24 / 69
十歳
今すべきこと、今したいこと
しおりを挟む
「少しだけで、護身程度で構わないので、王立騎士団で護身術を学ぶ機会をいただけませんでしょうか」
アリアのお願いに目を瞬かせる王妃。
確かに令嬢とはほど遠いものだろうし、進んで認められるものでもないだろう。
ダメだったらしょうがない程度のお願いだ。
そうアリアは割り切っていた。
「いいでしょう」
王妃は少し間を開けたが、認めてくれた。
「もちろん、あなたは公爵令嬢であると同時に今は私付きの下級侍女。警護や時間的な都合上、どこまで面倒を見てもらえるかはあちらと掛け合わないと分かりませんが、私から口添えしておきましょう」
その言葉に胸を撫で下ろしたアリア。
「しばらくの間はあなたを下級侍女で遇します。いずれ時期が来たときには必ず上級侍女への格上げ、そしてそれ相応の報酬をだすわ」
だから、もうしばらく待っていて、と王妃は締めくくり、さあ、仕事の続きをして頂戴、と部屋から追い出された。
王妃の真意を聞けたアリアの足取りは決して軽くはなかった。
今はまだ成人してない王太子クリスティアンとは何の縁もない。
しかし、いずれは彼と婚約することになるだろう。
それはただの憶測ではない。
フレデリカとの確執がある以上、今すぐにというわけではないが、彼女を完全に追い出したとき、どのような成り行きになるかは分からないが、自分に『枷』が付けられるだろう。
それは図らずともスフォルツァ家の先代当主が望んだものになる。
そう言える。
平凡に生きようと思っていたけど、やっぱり無理か。
自室に戻ったアリアは業務に戻るまでの少ない時間の中、大きくため息をついて考えた。以前、ここに上がるときに国王から言われたことを王妃からも言われた。
すなわち、これは決められた道なのだということが、否が応でも分かってしまった。
未来の自分からしてみれば、こんなはずじゃなかったとは思ったとしても、今、フレデリカを追い出さない限りはいずれ、全てが破綻する。だから、今、こうするしかなかったと言い訳したくなるだろう。
「でも、今は目の前のことを片付けていこう」
そう思って、王妃に会うためのドレスから作業着に着替えた。
自室から出るとき、大きく息をすって足を踏み出した。その踏み出した足には小さな体に似合わない、大きな意思が宿っていた。
それから数週間後。
アリアのもとに一通の手紙が届く。王立騎士団副団長のセルドア・コクーンからのものだった。ようやく話がまとまったようだ。
『妃殿下からレディが護身術を学びたいという話を聞きました。僕でよければ教えてあげます。もちろん、この話は侍女たちの中で広がる可能性もありますので、妃殿下からの使いという形で、こちらに来てください』
王妃もセルドアもアリアの立場をよくわかってくれ、ありがたいことに王立騎士団へ行くことは内々してくれることになった。大々的に騎士団に行く、というのではいろいろな噂が立てられかねないし、またいじめが再発しないとも限らない。だから、『王妃の用事』で騎士団に向かうことにしてくれたのは、アリアとしては非常にありがたい。
今までも支えてくれる人は多かったが、セルドアも助けてくれるとなると非常に嬉しかった。今度、スフォルツァ家に帰ったときには、マチルダに何かお礼を持っていこう、と決めた。
彼から手紙を受け取ってから一週間後、とうとうその日がやってきた。
二人がともに非番の日だったので、訓練を行うことになったのだ。
アリアのお願いに目を瞬かせる王妃。
確かに令嬢とはほど遠いものだろうし、進んで認められるものでもないだろう。
ダメだったらしょうがない程度のお願いだ。
そうアリアは割り切っていた。
「いいでしょう」
王妃は少し間を開けたが、認めてくれた。
「もちろん、あなたは公爵令嬢であると同時に今は私付きの下級侍女。警護や時間的な都合上、どこまで面倒を見てもらえるかはあちらと掛け合わないと分かりませんが、私から口添えしておきましょう」
その言葉に胸を撫で下ろしたアリア。
「しばらくの間はあなたを下級侍女で遇します。いずれ時期が来たときには必ず上級侍女への格上げ、そしてそれ相応の報酬をだすわ」
だから、もうしばらく待っていて、と王妃は締めくくり、さあ、仕事の続きをして頂戴、と部屋から追い出された。
王妃の真意を聞けたアリアの足取りは決して軽くはなかった。
今はまだ成人してない王太子クリスティアンとは何の縁もない。
しかし、いずれは彼と婚約することになるだろう。
それはただの憶測ではない。
フレデリカとの確執がある以上、今すぐにというわけではないが、彼女を完全に追い出したとき、どのような成り行きになるかは分からないが、自分に『枷』が付けられるだろう。
それは図らずともスフォルツァ家の先代当主が望んだものになる。
そう言える。
平凡に生きようと思っていたけど、やっぱり無理か。
自室に戻ったアリアは業務に戻るまでの少ない時間の中、大きくため息をついて考えた。以前、ここに上がるときに国王から言われたことを王妃からも言われた。
すなわち、これは決められた道なのだということが、否が応でも分かってしまった。
未来の自分からしてみれば、こんなはずじゃなかったとは思ったとしても、今、フレデリカを追い出さない限りはいずれ、全てが破綻する。だから、今、こうするしかなかったと言い訳したくなるだろう。
「でも、今は目の前のことを片付けていこう」
そう思って、王妃に会うためのドレスから作業着に着替えた。
自室から出るとき、大きく息をすって足を踏み出した。その踏み出した足には小さな体に似合わない、大きな意思が宿っていた。
それから数週間後。
アリアのもとに一通の手紙が届く。王立騎士団副団長のセルドア・コクーンからのものだった。ようやく話がまとまったようだ。
『妃殿下からレディが護身術を学びたいという話を聞きました。僕でよければ教えてあげます。もちろん、この話は侍女たちの中で広がる可能性もありますので、妃殿下からの使いという形で、こちらに来てください』
王妃もセルドアもアリアの立場をよくわかってくれ、ありがたいことに王立騎士団へ行くことは内々してくれることになった。大々的に騎士団に行く、というのではいろいろな噂が立てられかねないし、またいじめが再発しないとも限らない。だから、『王妃の用事』で騎士団に向かうことにしてくれたのは、アリアとしては非常にありがたい。
今までも支えてくれる人は多かったが、セルドアも助けてくれるとなると非常に嬉しかった。今度、スフォルツァ家に帰ったときには、マチルダに何かお礼を持っていこう、と決めた。
彼から手紙を受け取ってから一週間後、とうとうその日がやってきた。
二人がともに非番の日だったので、訓練を行うことになったのだ。
0
お気に入りに追加
499
あなたにおすすめの小説
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。
五月ふう
恋愛
リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。
「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」
今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。
「そう……。」
マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。
明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。
リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。
「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」
ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。
「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」
「ちっ……」
ポールは顔をしかめて舌打ちをした。
「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」
ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。
だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。
二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。
「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」
【完結】婚約破棄される前に私は毒を呷って死にます!当然でしょう?私は王太子妃になるはずだったんですから。どの道、只ではすみません。
つくも茄子
恋愛
フリッツ王太子の婚約者が毒を呷った。
彼女は筆頭公爵家のアレクサンドラ・ウジェーヌ・ヘッセン。
なぜ、彼女は毒を自ら飲み干したのか?
