転生巫女は『厄除け』スキルを持っているようです ~神様がくれたのはとんでもないものでした!?〜

鶯埜 餡

文字の大きさ
上 下
28 / 35

28.後の祭りと暴けない真実

しおりを挟む
 私はまた・・真っ白なところにいた。

 ううん。今度は違う。
 だって、私はワタシ・・・を見下ろしているんだもん。

 ああ、ここってあのときの場所だよね。

 そうそう、神様は見捨ててくれなかったとき。いや、放っておいてくれなかったんだっけ。もう、今となってはどっちでもいいんだけれどね。
 それにしてもなんだかよくわからない真っ白な場所で、神様(仮)は私に問いかけてきたんだったような気がする。

『新しい世界で生活してみないか?』
「断ります。もうゆっくりさせてください」
『いや、でも、まだし足りないこととかあったんじゃないのか?』
「ありますけど、特に今更したいなんて思ってはいないので、結構です」
『……――じゃあ、異能力を持ってみたいとは思わないか?』
「う―ん、面白そうですけどぉ」

 私はそのあとに起こることなんて全然知らなかったから、滅茶苦茶やる気のない返事だなぁと苦笑いしてしまった。
 そう。《普通》の子供として過ごすことも、アイリーンやミミィ、そしてジェイドさんたちと出会うこともそのときは知らなかった。

『じゃあ、決まりだな。では神川かみかわ美湖みこ、地球で巫女だった君にぴったりの異能力スキルを授けよう。とくに使命なんてない。ゆっくり・・・・と暮らすがよい』


 うん?
 今神様コイツ、なんて言った?
 ゆっくりと暮らすがよい?

 そうだった。あの神様アイツは人の言葉をロクに聞かずに放りこみやがったんだっけ。
 ぶつちゃけ面倒だな。異能力なんかってあれでしょ? なにかに巻きこまれるアレですよねって、思ったキオク・・・があるよ。
 結局、なんにもゆっくりと過ごしてなんかいない。それどころか、今現在進行中で魔王に捕らわれていたんだっけ。


『じゃあね、神川美湖。ボクは君の素敵で厄介な異世界ライフを応援バックアップしてあげるから』
 あれ? 今更だけれど、私を呼んだ人ってなんか魔王あのひとと声が似ている……――?


 そこまで思いだしたときには気がついた。もう安全な状態になったんだと。

 体が軽い。
 そっか、私はよく寝たんだ・・・・っけ。
 魔界時間とヒトの時間は違うから、正確な時間のずれはわからないけれど、とりあえずここの時間は夜のようだ。それに魔界あちらはもう魔王がいないはずだから消滅しているはず。だから、“ヒトの時間”で“夜”で問題ないだろう。
 それに見覚えはないにもかかわらず、すごくよく落ち着く場所っていうことは多分、王命を受ける前の『ラテテイ』が使っていたようなところにいるんだろう。

 息をついて周りをよく見ると、だれかが私の傍でソファにもたれかかってすやすやと寝ている。あの金髪ってやっぱり綺麗だな。間近で見たくなったけれど、ちょっとした振動でその人を起こすのには忍びなかった。
「目が覚めたか」
 けれど、は私が起きていたことに気づいたらしい。
 薄暗いところでもよくわかる青色の瞳は不安げにこちらを見ていた。
「はい……ご迷惑をおかけしました」
「まったくだ。でも、無事でよかった。詳しい話はまた、しっかりとするからまずは休め」
 さすがに“騎士さん”を信じて、だれにもなにも言わずに宿を出ていったことは反省してイマス。
 私でもそれをされたらおこだよ、おこ。
 ジェイドさんは少しため息をつくだけで、それ以上なにも言わない。
 その優しさ、嬉しいけれど、もっときちんと怒ってほしいな。
「ありがとうございます」
 でも、その優しさに甘えることにした。多分、ほかの人に怒られそうだから、ね。
「とにもかくにも今は休め。王都に戻ったら、魔王封印にかかわったものとして、殿下と騎士団から聴取を受けなきゃいけないからな」
 うっそぉーん。
 マジですか。
 いや、当事者なんだからそうなる可能性だってわかってたけれどさぁ。ねぇ?
 いつの間にか近くにいたジェイドさんは、しょんぼりとした私の頭を撫でてくれた。私は頷いて、もう一度眠ることにした。

 今度はなにも昔を見ることはなかった。


 翌朝、すっきりと目覚めた私はジェイドさんともう一人、元気な人と朝食をとっていた。二人に言われて知ったことだけれど、どうやらここはあの廃墟となった魔王城の近くらしい。
「元気そうでなによりだよ」
「本ッ当にご迷惑をおかけしました」
 もう一人の元気な人、レオンさんは私を見るなりギュッと抱きしめてきた。
 しかもなぜか、抱きしめただけで監禁生活だったみたいだけれど、栄養状態もよさそうだねぇ~と、滅茶苦茶軽いノリで言ってくるあたり、デリカシーには欠ける人だけれど、それでもその接し方にはすごく嬉しくなった。
 っていうか、レオンさんにも迷惑かけていたんだよねぇ。
 レオンさんが連れてきた騎士の一人に騙され、レオンさんという名前につられて出てしまったとはいえ、私たちを警護してくれたのはレオンさんたちなんだから。
 私の謝罪にううんと首を振って、頭をポンポンとされる。

「ううん、俺は大丈夫だよ。だって、俺の名を使われたんだろう? しかも、事前にチェックしていたのにもかかわらず、成り代わられたんだから、不可抗力でしかないさ。それよりもジェイドの方が――痛ッい……――っうか、怖いんですけれど!」

 途中で涙目になりながらジェイドさんの方を見るレオンさん。
 どうやらジェイドさんのことを話そうとしたらしいけれど、当の本人に物理的な無言の圧力をかけられたらしい。
「余計なことは言わなくていい」
「余計じゃないでしょ!」
 なんだかこのやり取りがすごく懐かしかった。
 やっと私は帰ってこれたんだと、あらためて実感できた。
 レオンさんはそんな私になにはともあれ無事にミコちゃんが戻ってこれたんだから、まずはそれをあいつらに労ってもらわないとなとしまりのない笑顔で笑い飛ばす。
 だれが私を待っていたんだろうって思っていると、お前、自己評価低いもんなとジェイドさんに慰めとはまた違うような言葉を投げつけられたけれど、そうなのかな。

「ああ。俺だけじゃなく、ニコラスやユリウス、エリックだって、それに――――いや、なんでもない、みんな・・・、ミコちゃんの帰還を待ち望んでいたからな」

“みんな待っている”と言ったレオンさんの顔は決してすがすがしいものではなかった。どちらかというと、すべてを受けいれざるを得なかったという顔。
 多分、きっと魔王ガープ、いや、ヴィルヘルムさんのことを思いだしたのかなぁと考えてしまった。けれど、あのままだときっとこの先、ロクでもないことが起きた予感もするから、きっとこれでよかったんだろう。
 そうだよね、ジェイドさん?
 私がそっと彼を見ると大丈夫だと強く頷いてくれた。

「じゃあ、とりあえず王都に戻るか」
 ほんの少ししんみりとした朝食になっちゃったけれど、それでも前に進まなきゃいけないし、必要な人にはすべてを話さなきゃいけない。
 ジェイドさんもレオンさんも少し寂し気な顔だったけれど、多分、私と同じ気持ちなんだろうと感じてしまった。


「そういえば、すごい気になっていたことがあったんですけれど」
 なんかいろいろと違和感があったけれど、とにかく早く王都に戻らなきゃいけないそうで、私たちはニコラス殿下が手配してくれた馬車に乗って動きだしたところで、その違和感“その一”がなんなのか理解できた。
 私が突然声を上げたのにジェイドさんがなにか体調でも悪いのかと驚いていた。外にいたレオンさんに窓の近くに寄るように合図を出していた。
 いや、違うんですと私は軽く首を振って、質問を投げかけた。

「今って、私が連れ去られてから何日目ですか?」

 私の突飛な・・・質問にジェイドさんたちは顔を見合わして、頷きあう。
 うん?
 なにかおかしなことでも言ったかな。

「十二日目だ」
「十二日目だけど?」

 ほっほう……
 うん? 待った。なんか結構日が昇ったり沈んだりしていたせいで、魔界では二十日以上過ごしていたと勘違いしていたけれど、たったの十二日でしたか!!
「全然時間経過してないじゃん!」
 なんだか、魔王に最後の最後までしてやられたなぁ、アハハ。でも、なんのためにあの人はそんなことをしたんだろうかと思って二人に尋ねたけれど、二人とも首を傾げるだけだ。
「どうだろうな。ただの趣味としか思えない」
「そうだな。でも、あいつのことだから、もしかしたらなんか意味があったのかもしれんな」
「今となっちゃあ理由はわからんが」
「だねぇ。ミコちゃんも貧乏くじ引かされちゃったのかな?」
 レオンさんもジェイドさんもヴィルヘルムさん、いや魔王ガープの意図まではわからないようだった。
 なんか狐につまされた感じがするけれど、でも……どこかで会えるのならば、もう一度、今度は普通に会いたいな。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】悪役令嬢の反撃の日々

くも
恋愛
「ロゼリア、お茶会の準備はできていますか?」侍女のクラリスが部屋に入ってくる。 「ええ、ありがとう。今日も大勢の方々がいらっしゃるわね。」ロゼリアは微笑みながら答える。その微笑みは氷のように冷たく見えたが、心の中では別の計画を巡らせていた。 お茶会の席で、ロゼリアはいつものように優雅に振る舞い、貴族たちの陰口に耳を傾けた。その時、一人の男性が現れた。彼は王国の第一王子であり、ロゼリアの婚約者でもあるレオンハルトだった。 「ロゼリア、君の美しさは今日も輝いているね。」レオンハルトは優雅に頭を下げる。

【完結】番である私の旦那様

桜もふ
恋愛
異世界であるミーストの世界最強なのが黒竜族! 黒竜族の第一皇子、オパール・ブラック・オニキス(愛称:オール)の番をミースト神が異世界転移させた、それが『私』だ。 バールナ公爵の元へ養女として出向く事になるのだが、1人娘であった義妹が最後まで『自分』が黒竜族の番だと思い込み、魅了の力を使って男性を味方に付け、なにかと嫌味や嫌がらせをして来る。 オールは政務が忙しい身ではあるが、溺愛している私の送り迎えだけは必須事項みたい。 気が抜けるほど甘々なのに、義妹に邪魔されっぱなし。 でも神様からは特別なチートを貰い、世界最強の黒竜族の番に相応しい子になろうと頑張るのだが、なぜかディロ-ルの侯爵子息に学園主催の舞踏会で「お前との婚約を破棄する!」なんて訳の分からない事を言われるし、義妹は最後の最後まで頭お花畑状態で、オールを手に入れようと男の元を転々としながら、絡んで来ます!(鬱陶しいくらい来ます!) 大好きな乙女ゲームや異世界の漫画に出てくる「私がヒロインよ!」な頭の変な……じゃなかった、変わった義妹もいるし、何と言っても、この世界の料理はマズイ、不味すぎるのです! 神様から貰った、特別なスキルを使って異世界の皆と地球へ行き来したり、地球での家族と異世界へ行き来しながら、日本で得た知識や得意な家事(食事)などを、この世界でオールと一緒に自由にのんびりと生きて行こうと思います。 前半は転移する前の私生活から始まります。

婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪

naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。 「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」 まっ、いいかっ! 持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

前世では美人が原因で傾国の悪役令嬢と断罪された私、今世では喪女を目指します!

鳥柄ささみ
恋愛
美人になんて、生まれたくなかった……! 前世で絶世の美女として生まれ、その見た目で国王に好かれてしまったのが運の尽き。 正妃に嫌われ、私は国を傾けた悪女とレッテルを貼られて処刑されてしまった。 そして、気づけば違う世界に転生! けれど、なんとこの世界でも私は絶世の美女として生まれてしまったのだ! 私は前世の経験を生かし、今世こそは目立たず、人目にもつかない喪女になろうと引きこもり生活をして平穏な人生を手に入れようと試みていたのだが、なぜか世界有数の魔法学校で陽キャがいっぱいいるはずのNMA(ノーマ)から招待状が来て……? 前世の教訓から喪女生活を目指していたはずの主人公クラリスが、トラウマを抱えながらも奮闘し、四苦八苦しながら魔法学園で成長する異世界恋愛ファンタジー! ※第15回恋愛大賞にエントリーしてます! 開催中はポチッと投票してもらえると嬉しいです! よろしくお願いします!!

元侯爵令嬢は冷遇を満喫する

cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。 しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は 「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」 夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。 自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。 お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。 本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。 ※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります ※作者都合のご都合主義です。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい

金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。 私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。 勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。 なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。 ※小説家になろうさんにも投稿しています。

できれば穏便に修道院生活へ移行したいのです

新条 カイ
恋愛
 ここは魔法…魔術がある世界。魔力持ちが優位な世界。そんな世界に日本から転生した私だったけれど…魔力持ちではなかった。  それでも、貴族の次女として生まれたから、なんとかなると思っていたのに…逆に、悲惨な将来になる可能性があるですって!?貴族の妾!?嫌よそんなもの。それなら、女の幸せより、悠々自適…かはわからないけれど、修道院での生活がいいに決まってる、はず?  将来の夢は修道院での生活!と、息巻いていたのに、あれ。なんで婚約を申し込まれてるの!?え、第二王子様の護衛騎士様!?接点どこ!? 婚約から逃れたい元日本人、現貴族のお嬢様の、逃れられない恋模様をお送りします。  ■■両翼の守り人のヒロイン側の話です。乳母兄弟のあいつが暴走してとんでもない方向にいくので、ストッパーとしてヒロイン側をちょいちょい設定やら会話文書いてたら、なんかこれもUPできそう。と…いう事で、UPしました。よろしくお願いします。(ストッパーになれればいいなぁ…) ■■

【完結】人生で一番幸せになる日 ~『災い』だと虐げられた少女は、嫁ぎ先で冷血公爵様から溺愛されて強くなる~

八重
恋愛
【全32話+番外編】 「過去を、後ろを見るのはやめます。今を、そして私を大切に思ってくださっている皆さんのことを思いたい!」  伯爵家の長女シャルロッテ・ヴェーデルは、「生まれると災いをもたらす」と一族で信じられている『金色の目』を持つ少女。生まれたその日から、屋敷には入れてもらえず、父、母、妹にも虐げられて、一人ボロボロの「離れ」で暮らす。  ある日、シャルロッテに『冷血公爵』として知られるエルヴィン・アイヒベルク公爵から、なぜか婚約の申し込みがくる。家族は「災い」であるシャルロッテを追い出すのにちょうどいい口実ができたと、彼女を18歳の誕生日に嫁がせた。  しかし、『冷血公爵』とは裏腹なエルヴィンの優しく愛情深い素顔と婚約の理由を知り、シャルロッテは彼に恩返しするため努力していく。  そして、一族の中で信じられている『金色の目』の話には、実は続きがあって……。  マナーも愛も知らないシャルロッテが「夫のために役に立ちたい!」と努力を重ねて、幸せを掴むお話。 ※引き下げにより、書籍版1、2巻の内容を一部改稿して投稿しております

処理中です...