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12.似て非なるもの
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とはいえ、前世のように各街に娯楽施設や遊興施設、観光名所があるわけじゃない。
私たちが王都に向かう途中、南部の鉱山の街を出てから三日目、王都の近くにあるアインという街につき、そこで一日散策することにした。
そこは古くからあるこじんまりとした街で、王室御用達の布製品によって栄えてきたところだった。私も小さいころに二回来たことがあったが、小さいときの印象とは少し違っていた。
「こんな可愛らしい街があるなんて……――はじめて見たわ」
南方の国から来て、各地を旅しているはずのアイリーンや、故郷を追われてこの国についたミミィはこの街をはじめて見るようで、アイリーンが呟いた感想にこくこくと頷くミミィ。
たしかにこの街は可愛いのだ。
いろいろな石と木を組み合わせた建物は、前世で有名なアニメの舞台にされたところのようで、鉱山の街のような武骨さはなく、私が生まれ育った職人の村のような灰っぽさもない。
ジェイドさんが息抜きのために選んだ街は、すごく素敵なところだった。
「昔、武者修行のときに寄っただけだが、おとぎ話に出てきそうな雰囲気だったのが印象的で、女性から見てみるとこういったものも好きなんじゃないかと思ってな」
「よくわかったわね」
アイリーンが嫌味抜きで素直にジェイドさんを褒める。
ジェイドさんに出会ったときの、あのひやひやさせられたやりとりからは考えられない言葉だ。
「まあな。あの妹には縁遠い言葉だったが」
「妹? ああ、ジェーンさんね」
そういえば妹さん元気かな。
あの街を出発するときも涙目になっていたけれど、結局は“三か月以内に顔を見せること”という条件付きで行かせてくれたんだっけ。
約束まではまだまだあるから、多分……大丈夫。
「そうだな。あいつはスキル、それも攻撃系のスキルしか持ってない。それに魔力が高いせいで汎用性のあるスキルにもかかわらず、『魔法壁』と同じSランク認定されてる。だからか、小さいころから騎士の真似事ばっかりで、俺があのギルドに赴任したときもあいつはのこのこついてきた」
ジェイドさんの説明にそういえば、ジェーンさんのスキルを聞いていなかったけれど、そうなのか。
いつか彼女のような攻撃系のスキルを……まあ、スキルは生まれつきのものだから無理だよなぁ。しょぼん。
「妹さんのこと、好きなんですね」
「まあ、唯一無二の妹だからな。男兄弟の中で育ったとはいえ、女性らしさもある」
ミミィが指摘すると、まあなと笑顔になるジェイドさん。
うん?
男“兄弟”っていうことは、ジェイドさんにはお兄さんか弟さんがいるのかな。ジェイドさんもジェーンさんも王子様のようだから、兄弟もきっとそうなんだろうなぁ……いいなぁ……
しかし、あのミサイルのようなジェーンさんの女性らしいところかぁ。どんなところだろうと思って聞くと、当たり前のように返ってくる。
「ガサツな性格とはいえ、可愛い物好きだな」
たとえば猫のような。
なるほどね。
たしかに私たちがギルドに行ったときも、ジェイドさんが怒るぐらいにはミミィを撫でまわしていたっけ。
「とはいっても、物には目をくれても、風景には目もくれない。だから、こういった場所に連れてくる甲斐性がないんだ」
ほほう。
いわゆる花より団子っていう感じですか。
そりゃ、私たちを連れてきたがったのもわかる。
「お前たちは流行のスイーツが好きか?」
街中を散策している途中、ジェイドさんがどこかに行きたそうなそぶりで私たちに尋ねてきた。
「もちろんよ。女性の中でスイーツが嫌いな人は少数よ」
アイリーンの言葉にうんうんと頷く私とミミィ。
その返事になぜだか彼はホッとしたような表情になった。
「そうか。ならばちょうどよかった。前に来たときに、気になっていた店があったんだが、男一人だと入りづらくてな」
少し顔を赤くしたジェイドさんの言葉にアイリーンも、私たちも苦笑してしまった。
前世にだって甘いもの好きな男性はいたから、こちらの世界に甘いものに目がない男性がいたっておかしくない。
でもいざそれを聞いてしまうと、少しギャップが可愛らしいのだ。
口が裂けても言えないけれど。
「いいですわね。ちょっと歩いていたら暑くなってきましたし、入りましょう」
アイリーンもミミィもうんうんと頷いている。
ほとんど依頼をこなしている最中には寄り道はしない。だからこういったゆっくりとしているときにしか食べないのだが、今回の道中では食べていなかったことを思いだした。私もジェイドさんがおすすめする“流行のスイーツ”が気になっていた。
彼が私たち三人を連れていった店はメインストリートの中ほどにある場所で、デルティスという甘味を専門に扱うお店だった。
「うわぁ! アイリーンさん、見てくださいよ! こんなにもデルティスを扱う店なんてはじめて見ましたぁ!」
「本当だわね。しかも、モリノンの実がのったデルティスなんて、ほとんどお目にかかれないわね」
ミミィがディスプレイされたデルティスを見て目を輝かせ、アイリーンもいいわねぇと頷いている。私もその種類の多さにさすがは専門店と圧倒されていた。
ちなみに“デルティス”とはパフェとかき氷の中間のデザートで、氷を簡単に作れる場所――北部の極地方もしくはこの王都周辺の一部の限られた場所でしか扱っている店はない。また“モリノン”とは色と形はマンゴーのようで、ブドウのような小さい果実で、これも北部、それも限られた土壌でしか栽培できなく、こんな場所――と言っては失礼だけれど、こんな小さな街で見つけることができるとは思わなかったのだ。
入るのに勇気が要っただけで、店内に入ってしまえばジェイドさんはすいすいとモリノンのデルティスを人数分注文してくれた。
テーブルで待っていると、女の店員さんが四つのデルティスを持ってきてくれ、それぞれの目の前に置いてくれた。
私もモリノンという名前は知っていたけれど、実際に食べるのははじめてだ。彼女が去った後、ひとくち口の中に入れると、さっぱりとした酸味とともになめらかな食感がクセになりそうだった。
削られた氷も粗削りではなく、なめらかで雪を口に含んでいるような感触だった。
「美味しいです」
隣で食べているジェイドさんにそう言うと、そうか、ならよかったと彼もにっこりしてくれた。
うーん、甘味系男子っていいねぇ。
見ているだけで、疲れがとびそうだった。
デルティスを満喫した後、再び街を散策していると、一か所で人が十人くらい集まって座っている場所が見えた。その人たちの中心からは湯気が出ているが、なにか食事をとっているという雰囲気ではない。
「見てくださいよ!」
「どうした? あら……ここの人たちは皆さん、足だけ温まる習慣でもあるのかしら……?」
それにミミィもアイリーンも気づいたようで、興味津々だった。
「ああ、あれは足湯っていうらしい。つい三年前に温泉が湧いたとかで、新たな観光名所にしようと躍起になっているらしい」
ジェイドさんの言葉にへぇと驚いてしまった。
この世界のお風呂は湯船やシャワーという習慣はない。お湯が入った桶から汲んで体にかける程度のものだ。それなのに“足湯”という文化があるのには驚いた。
「そうだったんだ」
「お前は驚いてないようだな」
「あっ、いえ、驚いていますよ? ただ、なんかどっかで見たことがあるような気がして……――アハハ」
「そうか」
二人に比べて私の反応が薄かったからか、“足湯”という文化を知っていると思ったらしい。
うん。まあ、間違ってはいないけれど、わざわざ墓穴を掘る必要だってない。
今まで転生者ということを隠してきたんだし、いいや。
隠しましょう。
「気のせいでしょうし、ねぇ?」
「そうね」
私はごまかし笑いすると、横からアイリーンがうんうんと頷いていた。
おっと、援護してくれるのか……――
「ミコってときどき“なにか見たことある気がする”って自分の世界に入りこんじゃうもんね」
「はい、そうです。ときどきミコさんは自分の世界にはいっちゃいますもんね」
って、おい。
二人ともマジで言ってますか、無茶苦茶失礼ですよぉ……と思ったが、それも事実なんだよなぁ。
いやさぁ、赤ちゃんのころはともかく、あちこち連れていってもらうようになってからは前にいた世界、地球に通じる“既視感”というものがあった。たとえばパンみたいな食べ物レッティや、チーズやソーセージなどに似た加工食品とか。あとは今の足湯みたいな建物、建造物系。
もちろん作り方や食べ方、どうやって使われるのか、建てられ方といった細かい伊賀愛はあるから、“ここは地球じゃない”ってわかるんだけれどね――――って、待て。
ハメられた。
「……――――って、アイリーン、ミミィ!!」
私はアイリーンとミミィが言った“自分の世界へ入りこんだ状態”になっていたようだった。
チックショー!!
街中に私たちの笑い声が響く。
こんな時間がいつまでも続けばいいのに。国外に出れなくたっていいかもな。
ジェイドさんが入ったときのような焦りはもうなかった。
夕方、宿で夕ご飯をとった後、ひとりでバルコニーに出た。
この世界の気候は地球と似ていて、北に行けば行くほど寒く、南に行けば行くほど暑い。ただし、赤道とか北極・南極っていう概念はなく、どうして寒暖差が生まれたかなどはよくわかってないというのが現状。
南北に大陸が広がっているこの国でも北部は寒暖差が激しく、この街でも日中は暑かったけれど、夕方になってくると急に涼しくなる。
黄昏に向かって涼んでいると、だれかが隣に来たのがわかった。
「どうだ、力は抜けたか?」
来たのはジェイドさんだった。どうやら夕食後すぐに私の姿が見えなくなったから、心配してくれたようだ。
「ええ、十分に抜けたわね。ありがとう」
「ならいい。明日は王都に入る」
そうだった。この街でだけ散策したのは、私の休息のためと最初に言ってくれていた。明日には王都に入って、新種の魔物についてジェイドさんの知り合いと話しあうことになっている。
私が頷くとジェイドさんはそういえばと話しかける。
「一応、三人とも貴族としての身分を持たないから、比較的入りやすいところに案内したし、別に気張らなきゃいけない人に会うわけでもないはずだ。だから……そうだな、俺から言えるアドバイスはひとつ、『ゆっくり深呼吸しろ』」
ちょっとよくわからないアドバイスだったけれど、不思議と納得してしまいそうになった。
「その笑みはいい」
えっ、今、私笑ってましたか。
なんで笑っちゃったんだろうか。
というか、今、褒めてくれました??
「…………なんでもない」
心の内が出ていたのだろう。ジェイドさんはそっぽを向いたけれど、アイリーンたちにからかわれたときと同じで、顔が少し赤くなっていた。
私たちが王都に向かう途中、南部の鉱山の街を出てから三日目、王都の近くにあるアインという街につき、そこで一日散策することにした。
そこは古くからあるこじんまりとした街で、王室御用達の布製品によって栄えてきたところだった。私も小さいころに二回来たことがあったが、小さいときの印象とは少し違っていた。
「こんな可愛らしい街があるなんて……――はじめて見たわ」
南方の国から来て、各地を旅しているはずのアイリーンや、故郷を追われてこの国についたミミィはこの街をはじめて見るようで、アイリーンが呟いた感想にこくこくと頷くミミィ。
たしかにこの街は可愛いのだ。
いろいろな石と木を組み合わせた建物は、前世で有名なアニメの舞台にされたところのようで、鉱山の街のような武骨さはなく、私が生まれ育った職人の村のような灰っぽさもない。
ジェイドさんが息抜きのために選んだ街は、すごく素敵なところだった。
「昔、武者修行のときに寄っただけだが、おとぎ話に出てきそうな雰囲気だったのが印象的で、女性から見てみるとこういったものも好きなんじゃないかと思ってな」
「よくわかったわね」
アイリーンが嫌味抜きで素直にジェイドさんを褒める。
ジェイドさんに出会ったときの、あのひやひやさせられたやりとりからは考えられない言葉だ。
「まあな。あの妹には縁遠い言葉だったが」
「妹? ああ、ジェーンさんね」
そういえば妹さん元気かな。
あの街を出発するときも涙目になっていたけれど、結局は“三か月以内に顔を見せること”という条件付きで行かせてくれたんだっけ。
約束まではまだまだあるから、多分……大丈夫。
「そうだな。あいつはスキル、それも攻撃系のスキルしか持ってない。それに魔力が高いせいで汎用性のあるスキルにもかかわらず、『魔法壁』と同じSランク認定されてる。だからか、小さいころから騎士の真似事ばっかりで、俺があのギルドに赴任したときもあいつはのこのこついてきた」
ジェイドさんの説明にそういえば、ジェーンさんのスキルを聞いていなかったけれど、そうなのか。
いつか彼女のような攻撃系のスキルを……まあ、スキルは生まれつきのものだから無理だよなぁ。しょぼん。
「妹さんのこと、好きなんですね」
「まあ、唯一無二の妹だからな。男兄弟の中で育ったとはいえ、女性らしさもある」
ミミィが指摘すると、まあなと笑顔になるジェイドさん。
うん?
男“兄弟”っていうことは、ジェイドさんにはお兄さんか弟さんがいるのかな。ジェイドさんもジェーンさんも王子様のようだから、兄弟もきっとそうなんだろうなぁ……いいなぁ……
しかし、あのミサイルのようなジェーンさんの女性らしいところかぁ。どんなところだろうと思って聞くと、当たり前のように返ってくる。
「ガサツな性格とはいえ、可愛い物好きだな」
たとえば猫のような。
なるほどね。
たしかに私たちがギルドに行ったときも、ジェイドさんが怒るぐらいにはミミィを撫でまわしていたっけ。
「とはいっても、物には目をくれても、風景には目もくれない。だから、こういった場所に連れてくる甲斐性がないんだ」
ほほう。
いわゆる花より団子っていう感じですか。
そりゃ、私たちを連れてきたがったのもわかる。
「お前たちは流行のスイーツが好きか?」
街中を散策している途中、ジェイドさんがどこかに行きたそうなそぶりで私たちに尋ねてきた。
「もちろんよ。女性の中でスイーツが嫌いな人は少数よ」
アイリーンの言葉にうんうんと頷く私とミミィ。
その返事になぜだか彼はホッとしたような表情になった。
「そうか。ならばちょうどよかった。前に来たときに、気になっていた店があったんだが、男一人だと入りづらくてな」
少し顔を赤くしたジェイドさんの言葉にアイリーンも、私たちも苦笑してしまった。
前世にだって甘いもの好きな男性はいたから、こちらの世界に甘いものに目がない男性がいたっておかしくない。
でもいざそれを聞いてしまうと、少しギャップが可愛らしいのだ。
口が裂けても言えないけれど。
「いいですわね。ちょっと歩いていたら暑くなってきましたし、入りましょう」
アイリーンもミミィもうんうんと頷いている。
ほとんど依頼をこなしている最中には寄り道はしない。だからこういったゆっくりとしているときにしか食べないのだが、今回の道中では食べていなかったことを思いだした。私もジェイドさんがおすすめする“流行のスイーツ”が気になっていた。
彼が私たち三人を連れていった店はメインストリートの中ほどにある場所で、デルティスという甘味を専門に扱うお店だった。
「うわぁ! アイリーンさん、見てくださいよ! こんなにもデルティスを扱う店なんてはじめて見ましたぁ!」
「本当だわね。しかも、モリノンの実がのったデルティスなんて、ほとんどお目にかかれないわね」
ミミィがディスプレイされたデルティスを見て目を輝かせ、アイリーンもいいわねぇと頷いている。私もその種類の多さにさすがは専門店と圧倒されていた。
ちなみに“デルティス”とはパフェとかき氷の中間のデザートで、氷を簡単に作れる場所――北部の極地方もしくはこの王都周辺の一部の限られた場所でしか扱っている店はない。また“モリノン”とは色と形はマンゴーのようで、ブドウのような小さい果実で、これも北部、それも限られた土壌でしか栽培できなく、こんな場所――と言っては失礼だけれど、こんな小さな街で見つけることができるとは思わなかったのだ。
入るのに勇気が要っただけで、店内に入ってしまえばジェイドさんはすいすいとモリノンのデルティスを人数分注文してくれた。
テーブルで待っていると、女の店員さんが四つのデルティスを持ってきてくれ、それぞれの目の前に置いてくれた。
私もモリノンという名前は知っていたけれど、実際に食べるのははじめてだ。彼女が去った後、ひとくち口の中に入れると、さっぱりとした酸味とともになめらかな食感がクセになりそうだった。
削られた氷も粗削りではなく、なめらかで雪を口に含んでいるような感触だった。
「美味しいです」
隣で食べているジェイドさんにそう言うと、そうか、ならよかったと彼もにっこりしてくれた。
うーん、甘味系男子っていいねぇ。
見ているだけで、疲れがとびそうだった。
デルティスを満喫した後、再び街を散策していると、一か所で人が十人くらい集まって座っている場所が見えた。その人たちの中心からは湯気が出ているが、なにか食事をとっているという雰囲気ではない。
「見てくださいよ!」
「どうした? あら……ここの人たちは皆さん、足だけ温まる習慣でもあるのかしら……?」
それにミミィもアイリーンも気づいたようで、興味津々だった。
「ああ、あれは足湯っていうらしい。つい三年前に温泉が湧いたとかで、新たな観光名所にしようと躍起になっているらしい」
ジェイドさんの言葉にへぇと驚いてしまった。
この世界のお風呂は湯船やシャワーという習慣はない。お湯が入った桶から汲んで体にかける程度のものだ。それなのに“足湯”という文化があるのには驚いた。
「そうだったんだ」
「お前は驚いてないようだな」
「あっ、いえ、驚いていますよ? ただ、なんかどっかで見たことがあるような気がして……――アハハ」
「そうか」
二人に比べて私の反応が薄かったからか、“足湯”という文化を知っていると思ったらしい。
うん。まあ、間違ってはいないけれど、わざわざ墓穴を掘る必要だってない。
今まで転生者ということを隠してきたんだし、いいや。
隠しましょう。
「気のせいでしょうし、ねぇ?」
「そうね」
私はごまかし笑いすると、横からアイリーンがうんうんと頷いていた。
おっと、援護してくれるのか……――
「ミコってときどき“なにか見たことある気がする”って自分の世界に入りこんじゃうもんね」
「はい、そうです。ときどきミコさんは自分の世界にはいっちゃいますもんね」
って、おい。
二人ともマジで言ってますか、無茶苦茶失礼ですよぉ……と思ったが、それも事実なんだよなぁ。
いやさぁ、赤ちゃんのころはともかく、あちこち連れていってもらうようになってからは前にいた世界、地球に通じる“既視感”というものがあった。たとえばパンみたいな食べ物レッティや、チーズやソーセージなどに似た加工食品とか。あとは今の足湯みたいな建物、建造物系。
もちろん作り方や食べ方、どうやって使われるのか、建てられ方といった細かい伊賀愛はあるから、“ここは地球じゃない”ってわかるんだけれどね――――って、待て。
ハメられた。
「……――――って、アイリーン、ミミィ!!」
私はアイリーンとミミィが言った“自分の世界へ入りこんだ状態”になっていたようだった。
チックショー!!
街中に私たちの笑い声が響く。
こんな時間がいつまでも続けばいいのに。国外に出れなくたっていいかもな。
ジェイドさんが入ったときのような焦りはもうなかった。
夕方、宿で夕ご飯をとった後、ひとりでバルコニーに出た。
この世界の気候は地球と似ていて、北に行けば行くほど寒く、南に行けば行くほど暑い。ただし、赤道とか北極・南極っていう概念はなく、どうして寒暖差が生まれたかなどはよくわかってないというのが現状。
南北に大陸が広がっているこの国でも北部は寒暖差が激しく、この街でも日中は暑かったけれど、夕方になってくると急に涼しくなる。
黄昏に向かって涼んでいると、だれかが隣に来たのがわかった。
「どうだ、力は抜けたか?」
来たのはジェイドさんだった。どうやら夕食後すぐに私の姿が見えなくなったから、心配してくれたようだ。
「ええ、十分に抜けたわね。ありがとう」
「ならいい。明日は王都に入る」
そうだった。この街でだけ散策したのは、私の休息のためと最初に言ってくれていた。明日には王都に入って、新種の魔物についてジェイドさんの知り合いと話しあうことになっている。
私が頷くとジェイドさんはそういえばと話しかける。
「一応、三人とも貴族としての身分を持たないから、比較的入りやすいところに案内したし、別に気張らなきゃいけない人に会うわけでもないはずだ。だから……そうだな、俺から言えるアドバイスはひとつ、『ゆっくり深呼吸しろ』」
ちょっとよくわからないアドバイスだったけれど、不思議と納得してしまいそうになった。
「その笑みはいい」
えっ、今、私笑ってましたか。
なんで笑っちゃったんだろうか。
というか、今、褒めてくれました??
「…………なんでもない」
心の内が出ていたのだろう。ジェイドさんはそっぽを向いたけれど、アイリーンたちにからかわれたときと同じで、顔が少し赤くなっていた。
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