23 / 35
23.馬鹿を見たっていいんだ
しおりを挟む「俺達に話を聞きに来たんですか?」
「いや、懐かしかったから見学に来ただけ」
「え……」
「俺、ここの卒業生だから」
紘彬が部室を見回しながら答えた。
「先輩ってことですか?」
「そ。可愛い後輩達の顔見に来たんだ」
紘彬の言葉に反応に困った一史達は顔を見合わせた。
「ここんとこ部活出来なかったんだって? これ以上邪魔しちゃ悪いから帰るよ」
紘彬はそう言ってから、
「あ、でも、それ渡してもらえるか?」
聖子が持っていた紙を指した。
差し出された紙を如月が手袋を嵌めた手で受け取ると部室を後にした。
「あんなこと言ってたけど、刑事さんがあれ持って行ったってことはホントに見立て殺人って事?」
弥奈が不安そうに言った。
「ここの部員が狙われ……」
「バカなこと言うんじゃない!」
垂水が厳しい声で弥奈の言葉を遮る。
「でも、ここの部員の名字、被枕にある名前ばかりだよねぇ」
弥奈がそう言うと、
「え、朝霞に掛かる枕詞ってあった?」
耕太が言った。
「朝霞は聞いたことないけど……」
「じゃあ、朝霞さんだけは大丈夫ってこと?」
弥奈と耕太の言葉に部員達の疑うような視線が由衣に集まる。
「わ、わたしは……」
由衣が慌てる。
「見立てが出来るほど和歌に詳しいのに自分だけ被害者から外れたら疑ってくれって言うようなものでしょ。それに結城だってないし」
聖子がバカバカしいというように言った。
「え、あたしですか!?」
今度は結城が狼狽えたように言った。
「他にも無い人がいるって意味よ」
聖子はぴしゃりと言って結城の言葉を遮った。
「…………」
一史は何も言わずに全員の表情を見ていた。
「いい加減にしろ。部活を始めるぞ」
垂水がそう言ったが部員達は心ここにあらずと言った様子で皆集中出来なかった。
部活が終わり、垂水が職員室に戻ると紘彬と如月が職員室に入ってきた。
「学校を見て回られてたんですか?」
垂水が訊ねた。
紘彬のさっきの言葉を間に受けたようだ。
母校というのは事実だが。
「いえ、署に戻ってたんです」
小野以外に死亡した生徒がいるという話は聞いていなかった。
警察署は近くだし、教師達に話を聞くにしても詳しいことは署で調べた方が確実である。
それで一旦戻って調べてきたのだ。
「見立て殺人と言ってましたね。詳しい話を聞いても?」
「あ、いや、あれは生徒達の冗談で……」
「冗談なら話しても問題ありませんよね」
如月にそう返されて垂水は言葉に詰まった。
垂水は如月に促されて渋々部活の一環として枕詞を書いた紙のことを説明した。
「その紙、まだありますか?」
話を聞いた紘彬が垂水に訊ねた。
垂水は一瞬迷ってから、机の引き出しから紙を取り出す。
「紙に書いてあったのが『あさじうの』で、倒れていた生徒が小野ですか」
そして今日、部室の机に『ももしきの』と書かれた紙が置いてあった。
被枕は『大宮』
「小野は棚の下敷きになったんですから事故でしょう?」
垂水が言った。
「棚を固定している器具が古かったそうですし、細工した後もなかったと聞いてます」
紘彬は否定も肯定もせずに、
「箱もお預かりしたいんですが」
と言った。
「桜井さん、どう思いますか?」
校門から離れたところで如月が紘彬に訊ねた。
これから警察署に帰るのである。
如月は枕詞の紙が入っている箱を抱えていた。
この箱は証拠品である。
「小野と大宮に接点があるかだな。それと大宮が殺人なのかどうか」
そうなのだ。
調べてみたが大宮は階段から落ちたのが死因だった。
駅の階段だから突き飛ばされた可能性もなくはないのだが――。
わざわざ殺人を示すような紙を置いて連続殺人だと思わせたところでメリットがあるとは思えなかった。
五月二十一日――鞍馬の山――
垂水は授業を終えて職員室の自分の席に戻った。
椅子に座るとサプリを出して机の上のペットボトルの水でカプセルを飲み込む。
「それは?」
カプセルを嚥下した時、背後から声が聞こえた。
振り返ると紘彬と如月がいた。
「これはビタミン剤ですよ」
垂水はそう答えてから、
「何か?」
と紘彬達に訊ねた。
「確認したいことがありまして」
如月が答える。
「なんでしょうか」
「この箱と紙、先生が作った時のままですか?」
如月が箱と証拠袋に入った大量の紙を置いた。
垂水は箱を手に取って改めた。
箱に変わった点はなかった。
が――。
「『はるひの』は入れてない」
垂水が言った。
「どうしてですか?」
「『はるひの』は『万葉集』にしか使用例がないから入れなかったんです」
「『はるのひの』なら……」
「間に『の』が入る場合、被枕は『春日』じゃなくなるんです。ですが生徒達には授業で『はるひの』の被枕は『春日』だって教えてるので……」
垂水が入れなかったというのが事実なら誰かが入れたと言うことだ。
と言うことは――。
「部員に春日がいるんですか?」
そう訊ねると垂水が深刻そうな表情で頷いた。
紘彬と如月が顔を見合わせる。
昨日紹介された中にはいない。
「最近休んでたので……」
垂水が弁解するように答えた。
「いや、懐かしかったから見学に来ただけ」
「え……」
「俺、ここの卒業生だから」
紘彬が部室を見回しながら答えた。
「先輩ってことですか?」
「そ。可愛い後輩達の顔見に来たんだ」
紘彬の言葉に反応に困った一史達は顔を見合わせた。
「ここんとこ部活出来なかったんだって? これ以上邪魔しちゃ悪いから帰るよ」
紘彬はそう言ってから、
「あ、でも、それ渡してもらえるか?」
聖子が持っていた紙を指した。
差し出された紙を如月が手袋を嵌めた手で受け取ると部室を後にした。
「あんなこと言ってたけど、刑事さんがあれ持って行ったってことはホントに見立て殺人って事?」
弥奈が不安そうに言った。
「ここの部員が狙われ……」
「バカなこと言うんじゃない!」
垂水が厳しい声で弥奈の言葉を遮る。
「でも、ここの部員の名字、被枕にある名前ばかりだよねぇ」
弥奈がそう言うと、
「え、朝霞に掛かる枕詞ってあった?」
耕太が言った。
「朝霞は聞いたことないけど……」
「じゃあ、朝霞さんだけは大丈夫ってこと?」
弥奈と耕太の言葉に部員達の疑うような視線が由衣に集まる。
「わ、わたしは……」
由衣が慌てる。
「見立てが出来るほど和歌に詳しいのに自分だけ被害者から外れたら疑ってくれって言うようなものでしょ。それに結城だってないし」
聖子がバカバカしいというように言った。
「え、あたしですか!?」
今度は結城が狼狽えたように言った。
「他にも無い人がいるって意味よ」
聖子はぴしゃりと言って結城の言葉を遮った。
「…………」
一史は何も言わずに全員の表情を見ていた。
「いい加減にしろ。部活を始めるぞ」
垂水がそう言ったが部員達は心ここにあらずと言った様子で皆集中出来なかった。
部活が終わり、垂水が職員室に戻ると紘彬と如月が職員室に入ってきた。
「学校を見て回られてたんですか?」
垂水が訊ねた。
紘彬のさっきの言葉を間に受けたようだ。
母校というのは事実だが。
「いえ、署に戻ってたんです」
小野以外に死亡した生徒がいるという話は聞いていなかった。
警察署は近くだし、教師達に話を聞くにしても詳しいことは署で調べた方が確実である。
それで一旦戻って調べてきたのだ。
「見立て殺人と言ってましたね。詳しい話を聞いても?」
「あ、いや、あれは生徒達の冗談で……」
「冗談なら話しても問題ありませんよね」
如月にそう返されて垂水は言葉に詰まった。
垂水は如月に促されて渋々部活の一環として枕詞を書いた紙のことを説明した。
「その紙、まだありますか?」
話を聞いた紘彬が垂水に訊ねた。
垂水は一瞬迷ってから、机の引き出しから紙を取り出す。
「紙に書いてあったのが『あさじうの』で、倒れていた生徒が小野ですか」
そして今日、部室の机に『ももしきの』と書かれた紙が置いてあった。
被枕は『大宮』
「小野は棚の下敷きになったんですから事故でしょう?」
垂水が言った。
「棚を固定している器具が古かったそうですし、細工した後もなかったと聞いてます」
紘彬は否定も肯定もせずに、
「箱もお預かりしたいんですが」
と言った。
「桜井さん、どう思いますか?」
校門から離れたところで如月が紘彬に訊ねた。
これから警察署に帰るのである。
如月は枕詞の紙が入っている箱を抱えていた。
この箱は証拠品である。
「小野と大宮に接点があるかだな。それと大宮が殺人なのかどうか」
そうなのだ。
調べてみたが大宮は階段から落ちたのが死因だった。
駅の階段だから突き飛ばされた可能性もなくはないのだが――。
わざわざ殺人を示すような紙を置いて連続殺人だと思わせたところでメリットがあるとは思えなかった。
五月二十一日――鞍馬の山――
垂水は授業を終えて職員室の自分の席に戻った。
椅子に座るとサプリを出して机の上のペットボトルの水でカプセルを飲み込む。
「それは?」
カプセルを嚥下した時、背後から声が聞こえた。
振り返ると紘彬と如月がいた。
「これはビタミン剤ですよ」
垂水はそう答えてから、
「何か?」
と紘彬達に訊ねた。
「確認したいことがありまして」
如月が答える。
「なんでしょうか」
「この箱と紙、先生が作った時のままですか?」
如月が箱と証拠袋に入った大量の紙を置いた。
垂水は箱を手に取って改めた。
箱に変わった点はなかった。
が――。
「『はるひの』は入れてない」
垂水が言った。
「どうしてですか?」
「『はるひの』は『万葉集』にしか使用例がないから入れなかったんです」
「『はるのひの』なら……」
「間に『の』が入る場合、被枕は『春日』じゃなくなるんです。ですが生徒達には授業で『はるひの』の被枕は『春日』だって教えてるので……」
垂水が入れなかったというのが事実なら誰かが入れたと言うことだ。
と言うことは――。
「部員に春日がいるんですか?」
そう訊ねると垂水が深刻そうな表情で頷いた。
紘彬と如月が顔を見合わせる。
昨日紹介された中にはいない。
「最近休んでたので……」
垂水が弁解するように答えた。
0
お気に入りに追加
74
あなたにおすすめの小説
旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】
ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪
naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。
「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」
まっ、いいかっ!
持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

【完結】番である私の旦那様
桜もふ
恋愛
異世界であるミーストの世界最強なのが黒竜族!
黒竜族の第一皇子、オパール・ブラック・オニキス(愛称:オール)の番をミースト神が異世界転移させた、それが『私』だ。
バールナ公爵の元へ養女として出向く事になるのだが、1人娘であった義妹が最後まで『自分』が黒竜族の番だと思い込み、魅了の力を使って男性を味方に付け、なにかと嫌味や嫌がらせをして来る。
オールは政務が忙しい身ではあるが、溺愛している私の送り迎えだけは必須事項みたい。
気が抜けるほど甘々なのに、義妹に邪魔されっぱなし。
でも神様からは特別なチートを貰い、世界最強の黒竜族の番に相応しい子になろうと頑張るのだが、なぜかディロ-ルの侯爵子息に学園主催の舞踏会で「お前との婚約を破棄する!」なんて訳の分からない事を言われるし、義妹は最後の最後まで頭お花畑状態で、オールを手に入れようと男の元を転々としながら、絡んで来ます!(鬱陶しいくらい来ます!)
大好きな乙女ゲームや異世界の漫画に出てくる「私がヒロインよ!」な頭の変な……じゃなかった、変わった義妹もいるし、何と言っても、この世界の料理はマズイ、不味すぎるのです!
神様から貰った、特別なスキルを使って異世界の皆と地球へ行き来したり、地球での家族と異世界へ行き来しながら、日本で得た知識や得意な家事(食事)などを、この世界でオールと一緒に自由にのんびりと生きて行こうと思います。
前半は転移する前の私生活から始まります。

雪解けの白い結婚 〜触れることもないし触れないでほしい……からの純愛!?〜
川奈あさ
恋愛
セレンは前世で夫と友人から酷い裏切りを受けたレスられ・不倫サレ妻だった。
前世の深い傷は、転生先の心にも残ったまま。
恋人も友人も一人もいないけれど、大好きな魔法具の開発をしながらそれなりに楽しい仕事人生を送っていたセレンは、祖父のために結婚相手を探すことになる。
だけど凍り付いた表情は、舞踏会で恐れられるだけで……。
そんな時に出会った壁の花仲間かつ高嶺の花でもあるレインに契約結婚を持ちかけられる。
「私は貴女に触れることもないし、私にも触れないでほしい」
レインの条件はひとつ、触らないこと、触ることを求めないこと。
実はレインは女性に触れられると、身体にひどいアレルギー症状が出てしまうのだった。
女性アレルギーのスノープリンス侯爵 × 誰かを愛することが怖いブリザード令嬢。
過去に深い傷を抱えて、人を愛することが怖い。
二人がゆっくり夫婦になっていくお話です。

悪役令嬢は処刑されないように家出しました。
克全
恋愛
「アルファポリス」と「小説家になろう」にも投稿しています。
サンディランズ公爵家令嬢ルシアは毎夜悪夢にうなされた。婚約者のダニエル王太子に裏切られて処刑される夢。実の兄ディビッドが聖女マルティナを愛するあまり、歓心を買うために自分を処刑する夢。兄の友人である次期左将軍マルティンや次期右将軍ディエゴまでが、聖女マルティナを巡って私を陥れて処刑する。どれほど努力し、どれほど正直に生き、どれほど関係を断とうとしても処刑されるのだ。

【完】夫から冷遇される伯爵夫人でしたが、身分を隠して踊り子として夜働いていたら、その夫に見初められました。
112
恋愛
伯爵家同士の結婚、申し分ない筈だった。
エッジワーズ家の娘、エリシアは踊り子の娘だったが為に嫁ぎ先の夫に冷遇され、虐げられ、屋敷を追い出される。
庭の片隅、掘っ立て小屋で生活していたエリシアは、街で祝祭が開かれることを耳にする。どうせ誰からも顧みられないからと、こっそり抜け出して街へ向かう。すると街の中心部で民衆が音楽に合わせて踊っていた。その輪の中にエリシアも入り一緒になって踊っていると──
廃妃の再婚
束原ミヤコ
恋愛
伯爵家の令嬢としてうまれたフィアナは、母を亡くしてからというもの
父にも第二夫人にも、そして腹違いの妹にも邪険に扱われていた。
ある日フィアナは、川で倒れている青年を助ける。
それから四年後、フィアナの元に国王から結婚の申し込みがくる。
身分差を気にしながらも断ることができず、フィアナは王妃となった。
あの時助けた青年は、国王になっていたのである。
「君を永遠に愛する」と約束をした国王カトル・エスタニアは
結婚してすぐに辺境にて部族の反乱が起こり、平定戦に向かう。
帰還したカトルは、族長の娘であり『精霊の愛し子』と呼ばれている美しい女性イルサナを連れていた。
カトルはイルサナを寵愛しはじめる。
王城にて居場所を失ったフィアナは、聖騎士ユリシアスに下賜されることになる。
ユリシアスは先の戦いで怪我を負い、顔の半分を包帯で覆っている寡黙な男だった。
引け目を感じながらフィアナはユリシアスと過ごすことになる。
ユリシアスと過ごすうち、フィアナは彼と惹かれ合っていく。
だがユリシアスは何かを隠しているようだ。
それはカトルの抱える、真実だった──。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる