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2.黄金の夜鳴鶯
証言と演技
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急きょ、証人席に呼ばれることになったドーラは大急ぎで身体検査が行われ、危険物を所持していないことが確認されると法廷内に入った。
同居人のミール、パトロンのポローシェ侯爵、旧知の裁判官やエルスオング大公がいる中での出廷なので、非常に居心地が悪い。ミールやポローシェ侯爵は非常に苦々しげな表情をしている。
「まず、あなたの名前と職業を教えてください」
ドーラへの質問はドミトリーが行うことになり、彼からまずは基本的なことが問われていく。
「フェオドーラ・ラススヴェーテ。職業は総合調香店『ステルラ』店主。第一級認定調香師の資格を所持しております」
念のため、持ってきていたアザミのバッジをドミトリーに渡した。彼では本物かどうかが判断付かなかったのか、エルスオング大公に渡し、確認してもらっていた。
「すみません。形式的ですが、ここは裁判なので確認させてもらいました」
返却しながらそう言葉をかけられた。
「いえ、もしご心配でしたら、調香院長に聞いてくださっても良かったのに」
もちろん、エルスオング大公がアザミのバッジを渡すのだから、彼がその形を知らないことはないだろう。だけれど、信頼性が高いのは調香院長に確かめてもらうのが一番だ。時間はかかるが、その方が確実だろう。
しかし、それを知らなかったのか、そうでしたかとドミトリーは笑っただけだった。
「では、次に先ほど彼女、クララ・コレンルファ伯爵令嬢がした証言について、間違いありませんでしょうか」
本題に入ると全員が自分に注目しているのが、いやがおうにも分かってしまう。
「はい。このアザミの花において、それが真実であると証言いたします」
認定調香師として定められた宣言を入れ、バッジを掲げながら証言したドーラ。なるほど、とドミトリーは大きく頷き、さらに質問を繋げてきた。
「この話を誰かにしたり、あなた以外に聞いていた人はいないでしょうか?」
その質問にいいえ、と首を横に振る。さすがにこの話はミールにもしていない。するとドミトリーは少しため息をついて別の質問をした。
「あなたはこの中、法廷内の誰かと知り合いだったりしますか?」
とうとうこの質問が来たか、とドーラは深呼吸した。
「はい」
肯定するとドミトリーはそれは誰ですか、と聞きかえされた。
「そちらにいらっしゃるポローシェ侯爵とその部下であるミール・ニエーツです。ポローシェ侯爵は『ステルラ』のパトロンであり、ミール・ニエーツは幼なじみ兼同居人です」
ドーラの返答に騒がしくなる場内。ここでこんなふうに繋がるとは誰も想像つかなかったのだろう。ドミトリーは満足したようにお座りください、とドーラに声をかけると、再び場内を彼の色に染めはじめた。
「新たな証人、フェオドーラ・ラススヴェーテ嬢にお聞きしましたとおり、クララ・コレンルファ伯爵令嬢に余分なことを付け加えて話したのは間違いなく私の兄、アレクサンドルによるものだと判明いたしました。それは彼が彼女がポローシェ侯爵、もしくは彼の部下であるミールにそれを言うのでは、という計算のもとで言われたのではないかと推察されます。
そういえば、先ほどの問いかけ、なぜエンコリヤ公爵令嬢ゲーシャがコレンルファ伯爵令嬢に罵声を浴びせた件についてですが、これはもし彼がもし黒幕だった場合には多分、彼女と接触するのではないかという思惑での演技をわれわれはいたしました」
実際、それが本当のものになりましたが。
裁判官たちを含むその場にいる全員がすでに彼の聴衆となっている。すでにこの裁判のためにクララやエンコリヤ公爵をだましていたドミトリー。だけども、ここまできてこれ以上、彼が嘘をつくことは考えにくい。せいぜいアレクサンドルとの家督争いくらいだろうが、すでにエルスオング家で地位を得ている彼にとっては家督なんかは取るに足らないものだろう。むしろ、それを目当てに兄を追い落とそうとしているのならば、こんなまどろっこしく、不確実なことはしないだろう。
少なくともドーラだったらそうする。
「もしお疑いでしたら、この場にいないエンコリヤ公爵令嬢ゲーシャ嬢にお尋ねいただければと思います」
やはりこれまでの所業で自分が疑われても仕方ないとわかっているようだ。それに静かに首を振るエルスオング大公。もし、そこまで踏んで彼が嘘を言っているのならば、かなりの策士だろうが、今まで見た感じだと、そうは思えなかった。むしろ、どちらかといえば小心者だとさえ感じられた。
「以上のことを持ちまして、エンコリヤ公爵の有罪ならびにハヴルスク侯爵子息長男、アレクサンドルの捕縛を求めます」
ドーラへの証人尋問ですべて証明されたようだ。ドミトリーは二つのことを要求したが、エンコリヤ公爵はなにも言わなかった。エルスオング大公はその様子を見て、裁判長に頷く。
「許可する。追ってエンコリヤ公爵の量刑決定を行うので、それまでは今までと同じ場所で幽閉の上、自殺しないように見張っておけ。そして、ハヴルスク侯爵子息、アレクサンドルについては現段階をもって緊急捕縛命令を出し、こちらも裁判までは『幽霊塔』に幽閉しておけ」
裁判長の言葉と同時に、エンコリヤ大公ともう一人の男はそばの扉から連れ出され、何人かの男たちが 裁判官たちの後ろから出ていく。おそらくはアレクサンドルを捕縛するために動きだしたのだろう。何回かあったことのある人だけに少し残念だった。
同居人のミール、パトロンのポローシェ侯爵、旧知の裁判官やエルスオング大公がいる中での出廷なので、非常に居心地が悪い。ミールやポローシェ侯爵は非常に苦々しげな表情をしている。
「まず、あなたの名前と職業を教えてください」
ドーラへの質問はドミトリーが行うことになり、彼からまずは基本的なことが問われていく。
「フェオドーラ・ラススヴェーテ。職業は総合調香店『ステルラ』店主。第一級認定調香師の資格を所持しております」
念のため、持ってきていたアザミのバッジをドミトリーに渡した。彼では本物かどうかが判断付かなかったのか、エルスオング大公に渡し、確認してもらっていた。
「すみません。形式的ですが、ここは裁判なので確認させてもらいました」
返却しながらそう言葉をかけられた。
「いえ、もしご心配でしたら、調香院長に聞いてくださっても良かったのに」
もちろん、エルスオング大公がアザミのバッジを渡すのだから、彼がその形を知らないことはないだろう。だけれど、信頼性が高いのは調香院長に確かめてもらうのが一番だ。時間はかかるが、その方が確実だろう。
しかし、それを知らなかったのか、そうでしたかとドミトリーは笑っただけだった。
「では、次に先ほど彼女、クララ・コレンルファ伯爵令嬢がした証言について、間違いありませんでしょうか」
本題に入ると全員が自分に注目しているのが、いやがおうにも分かってしまう。
「はい。このアザミの花において、それが真実であると証言いたします」
認定調香師として定められた宣言を入れ、バッジを掲げながら証言したドーラ。なるほど、とドミトリーは大きく頷き、さらに質問を繋げてきた。
「この話を誰かにしたり、あなた以外に聞いていた人はいないでしょうか?」
その質問にいいえ、と首を横に振る。さすがにこの話はミールにもしていない。するとドミトリーは少しため息をついて別の質問をした。
「あなたはこの中、法廷内の誰かと知り合いだったりしますか?」
とうとうこの質問が来たか、とドーラは深呼吸した。
「はい」
肯定するとドミトリーはそれは誰ですか、と聞きかえされた。
「そちらにいらっしゃるポローシェ侯爵とその部下であるミール・ニエーツです。ポローシェ侯爵は『ステルラ』のパトロンであり、ミール・ニエーツは幼なじみ兼同居人です」
ドーラの返答に騒がしくなる場内。ここでこんなふうに繋がるとは誰も想像つかなかったのだろう。ドミトリーは満足したようにお座りください、とドーラに声をかけると、再び場内を彼の色に染めはじめた。
「新たな証人、フェオドーラ・ラススヴェーテ嬢にお聞きしましたとおり、クララ・コレンルファ伯爵令嬢に余分なことを付け加えて話したのは間違いなく私の兄、アレクサンドルによるものだと判明いたしました。それは彼が彼女がポローシェ侯爵、もしくは彼の部下であるミールにそれを言うのでは、という計算のもとで言われたのではないかと推察されます。
そういえば、先ほどの問いかけ、なぜエンコリヤ公爵令嬢ゲーシャがコレンルファ伯爵令嬢に罵声を浴びせた件についてですが、これはもし彼がもし黒幕だった場合には多分、彼女と接触するのではないかという思惑での演技をわれわれはいたしました」
実際、それが本当のものになりましたが。
裁判官たちを含むその場にいる全員がすでに彼の聴衆となっている。すでにこの裁判のためにクララやエンコリヤ公爵をだましていたドミトリー。だけども、ここまできてこれ以上、彼が嘘をつくことは考えにくい。せいぜいアレクサンドルとの家督争いくらいだろうが、すでにエルスオング家で地位を得ている彼にとっては家督なんかは取るに足らないものだろう。むしろ、それを目当てに兄を追い落とそうとしているのならば、こんなまどろっこしく、不確実なことはしないだろう。
少なくともドーラだったらそうする。
「もしお疑いでしたら、この場にいないエンコリヤ公爵令嬢ゲーシャ嬢にお尋ねいただければと思います」
やはりこれまでの所業で自分が疑われても仕方ないとわかっているようだ。それに静かに首を振るエルスオング大公。もし、そこまで踏んで彼が嘘を言っているのならば、かなりの策士だろうが、今まで見た感じだと、そうは思えなかった。むしろ、どちらかといえば小心者だとさえ感じられた。
「以上のことを持ちまして、エンコリヤ公爵の有罪ならびにハヴルスク侯爵子息長男、アレクサンドルの捕縛を求めます」
ドーラへの証人尋問ですべて証明されたようだ。ドミトリーは二つのことを要求したが、エンコリヤ公爵はなにも言わなかった。エルスオング大公はその様子を見て、裁判長に頷く。
「許可する。追ってエンコリヤ公爵の量刑決定を行うので、それまでは今までと同じ場所で幽閉の上、自殺しないように見張っておけ。そして、ハヴルスク侯爵子息、アレクサンドルについては現段階をもって緊急捕縛命令を出し、こちらも裁判までは『幽霊塔』に幽閉しておけ」
裁判長の言葉と同時に、エンコリヤ大公ともう一人の男はそばの扉から連れ出され、何人かの男たちが 裁判官たちの後ろから出ていく。おそらくはアレクサンドルを捕縛するために動きだしたのだろう。何回かあったことのある人だけに少し残念だった。
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