35 / 69
十一歳
人騒がせな人1
しおりを挟む
「今日はありがとう」
夜会が終わったあと、迎えの馬車に乗り込む直前、クロード王子にそう言うと、大丈夫だよ、と返してくれた。
「君はいったい、なにをしようとしているんだい? もしよかったら、僕に手伝わせてもらえないか」
彼は真剣な声でアリアに問いかける。しかし、アリアはきっぱりと断った。
「いいえ、その必要はありません」
その答えにそう言われると思ったよ、そうあっさりとした声で返すクロード王子。じゃあ、またね、そう言って彼は手を離して馬車の扉が閉まった。
動きだした馬車の中で、夜会での出来事を思い返していた。クリスティアン王子はベアトリーチェに恋をした。そして、クロード王子は自分に求婚した。
前者は『ラブデ』通りのルートだろう。そして、後者は『ラブデ』にはないオリジナルの物語になるのだろう。クリスティアン王子とベアトリーチェがくっつくのはどうぞご自由にというところだ。むしろ、大歓迎な話だ。それに比べてクロード王子が自分に求婚してきたのは、今後セリチアに厄介ごとをもたらすものにしかならないだろう。でも、それを踏まえてまでなんで彼は自分に求婚したのか気になった。
「いけない」
これ以上、彼に接触するのは危険だ。どんな意味であっても。
そこまで考えたとき、ちょうど馬車が止まった。どうやら家に着いたようだ。気持ちを切り替えて降りた。
すでにベアトリーチェはこちらに戻っていたようで、家の中の明かりがついていた。侍女生活に戻るのは数日後だ。それまで、彼女と今後のことについて話し合ってみるのもいいかもしれないわね、そうアリアは考え、家に入っていった。
疲れた体をしっかりと休めた翌朝、なにやら玄関前が騒がしく、メイドの手を借りずに着替えてそちらへ向かうと、多くの騎士たちが家の周りを取り囲んでいた。
ふう。これがアランが言っていたことねぇ。
先日、彼がアリアに向かって言い放った言葉を思い出した。すでに母親とマチルダが対峙しているが、この分だと彼らがここに入ってくるのも時間の問題だろう。
『ついては、徴税した五年分の金品、およそ絹百五十反分の横領の罪により、縁者ならびに家財の差し押さえを履行する』
外から聞こえてきたのはあの父親がやりそうにないことだ。もし、あの人がそれをするのならば、もっと前に見つかっているはずだろう。この時期にそれが発覚するというのは、どうにも解せなかった。
それには母親やマチルダ、そして、何事かと驚いてこちらに来ていたセレネ伯爵夫妻も唖然としている。
アリアはすぐに動くことをやめた。
本当は今すぐにでも動きたかったが、もし、動くならば、多くの人の命を危険に晒すことになる。『ラブデ』の開始以前にゲームが終わってしまう。
玄関から入ってきたのは若い騎士たちが多く、中にはアリアよりも年下ではないかと思うくらいの年齢の人までいる。彼らのリーダーとおぼしき男はアリアやベアトリーチェ、ユリウス、そしてセレネ伯爵夫妻の姿を確認し、リリス嬢はと母親に尋ねたが、むしろ、こちらが聞きたいところです、と言われていた。アリアが王宮に出仕しはじめてから、家に帰らなくなっていたようで、探すために人をやっているが、見つかっていないという。
「では、皆さん、そこから一歩も動かないでくださいね。もし、許可なくわれわれの目の前から離れられた場合、より厳罰になる可能性もありますからね」
リーダーは高圧的に言い放った。母親やセレネ伯爵夫妻、マチルダは落ち着いていたが、ベアトリーチェやユリウスは互いにどうしたものかと不安な目で見ていた。
全員がまとめて一室に監禁された状態の中、アリアはこれがどうして父親の罪だと断定されたのだろうかと考えていた。なによりシーズンはじまりの夜会の翌日、ということも気になった。もしかして、あの父親は仕事と称して、遊んでいるのかとも思ったが、すぐに否定できた。なぜなら、家での発言権がなくなって以来、ほとんどずっと仕事場に引きこもっている。下級侍女の仕事として、文官たちの部屋の掃除も行わなければならなく、ごくたまにだけど、父親の仕事場へも掃除をしに行ったことがあったから、彼が怠けてないことは自分の目でも見ていたし、噂でも聞いていたのだ。
だからこそ、誰かにはめられたとしか考えにくい。現在の公爵家はスフォルツァ家を含めて十一家。バルティア公爵、フェティダ公爵、ツェリス家かメリッツェン公爵か。もっともスフォルツァ家を陥れたいと願うだろうバルティア公爵とは結局、あの昼餐会見かけた程度でしかないが、まあ、そのときのマーガレットの様子からすると彼にとってもアリアという『駒』は必要だろうから、無理に追い落とす必要性を感じられなかった。
そして、その次にスフォルツァ家と関わりがあるのだろうフェティダ公爵は現在、宙ぶらりんな状態だったはずだ。マクシミリアンが継いだという情報も入ってきてない。だから、ここも可能性としては薄いだろう。それ以外の二つの公爵家はそもそもスフォルツァ家、バルティア家、フェティダ家に比べればかなり小規模だ。騎士団に影響を持っているとは考えにくいから二家の可能性も否定していいだろう。
となると、誰がこんな仕業を?
体感時間では数十分から一時間くらい経ったころ、再び、家の外が騒がしくなった。どうしたんだろうかと思って聞き耳を立てていると、なにやら王宮から誰かが派遣されたようだった。
『いや、それぱ俺でも分からないんですってば』
それは誰なのか見なくても、聞き覚えのある声だ。
『とりあえず、コクーン副団長が解放しろ、とおっしゃっているんです』
どうやらセルドアがアリアたちの解放の許可を出したけど、アランや現場の騎士たちはそれに納得していないようだった。
だけども上の命令は絶対的で、まもなくアリアたちは解放された。
夜会が終わったあと、迎えの馬車に乗り込む直前、クロード王子にそう言うと、大丈夫だよ、と返してくれた。
「君はいったい、なにをしようとしているんだい? もしよかったら、僕に手伝わせてもらえないか」
彼は真剣な声でアリアに問いかける。しかし、アリアはきっぱりと断った。
「いいえ、その必要はありません」
その答えにそう言われると思ったよ、そうあっさりとした声で返すクロード王子。じゃあ、またね、そう言って彼は手を離して馬車の扉が閉まった。
動きだした馬車の中で、夜会での出来事を思い返していた。クリスティアン王子はベアトリーチェに恋をした。そして、クロード王子は自分に求婚した。
前者は『ラブデ』通りのルートだろう。そして、後者は『ラブデ』にはないオリジナルの物語になるのだろう。クリスティアン王子とベアトリーチェがくっつくのはどうぞご自由にというところだ。むしろ、大歓迎な話だ。それに比べてクロード王子が自分に求婚してきたのは、今後セリチアに厄介ごとをもたらすものにしかならないだろう。でも、それを踏まえてまでなんで彼は自分に求婚したのか気になった。
「いけない」
これ以上、彼に接触するのは危険だ。どんな意味であっても。
そこまで考えたとき、ちょうど馬車が止まった。どうやら家に着いたようだ。気持ちを切り替えて降りた。
すでにベアトリーチェはこちらに戻っていたようで、家の中の明かりがついていた。侍女生活に戻るのは数日後だ。それまで、彼女と今後のことについて話し合ってみるのもいいかもしれないわね、そうアリアは考え、家に入っていった。
疲れた体をしっかりと休めた翌朝、なにやら玄関前が騒がしく、メイドの手を借りずに着替えてそちらへ向かうと、多くの騎士たちが家の周りを取り囲んでいた。
ふう。これがアランが言っていたことねぇ。
先日、彼がアリアに向かって言い放った言葉を思い出した。すでに母親とマチルダが対峙しているが、この分だと彼らがここに入ってくるのも時間の問題だろう。
『ついては、徴税した五年分の金品、およそ絹百五十反分の横領の罪により、縁者ならびに家財の差し押さえを履行する』
外から聞こえてきたのはあの父親がやりそうにないことだ。もし、あの人がそれをするのならば、もっと前に見つかっているはずだろう。この時期にそれが発覚するというのは、どうにも解せなかった。
それには母親やマチルダ、そして、何事かと驚いてこちらに来ていたセレネ伯爵夫妻も唖然としている。
アリアはすぐに動くことをやめた。
本当は今すぐにでも動きたかったが、もし、動くならば、多くの人の命を危険に晒すことになる。『ラブデ』の開始以前にゲームが終わってしまう。
玄関から入ってきたのは若い騎士たちが多く、中にはアリアよりも年下ではないかと思うくらいの年齢の人までいる。彼らのリーダーとおぼしき男はアリアやベアトリーチェ、ユリウス、そしてセレネ伯爵夫妻の姿を確認し、リリス嬢はと母親に尋ねたが、むしろ、こちらが聞きたいところです、と言われていた。アリアが王宮に出仕しはじめてから、家に帰らなくなっていたようで、探すために人をやっているが、見つかっていないという。
