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11.気遣いのできる人でした
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翌日、ローザさんの実家が持っている鉱山に私とジェイドさんだけで行くことにしたのだけれど、アイリーンが非常に心配性なのか、出かける直前まで引きとめていた。
「本当に行かれるんですか?」
心配はありがたいのだけれど、私は『洗浄』を持っているし、ジェイドさんは『魔法壁』を持っている。その二つをうまく使えば死ぬことはないだろう。
「うん、行ってくる」
私たちが宿を出るとき、アイリーンとミミィは涙目になっていたけど、心配のし過ぎ、だと思う。
ちなみにローザさんの依頼はギルド経由で依頼してもらうことにした。今朝、朝一番で行ったギルドではその依頼を断りたがっていたが、そうしないと伯爵に訴えますよ?とアイリーンの笑顔の一撃でなんとか受けいれてもらった。
そして、今度はその依頼をすぐさま引き受ける『ラテテイ』。ギルド側からすればできすぎって思われてるんだろうけれど、それでもいい。どうせだれも引き受けない依頼なんだから。
そして、ローザさんに書いてもらった地図を頼りに案内で鉱山まで来た。一応、犠牲者は出ることはないと思うが、念のために酒屋でお留守番してもらっている。
私とジェイドさんの作戦はこうだ。
ジェイドさんの『魔法壁』は魔物を寄せ付けない。そして、襲う者の気配を消すという追加の作用を持つ。だから、それを利用して魔物たちに気づかれないように鉱山まで行き、私の『洗浄』で魔物を封じこめる。
一見シンプルだけれど、魔物の正体がわからない以上、それ以外に打つ手がないという側面もある。また、攻撃性のある魔物だった場合、ジェイドさんは私を抱えることになる。できればそれだけは避けたいけれど。
「なるほど。まがまがしいですねぇ」
「だな。準備はできてるか?」
「もちろんです」
街とは違って、この鉱山には悪いものがいっぱい憑いている。でも、前のミドリウサギのときやそのあとの『洗浄』とはまた違った感触なのだ。
「じゃあ、さっさと終わらせよう」
うん、こんなところからさっさと立ち去りたいわ。
今日はジェイドさんの『魔法壁』があるから、しめ縄やら祭壇やらの結界を作らない。もっともあれって、気休め程度のものなんだけれど。
いつもの祝詞を奉じた私は、違和感しか覚えなかった。
澱みが一瞬、消えたものの……また、別の澱みが出てくるのだ。
「変ですねぇ」
「変?」
どうやらジェイドさんには気づけなかったようだ。
そりゃそうかもしれない。
消えた、雰囲気が変わったのはほんの一瞬だけ、時間にしたら一秒にも満たないものだからね。
「消えないんですよ」
「消えない?」
どうやら今回の『洗浄』の根本さえ気づいてないようだった。
「基本、ミミィのような魔物を狩る場合は、魔物がそこに実体として残るじゃないですか」
「そうだな」
「で、私のような『洗浄』の場合、死霊はその魂をバラバラにする、魔物は閉じこめるという感じじゃないですか」
「ああ」
私の説明に頷いていくジェイドさん。
「でも今回、その閉じこめた感触がないんですよ。正確にいえば、閉じこめたものが出てくるというよりも、閉じこめたものとは別にまた湧きあがってくるというか」
「変だな」
そして今回感じたものに対する指摘をすると、なるほどと納得できたようだ。そうなんですよと私が首を傾げると、お前が気になるのならば、気になるなと考えこんだが、答えは出てこない。
「“姿の見えない魔物”というのも気になりますし、なんか気持ち悪いんですよ」
私は前世の職業は巫女だけれど、あまり“見えないもの”は好きではない。だから、実態を見てしまった以上、できればこれをきちんと解決したい。
違和感を残しつつも、それをそのまま報告せざるを得ない。街に戻った私たちは先にローザさんに報告することにした。
酒場で朝からくだを巻いていた彼女は私たちの姿を見ると、怪我はないかい!?と心配してくれた。
「……ローザ殿」
「どうだったかい?」
依頼を受けたのは『ラテテイ』だ。だけれど、その報告は俺がすると帰り道にジェイドさんが引き受けてくれたけれど、やっぱり気は重い。
期待する視線を受け止めながら、ジェイドさんは重い口を開く。
「すまん、ダメだった」
「あんたたちでもダメだったかぁ」
肩を落とすローザさん。
申し訳なかったと思っている。あれだけジェイドさんとできるんじゃないのかとはしゃいでいたのに、結果はこの様。問答無用で罵られても文句は言えないけれど、彼女はそうせずにやっぱりかぁとただ落ちこんでいるだけだ。
「だが、解決方法はいくらでも……とはいかないが、まだあるかもしれん」
そのジェイドさんの一言にローザさんも私たち、『ラテテイ』のメンバーも驚く。どんな方法なんだろうか、今から気になるな。
「ははっ……気休めはいらないよ」
でも、ローザさんは寂びしそうな笑顔を作った後、そう呟く。
まあその方法で解決できるのかどうかはわからないけれど、ジェイドさんはあくまでも強気のようだ。
「気休めではない。俺の知人にそっち専門職がいるから、一度当たってみる」
“そっち”の専門職って、どんなんだろうか。
たしかにジェイドさんってギルド所属ではなく、だれかの部下というかたちみたいだから、その方面なのかもしれない。ローザさんは今までの寂しげな笑いから一転、強気な、最初に出会ったときのような笑顔を見せた。
「そうかい。ま、期待しないで待ってるさ」
「すまないな、確実なことが言えなくて」
ジェイドさんが謝ると気にするんじゃないよとからりと笑うローザさん。
「いいんだよ。最初はわっちが騙すように相談を持ちかけたんだし」
さっきまでの悲壮感はどこへやら。
私たちは顔をそっと見合わせた。
そのあとすぐにギルドに報告しに行った。やはり受付のお姉さんも心配してくれていたようで、私たちの顔を見た瞬間、すごく安心したような顔になった。
依頼報告課にいくと、お姉さんが通常の依頼完了報告書を取りだしながらお疲れ様ですと声をかけてくれた。
「任務は完了……」
「“依頼遂行未完了”で頼む」
しかし、ジェイドさんはお姉さんがここにサインを言ったところで、そう願う。すると、お姉さんの顔が曇る。
そうだろうねぇ。
「えっ? でも、そうすると冒険者さんたちの評価が下がりますよ……――?」
お姉さんの言うとおり。
なにも収穫物を持たずにギルドに帰ってくるということはその冒険者、そのパーティの評価が下がることにつながる。ジェイドさんのスキルの場合、そのランクが下がることは少ないだろうが、ジェイドさんという冒険者の評価は下がる。
「そうだな。だが、『ジェイド・ユグレイン』が依頼完了できなかったということが王都に伝わるのは早いだろうな」
「……はぁ、わかりました」
“たとえ評価が下がったとしても、『ジェイド・ユグレイン』という人物には勝てない”
彼の口ぶりからはそんな強気な声が聞こえてきた。
「では、これで」
「問題ない、ありがとう」
お姉さんに書類を確認してもらい、ギルド承認印を押してもらった。これで私たちの依頼は正式に失敗したことになるが、『ラテテイ』四人の中には悲壮感はなかった。
私たちは任務に失敗したので依頼料はもらえなかったものの、危険な場所に行ったという手当だけはもらえ、宿に帰ってきた。最近のルーティーンでアイリーンとミミィに買い出しに行ってもらっている。
「じゃあ、これから王都に?」
「そうだな」
貸し切り馬車を出発させられるのは明日の朝。そして、王都に着くまでは四日以上かかる。
「多分、俺が所属するパーティの任務が失敗したことが王都に伝わるまでは遅くても二日」
「そうだね……?」
伝わるまでに“遅く”ても……?
どういう意味だと思ったら、ジェイドさんは指を折りながら数えていた。
「じゃ、一日くらいは遊べるな」
数え終わったジェイドさんはうんと頷き、私の頭を撫でる。
「はぁ?」
どういう意味なんだろうか。
さっさと王都に行かないとタイムラグが生じるじゃない。
それに今の最大の任務は魔物を退治すること。
遊んでいる暇は……――――
「お前だって疲れただろ? これからは『洗浄』のスキルも必要となってくるだろうから、今から根を詰めすぎてもよくない。だから、王都に行くまでの道中で気分転換しよう」
なるほど。
たしかにいつも以上に気を張っていたのだろう。ちょっと疲れがたまっていると自分でも感じられる。
「ふふっ、そうね。ありがとう」
私はありがたくその提案に乗らせてもらうことにした。
「本当に行かれるんですか?」
心配はありがたいのだけれど、私は『洗浄』を持っているし、ジェイドさんは『魔法壁』を持っている。その二つをうまく使えば死ぬことはないだろう。
「うん、行ってくる」
私たちが宿を出るとき、アイリーンとミミィは涙目になっていたけど、心配のし過ぎ、だと思う。
ちなみにローザさんの依頼はギルド経由で依頼してもらうことにした。今朝、朝一番で行ったギルドではその依頼を断りたがっていたが、そうしないと伯爵に訴えますよ?とアイリーンの笑顔の一撃でなんとか受けいれてもらった。
そして、今度はその依頼をすぐさま引き受ける『ラテテイ』。ギルド側からすればできすぎって思われてるんだろうけれど、それでもいい。どうせだれも引き受けない依頼なんだから。
そして、ローザさんに書いてもらった地図を頼りに案内で鉱山まで来た。一応、犠牲者は出ることはないと思うが、念のために酒屋でお留守番してもらっている。
私とジェイドさんの作戦はこうだ。
ジェイドさんの『魔法壁』は魔物を寄せ付けない。そして、襲う者の気配を消すという追加の作用を持つ。だから、それを利用して魔物たちに気づかれないように鉱山まで行き、私の『洗浄』で魔物を封じこめる。
一見シンプルだけれど、魔物の正体がわからない以上、それ以外に打つ手がないという側面もある。また、攻撃性のある魔物だった場合、ジェイドさんは私を抱えることになる。できればそれだけは避けたいけれど。
「なるほど。まがまがしいですねぇ」
「だな。準備はできてるか?」
「もちろんです」
街とは違って、この鉱山には悪いものがいっぱい憑いている。でも、前のミドリウサギのときやそのあとの『洗浄』とはまた違った感触なのだ。
「じゃあ、さっさと終わらせよう」
うん、こんなところからさっさと立ち去りたいわ。
今日はジェイドさんの『魔法壁』があるから、しめ縄やら祭壇やらの結界を作らない。もっともあれって、気休め程度のものなんだけれど。
いつもの祝詞を奉じた私は、違和感しか覚えなかった。
澱みが一瞬、消えたものの……また、別の澱みが出てくるのだ。
「変ですねぇ」
「変?」
どうやらジェイドさんには気づけなかったようだ。
そりゃそうかもしれない。
消えた、雰囲気が変わったのはほんの一瞬だけ、時間にしたら一秒にも満たないものだからね。
「消えないんですよ」
「消えない?」
どうやら今回の『洗浄』の根本さえ気づいてないようだった。
「基本、ミミィのような魔物を狩る場合は、魔物がそこに実体として残るじゃないですか」
「そうだな」
「で、私のような『洗浄』の場合、死霊はその魂をバラバラにする、魔物は閉じこめるという感じじゃないですか」
「ああ」
私の説明に頷いていくジェイドさん。
「でも今回、その閉じこめた感触がないんですよ。正確にいえば、閉じこめたものが出てくるというよりも、閉じこめたものとは別にまた湧きあがってくるというか」
「変だな」
そして今回感じたものに対する指摘をすると、なるほどと納得できたようだ。そうなんですよと私が首を傾げると、お前が気になるのならば、気になるなと考えこんだが、答えは出てこない。
「“姿の見えない魔物”というのも気になりますし、なんか気持ち悪いんですよ」
私は前世の職業は巫女だけれど、あまり“見えないもの”は好きではない。だから、実態を見てしまった以上、できればこれをきちんと解決したい。
違和感を残しつつも、それをそのまま報告せざるを得ない。街に戻った私たちは先にローザさんに報告することにした。
酒場で朝からくだを巻いていた彼女は私たちの姿を見ると、怪我はないかい!?と心配してくれた。
「……ローザ殿」
「どうだったかい?」
依頼を受けたのは『ラテテイ』だ。だけれど、その報告は俺がすると帰り道にジェイドさんが引き受けてくれたけれど、やっぱり気は重い。
期待する視線を受け止めながら、ジェイドさんは重い口を開く。
「すまん、ダメだった」
「あんたたちでもダメだったかぁ」
肩を落とすローザさん。
申し訳なかったと思っている。あれだけジェイドさんとできるんじゃないのかとはしゃいでいたのに、結果はこの様。問答無用で罵られても文句は言えないけれど、彼女はそうせずにやっぱりかぁとただ落ちこんでいるだけだ。
「だが、解決方法はいくらでも……とはいかないが、まだあるかもしれん」
そのジェイドさんの一言にローザさんも私たち、『ラテテイ』のメンバーも驚く。どんな方法なんだろうか、今から気になるな。
「ははっ……気休めはいらないよ」
でも、ローザさんは寂びしそうな笑顔を作った後、そう呟く。
まあその方法で解決できるのかどうかはわからないけれど、ジェイドさんはあくまでも強気のようだ。
「気休めではない。俺の知人にそっち専門職がいるから、一度当たってみる」
“そっち”の専門職って、どんなんだろうか。
たしかにジェイドさんってギルド所属ではなく、だれかの部下というかたちみたいだから、その方面なのかもしれない。ローザさんは今までの寂しげな笑いから一転、強気な、最初に出会ったときのような笑顔を見せた。
「そうかい。ま、期待しないで待ってるさ」
「すまないな、確実なことが言えなくて」
ジェイドさんが謝ると気にするんじゃないよとからりと笑うローザさん。
「いいんだよ。最初はわっちが騙すように相談を持ちかけたんだし」
さっきまでの悲壮感はどこへやら。
私たちは顔をそっと見合わせた。
そのあとすぐにギルドに報告しに行った。やはり受付のお姉さんも心配してくれていたようで、私たちの顔を見た瞬間、すごく安心したような顔になった。
依頼報告課にいくと、お姉さんが通常の依頼完了報告書を取りだしながらお疲れ様ですと声をかけてくれた。
「任務は完了……」
「“依頼遂行未完了”で頼む」
しかし、ジェイドさんはお姉さんがここにサインを言ったところで、そう願う。すると、お姉さんの顔が曇る。
そうだろうねぇ。
「えっ? でも、そうすると冒険者さんたちの評価が下がりますよ……――?」
お姉さんの言うとおり。
なにも収穫物を持たずにギルドに帰ってくるということはその冒険者、そのパーティの評価が下がることにつながる。ジェイドさんのスキルの場合、そのランクが下がることは少ないだろうが、ジェイドさんという冒険者の評価は下がる。
「そうだな。だが、『ジェイド・ユグレイン』が依頼完了できなかったということが王都に伝わるのは早いだろうな」
「……はぁ、わかりました」
“たとえ評価が下がったとしても、『ジェイド・ユグレイン』という人物には勝てない”
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「では、これで」
「問題ない、ありがとう」
お姉さんに書類を確認してもらい、ギルド承認印を押してもらった。これで私たちの依頼は正式に失敗したことになるが、『ラテテイ』四人の中には悲壮感はなかった。
私たちは任務に失敗したので依頼料はもらえなかったものの、危険な場所に行ったという手当だけはもらえ、宿に帰ってきた。最近のルーティーンでアイリーンとミミィに買い出しに行ってもらっている。
「じゃあ、これから王都に?」
「そうだな」
貸し切り馬車を出発させられるのは明日の朝。そして、王都に着くまでは四日以上かかる。
「多分、俺が所属するパーティの任務が失敗したことが王都に伝わるまでは遅くても二日」
「そうだね……?」
伝わるまでに“遅く”ても……?
どういう意味だと思ったら、ジェイドさんは指を折りながら数えていた。
「じゃ、一日くらいは遊べるな」
数え終わったジェイドさんはうんと頷き、私の頭を撫でる。
「はぁ?」
どういう意味なんだろうか。
さっさと王都に行かないとタイムラグが生じるじゃない。
それに今の最大の任務は魔物を退治すること。
遊んでいる暇は……――――
「お前だって疲れただろ? これからは『洗浄』のスキルも必要となってくるだろうから、今から根を詰めすぎてもよくない。だから、王都に行くまでの道中で気分転換しよう」
なるほど。
たしかにいつも以上に気を張っていたのだろう。ちょっと疲れがたまっていると自分でも感じられる。
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