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あなたは金の婚約破棄をお望みですか? それとも銀の婚約破棄?――――いいえ、普通の婚約破棄を望みます
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とある王国で開かれている夜会。
王国の貴族の子女たちが集う王立学園の卒業間近の生徒たちは社交界に出るために夜会慣れをしておかなければならない。そのために、そんな生徒たちを対象とした夜会が卒業式一か月前から連夜のごとく行われており、一週間前に迫っている今日もそんな日だった。
しかしきらびやかなのは中だけだ。外は静まり返り、昼間でも人気が少ない場所は、夜になるともっと静けさが広がっていた。
「ねぇ、そこのあなた、いいえ、違うわね――マリナ・ブランシュゼット侯爵令嬢」
そんな場所を一人で歩いていた栗毛の少女、マリナは同年代の“女性”に不意に声をかけられ、立ち止まる。
侯爵令嬢の彼女が夜会の真っただ中である今、こんな人気のないところにいるのは、同い年の婚約者の王太子が、こちらもまた同い年の懇ろの子爵令嬢とその夜会を楽しんでいて、周りの好奇な視線に耐えられなくなったからだ。
マリナは声をかけてきたのがその子爵令嬢の取り巻きの女性の一人ではないことに気づくまでにそんなにかからず、すぐに警戒心を解いた。
「なん――――」
「あなたは金の婚約破棄、銀の婚約破棄、それとも普通の婚約破棄、どれが好きかしら?」
マリナの質問をすべて聞くことなく、目の前にいる白っぽいドレスを着た女性は扇子を彼女の首元に突きつける。一見、彼女の首を狙ったかのようなそのしぐさで、それは自分自身への覚悟を問い詰めているような意味ではないかと考えたマリナだったが、ある疑問を思いつき、ちょっとだけ首をかしげる。
彼女は侯爵令嬢。
この国の王族籍、公爵位と侯爵位のものの顔と名前をほとんど一致させている。
しかし、こんな女性――銀の巻き髪に緑の瞳、野性っぽい香り女性――を彼女は知らなかった。
目の前の女性は何も言わないマリナに対して、ニヤッと笑う。
「なにも言わないならば、自動的に金の婚約破棄してあげるけれど」
どうして婚約者との仲が悪いのを知っているんだろうか。
マリナは彼女に聞きたかったが、それを聞かせてくれる雰囲気ではない。案の定、目の前の女性はフフフと笑いながら、彼女の髪をやさしくなでる。
「ふふ、なにも聞かないで頂戴な。私がやっているのは全部趣味なんだから」
大胆不敵な宣言にマリナはただただはぁと頷くしかできなかった。
「反応薄いわねぇ。つまんないの」
やだやだとため息をつきつつも、楽しげに笑う彼女。
「でも、大丈夫。心配しないで頂戴。そうね、大船に乗ったつもりでいて」
そうウィンクした彼女は言って、風のように静かに去っていった。
そんな不思議な体験をしてから一週間後、卒業式がつつがなく行われ、無事に社交界の一員と認められたマリナ。彼女を軽視している王太子と、彼を泥棒猫のように奪った子爵令嬢ウジェニーも無事に卒業した。
その後に開かれた新成年たちを祝う祝賀会を兼ねた夜会で、マリナは実家から調達した年相応の堅苦しすぎない程度の簡素な、淡青のドレスを着ていた。
本来ならば、婚約者である王太子が彼女にドレスを送るというのは不自然ではないのだが、なにせ彼は子爵令嬢ウジェニーにぞっこんだ。彼の白の正装の対になるようなアイボリー色のドレスを彼女に送っていて、今日の夜会は最初からずっとウジェニーと一緒にいて、マリナと一度も踊っていない。
だからと言って、王太子の婚約者という矜持のあるマリナは会場の隅っこで壁の花になっていたが、宴もたけなわになったころ、数人の見知らぬ青年たちによって、ホールの中央まで連行されてしまう。
「おい、マリナ・ブランシュゼット侯爵令嬢! ウジェニーを散々いじめてくれたそうじゃないか。池に突き落とそうとしたり、持ち物に泥をかぶせたりとか、挙句の果てにはウジェニーの実家に暴漢を仕向けたそうじゃないか」
「え、そんな……私は……」
無理やり土下座のような格好をさせられた彼女は、王太子から言われた“悪行の数々”についてまったく心当たりがなかったが、それを否定する材料はまったくない。
なにも言えなくて困っていると、そして例の懇ろになっている子爵令嬢が猫なで声でマリナに迫ってくる。
「ねぇ、すべて洗いざらい話してくださいな、マリナ様」
「ウジェニー、君があいつにお願いする必要なんかないさ。すべての証拠はそろっているから、あいつは終わりだ。すぐ騎士団に渡され、尋問を受けることになるからな」
「そうなんですかぁ、ウィリアム様」
「そうだ。だからここであいつがなんと言おうとも大丈夫さ。あいつとの婚約破棄は認められ、すぐに君と結婚できるさ」
なんなんだ、この茶番は。
自分と王太子の婚約にそもそも愛なんてない。
王家と釣り合う家柄、そして同年代の女性をと考えると、自分しかいなかったから仕方なく婚約したけれど、しなくていいならばぜひともしたくない。
マリナは婚約破棄するならばどうぞ、ご勝手にという立場にいたが、それでも自分以外の家族に迷惑をかけるわけにはいかない。どうしたものかと無表情で悩んでいると、ウジェニーはもう自分が王太子の婚約者になることを確信したのか、嬉しい!とウィリアム王子に抱き着く。
さて、このまま自分は捕らわれの身になるのかとあきらめた瞬間、参加者たちの後ろから声が上がる。
「ちょおーっと、お待ちなさいな」
後ろから聞こえた声に少年少女は次々と振り向き、その声の人物を見て、ぎょっとしながらもその人物が進み出るのを止めない。その人物は、見事までにきれいな金髪を縦巻きにしてまとめあげ、薄いピンク色のドレスを着こなしているが、何かが不自然なのだ。
「なんだ、貴様は」
「あら、私の顔をご存じないとは、優れた記憶力の持ち主でございますわね」
「……――――お前は、俺を愚弄するつもりか!!」
「あらあら、ほめて差し上げておりますのに、けなすとは心外ですわ」
「な、ぬ……!!」
いわれのない事実でマリナを追い落とそうとしている王太子とやりあえるほどの弁の立つ“女性”。マリナは“彼女”に見覚えがあった。
先日の夜会で“金の婚約破棄”と持ち掛けた人だった。しかし、あの時は夜、薄暗い空間だったから違和感を覚えなかったものの、今は十分違和感を覚える。
ドレスで着飾っているけれど、骨格は女性のそれではない。声も男性特有の低さを感じさせ、あの時に感じた冷たさも持っている。
「改めまして、私は隣国ベルリンツの第二王子でこの国に留学しておりますフェルディナントと申します。お見知りおきくださると幸いですわ」
“彼”があいさつすると、全員固まる。
マリナは前に一回あっていたのを思い出したから、そこまで驚かなかったものの、それでもやはり驚くしかない。
“彼”がマリナのそばに来ると、彼女のそばにいた青年たちを投げ飛ばした。
彼らの仲間なのだろう、別の青年たちが“彼”につかみかかろうとするが、“彼”は開いていた扇子を掲げながらパチンと閉じると、つかみかかろうとしていた青年たちは“彼”に恐れをなしたようで、立ちすくむ。
「あら? 皆さん、どうされたのですか? 私を見て固まって。まさか、この美しいボディにあこがれたのかしら? どうお思いなのかしらね、マリナ嬢?」
「あの……多分、皆さん、フェルディナント殿下の美しさに呆けているの……でしょう?」
「あーら、やだわねぇ」
“彼”は固まったままの周囲や青年たちを一瞥して、マリナに尋ねられたが、そんなことはないだろうと思いつつ、疑問形で返しておいた。
「で、本題に話を元に戻しましょうか。あなた、いいえウィリアム・フェルガム・アウント=レベレリッツ・フォン・アウグスベルン・ヴァヒラム王太子殿。あなたが彼女、マリナ・ブランシュゼット侯爵令嬢と婚約破棄されるのならば、私が彼女と婚約するのは大丈夫だわよね?」
「いや、彼女はウジェニーに危害を加えた罪でこれから投獄されることになる。あなたは、いやあなたの国は王族と罪人が結婚できるという法律でもあるのだろうか」
「そんなのあるわけないじゃない」
「ならば、彼女は不適格だと思う――――」
「そもそもあんたのその行動理念ってなんなの?」
「はぁ!? いや、俺はただウジェニーと結婚するために、いや、正しいことと間違っていることを判断するためにこの場を設けたんだ」
フェルディナント王子とウィリアム王太子は互いの国を背負っているようなやり取りしているが、ウィリアム王子の言葉の端々には公の人ではなく、私人としての感情が混ざっていることにだれもが気づいてしまったが、だれもそれを指摘しない。
が、一人だけは指摘する代わりにある人物の名前を呼んだ。
「ですってよ、ヘンリー陛下」
フェルディナント王子の呼びかけに父上!?と目をむいて驚くウィリアム王子。
呼ばれた人物は、マリナたちから見て右手側から登場し、参加者たちは順に礼をしていく。
国王はウィリアム王子たちとマリナとフェルディナント王子の間に立つと、静かにウィリアム王太子に話しかける。
「お前の言い分、よく聞かせてもらった」
「ではっ、マリナとの婚約破棄、そしてウジェニーとの結婚を――――」
「認める」
国王が軽くうなずくとあっけに取れられた様子のウィリアム王太子と、嬉しそうに彼に抱き着くウジェニー。予想外の展開にざわめきがホールに響く。
しかし、国王はまだ話があると制する。
「それと同時に、お前を廃嫡、ならびに王族から除籍し、シュタインゼ伯爵の襲名を命ずる」
「――――――それはっ!?」
その宣言が与える影響は今さっきの婚約破棄と新たな婚約を宣言した時よりも大きく、それがもっとも大きかったのは、王太子自身だった。彼は顔を真っ赤にして、国王につかみかかろうとするが、すんでのところで抑えた。
最後の理性がきっと働いたのだろう。
国王は厳しい口調で、自分と瓜二つの容姿を持つ王太子に告げる。
「お前が言ったとおりだ。この国にも王族と罪人が結ばれることはない。せいぜい伯爵位が限度だ。だから、伯爵の地位を引き継ぎ、お前の好きなウジェニーと結婚するがいい」
「いや、しかし、彼女は罪人ではないはずですが」
「お前の記憶力はよほどのものだな」
国王から与えられたのは、最低限の年金がもらえて領地などを治める必要のない飾りだけの称号。
しかし、それは彼にとって不服だったようで、国王に抗議するが、一蹴される。
「彼女の父親、ゴルフェルナ子爵は先日、横領で爵位を取り上げられたばかりだが。まあ、知らないのも無理はないのか。なにせお前は遊び惚けて立法会にも参加しておらんからしかたないか。そこの小娘をはじめ、お前の取り巻きたちはそのことを言っていなかったのか、聞いていても忘れてしまうような些細なことだったのか、それとも自分たちの都合のいいようにしか言っていなかったのか――いずれにしても、彼女の家は爵位を返上したうえ、とりつぶしになっておる。それをどうやって罪人ではないと抜かせるのか」
告げられた事実にまさかと言葉が出ないウィリアム王太子。一縷の望みを持ってウジェニーを見るが、彼女の顔は真っ青だった。
ウィリアム王太子が自分ははめられたとぼやくが後の祭りである。精神的に打ちひしがれている彼にさらに追い打ちをかける国王。
「だから、王家が持っている爵位のうちで一番適当なものをお前にあてがうと言っているんだ。お前も好きなウジェニー嬢と結婚できるんだから、問題ないだろう?」
これにはさすがの王太子も黙り込んでしまう。その傍らでウジェニーが王妃になれると思ったのにぃと爵位目当てであることを間接的に告白してしまったが、それに当の本人だけが気づいていなかった。
すでに吟味した証拠を持っていたのだろう。
元王太子とその婚約者の元子爵令嬢は王の背後にいた騎士たちによって丁寧に卒業祝賀会の会場から連行された。おそらく伯爵を継ぐための手続きが行われるのであろうが、会場に残っている人たちは関係なかった。
新たなゴシップネタで盛り上げっている。
そんな現金な人たちにつかれていたマリナは再び壁の花になろうとしたが、国王がそうさせず、そっと彼女と女装した青年、フェルディナント王子を連れて別室へ移った。
侍従や騎士たちが下がり、三人きりになった途端、国王はすまなかったと頭を下げた。
「マリナ嬢のことはウィリアムかがわめくから、内々に調べさせていたのだが、むしろウィリアムを諫めたり、ゴルフェルナ嬢に必死に礼儀作法を叩き込ませようとしたりと、自分の危険を顧みずに忠義を尽くしてくれたのに、どうやら危害を加えられる寸前だったようだな。申し訳なかった」
国王の言葉にマリナは首を振る。最終的に道を選んだのは彼らだったけれど、一縷の望みを持ったのは自分だ。
たとえ愛されなくても愛していたい。
そういう風に思ってしまった時期もあったから、あえて彼の気を引くようにふるまったが、すべてその逆だったのだ。
「いえ、こちらこそ。せっかく白羽の矢を立ててくださったのにもかかわらず、力不足でございました」
「構わぬ。ブランシュゼット侯爵家にはなにか詫びの品を送るとして、マリナ嬢、そなた自身はなにか欲しいものはあるか?」
マリナの詫びに気にするなという国王。
彼の問いかけに首を少しだけ横に振る彼女。マリナにとって、別にこれは課せられた使命でもない。だから、とくに褒美っていうものは必要ないのではとも思えてしまったが、あえてそれを口に出すこともなかった。
国王はマリナの返答に気を悪くすることもなく、そうかとだけ言って、フェルディナント王子に問いかける。
「貴公にも大変申し訳ないことをした」
「いいえ、構わないですわ。まさかこちらの国でもドレスを着るなんていう機会がくるとは思いませんでしたわ。でも、そのおかげでこんなかわいらしい令嬢がバカ王子に嫁ぐのを阻止できてよかったのかしら?」
フェルディナント王子の言葉にマリナは目をむいてしまった。どんな国であろうとも、王族の成年男子に女装趣味があるなんて聞いたこともない。しかも、おおっぴらに出しているなんてマリナの想像にもつかなかった。
彼の女装趣味に他国の王子ながら頭を抱えていたのだろう。国王は彼の言葉に気の抜けたような返事だけして、さあ、帰りなさいと二人を部屋から追い出す。
婚約破棄騒動で疲れてしまったマリナは家に帰ることにしたが、その前に助けてくれてありがとうございますとフェルディナント王子に礼を言うと、大丈夫とにっこりウィンクされた。その顔は女性以上に女性らしい美しさが備わっていた。
騒動から数日後、マリナは国王と王妃からの正式な謝罪のために王宮に上がっていて、その帰りにフェルディナント王子の侍従を名乗る青年が彼女をお茶に誘ってきた。国王夫妻もそれを知っていたようで、その誘いを進めてくれた。
彼の部屋に行くと、もうすでにそのセットが用意されていて、まるで彼女が来ることを想定していたようだった。
「忙しい中、呼び出して申し訳ありません」
「いえ、妃殿下に用事があったので、そのついでの格好で申し訳ありません」
「気にしなくて構いませんよ。さ、はいってください」
「失礼いたします」
黒髪の青年は柔らかい物腰でマリナをもてなしてくれる……が、当のフェルディナント王子はいない。差し出された紅茶を飲んでいいものか迷っていると、奥の扉が開き、短く切りそろえられた金髪の青年が入ってきた。
「やぁ、マリナ・ブランシュゼット侯爵令嬢」
その青年はマリナの名を間違えずに覚えている。
たしかに自分は元王太子の婚約者だったけれど、多くの人に覚えられているとは思っていない。ちょこんと首をかしげると、その青年はおどけてマリナの頬を撫でながら、やだなぁ、覚えてないのかい?と尋ねてきた。
「……まさか……!!」
「あはは、この格好でははじめてだっけ」
その声音で思い出した。彼はあの時の“女性”だ。それ以前に会った記憶がないから、間違っていないだろう。ごめんごめんと軽く謝罪した王子は改めて名乗り、マリナが座っている反対側に座って、彼も紅茶をおいしそうに一口含んだ。
「マリナ嬢、もしよろしければ、ベルリンツへ来ないかい?」
かわいらしいお茶菓子を食べたフェルディナント王子の誘いに一瞬、どうしたものかと迷うマリナ。
女性が文官、武官になれるこの国では、女性が外国へ旅行する、留学することは珍しくないことはないが、ただの侯爵令嬢が行くことはほとんどない。
しかし、王子は少しだけ真剣な目をして説明する。
「僕はもう留学期間が終わる。君は――こんなことを言ってはいけないのだけれど、悪い噂がたってもおかしくない状態だ。だから、この国だけではなく、この世界の見聞を広めてもいいんじゃないかな?」
ここまで自分のことに気を使ってくれた彼の厚意を無碍にするわけにもいかない。きっと、すでに国王夫妻や自分の両親にも話がついているのだろう。
お受けしますとマリナは承諾した。
マリナが帰った後、先ほどの黒髪の侍従は残りのお茶を一段安っぽいカップに入れて、飲み干す。それを雇い主である王子は止めない。
「フェルディナント様」
侍従、ユーグは出過ぎたお茶の渋みに顔をしかめた後、フェルディナント王子に声をかける。彼にはどうしても雇い主の行動で解せない部分があったのだ。
「どうした?」
「婚約ではなくてよかったのですか?」
「うん。彼女はそれを望まなかったしね」
「なるほど」
その答えにユーグはなるほどと頷く。先ほどこの部屋に来た彼女は物静かだけれど、頭はいい。少なくとも部屋の主が来るまで紅茶に手を付けなかった。
本国にいたときに出会った少女たちはほとんど王子が来る前にもう、紅茶に手を付けていた。
「そうだよ? 最初に尋ねたときに“金の婚約破棄”って言ったら、あのぼんくら王子との婚約破棄プラス僕との婚約、近頃、恐ろしいぐらい静かな兄上に反旗を翻そうと思ったんだ。で、“銀の婚約破棄”って言ったら、婚約破棄プラス僕との婚約だったけどね」
「婚約破棄が基本コースでそれ以外はオプションだったんですか」
フェルディナント王子が女装を趣味とする理由、そして留学という名目でこの国にいる理由。どちらも彼の頭の良さを危惧した兄王子から命を守るため。彼女を婚約者として帰ったほうが、この国の後ろ盾があると知らしめることができるのに、この人はそれをしない。
彼女を戦場に連れていくのと同じ行動をとるこの人の気持ちがわからないユーグだったが、雇い主にも何か理由があるのだろう。
「まあ、彼女はきっと、ベルリンツでもそつなくこなす。そう思わないかい?」
フェルディナント王子は彼女の未来をきっと描いているのだろう。しかし、それはユーグにも当の本人であるマリナにもわからないものだった。
王国の貴族の子女たちが集う王立学園の卒業間近の生徒たちは社交界に出るために夜会慣れをしておかなければならない。そのために、そんな生徒たちを対象とした夜会が卒業式一か月前から連夜のごとく行われており、一週間前に迫っている今日もそんな日だった。
しかしきらびやかなのは中だけだ。外は静まり返り、昼間でも人気が少ない場所は、夜になるともっと静けさが広がっていた。
「ねぇ、そこのあなた、いいえ、違うわね――マリナ・ブランシュゼット侯爵令嬢」
そんな場所を一人で歩いていた栗毛の少女、マリナは同年代の“女性”に不意に声をかけられ、立ち止まる。
侯爵令嬢の彼女が夜会の真っただ中である今、こんな人気のないところにいるのは、同い年の婚約者の王太子が、こちらもまた同い年の懇ろの子爵令嬢とその夜会を楽しんでいて、周りの好奇な視線に耐えられなくなったからだ。
マリナは声をかけてきたのがその子爵令嬢の取り巻きの女性の一人ではないことに気づくまでにそんなにかからず、すぐに警戒心を解いた。
「なん――――」
「あなたは金の婚約破棄、銀の婚約破棄、それとも普通の婚約破棄、どれが好きかしら?」
マリナの質問をすべて聞くことなく、目の前にいる白っぽいドレスを着た女性は扇子を彼女の首元に突きつける。一見、彼女の首を狙ったかのようなそのしぐさで、それは自分自身への覚悟を問い詰めているような意味ではないかと考えたマリナだったが、ある疑問を思いつき、ちょっとだけ首をかしげる。
彼女は侯爵令嬢。
この国の王族籍、公爵位と侯爵位のものの顔と名前をほとんど一致させている。
しかし、こんな女性――銀の巻き髪に緑の瞳、野性っぽい香り女性――を彼女は知らなかった。
目の前の女性は何も言わないマリナに対して、ニヤッと笑う。
「なにも言わないならば、自動的に金の婚約破棄してあげるけれど」
どうして婚約者との仲が悪いのを知っているんだろうか。
マリナは彼女に聞きたかったが、それを聞かせてくれる雰囲気ではない。案の定、目の前の女性はフフフと笑いながら、彼女の髪をやさしくなでる。
「ふふ、なにも聞かないで頂戴な。私がやっているのは全部趣味なんだから」
大胆不敵な宣言にマリナはただただはぁと頷くしかできなかった。
「反応薄いわねぇ。つまんないの」
やだやだとため息をつきつつも、楽しげに笑う彼女。
「でも、大丈夫。心配しないで頂戴。そうね、大船に乗ったつもりでいて」
そうウィンクした彼女は言って、風のように静かに去っていった。
そんな不思議な体験をしてから一週間後、卒業式がつつがなく行われ、無事に社交界の一員と認められたマリナ。彼女を軽視している王太子と、彼を泥棒猫のように奪った子爵令嬢ウジェニーも無事に卒業した。
その後に開かれた新成年たちを祝う祝賀会を兼ねた夜会で、マリナは実家から調達した年相応の堅苦しすぎない程度の簡素な、淡青のドレスを着ていた。
本来ならば、婚約者である王太子が彼女にドレスを送るというのは不自然ではないのだが、なにせ彼は子爵令嬢ウジェニーにぞっこんだ。彼の白の正装の対になるようなアイボリー色のドレスを彼女に送っていて、今日の夜会は最初からずっとウジェニーと一緒にいて、マリナと一度も踊っていない。
だからと言って、王太子の婚約者という矜持のあるマリナは会場の隅っこで壁の花になっていたが、宴もたけなわになったころ、数人の見知らぬ青年たちによって、ホールの中央まで連行されてしまう。
「おい、マリナ・ブランシュゼット侯爵令嬢! ウジェニーを散々いじめてくれたそうじゃないか。池に突き落とそうとしたり、持ち物に泥をかぶせたりとか、挙句の果てにはウジェニーの実家に暴漢を仕向けたそうじゃないか」
「え、そんな……私は……」
無理やり土下座のような格好をさせられた彼女は、王太子から言われた“悪行の数々”についてまったく心当たりがなかったが、それを否定する材料はまったくない。
なにも言えなくて困っていると、そして例の懇ろになっている子爵令嬢が猫なで声でマリナに迫ってくる。
「ねぇ、すべて洗いざらい話してくださいな、マリナ様」
「ウジェニー、君があいつにお願いする必要なんかないさ。すべての証拠はそろっているから、あいつは終わりだ。すぐ騎士団に渡され、尋問を受けることになるからな」
「そうなんですかぁ、ウィリアム様」
「そうだ。だからここであいつがなんと言おうとも大丈夫さ。あいつとの婚約破棄は認められ、すぐに君と結婚できるさ」
なんなんだ、この茶番は。
自分と王太子の婚約にそもそも愛なんてない。
王家と釣り合う家柄、そして同年代の女性をと考えると、自分しかいなかったから仕方なく婚約したけれど、しなくていいならばぜひともしたくない。
マリナは婚約破棄するならばどうぞ、ご勝手にという立場にいたが、それでも自分以外の家族に迷惑をかけるわけにはいかない。どうしたものかと無表情で悩んでいると、ウジェニーはもう自分が王太子の婚約者になることを確信したのか、嬉しい!とウィリアム王子に抱き着く。
さて、このまま自分は捕らわれの身になるのかとあきらめた瞬間、参加者たちの後ろから声が上がる。
「ちょおーっと、お待ちなさいな」
後ろから聞こえた声に少年少女は次々と振り向き、その声の人物を見て、ぎょっとしながらもその人物が進み出るのを止めない。その人物は、見事までにきれいな金髪を縦巻きにしてまとめあげ、薄いピンク色のドレスを着こなしているが、何かが不自然なのだ。
「なんだ、貴様は」
「あら、私の顔をご存じないとは、優れた記憶力の持ち主でございますわね」
「……――――お前は、俺を愚弄するつもりか!!」
「あらあら、ほめて差し上げておりますのに、けなすとは心外ですわ」
「な、ぬ……!!」
いわれのない事実でマリナを追い落とそうとしている王太子とやりあえるほどの弁の立つ“女性”。マリナは“彼女”に見覚えがあった。
先日の夜会で“金の婚約破棄”と持ち掛けた人だった。しかし、あの時は夜、薄暗い空間だったから違和感を覚えなかったものの、今は十分違和感を覚える。
ドレスで着飾っているけれど、骨格は女性のそれではない。声も男性特有の低さを感じさせ、あの時に感じた冷たさも持っている。
「改めまして、私は隣国ベルリンツの第二王子でこの国に留学しておりますフェルディナントと申します。お見知りおきくださると幸いですわ」
“彼”があいさつすると、全員固まる。
マリナは前に一回あっていたのを思い出したから、そこまで驚かなかったものの、それでもやはり驚くしかない。
“彼”がマリナのそばに来ると、彼女のそばにいた青年たちを投げ飛ばした。
彼らの仲間なのだろう、別の青年たちが“彼”につかみかかろうとするが、“彼”は開いていた扇子を掲げながらパチンと閉じると、つかみかかろうとしていた青年たちは“彼”に恐れをなしたようで、立ちすくむ。
「あら? 皆さん、どうされたのですか? 私を見て固まって。まさか、この美しいボディにあこがれたのかしら? どうお思いなのかしらね、マリナ嬢?」
「あの……多分、皆さん、フェルディナント殿下の美しさに呆けているの……でしょう?」
「あーら、やだわねぇ」
“彼”は固まったままの周囲や青年たちを一瞥して、マリナに尋ねられたが、そんなことはないだろうと思いつつ、疑問形で返しておいた。
「で、本題に話を元に戻しましょうか。あなた、いいえウィリアム・フェルガム・アウント=レベレリッツ・フォン・アウグスベルン・ヴァヒラム王太子殿。あなたが彼女、マリナ・ブランシュゼット侯爵令嬢と婚約破棄されるのならば、私が彼女と婚約するのは大丈夫だわよね?」
「いや、彼女はウジェニーに危害を加えた罪でこれから投獄されることになる。あなたは、いやあなたの国は王族と罪人が結婚できるという法律でもあるのだろうか」
「そんなのあるわけないじゃない」
「ならば、彼女は不適格だと思う――――」
「そもそもあんたのその行動理念ってなんなの?」
「はぁ!? いや、俺はただウジェニーと結婚するために、いや、正しいことと間違っていることを判断するためにこの場を設けたんだ」
フェルディナント王子とウィリアム王太子は互いの国を背負っているようなやり取りしているが、ウィリアム王子の言葉の端々には公の人ではなく、私人としての感情が混ざっていることにだれもが気づいてしまったが、だれもそれを指摘しない。
が、一人だけは指摘する代わりにある人物の名前を呼んだ。
「ですってよ、ヘンリー陛下」
フェルディナント王子の呼びかけに父上!?と目をむいて驚くウィリアム王子。
呼ばれた人物は、マリナたちから見て右手側から登場し、参加者たちは順に礼をしていく。
国王はウィリアム王子たちとマリナとフェルディナント王子の間に立つと、静かにウィリアム王太子に話しかける。
「お前の言い分、よく聞かせてもらった」
「ではっ、マリナとの婚約破棄、そしてウジェニーとの結婚を――――」
「認める」
国王が軽くうなずくとあっけに取れられた様子のウィリアム王太子と、嬉しそうに彼に抱き着くウジェニー。予想外の展開にざわめきがホールに響く。
しかし、国王はまだ話があると制する。
「それと同時に、お前を廃嫡、ならびに王族から除籍し、シュタインゼ伯爵の襲名を命ずる」
「――――――それはっ!?」
その宣言が与える影響は今さっきの婚約破棄と新たな婚約を宣言した時よりも大きく、それがもっとも大きかったのは、王太子自身だった。彼は顔を真っ赤にして、国王につかみかかろうとするが、すんでのところで抑えた。
最後の理性がきっと働いたのだろう。
国王は厳しい口調で、自分と瓜二つの容姿を持つ王太子に告げる。
「お前が言ったとおりだ。この国にも王族と罪人が結ばれることはない。せいぜい伯爵位が限度だ。だから、伯爵の地位を引き継ぎ、お前の好きなウジェニーと結婚するがいい」
「いや、しかし、彼女は罪人ではないはずですが」
「お前の記憶力はよほどのものだな」
国王から与えられたのは、最低限の年金がもらえて領地などを治める必要のない飾りだけの称号。
しかし、それは彼にとって不服だったようで、国王に抗議するが、一蹴される。
「彼女の父親、ゴルフェルナ子爵は先日、横領で爵位を取り上げられたばかりだが。まあ、知らないのも無理はないのか。なにせお前は遊び惚けて立法会にも参加しておらんからしかたないか。そこの小娘をはじめ、お前の取り巻きたちはそのことを言っていなかったのか、聞いていても忘れてしまうような些細なことだったのか、それとも自分たちの都合のいいようにしか言っていなかったのか――いずれにしても、彼女の家は爵位を返上したうえ、とりつぶしになっておる。それをどうやって罪人ではないと抜かせるのか」
告げられた事実にまさかと言葉が出ないウィリアム王太子。一縷の望みを持ってウジェニーを見るが、彼女の顔は真っ青だった。
ウィリアム王太子が自分ははめられたとぼやくが後の祭りである。精神的に打ちひしがれている彼にさらに追い打ちをかける国王。
「だから、王家が持っている爵位のうちで一番適当なものをお前にあてがうと言っているんだ。お前も好きなウジェニー嬢と結婚できるんだから、問題ないだろう?」
これにはさすがの王太子も黙り込んでしまう。その傍らでウジェニーが王妃になれると思ったのにぃと爵位目当てであることを間接的に告白してしまったが、それに当の本人だけが気づいていなかった。
すでに吟味した証拠を持っていたのだろう。
元王太子とその婚約者の元子爵令嬢は王の背後にいた騎士たちによって丁寧に卒業祝賀会の会場から連行された。おそらく伯爵を継ぐための手続きが行われるのであろうが、会場に残っている人たちは関係なかった。
新たなゴシップネタで盛り上げっている。
そんな現金な人たちにつかれていたマリナは再び壁の花になろうとしたが、国王がそうさせず、そっと彼女と女装した青年、フェルディナント王子を連れて別室へ移った。
侍従や騎士たちが下がり、三人きりになった途端、国王はすまなかったと頭を下げた。
「マリナ嬢のことはウィリアムかがわめくから、内々に調べさせていたのだが、むしろウィリアムを諫めたり、ゴルフェルナ嬢に必死に礼儀作法を叩き込ませようとしたりと、自分の危険を顧みずに忠義を尽くしてくれたのに、どうやら危害を加えられる寸前だったようだな。申し訳なかった」
国王の言葉にマリナは首を振る。最終的に道を選んだのは彼らだったけれど、一縷の望みを持ったのは自分だ。
たとえ愛されなくても愛していたい。
そういう風に思ってしまった時期もあったから、あえて彼の気を引くようにふるまったが、すべてその逆だったのだ。
「いえ、こちらこそ。せっかく白羽の矢を立ててくださったのにもかかわらず、力不足でございました」
「構わぬ。ブランシュゼット侯爵家にはなにか詫びの品を送るとして、マリナ嬢、そなた自身はなにか欲しいものはあるか?」
マリナの詫びに気にするなという国王。
彼の問いかけに首を少しだけ横に振る彼女。マリナにとって、別にこれは課せられた使命でもない。だから、とくに褒美っていうものは必要ないのではとも思えてしまったが、あえてそれを口に出すこともなかった。
国王はマリナの返答に気を悪くすることもなく、そうかとだけ言って、フェルディナント王子に問いかける。
「貴公にも大変申し訳ないことをした」
「いいえ、構わないですわ。まさかこちらの国でもドレスを着るなんていう機会がくるとは思いませんでしたわ。でも、そのおかげでこんなかわいらしい令嬢がバカ王子に嫁ぐのを阻止できてよかったのかしら?」
フェルディナント王子の言葉にマリナは目をむいてしまった。どんな国であろうとも、王族の成年男子に女装趣味があるなんて聞いたこともない。しかも、おおっぴらに出しているなんてマリナの想像にもつかなかった。
彼の女装趣味に他国の王子ながら頭を抱えていたのだろう。国王は彼の言葉に気の抜けたような返事だけして、さあ、帰りなさいと二人を部屋から追い出す。
婚約破棄騒動で疲れてしまったマリナは家に帰ることにしたが、その前に助けてくれてありがとうございますとフェルディナント王子に礼を言うと、大丈夫とにっこりウィンクされた。その顔は女性以上に女性らしい美しさが備わっていた。
騒動から数日後、マリナは国王と王妃からの正式な謝罪のために王宮に上がっていて、その帰りにフェルディナント王子の侍従を名乗る青年が彼女をお茶に誘ってきた。国王夫妻もそれを知っていたようで、その誘いを進めてくれた。
彼の部屋に行くと、もうすでにそのセットが用意されていて、まるで彼女が来ることを想定していたようだった。
「忙しい中、呼び出して申し訳ありません」
「いえ、妃殿下に用事があったので、そのついでの格好で申し訳ありません」
「気にしなくて構いませんよ。さ、はいってください」
「失礼いたします」
黒髪の青年は柔らかい物腰でマリナをもてなしてくれる……が、当のフェルディナント王子はいない。差し出された紅茶を飲んでいいものか迷っていると、奥の扉が開き、短く切りそろえられた金髪の青年が入ってきた。
「やぁ、マリナ・ブランシュゼット侯爵令嬢」
その青年はマリナの名を間違えずに覚えている。
たしかに自分は元王太子の婚約者だったけれど、多くの人に覚えられているとは思っていない。ちょこんと首をかしげると、その青年はおどけてマリナの頬を撫でながら、やだなぁ、覚えてないのかい?と尋ねてきた。
「……まさか……!!」
「あはは、この格好でははじめてだっけ」
その声音で思い出した。彼はあの時の“女性”だ。それ以前に会った記憶がないから、間違っていないだろう。ごめんごめんと軽く謝罪した王子は改めて名乗り、マリナが座っている反対側に座って、彼も紅茶をおいしそうに一口含んだ。
「マリナ嬢、もしよろしければ、ベルリンツへ来ないかい?」
かわいらしいお茶菓子を食べたフェルディナント王子の誘いに一瞬、どうしたものかと迷うマリナ。
女性が文官、武官になれるこの国では、女性が外国へ旅行する、留学することは珍しくないことはないが、ただの侯爵令嬢が行くことはほとんどない。
しかし、王子は少しだけ真剣な目をして説明する。
「僕はもう留学期間が終わる。君は――こんなことを言ってはいけないのだけれど、悪い噂がたってもおかしくない状態だ。だから、この国だけではなく、この世界の見聞を広めてもいいんじゃないかな?」
ここまで自分のことに気を使ってくれた彼の厚意を無碍にするわけにもいかない。きっと、すでに国王夫妻や自分の両親にも話がついているのだろう。
お受けしますとマリナは承諾した。
マリナが帰った後、先ほどの黒髪の侍従は残りのお茶を一段安っぽいカップに入れて、飲み干す。それを雇い主である王子は止めない。
「フェルディナント様」
侍従、ユーグは出過ぎたお茶の渋みに顔をしかめた後、フェルディナント王子に声をかける。彼にはどうしても雇い主の行動で解せない部分があったのだ。
「どうした?」
「婚約ではなくてよかったのですか?」
「うん。彼女はそれを望まなかったしね」
「なるほど」
その答えにユーグはなるほどと頷く。先ほどこの部屋に来た彼女は物静かだけれど、頭はいい。少なくとも部屋の主が来るまで紅茶に手を付けなかった。
本国にいたときに出会った少女たちはほとんど王子が来る前にもう、紅茶に手を付けていた。
「そうだよ? 最初に尋ねたときに“金の婚約破棄”って言ったら、あのぼんくら王子との婚約破棄プラス僕との婚約、近頃、恐ろしいぐらい静かな兄上に反旗を翻そうと思ったんだ。で、“銀の婚約破棄”って言ったら、婚約破棄プラス僕との婚約だったけどね」
「婚約破棄が基本コースでそれ以外はオプションだったんですか」
フェルディナント王子が女装を趣味とする理由、そして留学という名目でこの国にいる理由。どちらも彼の頭の良さを危惧した兄王子から命を守るため。彼女を婚約者として帰ったほうが、この国の後ろ盾があると知らしめることができるのに、この人はそれをしない。
彼女を戦場に連れていくのと同じ行動をとるこの人の気持ちがわからないユーグだったが、雇い主にも何か理由があるのだろう。
「まあ、彼女はきっと、ベルリンツでもそつなくこなす。そう思わないかい?」
フェルディナント王子は彼女の未来をきっと描いているのだろう。しかし、それはユーグにも当の本人であるマリナにもわからないものだった。
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