それは婚約者のフリッツ王太子からの婚約破棄が原因であった。
恋人の男爵令嬢を正妃にするためにアレクサンドラを罠に嵌めようとしたのだ。
その中の一人は、アレクサンドラの実弟もいた。
更に宰相の息子と近衛騎士団長の嫡男も、王太子と男爵令嬢の味方であった。
婚約者として王家の全てを知るアレクサンドラは、このまま婚約破棄が成立されればどうなるのかを知っていた。そして自分がどういう立場なのかも痛いほど理解していたのだ。
生死の境から生還したアレクサンドラが目を覚ました時には、全てが様変わりしていた。国の将来のため、必要な処置であった。
婚約破棄を宣言した王太子達のその後は、彼らが思い描いていたバラ色の人生ではなかった。
後悔、悲しみ、憎悪、果てしない負の連鎖の果てに、彼らが手にしたものとは。
「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルバ」にも投稿しています。
男性アレルギー令嬢とオネエ皇太子の偽装結婚 ~なぜか溺愛されています~
富士とまと
恋愛
リリーは極度の男性アレルギー持ちだった。修道院に行きたいと言ったものの公爵令嬢と言う立場ゆえに父親に反対され、誰でもいいから結婚しろと迫られる。そんな中、婚約者探しに出かけた舞踏会で、アレルギーの出ない男性と出会った。いや、姿だけは男性だけれど、心は女性であるエミリオだ。
二人は友達になり、お互いの秘密を共有し、親を納得させるための偽装結婚をすることに。でも、実はエミリオには打ち明けてない秘密が一つあった。
里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます
結城芙由奈
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります>
政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
転生男爵令嬢のわたくしは、ひきこもり黒豚伯爵様に愛されたい。
みにゃるき しうにゃ
恋愛
男爵令嬢のメリルは、五歳の時に前世を思い出した。そして今自分がいる国の名前が、前世好きだった
乙女ゲーの舞台と同じ事に気づいた。
ヒロインや悪役令嬢じゃないけど、名前もないモブとして乙女ゲーのキャラたちに会えると喜んだのもつかの間、肝心の乙女ゲーの舞台となる学園が存在していないことを知る。
え? 名前が同じだけで乙女ゲーの世界じゃないの? じゃあなんで前世を思い出したの?
分からないまま十六歳になり、メリルは「ひきこもり黒豚伯爵」と呼ばれる人のところへ嫁ぐことになった……。
本編は8話で完結。
その後、伯爵様サイド。
一応R15付けときます。
初恋の兄嫁を優先する私の旦那様へ。惨めな思いをあとどのくらい我慢したらいいですか。
梅雨の人
恋愛
ハーゲンシュタイン公爵の娘ローズは王命で第二王子サミュエルの婚約者となった。
王命でなければ誰もサミュエルの婚約者になろうとする高位貴族の令嬢が現れなかったからだ。
第一王子ウィリアムの婚約者となったブリアナに一目ぼれしてしまったサミュエルは、駄目だと分かっていても次第に互いの距離を近くしていったためだった。
常識のある周囲の冷ややかな視線にも気が付かない愚鈍なサミュエルと義姉ブリアナ。
ローズへの必要最低限の役目はかろうじて行っていたサミュエルだったが、常にその視線の先にはブリアナがいた。
みじめな婚約者時代を経てサミュエルと結婚し、さらに思いがけず王妃になってしまったローズはただひたすらその不遇の境遇を耐えた。
そんな中でもサミュエルが時折見せる優しさに、ローズは胸を高鳴らせてしまうのだった。
しかし、サミュエルとブリアナの愚かな言動がローズを深く傷つけ続け、遂にサミュエルは己の行動を深く後悔することになる―――。
悪役令嬢エリザベート物語
kirara
ファンタジー
私の名前はエリザベート・ノイズ
公爵令嬢である。
前世の名前は横川禮子。大学を卒業して入った企業でOLをしていたが、ある日の帰宅時に赤信号を無視してスクランブル交差点に飛び込んできた大型トラックとぶつかりそうになって。それからどうなったのだろう。気が付いた時には私は別の世界に転生していた。
ここは乙女ゲームの世界だ。そして私は悪役令嬢に生まれかわった。そのことを5歳の誕生パーティーの夜に知るのだった。
父はアフレイド・ノイズ公爵。
ノイズ公爵家の家長であり王国の重鎮。
魔法騎士団の総団長でもある。
母はマーガレット。
隣国アミルダ王国の第2王女。隣国の聖女の娘でもある。
兄の名前はリアム。
前世の記憶にある「乙女ゲーム」の中のエリザベート・ノイズは、王都学園の卒業パーティで、ウィリアム王太子殿下に真実の愛を見つけたと婚約を破棄され、身に覚えのない罪をきせられて国外に追放される。
そして、国境の手前で何者かに事故にみせかけて殺害されてしまうのだ。
王太子と婚約なんてするものか。
国外追放になどなるものか。
乙女ゲームの中では一人ぼっちだったエリザベート。
私は人生をあきらめない。
エリザベート・ノイズの二回目の人生が始まった。
⭐️第16回 ファンタジー小説大賞参加中です。応援してくれると嬉しいです
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる