転生巫女は『厄除け』スキルを持っているようです ~神様がくれたのはとんでもないものでした!?〜

鶯埜 餡

文字の大きさ
上 下
6 / 35

6.人生五十年って言うけど、エルフは何年?

しおりを挟む
 その二日後の夜、ジェイドさんの“尻拭い”が終わったので、私たちはこの街を離れることにした。
 せっかくこの街での最後の夜なので、あらためてジェイドさんの歓迎とミドリウサギから助けてくれたお礼をこめて普段は入らないような、少しお高めのレストランで歓迎会を開いていた。

 しかし、そこにはジェーンさんもいた。彼女はこの街から離れないらしく、自分から離れていってしまうジェイドさんにやたらと絡んでいた。すでに酒が大量に回っているのか、真っ赤な顔をしている。
「なんで私を入れてくれなかったんですかぁ?」
「お前が暴走するからだろ」
 まだジェーンさんは、ジェイドさんあにが私たちと行動させてくれなかったのが不満なようで、口をとがらせながら文句を言ったが、ジェイドさんはさっき、私に言った理由をそのまま彼女に突きつけていた。
「ちぇ」
 兄が言った理由に納得いってないようだったが、これ以上反論しても無駄だと諦めたのか、隣に座っているミミィを愛でることにしたようで、人の姿のときにも残っている彼女の腕の毛を触りながら甘たるい声を出すジェーンさん。
「しかし、ミミィちゃんというのかぁ~~可愛いなぁ」
 彼女の毛並みをなめまわすようになでなでする姿は共感を覚える。彼女の暴走癖がなければ、きっと女四人で仲良くなれただろう。
「ミミィが嫌がっているぞ」
「嫌がってる!? 嘘? 本当か!?」
 そんなジェーンさんをジェイドさんはからかう。
 ミミィが嫌がっていることはなさそうだが、彼女に嫌われたくない一心で、ミミィから離れるジェーンさん。
「大丈夫ですよ」
 やっぱり人に愛情をもって撫でられるのは好きなようで、ほぼ初対面のジェーンさんの執拗な撫でまわしにも嫌がる顔を見せないミミィ。
 可愛い。
「本当か!」
「あまりこいつを甘やかすな」
「は、はい……――」
 兄が嘘をついていたこと、自分がミミィに嫌われてないと知ったジェーンさんはやったぁと喜んで再び、さっき以上の威力を持って撫でまわす。
 その力に苦しそうだけれど、でも嫌ではなさそうなミミィはジェイドさんの忠告にその意味をきちんと理解できたようで、こくこくと頷いていた。


「ミコは引きがいいわね」
 そんな三人のやり取りを眺めていた私は、アイリーンの言葉で現実に引き戻された。
 しかし、『引き』かぁ。
 全然考えたこともなかったなぁ。
「そうですかね?」
「そうよ。だってあなたがあの街に行くって言わなきゃミミィだって引く・・ことはなかったわけだし、『魔法壁』を持っている人を引く・・なんてそうそうできることじゃないわよ」
 ぼんやりとした私の代わりにアイリーンはいろいろ考えていたらしい。

 まあ、そうか。
『魔法壁』は存在だけでも(私の『厄除け』よりは劣るが)稀有なスキル。聞いたことはあっても実際に所持している人を見たことはなかった。
 だから、その所持者が私たちの目の前に現れ、パーティに加わるなんて夢にも思ってなかった。でも、それはあくまでも結果論。
 私が引き当てたという実感は湧かない。

「ちなみに彼のどこが気に入ったの?」

「へ?」
 アイリーンの言葉の意味がわからなかった。
 むしろ私は、彼が入ることにあんまりいい顔をしなかった記憶があるのですが。人の話を聞かない彼女は『ミコがジェイドさんを気に入った』のではないかという推測を挙げる。
「あまり人を覚えないあなたが彼を覚えているからさ」
「あー多分、故郷にいた人になんとなく懐かしかったんですよ」
 ああ、なるほどね。
 たしかにそれは間違ってないような気がする。
 とはいっても、多分否定しても信用されないような気がするから、真実に近い嘘を言っておく。そうすれば信用してくれるはず。
「へぇ、そうなんだ」
 しかし、逆効果だったようだ。まったく信用してない目をしてますね、アイリーンさん。


「でも、よかったわ」
「なにが?」
 お酒も入ってるし、口論が長引くかと思ったけれど、一過性のものだった。しばらく沈黙があった後、お酒の入ったグラスを傾けつつ、彼女はぽつりとつぶやく。
 その呟きの意味がよくわからなかったので尋ねると、少しお酒で赤くなった顔でほほ笑まれる。その表情にはちょっとだけ色気があった。
「『外』に目を向けてくれたことよ」
「? どういう意味?」
 アイリーンの返答にますます意味がわからなくなった。
 私が一発で理解できると思っていなかったのか、アイリーンは怒らずに、辛抱強く丁寧に解説してくれる。

「あなたって自分自身にずっと夢中になっていたから。だから、そんなあなたがほかの人に目を向けたっていうのはいい進歩よ」

 はぁ。
 そうですかねぇ。
 私はギルドに寄ったときにアイリーンに拾われた。でも、そのときから外に目を向けていたはずだけれど。そう思ったが、彼女が言いたいことは違っていたらしい。
「もう五十年も生きて、いろんな人に会ってるけど、あなたほど自分自身に精いっぱいな人はいない」
「それは……――」
 そうかもしれないと思った。
 私には武器を作るというセンスがなかった。だから、ギルドに連れていってもらったのはある意味、食い扶持を減らすために連れていかれたんだと思う。

「あなたはなにもを持たない武器職人の娘っていうことで劣等感を抱いてきて、早く親の元を飛びだして独り立ちしたかった。そうでしょ? だから、あのギルドで一件無茶に見える私の誘いに乗った」

 そうだった。
(自分にしかわからない)“祝福”のスキルを持っているにもかかわらず、そのスキルを認知されず、腕力もないから武器職人の跡取り娘としてはなんにも役に立たなかった私。
 だからアイリーンに声をかけられたとき、私は悩まなかった。だって、チャンスが目の前に落ちているんだったらそれを拾わなくてどうする?
 アイリーンは『審美眼』のスキルの持ち主だったけど、攻撃系スキルはほとんどない。
 それを知っていたから、ギルドの職員さんには『ちょっと無謀なんじゃないの?』という反応をされ、知らないほかの冒険者からは『女二人って(笑)』という反応をされたが、それでも彼女も私もごり押しした。
 それくらい、私もアイリーンも無茶だと言えるものだった。

「そのときから私は後悔していた。あなたの視野を狭めてしまったのではないかってね」

 そうか。
 まだ二人旅だったときの夕暮れにときどきなにか悩んでいる目をしていたのは、そういうことだったのか。
「でも、私の『審美眼』ちょっかんがあなたを拾わないと大変なことになるっていうから、あなたを離さなかったし、絶対に離してはダメって『審美眼』ちょっかんが囁いていたから、離すつもりもない」
「そうだったんですか」

 良かった、捨てられなくて。
 良かった、アイリーンが『審美眼』を持っていて。
 良かった、こんな攻撃力ゼロおにもつの私を必要としてくれて。

 私のすっきりとした表情を見て、寂しそうに笑うアイリーン。
「だから、よかった。私はそう思うわ」
「はい、私もアイリーンに拾われてよかった。そう思う」
 お互いに気遣いすぎていたんだ。
 だから、これからはもっと仲良くなれる、はず。

「それじゃ、じゃんじゃん飲みましょ!」

「ええ」
 せっかく楽しい夕食会なんだ。楽しまなくちゃね!!
 しんみりしてるなんて、もったいなさすぎるんだから!
 そう思って、大声で店員さんを呼ぶ。
 可愛らしいエプロン姿の女性店員さんはまいどぉと言いながら、こちらに来る。

「コノナ酒をピッチャーでよろしく☆」

 アイリーンは酔っているのか、気が大きくなっている……わけではない。彼女の本性だ。
「待ったぁ!! せめてジョッキにしてください!」
 コノナ酒は高級酒。
 日本酒でいうならば大吟醸レベル、もしくはそれ以上のもの。
 それをやすやすとピッチャーで頼むなんて。一瞬、店員さんもあっけにとられたのち、まいどありーと言おうとしたが、私の勢いに押されて、コクコクト頷いて、注文票を書きかええていた。

 短気による物理攻撃とならぶ二つ目の短所。それは大幅な金銭感覚の欠落。
 気を引き締めないと。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

訳あり侯爵様に嫁いで白い結婚をした虐げられ姫が逃亡を目指した、その結果

柴野
恋愛
国王の側妃の娘として生まれた故に虐げられ続けていた王女アグネス・エル・シェブーリエ。 彼女は父に命じられ、半ば厄介払いのような形で訳あり侯爵様に嫁がされることになる。 しかしそこでも不要とされているようで、「きみを愛することはない」と言われてしまったアグネスは、ニヤリと口角を吊り上げた。 「どうせいてもいなくてもいいような存在なんですもの、さっさと逃げてしまいましょう!」 逃亡して自由の身になる――それが彼女の長年の夢だったのだ。 あらゆる手段を使って脱走を実行しようとするアグネス。だがなぜか毎度毎度侯爵様にめざとく見つかってしまい、その度失敗してしまう。 しかも日に日に彼の態度は温かみを帯びたものになっていった。 気づけば一日中彼と同じ部屋で過ごすという軟禁状態になり、溺愛という名の雁字搦めにされていて……? 虐げられ姫と女性不信な侯爵によるラブストーリー。 ※小説家になろうに重複投稿しています。

【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。

五月ふう
恋愛
 リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。 「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」  今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。 「そう……。」  マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。    明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。  リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。 「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」  ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。 「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」 「ちっ……」  ポールは顔をしかめて舌打ちをした。   「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」  ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。 だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。 二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。 「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」

好きでした、さようなら

豆狸
恋愛
「……すまない」 初夜の床で、彼は言いました。 「君ではない。私が欲しかった辺境伯令嬢のアンリエット殿は君ではなかったんだ」 悲しげに俯く姿を見て、私の心は二度目の死を迎えたのです。 なろう様でも公開中です。

【完結】余命三年ですが、怖いと評判の宰相様と契約結婚します

佐倉えび
恋愛
断罪→偽装結婚(離婚)→契約結婚 不遇の人生を繰り返してきた令嬢の物語。 私はきっとまた、二十歳を越えられないーー  一周目、王立学園にて、第二王子ヴィヴィアン殿下の婚約者である公爵令嬢マイナに罪を被せたという、身に覚えのない罪で断罪され、修道院へ。  二周目、学園卒業後、夜会で助けてくれた公爵令息レイと結婚するも「あなたを愛することはない」と初夜を拒否された偽装結婚だった。後に離婚。  三周目、学園への入学は回避。しかし評判の悪い王太子の妾にされる。その後、下賜されることになったが、手渡された契約書を見て、契約結婚だと理解する。そうして、怖いと評判の宰相との結婚生活が始まったのだが――? *ムーンライトノベルズにも掲載

「君の為の時間は取れない」と告げた旦那様の意図を私はちゃんと理解しています。

あおくん
恋愛
憧れの人であった旦那様は初夜が終わったあと私にこう告げた。 「君の為の時間は取れない」と。 それでも私は幸せだった。だから、旦那様を支えられるような妻になりたいと願った。 そして騎士団長でもある旦那様は次の日から家を空け、旦那様と入れ違いにやって来たのは旦那様の母親と見知らぬ女性。 旦那様の告げた「君の為の時間は取れない」という言葉はお二人には別の意味で伝わったようだ。 あなたは愛されていない。愛してもらうためには必要なことだと過度な労働を強いた結果、過労で倒れた私は記憶喪失になる。 そして帰ってきた旦那様は、全てを忘れていた私に困惑する。 ※35〜37話くらいで終わります。

雪解けの白い結婚 〜触れることもないし触れないでほしい……からの純愛!?〜

川奈あさ
恋愛
セレンは前世で夫と友人から酷い裏切りを受けたレスられ・不倫サレ妻だった。 前世の深い傷は、転生先の心にも残ったまま。 恋人も友人も一人もいないけれど、大好きな魔法具の開発をしながらそれなりに楽しい仕事人生を送っていたセレンは、祖父のために結婚相手を探すことになる。 だけど凍り付いた表情は、舞踏会で恐れられるだけで……。 そんな時に出会った壁の花仲間かつ高嶺の花でもあるレインに契約結婚を持ちかけられる。 「私は貴女に触れることもないし、私にも触れないでほしい」 レインの条件はひとつ、触らないこと、触ることを求めないこと。 実はレインは女性に触れられると、身体にひどいアレルギー症状が出てしまうのだった。 女性アレルギーのスノープリンス侯爵 × 誰かを愛することが怖いブリザード令嬢。 過去に深い傷を抱えて、人を愛することが怖い。 二人がゆっくり夫婦になっていくお話です。

婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪

naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。 「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」 まっ、いいかっ! 持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

【完結】番である私の旦那様

桜もふ
恋愛
異世界であるミーストの世界最強なのが黒竜族! 黒竜族の第一皇子、オパール・ブラック・オニキス(愛称:オール)の番をミースト神が異世界転移させた、それが『私』だ。 バールナ公爵の元へ養女として出向く事になるのだが、1人娘であった義妹が最後まで『自分』が黒竜族の番だと思い込み、魅了の力を使って男性を味方に付け、なにかと嫌味や嫌がらせをして来る。 オールは政務が忙しい身ではあるが、溺愛している私の送り迎えだけは必須事項みたい。 気が抜けるほど甘々なのに、義妹に邪魔されっぱなし。 でも神様からは特別なチートを貰い、世界最強の黒竜族の番に相応しい子になろうと頑張るのだが、なぜかディロ-ルの侯爵子息に学園主催の舞踏会で「お前との婚約を破棄する!」なんて訳の分からない事を言われるし、義妹は最後の最後まで頭お花畑状態で、オールを手に入れようと男の元を転々としながら、絡んで来ます!(鬱陶しいくらい来ます!) 大好きな乙女ゲームや異世界の漫画に出てくる「私がヒロインよ!」な頭の変な……じゃなかった、変わった義妹もいるし、何と言っても、この世界の料理はマズイ、不味すぎるのです! 神様から貰った、特別なスキルを使って異世界の皆と地球へ行き来したり、地球での家族と異世界へ行き来しながら、日本で得た知識や得意な家事(食事)などを、この世界でオールと一緒に自由にのんびりと生きて行こうと思います。 前半は転移する前の私生活から始まります。

処理中です...