「では、皆さん、そこから一歩も動かないでくださいね。もし、許可なくわれわれの目の前から離れられた場合、より厳罰になる可能性もありますからね」
リーダーは高圧的に言い放った。母親やセレネ伯爵夫妻、マチルダは落ち着いていたが、ベアトリーチェやユリウスは互いにどうしたものかと不安な目で見ていた。
全員がまとめて一室に監禁された状態の中、アリアはこれがどうして父親の罪だと断定されたのだろうかと考えていた。なによりシーズンはじまりの夜会の翌日、ということも気になった。もしかして、あの父親は仕事と称して、遊んでいるのかとも思ったが、すぐに否定できた。なぜなら、家での発言権がなくなって以来、ほとんどずっと仕事場に引きこもっている。下級侍女の仕事として、文官たちの部屋の掃除も行わなければならなく、ごくたまにだけど、父親の仕事場へも掃除をしに行ったことがあったから、彼が怠けてないことは自分の目でも見ていたし、噂でも聞いていたのだ。
だからこそ、誰かにはめられたとしか考えにくい。現在の公爵家はスフォルツァ家を含めて十一家。バルティア公爵、フェティダ公爵、ツェリス家かメリッツェン公爵か。もっともスフォルツァ家を陥れたいと願うだろうバルティア公爵とは結局、あの昼餐会見かけた程度でしかないが、まあ、そのときのマーガレットの様子からすると彼にとってもアリアという『駒』は必要だろうから、無理に追い落とす必要性を感じられなかった。
そして、その次にスフォルツァ家と関わりがあるのだろうフェティダ公爵は現在、宙ぶらりんな状態だったはずだ。マクシミリアンが継いだという情報も入ってきてない。だから、ここも可能性としては薄いだろう。それ以外の二つの公爵家はそもそもスフォルツァ家、バルティア家、フェティダ家に比べればかなり小規模だ。騎士団に影響を持っているとは考えにくいから二家の可能性も否定していいだろう。
となると、誰がこんな仕業を?
体感時間では数十分から一時間くらい経ったころ、再び、家の外が騒がしくなった。どうしたんだろうかと思って聞き耳を立てていると、なにやら王宮から誰かが派遣されたようだった。
『いや、それぱ俺でも分からないんですってば』
それは誰なのか見なくても、聞き覚えのある声だ。
『とりあえず、コクーン副団長が解放しろ、とおっしゃっているんです』
どうやらセルドアがアリアたちの解放の許可を出したけど、アランや現場の騎士たちはそれに納得していないようだった。
だけども上の命令は絶対的で、まもなくアリアたちは解放された。
1
あなたにおすすめの小説
断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます
山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。
でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。
それを証明すれば断罪回避できるはず。
幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。
チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。
処刑5秒前だから、今すぐに!
『処刑されるたびに12歳に戻る悪役令嬢、7回目の人生は「何もせず寝て過ごす」ことに決めたら、なぜか周囲が勝手に勘違いして聖女扱いされています
六角
恋愛
公爵令嬢リリアーナは、18歳の誕生日に必ず断罪・処刑されては12歳に戻るという地獄のループを6回も繰り返していた。 真面目に努力しても、剣を極めても、裏社会を支配しても、結局は殺される運命。 心折れた彼女は、7回目の人生でついに決意する。 「もう頑張らない。どうせ死ぬなら、今回はひたすら寝て過ごそう」と。
しかし、安眠を求めて「うるさい」と敵を黙らせれば『王者の覇気』と恐れられ、寝ぼけて放った魔法は『神の奇跡』と崇められ、枕への異常なこだわりは『深遠なる儀式』と誤解されてしまう。 気がつけば、ストーカー気味のヤンデレ王子、パン屋の元ヒロイン、狂犬の如きライバル令嬢、元部下の暗殺者、そして不眠症の魔王までもが彼女の信者となり、リリアーナは意図せずして国を、そして世界を救う「最強の聖女」へと祭り上げられていく。
「お願いだから、私を寝かせて!」 睡眠欲だけで運命(システム)さえもねじ伏せる、無気力悪役令嬢の痛快勘違いサクセス(?)ストーリー!
婚約破棄で悪役令嬢を辞めたので、今日から素で生きます。
黒猫かの
恋愛
「エリー・オルブライト! 貴様との婚約を破棄する!」
豪華絢爛な夜会で、ウィルフレッド王子から突きつけられた非情な宣告。
しかし、公爵令嬢エリーの心境は……「よっしゃあ! やっと喋れるわ!!」だった。
悪役令嬢の心変わり
ナナスケ
恋愛
不慮の事故によって20代で命を落としてしまった雨月 夕は乙女ゲーム[聖女の涙]の悪役令嬢に転生してしまっていた。
7歳の誕生日10日前に前世の記憶を取り戻した夕は悪役令嬢、ダリア・クロウリーとして最悪の結末 処刑エンドを回避すべく手始めに婚約者の第2王子との婚約を破棄。
そして、処刑エンドに繋がりそうなルートを回避すべく奮闘する勘違いラブロマンス!
カッコイイ系主人公が男社会と自分に仇なす者たちを斬るっ!
罠にはめられた公爵令嬢~今度は私が報復する番です
結城芙由奈@コミカライズ連載中
ファンタジー
【私と私の家族の命を奪ったのは一体誰?】
私には婚約中の王子がいた。
ある夜のこと、内密で王子から城に呼び出されると、彼は見知らぬ女性と共に私を待ち受けていた。
そして突然告げられた一方的な婚約破棄。しかし二人の婚約は政略的なものであり、とてもでは無いが受け入れられるものではなかった。そこで婚約破棄の件は持ち帰らせてもらうことにしたその帰り道。突然馬車が襲われ、逃げる途中で私は滝に落下してしまう。
次に目覚めた場所は粗末な小屋の中で、私を助けたという青年が側にいた。そして彼の話で私は驚愕の事実を知ることになる。
目覚めた世界は10年後であり、家族は反逆罪で全員処刑されていた。更に驚くべきことに蘇った身体は全く別人の女性であった。
名前も素性も分からないこの身体で、自分と家族の命を奪った相手に必ず報復することに私は決めた――。
※他サイトでも投稿中
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
私を選ばなかったくせに~推しの悪役令嬢になってしまったので、本物以上に悪役らしい振る舞いをして婚約破棄してやりますわ、ザマア~
あさぎかな@コミカライズ決定
恋愛
乙女ゲーム《時の思い出(クロノス・メモリー)》の世界、しかも推しである悪役令嬢ルーシャに転生してしまったクレハ。
「貴方は一度だって私の話に耳を傾けたことがなかった。誤魔化して、逃げて、時より甘い言葉や、贈り物を贈れば満足だと思っていたのでしょう。――どんな時だって、私を選ばなかったくせに」と言って化物になる悪役令嬢ルーシャの未来を変えるため、いちルーシャファンとして、婚約者であり全ての元凶とである第五王子ベルンハルト(放蕩者)に婚約破棄を求めるのだが――?
公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~
谷 優
恋愛
公爵家の末娘として生まれた幼いティアナ。
お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。
お父様やお兄様は私に関心がないみたい。
ただ、愛されたいと願った。
そんな中、夢の中の本を読むと自分の正体が明らかに。
◆恋愛要素は前半はありませんが、後半になるにつれて発展していきますのでご了承ください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる