転生巫女は『厄除け』スキルを持っているようです ~神様がくれたのはとんでもないものでした!?〜

鶯埜 餡

文字の大きさ
上 下
10 / 35

10.中途半端な助けはしてはならない

しおりを挟む
 私が尋ねるよりも早く、ローザさんがその理由の説明をしはじめてくれた。
「そうさ。三十年ほど前までは良質のアイアンボートのおかげで、遠くからも商人や職人さんたちが大量に買っていってくれてたのさ」
「もしかして《幻のレイドック・アイアンボート》……?」
 彼女の口から出た言葉に私は思わず呟いてしまった。
 この街のアイアンボートは王国内でも指折りの品質を持ち、その中でもレイドック鉱山で採取できたものは超一流のものだ。
 実家の武器工房でも私が生まれる前は使われていたけれど、なんらかの事故により卸売商人さえも手に入れることができなくなり、買えなくなってしまったと聞いていた。ローザさんの口から三十年前までは良質のアイアンボートが採掘できたと聞いて、もしかしてと思っていたのだが、どうやら当たり・・・のようだった。
「嬢ちゃん、知ってるんだねぇ」
 感心するローザさんはいい子にはお代わりあげるよぉと言って、新しい飲み物を作ってくれた。一杯目は前世で言うアレキサンダーと呼ばれるよう甘いカクテルだったけれど、二杯目はギムレットのようなさっぱりとしたものだった。
「私、一応ビリウの武器職人の娘なんです」
「ビリウかい。そこならば、冒険者たちが多く集うから、うちのアイアンボートを取り扱っててもおかしくないねぇ」
 生まれ育ったビリウをどうやらローザさんも知っていたらしい。
 まあ、自分ちで採れたものがどこに行くのかは、大体知っていたのだろう。
「はい、そうなんです。実家も扱っていたと言ってました」
「そうなのかい! そりゃあ、嬉しいねぇ」
 ローザさんと私の話についてこれてない後の三人はふぅんと頷いているだけだった。
 しかし、嬉しそうだったローザさんの顔は一転し、かなり険しいものになった。
「で、その《レイドック・アイアンボート》、コイツが売れなくなったきっかけは三十年前のことさ」
 彼女の話に聞き入る私たち。

「当時、ここの隣の土地を治めていた前タプ侯爵殿が職人を手厚くする政策のために、良質なアイアンボートの取れるうちの鉱山と契約を結ぼうとしていた。で、その大量購入の契約手続きをした後の道中で急死されちまったのさ。それに加え、その前タリンプ侯爵殿の死を解明するために訪れた陛下直属の調査官たちも次々に不審死しちまった」

 なるほどねぇ。
 たしかにそれは呪われている場所として買い手がつかなくなるねぇ。
 商売人、経営者としてはいけない・・・・事態。もっとも良質な鉱石が採れていたというだけあって、それが急に採れなくなるというのも困りもんだけれど。
 それで思い出したけれど、そういえば実家の工房うちは大丈夫だろうか。
 一応、私が遊び半分で『厄除け』を付与しちゃったことで、冒険者たちさんが怪我したり死ななくなったたりしたのはいいけれど、それ目当てにうちの工房に殺到してないだろうか。
 まあ、今はこちらに集中。
 気が向いたときに手紙でも出しておくか。
「それで訪れたら呪われると」
「そのとおりさ」
 私が実家に想いを馳せていると、ジェイドさんの頭がきちんと回りだしたらしく、ローザさんときちんとまともなやり取りをしていた。
「なるほどな。たしかに呪われていそうな場所に冒険者を進んで向かわせるわけにはいかないな」
 そうか。
 ギルドで引き受けてもらえないとなると、野良で依頼を出さなければならないだろう。
 しかし、それは両者にとってリスクが非常に高く、あまり好まれる方法ではない。

 まず冒険者側。
 ギルドを通せば最悪、ギルドが依頼料を補填、出してくれるものの、直接の場合、依頼者にバックレられる可能性もある。
 そして依頼者側。
 の良い冒険者を引き当てればいい買い物をしたことになり、きちんと依頼を遂行してもらえるが、質の悪い冒険者の場合、依頼を遂行されないばかりか、まで危うい。またギルドの場合は公営、すなわち国が管理してるので、きちんとしたスキルの行使記録を出してもらえるが、個人の場合にはそうもいかないことの方が多い。

 しかし、ローザさんの場合にはそうも言ってられないというのが実情だろう。
 なぜならそもそも三十年前の事件によって客足が遠のいたこと、そして二年前から様子のおかしい魔物が出現しているという二重苦。

 実家が武器工房なので我が家も常に評判は気にしていた。そこで十五年育ったからこそ、ローザさんの気持ちはよくわかる。
「で、たまたま筋肉ダルマでない、そしてギルドの依頼を受けていなさそうな俺たちに目をつけた、というところか」
 だからこそ彼女は藁にも縋る思いで私たちに声をかけたのか。
「その通りさ。ギルドから後をつけさせてもらったよ。ま、あくまでもわっちは騎士さんたちに相談しただけで、強制なんかしたりしてない」
「そうだな」
「聞かなかったことにしてもいいのさ」
 なるほど。
 今のこの状況で、ローザさんは依頼は・・・していない。軽く世間話、自分の置かれた状態を通りすがり・・・・・の冒険者の私たちに聞かせただけだ。
 だから、私たちは彼女の相談を聞かなかったことにして、街を出たって問題ないのだ。

「だが、そうするとお前さんはこれからもここで一人で寂しくやっていくんだろ?」

 ジェイドさんは心配するようにローザさんに聞くが、彼女はグラスに入ったお酒をあおるように飲んで、ため息をつく。
「はっ……今さらさ。おふくろと親父が生きてるときだっていいことなかったし、死んでからもいいことなんてなかったさ。だから、こうやって酒場を細々とやっていくのだって酔狂かもねぇ」
 それは本心なのかそれともただの強気の発言なのか……多分、後者だろうな。
「そんな、いい人なのにぃ」
「ミミィ。私たちにだってできることとできないことがあるんです」
 夕焼けを思わせる赤いカクテルを飲みながらミミィが呟くが、アイリーンが難しい顔をして彼女を窘める。
「そうなんですけれどぉ」
 そうなんだよねぇ。
 正直なところ、ローザさんを助けようと思えばできなくもない。でも、はたして私たちだけですべてを解決できるのかと言われれば、できない・・・・
 前世でも貧困にあえぐ人はいっぱいいた。でも、そのすべてにお金を一律に渡せば完全に救済できるのか?と聞かれれば、違う。そうではない。渡したところで一時しのぎにしかならない。

「……――――できなくはないな」

「はい」
 でも、私やジェイドさんには持っているもの・・・・・・・があって、確実に解決できるかどうかはわからないが、可能性はある。
「どういうことだい?」
「二人ともなに言ってるの?」
 ローザさんとアイリーンが目を丸くしてジェイドさんと私の方を見る。

「少なくともミコと俺がいればなんとかなるかもしれん」

 ジェイドさんも同じことを考えていたようだ。
「ええ、そうですね」
「はいぃぃ?」
 私たちが目を見合わせ、力強く頷くと、ミミィが目を白黒させていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

家出したとある辺境夫人の話

あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』 これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。 ※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。 ※他サイトでも掲載します。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

蔑ろにされた王妃と見限られた国王

奏千歌
恋愛
※最初に公開したプロット版はカクヨムで公開しています 国王陛下には愛する女性がいた。 彼女は陛下の初恋の相手で、陛下はずっと彼女を想い続けて、そして大切にしていた。 私は、そんな陛下と結婚した。 国と王家のために、私達は結婚しなければならなかったから、結婚すれば陛下も少しは変わるのではと期待していた。 でも結果は……私の理想を打ち砕くものだった。 そしてもう一つ。 私も陛下も知らないことがあった。 彼女のことを。彼女の正体を。

乙女ゲームの正しい進め方

みおな
恋愛
 乙女ゲームの世界に転生しました。 目の前には、ヒロインや攻略対象たちがいます。  私はこの乙女ゲームが大好きでした。 心優しいヒロイン。そのヒロインが出会う王子様たち攻略対象。  だから、彼らが今流行りのザマァされるラノベ展開にならないように、キッチリと指導してあげるつもりです。  彼らには幸せになってもらいたいですから。

【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。

氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。 私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。 「でも、白い結婚だったのよね……」 奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。 全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。 一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。 断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが

ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。 定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

処理中です...