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9.酒場のお姉さん≠夜の職業
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しかし、目の前のお姉さんは私たちを取って食おうとしているわけじゃないらしい……多分。
「ずいぶんと怖がらせちゃったみたいだねぇ」
軽薄そうな笑みを浮かべながらお姉さんは一歩、私たちの方へ足を進める。本来ならば逃げなければならない状況なのに、足がすくんでいるわけでもないのに、それができなかった。
「なにか私たちに用事があるのですか」
私たち四人の中でもっとも冷静なのはジェイドさんだろう。
彼はお姉さんに向かってしっかりと応対している。お姉さんは目を細めながらそうだねぇと嗤う。
「騎士さんだけならば、今夜わっちと一緒にあんなことやこんなことしないかって聞くんだけれど、それだとお嬢さんたちがかわいそうだもんねぇ?」
「私たちはそんな関係ではありませんが」
お姉さんの軽口に答えたのはアイリーンだった。彼女も落ちつきを取り戻したようで、ジェイドさんのときと同じように臨戦状態になっている。彼女のツンとした答えに口元だけ歪めてあら、そうだったのと笑うお姉さん。しかし、そこに驚いてないようで、口調と表情が一致していない気がした。
「あまり驚かれてないようですが」
「ふふふ。そんなところまでお見通しなのかい」
どうやらジェイドさんもおんなじ感想を抱いていたようだった。お姉さんもそれを隠す気はさらさらなかったようで、からからと笑う。
「ええ、あなたの態度が真逆なもので」
こくりと私も頷く。あら、そっちの人間のお嬢ちゃんもそう思ってたのかいと寂しそうに笑う。
「だったら余計にあんたたちを手放すのは惜しいさ」
お姉さんの軽口はとどまらなさそうだった。しかし、いい加減本題を切りだしてほしい。そう思っていたのは私だけではないようだ。アイリーンも鞄の中に手を入れて、なにかを探るようなそぶりを見せていた。そして、一番この中でいろいろと知ってそうなジェイドがうんざりとしながらお姉さんを問いつめる。
「一体私たちになんの用なのですか? 場合によってはこの街のギルド、いえ、この街を治めるメルク伯爵家に抗議させていただきますよ?」
この街の領主は伯爵さんなのか。なんか“領主”“伯爵”って聞くと、こうでっぷりとした中年男性のイメージを持つのは私だけだろうか。
彼の鋭い言葉にやれやれと肩を竦めながら、わかったさと諦めたお姉さん。
「…………ふぅ。ごまかしやハッタリはきかないみたいだねぇ」
それから私たちはじっくりと話を聞くために、お姉さんが経営している酒場にお邪魔させてもらった。その酒場にはほかと違って、だれも客がいなかった。しかし、気にすることなく、お姉さんは私たちをここに座ってと指さす。決して高くはないだろうけれど、何人もの人が使った痕跡が残る椅子は心地よかった。
フードを外すと、真っ赤な髪が現れたお姉さんは胸をタポタポ揺らしながら、カウンターの奥で飲み物を作っていたけれど、さっきまでの色っぽさはあまり見られなかった。むしろ、ホッとしたような感じが見て取れた。
カウンターに並んで座っている私たちに飲み物をそれぞれ置くと、自分も飲み物を持って、正面に座った。お姉さんはローザと名乗る。どうやら髪の色から付けられた名前らしい。
「西はずれの鉱山にアイアンボートという鉱石が多く含まれた地層があるんだけど、十六年ほど前からそっから大量の魔物が湧き出てきてねぇ」
私たちに相談したかったことを切りだしたお姉さん。
ふむ、よくある相談事だな。
もっとも今までは女三人旅なので、そういった野良での魔物討伐依頼は受けてこなかったけれど、今回からはジェイドさんもいるから受けてみるのもいいかもね。
「すでにほかの冒険者さんたちに魔物の討伐依頼を出しているんだけれど、すべて失敗に終わっているのさ」
「というと、多くの冒険者が死んでいるのか?」
ローザさんの言葉にジェイドさんがそう尋ねるが、いんや、違うのさと首を振るお姉さん。
「討伐をお願いした冒険者は生きて帰ってくる。でも、目的の魔物が見つからないのさ」
お姉さんの言葉にジェイドさんは理解できなかったようだ。首を傾げたまま黙っている。
「冒険者が死んでないのに討伐依頼失敗……もしかして普段は魔物が出るはずなのに、依頼として行ったときだけ魔物がいなかった、魔物を狩ることができなかったっていうことですか?」
「そう、お嬢さんの言う通りさ」
私はジェイドさんが言った“多くの冒険者が死んでいる”のではない“失敗”を考えてそう推測すると、お姉さんは驚いたような顔をする。
いや、あてずっぽうだったのだが、当たってなにより。
ジェイドさんがお前マジかよという視線を投げてくるが、私だって勘なんですけど。
「“その魔物を意識すると魔物が消え、その魔物を意識しないと魔物が出現する”ということさ」
ローザさんが私の推測を補うように言うと、はぁとため息をつくジェイドさん。どうやらまだ理解できてないらしい。
「あらまぁ。騎士さんでも訳わからないっていう顔をするんだねぇ」
「事実、理解が追いついていないだけだが」
彼女の指摘にむくれるジェイドさんは子供のようだった。
「ふふふ。可愛らしいところもあるんですね」
「……っ!!」
私たちの話に口を挟まず、ただ見守っていたアイリーンがそう笑いながら言うと、ジェイドさんは余計に子供用にむくれる。
「おや、嬢さんたちにはなにも言わないのかい?」
「ジェイドさんらしくないですよ?」
「珍しく顔を赤らめてますねっ!」
私はなにも言わなかったが、ローザさん、アイリーンとミミィが口々にからかう姿は少し新鮮だった。そんな二人に完全になにも言えなくなったジェイドさんはぷいっとそっぽを向く。
五人だけの酒場には温かい笑い声が響いた。
「その、なんだ、“消える魔物”か? その魔物の討伐ならば、きちんとギルドを通せばいいだろう? なにも俺たちをスカウトしなくても、筋肉ダルマが片付けてくれるだろ」
「それができりゃあ、そうするんだけれどねぇ」
少し時間が経った後、ジェイドさんはさっきの話だがとローザさんに問いかけた。すると彼女は大きなため息をつきながら、自嘲するようにこぼす。
「どうやら実家の鉱山、どうも呪われてるらしくて、ギルドじゃ依頼を扱ってもらえないのさ」
「扱ってもらえない!?」
それは一体なんで扱ってもらえないんだろう。
“消える魔物”の出没ってどう考えたって、緊急性の高い案件だと思うんだけれど。
「ずいぶんと怖がらせちゃったみたいだねぇ」
軽薄そうな笑みを浮かべながらお姉さんは一歩、私たちの方へ足を進める。本来ならば逃げなければならない状況なのに、足がすくんでいるわけでもないのに、それができなかった。
「なにか私たちに用事があるのですか」
私たち四人の中でもっとも冷静なのはジェイドさんだろう。
彼はお姉さんに向かってしっかりと応対している。お姉さんは目を細めながらそうだねぇと嗤う。
「騎士さんだけならば、今夜わっちと一緒にあんなことやこんなことしないかって聞くんだけれど、それだとお嬢さんたちがかわいそうだもんねぇ?」
「私たちはそんな関係ではありませんが」
お姉さんの軽口に答えたのはアイリーンだった。彼女も落ちつきを取り戻したようで、ジェイドさんのときと同じように臨戦状態になっている。彼女のツンとした答えに口元だけ歪めてあら、そうだったのと笑うお姉さん。しかし、そこに驚いてないようで、口調と表情が一致していない気がした。
「あまり驚かれてないようですが」
「ふふふ。そんなところまでお見通しなのかい」
どうやらジェイドさんもおんなじ感想を抱いていたようだった。お姉さんもそれを隠す気はさらさらなかったようで、からからと笑う。
「ええ、あなたの態度が真逆なもので」
こくりと私も頷く。あら、そっちの人間のお嬢ちゃんもそう思ってたのかいと寂しそうに笑う。
「だったら余計にあんたたちを手放すのは惜しいさ」
お姉さんの軽口はとどまらなさそうだった。しかし、いい加減本題を切りだしてほしい。そう思っていたのは私だけではないようだ。アイリーンも鞄の中に手を入れて、なにかを探るようなそぶりを見せていた。そして、一番この中でいろいろと知ってそうなジェイドがうんざりとしながらお姉さんを問いつめる。
「一体私たちになんの用なのですか? 場合によってはこの街のギルド、いえ、この街を治めるメルク伯爵家に抗議させていただきますよ?」
この街の領主は伯爵さんなのか。なんか“領主”“伯爵”って聞くと、こうでっぷりとした中年男性のイメージを持つのは私だけだろうか。
彼の鋭い言葉にやれやれと肩を竦めながら、わかったさと諦めたお姉さん。
「…………ふぅ。ごまかしやハッタリはきかないみたいだねぇ」
それから私たちはじっくりと話を聞くために、お姉さんが経営している酒場にお邪魔させてもらった。その酒場にはほかと違って、だれも客がいなかった。しかし、気にすることなく、お姉さんは私たちをここに座ってと指さす。決して高くはないだろうけれど、何人もの人が使った痕跡が残る椅子は心地よかった。
フードを外すと、真っ赤な髪が現れたお姉さんは胸をタポタポ揺らしながら、カウンターの奥で飲み物を作っていたけれど、さっきまでの色っぽさはあまり見られなかった。むしろ、ホッとしたような感じが見て取れた。
カウンターに並んで座っている私たちに飲み物をそれぞれ置くと、自分も飲み物を持って、正面に座った。お姉さんはローザと名乗る。どうやら髪の色から付けられた名前らしい。
「西はずれの鉱山にアイアンボートという鉱石が多く含まれた地層があるんだけど、十六年ほど前からそっから大量の魔物が湧き出てきてねぇ」
私たちに相談したかったことを切りだしたお姉さん。
ふむ、よくある相談事だな。
もっとも今までは女三人旅なので、そういった野良での魔物討伐依頼は受けてこなかったけれど、今回からはジェイドさんもいるから受けてみるのもいいかもね。
「すでにほかの冒険者さんたちに魔物の討伐依頼を出しているんだけれど、すべて失敗に終わっているのさ」
「というと、多くの冒険者が死んでいるのか?」
ローザさんの言葉にジェイドさんがそう尋ねるが、いんや、違うのさと首を振るお姉さん。
「討伐をお願いした冒険者は生きて帰ってくる。でも、目的の魔物が見つからないのさ」
お姉さんの言葉にジェイドさんは理解できなかったようだ。首を傾げたまま黙っている。
「冒険者が死んでないのに討伐依頼失敗……もしかして普段は魔物が出るはずなのに、依頼として行ったときだけ魔物がいなかった、魔物を狩ることができなかったっていうことですか?」
「そう、お嬢さんの言う通りさ」
私はジェイドさんが言った“多くの冒険者が死んでいる”のではない“失敗”を考えてそう推測すると、お姉さんは驚いたような顔をする。
いや、あてずっぽうだったのだが、当たってなにより。
ジェイドさんがお前マジかよという視線を投げてくるが、私だって勘なんですけど。
「“その魔物を意識すると魔物が消え、その魔物を意識しないと魔物が出現する”ということさ」
ローザさんが私の推測を補うように言うと、はぁとため息をつくジェイドさん。どうやらまだ理解できてないらしい。
「あらまぁ。騎士さんでも訳わからないっていう顔をするんだねぇ」
「事実、理解が追いついていないだけだが」
彼女の指摘にむくれるジェイドさんは子供のようだった。
「ふふふ。可愛らしいところもあるんですね」
「……っ!!」
私たちの話に口を挟まず、ただ見守っていたアイリーンがそう笑いながら言うと、ジェイドさんは余計に子供用にむくれる。
「おや、嬢さんたちにはなにも言わないのかい?」
「ジェイドさんらしくないですよ?」
「珍しく顔を赤らめてますねっ!」
私はなにも言わなかったが、ローザさん、アイリーンとミミィが口々にからかう姿は少し新鮮だった。そんな二人に完全になにも言えなくなったジェイドさんはぷいっとそっぽを向く。
五人だけの酒場には温かい笑い声が響いた。
「その、なんだ、“消える魔物”か? その魔物の討伐ならば、きちんとギルドを通せばいいだろう? なにも俺たちをスカウトしなくても、筋肉ダルマが片付けてくれるだろ」
「それができりゃあ、そうするんだけれどねぇ」
少し時間が経った後、ジェイドさんはさっきの話だがとローザさんに問いかけた。すると彼女は大きなため息をつきながら、自嘲するようにこぼす。
「どうやら実家の鉱山、どうも呪われてるらしくて、ギルドじゃ依頼を扱ってもらえないのさ」
「扱ってもらえない!?」
それは一体なんで扱ってもらえないんだろう。
“消える魔物”の出没ってどう考えたって、緊急性の高い案件だと思うんだけれど。
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