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僕の記憶

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 十四年前――――
 ミリニア帝国宮廷の皇族専用エリアにある四阿近く。
 夏の季節の草花が咲き誇っている中、埋もれるように一人の少女が寝ていた。彼女の髪は流れるような銀髪で、この国ではめったに見かけないものだった。

「うん? 見慣れない顔だな」

 公爵家長男としての勉強のために宮廷ここに訪れていた僕は、彼女の顔に記憶はなかった。
 もちろんここにいるということはそれなりの貴族の娘なんだろうが、皇族専用エリアで寝るのは不敬にあたるのではないかとも考えてしまった。とはいえ、たかが五歳の僕になにもすることはなくただ、彼女のそばで本を読むしかなかった。

「……――うん? ここはどこ?」

 彼女のそばで座って本を読んでいると、隣からかわいらしい声が聞こえてきた。どうやら目を覚ましたのだろうとみると、小さなアイスブルーの瞳がこちらを見上げていた。

 ああ、なんてかわいらしいんだ! まるでネロリの花のような少女ではないか!

「君は“ネロリの妖精”かな?」

 思わず言ってしまったが、彼女はきょとんとするばかりで、僕の言っている意味をわかっていなかったようだ。
 彼女が起きてすぐに、彼女と瓜二つの男性が迎えに来た。どうやら彼女の父親らしい。その人も帝国内の貴族ではなさそうだから、あとで陛下に彼がだれなのか聞いてみよう。

 彼女はバイバイと言って僕と別れた。
 結局、彼女に僕が言った言葉の意味は伝わってなかったようだ。よかったのか悪かったのか。
 でも、またいつか彼女に会いに行く。
 違うな。彼女を絶対に迎えに行く。たとえどんな困難が待ち受けていても。
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