転生巫女は『厄除け』スキルを持っているようです ~神様がくれたのはとんでもないものでした!?〜

鶯埜 餡

文字の大きさ
上 下
23 / 35

23.馬鹿を見たっていいんだ

しおりを挟む
 なにか柔らかいものが顔に当たっているな……うん? 今、ここってどこだ――――?
「ここ、は……――――?」
 なんだかいつもと違う雰囲気に気づいた私が目を開けた瞬間、ものすごい量の瘴気を感じるとともにまがまがしい色味の調度品が並べられた部屋が目に入った。
 ここはどこだっけ?
 というか、今まで私ってこんなところにいたっけ。たしか私は今までの魔物の特徴を持っていない“新種の魔物”の捜索と討伐、封じこめ作戦を行って――――
「起きたか」
 そこまで考えたとき、脇から声をかけられたのでそちらを見ると、淡い赤い髪の男性が私を見下ろしていた。あれ、この人ってニコラス殿下に紹介されたよね……?
「ヴィルヘルムさん、ですよね!?」
 そうだ。
 自分で名前を出してから思いだした。
 この人は私の目の前に現れ、不気味な予言を残して、髪の毛をぼさぼさにして去っていった人!!
「気づいたか」
「気づくもなにも――あいたっ……! なんですか、これ!?」
 無表情でヴィルヘルムさんは肯定する。そのすまし顔で私をこんなところに連れてきやがったのかとつかみかかろうとしたのだけれど、無理だった。
 左の足首に、アンクレットの上側になにか金属のようなものが繋がっていて、それに引っ張られてしまった。
「見ての通りのものだが」
 で しょ う ねっ!!
 重くて鈍い音を立てたそれは、私とどこかを結びつけるための鎖でしょうよ。
 それくらいは愚鈍な私でもわかるわいっ。
「いやぁ、私が言いたいのはそういう問題じゃないんですがねぇ」
 落ちつけ自分。
 ヴィルヘルムさんをじっと見つめながら落ちつこうとするけれど、彼は私の言葉にふっと笑って、冷たく言い放つ。
「たとえそれがなにであったとしても、キミはここからは逃げられないさ」
 はぁ……って、待って。それってどういう意味ですかね。つまり、逃げようとしても――――

「その通りだ。逃げようとしても無駄だ。このの中には何重にも結界が施され、逃げだそうと思うほど結界は強くなる」

 なんじゃそりゃというのが私の感想だ。
 いやだってさ、そんな結界術師みたいなの、なんていうんだっけ、ああ、陰陽師みたいなことができる人ってこの世界に存在するんだ。
 しかし、“城”ってどういう意味を成すんだろうか……?
 概念的な何かだろうか、それとも――――
「ああ、キミたちで言うところの“タプ城”だった場所だ。もっとも、そんな城なんてもうない・・・・んだが」
 目の前の男性、ヴィルヘルムさんは酷薄な笑みを浮かべながら言う。
 ……――――!!
 でも、それってどうやったらそんなことが?
 だって、城(物理)を丸ごとなくすなんて、じゃあ、ここはなんなんだ?
「正確に言うと、あちらの世界にあった城を魔界へ転移させたのさ」

「どう、いうこと、なんですか……?」

 私はただ怖かった。
 目の前にいるこの人が恐怖でしかならなかった。
「いいねぇ、その瞳、その怯えた表情」
 ヴィルヘルムさんはそんな私の顎をくいっと持ちあげて、冷たく嗤う。
「キミが非常に邪魔だったんだ。『厄除け』を持つキミは私の復活・・を阻んでいたんだ」
 ここで、なんで『厄除け』が出てくるんだろう……――?
 というか、そもそも“私の復活・・”ってどういう意味なんだ?

 あなたはいったい何者なの?

「そうそう、名乗ってなかったね」
 まるで私の疑問に気付いたかのようにヴィルヘルムさんは唇の端を吊りあげる。
 そして次の瞬間、今まで私たちを取り囲んでいた瘴気が一層、増大して、ヴィルヘルムさんの雰囲気を一変させる。

「私の名は原初の魔王の一人、ガープだ」



“原初の魔王”。
 それは七十二柱の存在。
 かつてこの世界を創造した創造主が光ならば、魔王たちは闇。この世界の覇権を争って創造主、そしてその代理人であるヒトと争いを繰り広げてきた存在。
 創造主の代理人であるヒトにことごとく敗れ去った魔王はいつしか、連鎖的に消滅するようになり、すでに最後にいたとされる魔王もこの世から消えて五百年以上と言われている、いたはずだ。

 それなのに、なんで――――?

「私の名は原初の魔王の一人、ガープさ」
 なにかを期待したヴィルヘルムさん、いや、魔王ガープは私にそう宣告するが、もうへぇとしか言えなかった。
「もっと驚いてもいいと思うんだが……」
 私の反応の薄さに逆に驚いた魔王ガープは頼みこむように言ってくるが、いや、十分に驚いてますとしか答えられなかった。
「嘘をつくな!」
 いやぁ、無理ですねぇ。
 これ以上、どう驚けと言うんですか?
 だってさぁ――――
「ユリウスさんとジェイドさん、ジェーンさんを見たときに比べれば」
 あの美形兄妹のインパクトには勝てんよ。三人全員が揃ったところを見たことはないけれど、二人そろうだけでも十分に見ごたえがあるんだもん。
「ああ、あそこの兄妹は本当にそっくりだから、よくわかるが――――って、あそことはまた違う話だ!」
 魔王ガープは私のボケ?にセルフノリツッコミを行っていた。
 うん、見ている分には面白いね、この人。
 とはいえども、ここでのんびりしていられる暇はない。
 というか、そもそもなんで私が『厄除け』を持っていることに気づいたのか尋ねてみよう。

「で、なんで私が『厄除け』を持っていることを知っているんですか? あれってギルドでも認定されなかったんですよ。だから、私が持っていることは自分自身しか知らないはずなんですよ。それに、それを持っていることによって、あなたの魔王復活?が阻まれる理由を知りたいですね」

 矢継ぎ早の質問に魔王ガープは怒ることなく、ただ目を細めただけだった。
「ずいぶんと肝の据わった娘だな」
「ええ、からそう言われます」
 うん。
 その言葉は間違ってはいない。
 前世からよく言われてきたことだ。お正月のご祈祷の長蛇の列にも動じず、万札飛び交うお守り授与所も見慣れたもの。
 さすがにお守り授与担当が私一人のときに大量の参拝客が押し寄せたときは肝を冷やしたけれど、さすがは日本人というか、だれかが号令をかけずとも自然と一列になって順番待ちしていた光景は今でも忘れない。
 だから、この状態――魔王と名乗る人に拉致監禁されたところで、そこまで驚く必要はない。もちろん、魔王ガープと名乗る人は恐怖の対象だけれど。
「褒めてない」
 しかし、その答えは気に食わなかったようで、吐き捨てるように魔王ガープは言う。
「だが、そうだな。キミは知らないおじさんについてしまうとても愚鈍な娘。しかし、その肝の据わり方は並大抵の努力じゃできないな」
 あーそうですよねぇ。
 レオンさんが待っていると信じてのこのこ一人になった私は馬鹿だったよねぇ。
 でも、後悔はしてない。
 多分みんなはここを探しだしてくれる……!

「キミの仲間、それに王国の連中にはここを特定できても訪ねてくることはできない・・・・

 私の思考をまた、読んだかのような魔王ガープの言葉は、私を絶望に陥れるものになるはず・・だった。
「だから、アイツらの助けを期待するな」

「一生、ここで過ごすがよい。私の“領域”へと踏みこんだ罰だ、ミコ・ダルミアン」

 ごめんよ、魔王ガープ。
 私の質問に答えてもらってないんだけれど。だから、あなたがどんなことを言ったって私は動じないんだ。
 というか、そもそも『厄除け』の意味を教えてくれない?



 とはいえ、魔王ガープの言葉は本当だったようで、助けが来る気配はなかった。こちらの時間、すなわち魔界時間でここに閉じこめられてから二十二日経った。
 ポンコ……ものぐさ魔王ガープはここの時間とあちらでの時間のずれを気にすることもなく、ただ“気まぐれ”によって日を昇らせたり、沈ませたりしていた。
 で、あまりにも暇すぎた私はせっせと働いていた。
「キミはいったい、なにしてる」
 魔王としての仕事を終わらせたのか、ガープは私が働いている真っ只中の場所にひょっこりやってくる。
 あまりにも私が暇そうにしていたので、城の結界の強化を施したうえで、私を自由にしてくれたけれど、スキルは封じられているのか使えなかった。
「暇なんです」

 そう。
 私がしていたのはこの魔王城の掃除だった。
 魔王ガープって本当にポンコ……ものぐさのようで、いろいろな書類や置物、装飾品類がほったらかしになっていたのだ。前世の掃除の習慣が身についていたからか、全然苦じゃないのだ。
 というか、そもそも使用人代わりの魔物とかはいないんですね。

「いや、やってることは見てればわかるわ。というか、そもそもキミを暇にしたのは私なんだから、そこについては問わない」
「掃除してるんです」
「それも見ればわかるのだが……ったく、キミは仕事熱心だな」
「いえ、仕事じゃありませんよ」
「仕事じゃない? じゃあ、なんなんだ?」
「趣味です」
「趣味ぃ!?」
 禅問答のようなやり取りをしていたのだけれど、掃除イコール趣味の人はあまりいない、というか見かけたことがなかったのだろう。素っ頓狂な声をあげる魔王ガープ。
「はい、趣味です」
 私は今、掃除していた棚から離れ、はたきを魔王ガープの目の前につきつける。
「だから暇なんで、掃除してるんです」
「ヘプッショッ……――やはりどうしてそうつながるのか理解できないが、まあよい」
 いい心がけだと言わんばかりに目を細めるが、最初のくしゃみで台無しだ。
 そこにおいてある壺から大魔王が出てこないといいね。
 それからも魔王の気配を背後で感じながら掃除を続けた。


 今日で十二部屋目を清掃完了させた。
 十日前あたりに気分転換といって城内の探索をして、三十五部屋あることがわかっているので、残り二十三部屋。
 うーん、趣味といえどもやりがいはある。腕が鳴るねぇ。

 おっと、そろそろ夕食の時間か。空の色が日が沈みそうなものになってきている。
 最初こそ鎖でくくりつけられていたから、食事をわざわざ部屋にもってきてもらったけれど、最近は大きな食堂でガープと一緒に食べている。
 その食堂へ行くと、すでに魔王が来ていた。遅くなりましたと言って、席に着くと、どこからともなく食事が自動で運ばれてくる。
 清掃要員はいないけれど、食事担当の魔物はいるようで、裏で働いているらしい。
 いつものように今日なにをしていたのか、どんなことに気づいたのかということとかを魔王に話して、監禁されているとは思えない和やかな時間がしばらく流れた。
 デザートが運ばれてきて、それを食べているときに限って会話が途切れてしまった。
 私は禁断の質問をしてみることにした。
「それはそうと、なんでヴィルヘルムさんが魔王……なんかになったのですか?」
 そもそも“ヴィルヘルム・タリンプという人間”がなぜ魔王になったのかという質問を。
「ククク。そんなもん単純な話だ」
 ガープはその質問にすっと目を細めて嗤った。

「そもそも本物・・のタプ侯爵、ヴィルヘルム・タリンプはとっくにこの世にいないぞ」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪

naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。 「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」 まっ、いいかっ! 持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい

金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。 私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。 勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。 なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。 ※小説家になろうさんにも投稿しています。

できれば穏便に修道院生活へ移行したいのです

新条 カイ
恋愛
 ここは魔法…魔術がある世界。魔力持ちが優位な世界。そんな世界に日本から転生した私だったけれど…魔力持ちではなかった。  それでも、貴族の次女として生まれたから、なんとかなると思っていたのに…逆に、悲惨な将来になる可能性があるですって!?貴族の妾!?嫌よそんなもの。それなら、女の幸せより、悠々自適…かはわからないけれど、修道院での生活がいいに決まってる、はず?  将来の夢は修道院での生活!と、息巻いていたのに、あれ。なんで婚約を申し込まれてるの!?え、第二王子様の護衛騎士様!?接点どこ!? 婚約から逃れたい元日本人、現貴族のお嬢様の、逃れられない恋模様をお送りします。  ■■両翼の守り人のヒロイン側の話です。乳母兄弟のあいつが暴走してとんでもない方向にいくので、ストッパーとしてヒロイン側をちょいちょい設定やら会話文書いてたら、なんかこれもUPできそう。と…いう事で、UPしました。よろしくお願いします。(ストッパーになれればいいなぁ…) ■■

【完結】番である私の旦那様

桜もふ
恋愛
異世界であるミーストの世界最強なのが黒竜族! 黒竜族の第一皇子、オパール・ブラック・オニキス(愛称:オール)の番をミースト神が異世界転移させた、それが『私』だ。 バールナ公爵の元へ養女として出向く事になるのだが、1人娘であった義妹が最後まで『自分』が黒竜族の番だと思い込み、魅了の力を使って男性を味方に付け、なにかと嫌味や嫌がらせをして来る。 オールは政務が忙しい身ではあるが、溺愛している私の送り迎えだけは必須事項みたい。 気が抜けるほど甘々なのに、義妹に邪魔されっぱなし。 でも神様からは特別なチートを貰い、世界最強の黒竜族の番に相応しい子になろうと頑張るのだが、なぜかディロ-ルの侯爵子息に学園主催の舞踏会で「お前との婚約を破棄する!」なんて訳の分からない事を言われるし、義妹は最後の最後まで頭お花畑状態で、オールを手に入れようと男の元を転々としながら、絡んで来ます!(鬱陶しいくらい来ます!) 大好きな乙女ゲームや異世界の漫画に出てくる「私がヒロインよ!」な頭の変な……じゃなかった、変わった義妹もいるし、何と言っても、この世界の料理はマズイ、不味すぎるのです! 神様から貰った、特別なスキルを使って異世界の皆と地球へ行き来したり、地球での家族と異世界へ行き来しながら、日本で得た知識や得意な家事(食事)などを、この世界でオールと一緒に自由にのんびりと生きて行こうと思います。 前半は転移する前の私生活から始まります。

第一王子は私(醜女姫)と婚姻解消したいらしい

麻竹
恋愛
第一王子は病に倒れた父王の命令で、隣国の第一王女と結婚させられることになっていた。 しかし第一王子には、幼馴染で将来を誓い合った恋人である侯爵令嬢がいた。 しかし父親である国王は、王子に「侯爵令嬢と、どうしても結婚したければ側妃にしろ」と突っぱねられてしまう。 第一王子は渋々この婚姻を承諾するのだが……しかし隣国から来た王女は、そんな王子の決断を後悔させるほどの人物だった。

タイムリープ〜悪女の烙印を押された私はもう二度と失敗しない

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
<もうあなた方の事は信じません>―私が二度目の人生を生きている事は誰にも内緒― 私の名前はアイリス・イリヤ。王太子の婚約者だった。2年越しにようやく迎えた婚約式の発表の日、何故か<私>は大観衆の中にいた。そして婚約者である王太子の側に立っていたのは彼に付きまとっていたクラスメイト。この国の国王陛下は告げた。 「アイリス・イリヤとの婚約を解消し、ここにいるタバサ・オルフェンを王太子の婚約者とする!」 その場で身に覚えの無い罪で悪女として捕らえられた私は島流しに遭い、寂しい晩年を迎えた・・・はずが、守護神の力で何故か婚約式発表の2年前に逆戻り。タイムリープの力ともう一つの力を手に入れた二度目の人生。目の前には私を騙した人達がいる。もう騙されない。同じ失敗は繰り返さないと私は心に誓った。 ※カクヨム・小説家になろうにも掲載しています

聖女様と間違って召喚された腐女子ですが、申し訳ないので仕事します!

碧桜
恋愛
私は花園美月。20歳。派遣期間が終わり無職となった日、馴染の古書店で顔面偏差値高スペックなイケメンに出会う。さらに、そこで美少女が穴に吸い込まれそうになっていたのを助けようとして、私は古書店のイケメンと共に穴に落ちてしまい、異世界へ―。実は、聖女様として召喚されようとしてた美少女の代わりに、地味でオタクな私が間違って来てしまった! 落ちたその先の世界で出会ったのは、私の推しキャラと見た目だけそっくりな王(仮)や美貌の側近、そして古書店から一緒に穴に落ちたイケメンの彼は、騎士様だった。3人ともすごい美形なのに、みな癖強すぎ難ありなイケメンばかり。 オタクで人見知りしてしまう私だけど、元の世界へ戻れるまで2週間、タダでお世話になるのは申し訳ないから、お城でメイドさんをすることにした。平和にお給料分の仕事をして、異世界観光して、2週間後自分の家へ帰るつもりだったのに、ドラゴンや悪い魔法使いとか出てきて、異能を使うイケメンの彼らとともに戦うはめに。聖女様の召喚の邪魔をしてしまったので、美少女ではありませんが、地味で腐女子ですが出来る限り、精一杯頑張ります。 ついでに無愛想で苦手と思っていた彼は、なかなかいい奴だったみたい。これは、恋など始まってしまう予感でしょうか!? *カクヨムにて先に連載しているものを加筆・修正をおこなって掲載しております

【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。

五月ふう
恋愛
 リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。 「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」  今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。 「そう……。」  マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。    明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。  リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。 「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」  ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。 「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」 「ちっ……」  ポールは顔をしかめて舌打ちをした。   「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」  ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。 だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。 二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。 「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」

処理中です...