?」
彼は穏やかな表情でそう尋ねてきた。今はまだ、審査員である五大公は来ていなく、ほかの調香師たちも暇そうにしている。はいと勢いよく頷き、紹介しあった。
彼が作ったものは、同じアイゼル=ワード大公国といっても、ドーラとは全く違うコンセプトのものだった。
「……――すごいですね」
スパイス系のナツメグやハーブ系の中でもさっぱりしているキャロットシードをふんだんに使ったというそのフレグランスオイルは、たしかに軍人の国、アイゼル=ワードを示していた。ドーラの白亜の宮殿をイメージしたフレグランスも甘さを控えめにしているが、また違った雰囲気が楽しめた。
「ちなみにもしかして、このなかにアニスシードかタラゴンが入ってます?」
少し気になった香りに気づいたので尋ねてみると、うん、そうだよ、よくわかったねと嬉しそうに答えてくれた。
「そうそう。ほんとは使わない予定だったけど、あの場にあったのがたまたまロシュール王国産のものだったから、アニスシードと一緒に入れてみたんだよ」
たしかに希少なロシュール王国産のものがあったのを覚えていたが、ドーラは反対に希少なものは使わない、比較的手に入りやすいものを使っていた。そうでしたかと自分との価値観の違いについてはなにも触れず、ただ感心するふりをしておいた。
ほかの調香師たちも参加して、互いのフレグランスについて説明しあっていると、人の塊が彼らに近づいてきた。
「来たようだね」
どうやら五大公が来たようだった。説明しあいっこしていた調香師たちは各々の作品の前に戻り、彼らが自分のところに来るのを今か今かと待っていた。
ドーラのところに来たのは一番後だった。くじ引きでもなんで決められたわけでもなく、非常に緊張が高まるものだった。
「では、ラススヴェーテ調香師、説明を」
シャルロッタ院長がそう促した。軍人のようにみえる大公、物語で描かれる王子様のような大公、渋い紳士な大公、男装の大公、そしていつも見なれてる大公の五人を目の前にして緊張しないわけはない。だけども、ここで逃げるわけにはいかない。
「はい」
ドーラはまわりの調香師たちを一瞬だけ見て、解説をはじめた。
「緊張したぁ」
プレゼンテーションが終わり、昼食会場でドーラは大きく伸びていた。十八歳のうら若き少女とは思えない姿に、そこまで緊張していたのかとエルスオング大公国の調香師たちは苦笑いしている。
「お疲れ様」
そんな彼女に正面から声をかけたのはフリードリヒだった。なにか用事があったのだろうか。たったひとりで来ていた。
「お疲れ様です」
ほかの調香師たちとともに彼に挨拶する。ちょっといいかいとドーラを調香師たちの中から連れだす。
「緊張していたみたいだったね」
どうやらフリードリヒもドーラの緊張した姿を見ていたようだった。はいとバツの悪そうな顔をしたドーラだったが、彼はそんなことを気にすることもなく、あのねと用件を切りだした。
「君の叔母さん、エリザベータ・フレッキ調香師が先日、アイゼル=ワード大公国付近で目撃されたらしい」
フリードリヒがもたらしてくれた情報はドーラに衝撃を走らせる。しかし、なぜ彼が叔母のことを知っているのだろうかと疑問に思った。
「まあ昨日、君が話してるのを偶然、聞いてね。そういえばアイゼル=ワードの会議で話題にあがってたなぁって思いだして」
どうやら昨日、ゲオルギーと話しているのを偶然、聞いていたようだ。しかし、その目撃証言からは日にちがたっている。仮にその場所に行き、そのあたりを探したところで、なにも出てこないだろう。フェオドーラはその目撃証言を頭の片隅に入れておくだけにした。ありがとうございました、そうフリードリヒに言って頭を下げた。ううん、僕こそ気をつかわせちゃったみたいだねと寂しそうに笑って、去っていく。その言葉にはなにか含んでいそうだったが、それを見抜けるドーラではなかった。
0
お気に入りに追加
116
あなたにおすすめの小説


冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります
真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」
婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。
そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。
脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。
王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。

いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持
空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。
その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。
※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。
※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません
ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは
私に似た待望の男児だった。
なのに認められず、
不貞の濡れ衣を着せられ、
追い出されてしまった。
実家からも勘当され
息子と2人で生きていくことにした。
* 作り話です
* 暇つぶしにどうぞ
* 4万文字未満
* 完結保証付き
* 少し大人表現あり
旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】
ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?
シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。
クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。
貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ?
魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。
ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。
私の生活を邪魔をするなら潰すわよ?
1月5日 誤字脱字修正 54話
★━戦闘シーンや猟奇的発言あり
流血シーンあり。
魔法・魔物あり。
ざぁま薄め。
恋愛要素あり。
婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪
naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。
「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」
まっ、いいかっ!
持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる