転生巫女は『厄除け』スキルを持っているようです ~神様がくれたのはとんでもないものでした!?〜

鶯埜 餡

文字の大きさ
上 下
16 / 35

16.前世もこの世も同じ悩みがある

しおりを挟む
 連れていかれた先はこの離宮の食堂のような場所で、三人の男性が待っていた。三人とも美形で、茶髪の男性は前世でいう体育会系のような感じ、ニコラス殿下よりも淡い赤色の短髪の男性は物腰が柔らかそうな人、長い黒髪を後ろで一つ結びした男性はいわゆるオタクのようなちょっと引きこもってそうな人だった。
 というか今更だけど、なんか十七歳にしてイケメンさんが勢ぞろいするなんて、まさかこの世界って乙女ゲームの世界じゃないよね。もちろんこの世界が乙女ゲームだった場合でも、私は知らないんだけれどさ。

 三人はそれぞれレオン・バウレスト、ヴィルヘルム・タリンプ、エリック・ベルゼックと自己紹介したあと、食事をとりながらミミィや私たちの話を興味津々に聞いてきた。
「なんでこんな人たちが私たちに興味あるのでしょうか?」
 私よりもミミィの方がよく話しかけられていたので、暇を持て余した私はふと部屋の隅を見ると、アイリーンがにっこりと笑いながらユリウスさんに尋ねているのを見つけてしまった。
 ユリウスさんもアイリーンと同じ笑みを浮かべている。これはあのパターンですな。
 耳をそばだてるだけにしておこう。すすんであの会話には入りたくない。
 命大事。
「新種の魔物の発見というのは一大事ですよ。そんな発見した人を放っておけるわけないでしょう」
 彼女の問いかけにそう返答するユリウスさん。
 まあ、そっかぁ。
 そうですよねぇ……だって、新種なのかどうかは私にはわからないけれど、とにかく封じこめの儀式を行っても封じこめられない魔物って今までになかったもんだからねぇ。
「王宮にくるのだけでも面倒なのに、面倒ごとが増えないといいのですが」
「大丈夫ですよ。それを見越してジェイドもあなた方を連れてきたのでしょう」
 アイリーンは大きく肩を震わせたが、あれは確実に演技だろう。絶対に演技でしかない。そんな彼女にユリウスさんはあっけらかんと笑う。
 うん、やっぱり怖いわ。蛇と蛙のようだよ。

「で、ミコちゃんってこの辺の子じゃないよね?」
「え? ええ、ビリウってご存知ですか?」
 アイリーンとユリウスさんの様子を見ていると、隣から声をかけられた私は、一瞬、ここがどこだったか忘れそうになった。
 声をかけてきたのは茶髪の男性、レオンさんといって、たしか騎士団長さんだったはずだ。そうか。ここら辺、王都近郊だと黒髪は少ない方なのか。
 エリックさんも黒髪なのだからまったくいないわけではないのだけれど、珍しいのだろうか。私が故郷の名前を言うと、レオンさんは大きく頷いた。
「ビリウ? もちろんさ! 冒険者たちが使う武具や防具を作ってるところだろ?」
「そうです!」
 自分の故郷がほかの地域の人、それも高位の人に知られているとなると嬉しいもんだ。ここに来るきっかけとなったローザさんも知っていたけれど、より嬉しかった。
 レオンさんは少し複雑そうな顔をして続ける。
「本当は俺もビリウの職人たちの作ったものを使いたいんだけれど、騎士団では個人で買うのが禁じられててさぁ」
「そうなんですか?」
 そう言ってくれるだけでも嬉しい。
 私が実家の工房を継げなくても、使いたいと思ってくれる人がいるだけで嬉しく思う。
「そうそう。既得権益? 談合の禁止? とりあえずそんなような理由で、王都周辺の工房で作ってるものを使わされるんだよねぇ」
 レオンさんの言った意味がよくわからなかったけれどへぇと頷いておく。
「俺一人がビリウの職人のもの持ちたいってごねても、騎士団として契約しないとだめって言われてさ」
 ふむむ。なるほど。
 ようやくなんとなくわかったような気がする。
 まあ、前世の日本だってそうだよねぇ。
 私自身は会社勤めをしたことがないけれど、神社で使う榊や三方、和紙や筆といった消耗品だって決められたところからしか納入してもらえなかったからなぁ。
 一回、町の書道具を扱うお店で、そのとき使っていたものよりもいいものを見つけて、こっちを使わせてもらえないか尋ねてみたのだけれど、そういう決まりがあるからダメだって言われちゃったんだよねぇ。
 上司の祢宜さんもどうにかならないかと思っていたらしいけれど、祢宜さんのさらに上司の人に許可されなかったって言っていた気がする。
 レオンさんはというと、むしろやる気になっている。瞳がめらめらと燃えている。
「だから、俺が大将になるか、宰相補佐が宰相になったらこんな規則廃止してやるんだって思ってるわけ」
「そうなんですか、頑張ってください」
 うん、純粋に頑張ってほしい。
 私ができなかった分、レオンさんには頑張ってもらいたい。
「それまでに潰されてないといいのだが」
 レオンさんの決意を聞いた瞬間、第三者の声が入りこんできた。
 えっとぉ、黒髪のちょっとオタクっぽい人だから、エリックさんですね。たしか侯爵だっけ。領地は聞いたことのない地名だけれど、ビリウの村からそんなに離れてない場所って説明していたような。
「うっわ、ひっでぇな」
 レオンさんとエリックさんは仲がよろしいようで、気安く喋っている。そうか、たしか二人とも同い年で実家同士も血が繋がっているとかなんとかって言っていたような気がする。
「ひどくはないぞ、レオン。事実だろうが。お前の単細胞のような脳みそでうまくいくはずがない」
「言いがかりはやめろよ」
「お前なぁ」
 エリックさんはジトっとレオンさんを見ている。
 しかし、それを気にすることないレオンさんはそれはそうとと、エリックさんに最大級の爆弾を投げこむ。

「そういうお前こそ、いい加減表舞台に出てきたらどうなんだ」

「いや、今は結構。意外とこの生活も悪くない」
 すぐにその依頼を断るエリックさん。
 なにかあるんだろうか。ちょっと気になったので尋ねてみることにした。
「あのぅ、エリックさんってどんな生活されてるんですか?」
「こいつはなぁ、代々おう――――」
「言うな!!」
 私の問いかけにレオンさんが答えようとしたが、エリックさんは大声で怒鳴って遮る。なにがあったのかと、それまで和気藹々と喋っていた人たちが一斉にこちらを見るが、それに構うことなくエリックさんは首を横に振る。
「すまない、ちょっとは言いたくないんだ」
「そうですか、わかりました」
 ま、そんなもんよねぇ。出会って早々に私生活を教えてくれる人なんていないよねぇ。
 エリックさんは“今は”って言ったんだし、もっと仲良くなったら教えてくれるかもしれないから、そのときを待っていよう。
「……――いいのか?」
 え?
 私の返事に少し驚いた様子のエリックさん。レオンさんも驚いているが、なにも言わない。
「いや、お前はお前・・・・・なんだな」
 私の戸惑った表情にごめんなと謝る黒髪イケメンエリックさん
 やっぱりどういった心境の変化なのかわからなくて、聞き返すと、ほんの少しだけ傷ついたような顔をするけども、首を横に振って呟きだすエリックさん。
「夜会でもそうだが、女どもはすぐになんでも聞きたがる。人が踏みこんでほしくないようなことも平気で踏みこんでくる」
 あらぁ、なるほどねぇ。
 言われてみれば、大学や高校でも他人のスペースパーソナル・スペースにずけずけと踏みこんでくるのは女性が多かった。
 こちらの世界でもそういった女性が多いのだろう。
「……ごめんなさい」
 私は同じ女性として謝罪したが、謝るなと言われてしまった。
「むしろ、こちらこそ怒鳴ったりしてすまない」
 エリックさんはそう謝ると、殿下に呼ばれたと言ってレオンさんとともに去っていった。


 エリックさんとレオンさんのやり取りで口が乾いてしまったので、なにかのみものをと思って動こうとすると、目の前に淡いピンク色の液体が入ったグラスを差しだされた。
「やはりロクなことにならないもんだな」
 一瞬、ジェイドさんかと思ったのだけれど、そのグラスを持っていた人の声は彼の声とは違っていた。
「へ?」
 驚いて間抜けな声を出してしまったが、早くグラスを受けとってほしいんだけれどと言われてしまったので、ありがとうございますと慌てて受けとると、なんでもないよと爽やかな口調で返された。
 その男性、淡い赤い短髪の男性、ヴィルヘルムさんはにっこりと爽やかな笑みを浮かべながら君がミコちゃんなんだと髪を撫でてきた。その手がすごいすべすべなのが、髪越しでもわかる。
 下手するとこの人、女性よりも美しい肌してませんかね!?
 まさかそっちの気おネエでもあるんですか!?
「いや、こちらの話だよ。それよりも君って案外平凡な娘なんだね」
「平凡って……ほかにどんな感じを想像されました?」
 自分が呟いた独り言を脇にどけて、すごく失礼なこと言いませんでした!?
 私はすぐには怒っちゃだめだ、すぐには怒っちゃだめだと言い聞かせながら聞くと、ヴィルヘルムさんはうーん、どうだろうねぇと考えこむ。
「たとえば絶世の美女とかだろうか?」
「疑問形で答えられましても」

 マジか。
 この人頭おかしくないか。自分で言っておいて、疑問形で返すって一番やっちゃいけないような気がするんですけれど。

 というか、この人も侯爵なんだっけ。さっきのエリックさんとは違った意味で危険なんですけれどっ!!
 この国大丈夫なの!?――――っていっても、私はこの国の中枢には関係ない、関係したくないんですけれど、ねっ!!
 私の脳内がパニックになっているのを傍目に、クククッと笑うヴィルヘルムさん。
「意外と遊びがい・・・・がありそうだねぇ」
 その言葉に背中がゾクゾクした。
 決して面白いとかそんなんじゃない。純粋にこの人に対して恐怖を抱いたのだ。
「冗談さ。とはいえ、キミが面白い、ユニークな人間であることには間違いないさ」
 ヴィルヘルムさんは笑いながら、私の髪を結んであった紐をほどいて梳きはじめる。なにか得体のしれない恐怖に私は動けなかった。
「王宮浄化師なのだから、私の領にも来るのでしょう? そのときを楽しみにしているよ」
 私の髪型を滅茶苦茶にした彼は不気味な予告だけを残して去っていく。渡されたグラスに入っていたピンク色の液体は、見た目とは裏腹に甘ったるいものだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。

五月ふう
恋愛
 リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。 「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」  今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。 「そう……。」  マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。    明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。  リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。 「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」  ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。 「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」 「ちっ……」  ポールは顔をしかめて舌打ちをした。   「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」  ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。 だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。 二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。 「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」

真実の愛は、誰のもの?

ふまさ
恋愛
「……悪いと思っているのなら、く、口付け、してください」  妹のコーリーばかり優先する婚約者のエディに、ミアは震える声で、思い切って願いを口に出してみた。顔を赤くし、目をぎゅっと閉じる。  だが、温かいそれがそっと触れたのは、ミアの額だった。  ミアがまぶたを開け、自分の額に触れた。しゅんと肩を落とし「……また、額」と、ぼやいた。エディはそんなミアの頭を撫でながら、柔やかに笑った。 「はじめての口付けは、もっと、ロマンチックなところでしたいんだ」 「……ロマンチック、ですか……?」 「そう。二人ともに、想い出に残るような」  それは、二人が婚約してから、六年が経とうとしていたときのことだった。

呪いを受けて醜くなっても、婚約者は変わらず愛してくれました

しろねこ。
恋愛
婚約者が倒れた。 そんな連絡を受け、ティタンは急いで彼女の元へと向かう。 そこで見たのはあれほどまでに美しかった彼女の変わり果てた姿だ。 全身包帯で覆われ、顔も見えない。 所々見える皮膚は赤や黒といった色をしている。 「なぜこのようなことに…」 愛する人のこのような姿にティタンはただただ悲しむばかりだ。 同名キャラで複数の話を書いています。 作品により立場や地位、性格が多少変わっていますので、アナザーワールド的に読んで頂ければありがたいです。 この作品は少し古く、設定がまだ凝り固まって無い頃のものです。 皆ちょっと性格違いますが、これもこれでいいかなと載せてみます。 短めの話なのですが、重めな愛です。 お楽しみいただければと思います。 小説家になろうさん、カクヨムさんでもアップしてます!

若奥様は緑の手 ~ お世話した花壇が聖域化してました。嫁入り先でめいっぱい役立てます!

古森真朝
恋愛
意地悪な遠縁のおばの邸で暮らすユーフェミアは、ある日いきなり『明後日に輿入れが決まったから荷物をまとめろ』と言い渡される。いろいろ思うところはありつつ、これは邸から出て自立するチャンス!と大急ぎで支度して出立することに。嫁入り道具兼手土産として、唯一の財産でもある裏庭の花壇(四畳サイズ)を『持参』したのだが――実はこのプチ庭園、長年手塩にかけた彼女の魔力によって、神域霊域レベルのレア植物生息地となっていた。 そうとは知らないまま、輿入れ初日にボロボロになって帰ってきた結婚相手・クライヴを救ったのを皮切りに、彼の実家エヴァンス邸、勤め先である王城、さらにお世話になっている賢者様が司る大神殿と、次々に起こる事件を『あ、それならありますよ!』とプチ庭園でしれっと解決していくユーフェミア。果たして嫁ぎ先で平穏を手に入れられるのか。そして根っから世話好きで、何くれとなく構ってくれるクライヴVS自立したい甘えベタの若奥様の勝負の行方は? *カクヨム様で先行掲載しております

傷物令嬢シャルロットは辺境伯様の人質となってスローライフ

悠木真帆
恋愛
侯爵令嬢シャルロット・ラドフォルンは幼いとき王子を庇って右上半身に大やけどを負う。 残ったやけどの痕はシャルロットに暗い影を落とす。 そんなシャルロットにも他国の貴族との婚約が決まり幸せとなるはずだった。 だがーー 月あかりに照らされた婚約者との初めての夜。 やけどの痕を目にした婚約者は顔色を変えて、そのままベッドの上でシャルロットに婚約破棄を申し渡した。 それ以来、屋敷に閉じこもる生活を送っていたシャルロットに父から敵国の人質となることを命じられる。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

踏み台令嬢はへこたれない

三屋城衣智子
恋愛
「婚約破棄してくれ!」  公爵令嬢のメルティアーラは婚約者からの何度目かの申し出を受けていたーー。  春、学院に入学しいつしかついたあだ名は踏み台令嬢。……幸せを運んでいますのに、その名付けはあんまりでは……。  そう思いつつも学院生活を満喫していたら、噂を聞きつけた第三王子がチラチラこっちを見ている。しかもうっかり婚約者になってしまったわ……?!?  これは無自覚に他人の踏み台になって引っ張り上げる主人公が、たまにしょげては踏ん張りながらやっぱり周りを幸せにしたりやっと自分も幸せになったりするかもしれない物語。 「わたくし、甘い砂を吐くのには慣れておりますの」  ーー踏み台令嬢は今日も誰かを幸せにする。  なろうでも投稿しています。

【完結】高嶺の花がいなくなった日。

恋愛
侯爵令嬢ルノア=ダリッジは誰もが認める高嶺の花。 清く、正しく、美しくーーそんな彼女がある日忽然と姿を消した。 婚約者である王太子、友人の子爵令嬢、教師や使用人たちは彼女の失踪を機に大きく人生が変わることとなった。 ※ざまぁ展開多め、後半に恋愛要素あり。

処理中です...