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1.危機的状況です
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医者の不養生。紺屋の白袴。髪結い髪結わず。
どれも他人のことに時間をかけて自分のことに手をかける暇がないことを示すことわざだ。では、神職の場合はどうなんだろうか。
坊主の不信心。
いや違うか。あれは仏教だもんな。どちらかといえば『巫女の不信仰』といったほうがいいのか。
何はともあれ、私は死んだ。正確にいえば、交通事故に遭って死んだ。
スピード出しすぎの車がぶつかってくる直前に、正月の初詣ついでに健康やら病気平癒やら交通安全やらを祈願しにきた他人のために、巫女として祝詞をずっと奉じてたのに、自分には時間がなくて全然ご祈願してなかったなぁということに気づいた。
まさしく後の祭りだ。
というか、その帰り道に交通事故に遭ったのは……むしろ日頃の行いのせい?
でも、神様は見捨てなかったようだ。いや、放っておいてくれなかった。
『神川美湖、地球で巫女だった君にぴったりの異能力を授けよう。とくに使命なんてない。ゆっくりと暮らすがよい』
うん?
今神様、なんて言った?
ゆっくりと暮らすがよい?
よくわからない言葉とともに私は異世界に送られたらしい、のだが……――
「あの神様、ふざけるなぁ‼︎」
あのときまではとくに変哲もない《普通》の子だった私のはずなのに、どうしてこうなってる。いや、どうなってるんだ、この状況。
なんにも戦闘系のスキルを持っていない私からすると、この状況は転生させやがった神をただ恨むしかないんだよ。
目の前には大きなウサギ擬きがいる。かわいらしい見た目をしているにもかかわらず、すっごい凶暴なんだよ、このコ。
魔物が多く生息するこの世界の中でも比較的高ランクの魔物じゃないか。
うーん。自分自身になんの戦闘系のスキルがないことを悔やむねぇ。
いやいや、今の私は《普通》の武器職人の長女で、生まれ故郷によくいた黒髪碧眼という《普通》の容姿だし、《普通》の物覚えのよさなんだよ。
そんな《普通》の私、ミコ・ダルミアン、十七歳だけど、どうやらあの神は今の状況にはまったく必要のないスキルだけはたくさんくれたようだった。
そう。
それはどんな災難でも周囲に降りかからないスキル、その名も『厄除け』。
『厄除け』というくらいだから自分に災難が降りかからないのかと思ったら、大間違いなんだよねぇ。
前世ではひたすら他人への祝詞を奉じてたからか、『自分へ』ではなく、『他人へ』への厄除けになったみたいだ。それがわかったときはこのクソ野郎とスキル付与した神を罵ったが、まあそれでいい出会いもあったので、とりあえずそれはおいておこう。
とにもかくにも、この状況を打破するのが一番初めにやんなきゃいけないこと……なんだけれどぉ……――――
無理だ。
このウサギ擬き――もとい、ミドリウサギと真っ当に戦えるのは一緒に旅してるパーティの中でも一人しかいないんだよねぇ……
でも彼女は今、ここにはいない。
しょうがないので、ミドリウサギに見つからないように背の高い草の陰に入る。
本当に草葉の陰から見守ることにならないようにしなきゃ。
生存戦略大事。
今のところあのコは気づいていないようなので、少し休みながら、その間にどういう状況なのか自分の中で整理しよ。
* * * * * *
こうなったきっかけは今朝のことだった。
朝ご飯を取りながら、一日の行動予定についてパーティで打ち合わせしていた。
「『洗浄』は依頼された仕事だけど、これは私専門だから、アイリーン達たちその間どうしてるの?」
「そうねぇ。そろそろ隣国への路銀も稼いでおこうかしら。薬草集めれば少しは手持ちが増えるだろうし、ここら辺に出現するはずのミドリウサギでも狩ってもらおうかしら」
私の質問にそう答えたのは、私の所属パーティのリーダーであるアイリーン。彼女は長命族の一族で、武者修行と称して大陸を旅しているらしい。私がスキル判定に立ち寄ったギルドでたまたま出会ったのをきっかけに、一緒に行動している。
森の賢者と称される長命族の特徴である柔らかい緑の髪と瞳はこちらのここまで穏やかにしてくれ、本人も基本的には物腰が柔らかいのだが……――二つの部分を除いてものすごく頼りになる……――うん、頼りにしています。
「了解ですっ!」
もう一人のパーティメンバーのミミィが嬉しそうに返事をした。
そうだよねぇ。
彼女は小柄な猫耳族ながらも、戦闘力がピカイチで、下手すると王国の騎士団一個を一人で潰せるんじゃないかというくらいなんだよねぇ。
もちろん、実際にやり合ったことはないけど。
ちなみにその彼女、普通の猫耳族と違って銀色の体毛をしている。
そのせいで一族から何者かによって連れ去られたらしく、私たちが最初に見たときはある街に寄ったときに行われていた奴隷オークションで出されていた『モノ』だった。
だからか、彼女は同じパーティのメンバーである私たちに対してもいまだに敬語が抜けてない。そんな気弱そうに見える彼女だけど、彼女の持っているスキルによる攻撃は大爆発と言ってもいいくらいの威力なのだ。
そんな彼女だからこそ凶暴なミドリウサギと殺り合えることは嬉しいんだろう。ただこの詐欺ってる動物はA級ハンターでも手こずる凶暴さの持ち主だから、気をつけてねと言うと、もちろんですっ!!と返ってきた。
そんな彼女の笑顔に癒されるわぁ。
そういえばアイリーンの口から出た『隣国への路銀稼ぎ』。
ギルドに所属するパーティは基本的に出入国自由だ。きちんとした身分証さえあれば外国でのクエストも受注可能。
でも、各個人の『職業』と『希少度』、『能力』に応じてパーティの行動の自由度が違ってくるんだよねぇ。
『職業』はそのスキルを使って就くことができる職業の種類や数。
多くの職業や幅広い職種につけるものほどランクは低く、限られた職種、それも特殊な職業にしか就けなければランクは高くなる。
次に『希少度』。これはそのスキルの希少度そのもの。
多くの人が持っているスキルほどそのランクは下がり、少ない人しか持っていなければランクは上がる。
そして『能力』。
攻撃系のものならばその威力や捕捉範囲、回復系ならば回復量やどういった内容で治癒するのかといったことが求められる。
これは公営ギルドで測定され、三つの合計とその使いこなしによって総合ランクが判定される。総合ランクが低いほど国を自由に行き来でき、特殊なスキルや高ランクの持ち主は国家ぐるみで隠匿される。
ちなみにこの世界では貴賤問わずにスキルを保有でき、位が高くたって特殊なスキルを持っていないことだってあるし、その逆、平民だって特殊なスキルを持つ可能性だってある。
そのうちの一人がこの私、ミコだ。
私のスキルの一つ『厄除け』は希少でギルドの職員曰くSSSランクの伝説もんだけれど、実は公には発覚してない。
このスキル自体を自覚したのは、十五歳のとき、私の祈りが届いて川の氾濫による村への被害を防いだことや魔物退治に出ていったハンターたちが傷一つ負わずに帰ってきたときなのだが、ギルドで測定したときにはスキルを行使したことさえもなかったことになっていた。
そんな私の公営にギルドによる判定は『洗浄』のみで、職業・希少度・能力Cなのだよ。
ははは。
これは物理的・精神的な汚れを取っ払うもの(人の心の汚れは取れないが)。
このスキルを持っていることが必須の職業っていうものはほとんどないし、そこそこの人がサブスキルとして持っているし、私の魔力が低いせいか『洗浄』スキルの発動にムラがあるしで、大幅にランクが下げられた。
でもそのおかげで国家権力による監禁コースに進んでいないので、よしとしよう。
ちなみにアイリーンは味方に必要なものを見分ける『審美眼』と攻撃系の『百発百中』を持っているが、それぞれC+とB+であり、ミミィの攻撃マシマシスキルである『大撃弾』もC+のため、パーティ全体でも特殊スキルを保持していないと判断され、自由に動けるのだ。
だから今、私たちはレヴィヨン王国所属のパーティで国内を旅しているが、しばらくの間は争いもなさそうなので、ちょっと外に足を延ばしてみようと話が出ていたのだ。
それはそうと、朝食をとりおえた私たちはこの川辺にきた。ここは街のはずれで、人通りはそんなに多くない。
アイリーンとミミィと別れた私はさっさと簡易祭壇を組んで『洗浄』をはじめた。霊感が強くない私でも良くない場所だとわかったので、さっさとことを済ませたかった。
それはそうと、戦闘力を持っていないにもかかわらず、私が一人きりになったのは『厄除け』がバレるのを防ぎたいのだよ。
たとえ、仲間といえども。
だから二人には『『洗浄』の作業は一人のほうがいいから』と言ってあり、多分二人ともそれを信じてくれてる。
ごめんよ、嘘をついちゃって。
いつかは本当のことを言うから。
そんな嘘つきな私の『洗浄』は前世における神道式で行う。
その場にあったニワトコ(擬きの植物)で作った神棚、その場にあった……わけではないライグラスストロー(擬きの植物)のしめ縄、その場にあったローズマリー(擬きの植物)の玉串でお祓いをする。
ローズマリー(擬きの植物)の滅茶苦茶匂いが強いけど、そこは我慢。
「掛けまくも畏き神の広き厚き恩恵を奉じ、高き尊き神のまにまに。家門高く身すこやかに世の為、人の為につくし霊たちよ、安らかに眠り給へ」
私の祝詞の半分は前世のものだけど、こちらでもしっかりと心をこめているのできちんと通用――『洗浄』できてるようだ。
終わった後はさっきと違ってほとんど淀みが消えてる。ついでに周辺に『厄除け』を願う。『洗浄』のときは言葉を紡がなければならないけれど、『厄除け』は言葉を紡がなくていい。
同じスキルといえども、それを行使する方法は様々だったのを冒険者になってから気づいた。
はぁ、終わった終わった。
この作業は昔からの馴染みの作業だからか、片づけにも時間はかからない。
二人がまだ帰ってこないので、日陰で気もちよく涼んでると、近くの茂みが揺れていた。なんだろうと思ってそちらを見ると、そこには今、にらみ合っているミドリウサギがいたのだ。
* * * * * *
こうして私とミドリウサギは十分以上にらみ合ってるのだが、いまだに状況は変わらない。
どうしようか。いつまで経っても逃げる気配がないんだよなぁ。
うーん、だったら専門職に頼んだ方が早いだろう。近くのギルドに駆けこめば、そしてその場にいるはずの何人かの冒険者たちに依頼料を払えば、退治してくれる。
きっとアイリーンたちも私が『洗浄』している場所にいなければ気づくだろう。
私は戦闘力を持っていないから『逃げる』ことを選択したということを。
そして、その『逃げ先』が近くのギルドであるということを。
そう思って後退った瞬間、鋭い音とともに巨大なミドリウサギが三つにスライスされた。
どれも他人のことに時間をかけて自分のことに手をかける暇がないことを示すことわざだ。では、神職の場合はどうなんだろうか。
坊主の不信心。
いや違うか。あれは仏教だもんな。どちらかといえば『巫女の不信仰』といったほうがいいのか。
何はともあれ、私は死んだ。正確にいえば、交通事故に遭って死んだ。
スピード出しすぎの車がぶつかってくる直前に、正月の初詣ついでに健康やら病気平癒やら交通安全やらを祈願しにきた他人のために、巫女として祝詞をずっと奉じてたのに、自分には時間がなくて全然ご祈願してなかったなぁということに気づいた。
まさしく後の祭りだ。
というか、その帰り道に交通事故に遭ったのは……むしろ日頃の行いのせい?
でも、神様は見捨てなかったようだ。いや、放っておいてくれなかった。
『神川美湖、地球で巫女だった君にぴったりの異能力を授けよう。とくに使命なんてない。ゆっくりと暮らすがよい』
うん?
今神様、なんて言った?
ゆっくりと暮らすがよい?
よくわからない言葉とともに私は異世界に送られたらしい、のだが……――
「あの神様、ふざけるなぁ‼︎」
あのときまではとくに変哲もない《普通》の子だった私のはずなのに、どうしてこうなってる。いや、どうなってるんだ、この状況。
なんにも戦闘系のスキルを持っていない私からすると、この状況は転生させやがった神をただ恨むしかないんだよ。
目の前には大きなウサギ擬きがいる。かわいらしい見た目をしているにもかかわらず、すっごい凶暴なんだよ、このコ。
魔物が多く生息するこの世界の中でも比較的高ランクの魔物じゃないか。
うーん。自分自身になんの戦闘系のスキルがないことを悔やむねぇ。
いやいや、今の私は《普通》の武器職人の長女で、生まれ故郷によくいた黒髪碧眼という《普通》の容姿だし、《普通》の物覚えのよさなんだよ。
そんな《普通》の私、ミコ・ダルミアン、十七歳だけど、どうやらあの神は今の状況にはまったく必要のないスキルだけはたくさんくれたようだった。
そう。
それはどんな災難でも周囲に降りかからないスキル、その名も『厄除け』。
『厄除け』というくらいだから自分に災難が降りかからないのかと思ったら、大間違いなんだよねぇ。
前世ではひたすら他人への祝詞を奉じてたからか、『自分へ』ではなく、『他人へ』への厄除けになったみたいだ。それがわかったときはこのクソ野郎とスキル付与した神を罵ったが、まあそれでいい出会いもあったので、とりあえずそれはおいておこう。
とにもかくにも、この状況を打破するのが一番初めにやんなきゃいけないこと……なんだけれどぉ……――――
無理だ。
このウサギ擬き――もとい、ミドリウサギと真っ当に戦えるのは一緒に旅してるパーティの中でも一人しかいないんだよねぇ……
でも彼女は今、ここにはいない。
しょうがないので、ミドリウサギに見つからないように背の高い草の陰に入る。
本当に草葉の陰から見守ることにならないようにしなきゃ。
生存戦略大事。
今のところあのコは気づいていないようなので、少し休みながら、その間にどういう状況なのか自分の中で整理しよ。
* * * * * *
こうなったきっかけは今朝のことだった。
朝ご飯を取りながら、一日の行動予定についてパーティで打ち合わせしていた。
「『洗浄』は依頼された仕事だけど、これは私専門だから、アイリーン達たちその間どうしてるの?」
「そうねぇ。そろそろ隣国への路銀も稼いでおこうかしら。薬草集めれば少しは手持ちが増えるだろうし、ここら辺に出現するはずのミドリウサギでも狩ってもらおうかしら」
私の質問にそう答えたのは、私の所属パーティのリーダーであるアイリーン。彼女は長命族の一族で、武者修行と称して大陸を旅しているらしい。私がスキル判定に立ち寄ったギルドでたまたま出会ったのをきっかけに、一緒に行動している。
森の賢者と称される長命族の特徴である柔らかい緑の髪と瞳はこちらのここまで穏やかにしてくれ、本人も基本的には物腰が柔らかいのだが……――二つの部分を除いてものすごく頼りになる……――うん、頼りにしています。
「了解ですっ!」
もう一人のパーティメンバーのミミィが嬉しそうに返事をした。
そうだよねぇ。
彼女は小柄な猫耳族ながらも、戦闘力がピカイチで、下手すると王国の騎士団一個を一人で潰せるんじゃないかというくらいなんだよねぇ。
もちろん、実際にやり合ったことはないけど。
ちなみにその彼女、普通の猫耳族と違って銀色の体毛をしている。
そのせいで一族から何者かによって連れ去られたらしく、私たちが最初に見たときはある街に寄ったときに行われていた奴隷オークションで出されていた『モノ』だった。
だからか、彼女は同じパーティのメンバーである私たちに対してもいまだに敬語が抜けてない。そんな気弱そうに見える彼女だけど、彼女の持っているスキルによる攻撃は大爆発と言ってもいいくらいの威力なのだ。
そんな彼女だからこそ凶暴なミドリウサギと殺り合えることは嬉しいんだろう。ただこの詐欺ってる動物はA級ハンターでも手こずる凶暴さの持ち主だから、気をつけてねと言うと、もちろんですっ!!と返ってきた。
そんな彼女の笑顔に癒されるわぁ。
そういえばアイリーンの口から出た『隣国への路銀稼ぎ』。
ギルドに所属するパーティは基本的に出入国自由だ。きちんとした身分証さえあれば外国でのクエストも受注可能。
でも、各個人の『職業』と『希少度』、『能力』に応じてパーティの行動の自由度が違ってくるんだよねぇ。
『職業』はそのスキルを使って就くことができる職業の種類や数。
多くの職業や幅広い職種につけるものほどランクは低く、限られた職種、それも特殊な職業にしか就けなければランクは高くなる。
次に『希少度』。これはそのスキルの希少度そのもの。
多くの人が持っているスキルほどそのランクは下がり、少ない人しか持っていなければランクは上がる。
そして『能力』。
攻撃系のものならばその威力や捕捉範囲、回復系ならば回復量やどういった内容で治癒するのかといったことが求められる。
これは公営ギルドで測定され、三つの合計とその使いこなしによって総合ランクが判定される。総合ランクが低いほど国を自由に行き来でき、特殊なスキルや高ランクの持ち主は国家ぐるみで隠匿される。
ちなみにこの世界では貴賤問わずにスキルを保有でき、位が高くたって特殊なスキルを持っていないことだってあるし、その逆、平民だって特殊なスキルを持つ可能性だってある。
そのうちの一人がこの私、ミコだ。
私のスキルの一つ『厄除け』は希少でギルドの職員曰くSSSランクの伝説もんだけれど、実は公には発覚してない。
このスキル自体を自覚したのは、十五歳のとき、私の祈りが届いて川の氾濫による村への被害を防いだことや魔物退治に出ていったハンターたちが傷一つ負わずに帰ってきたときなのだが、ギルドで測定したときにはスキルを行使したことさえもなかったことになっていた。
そんな私の公営にギルドによる判定は『洗浄』のみで、職業・希少度・能力Cなのだよ。
ははは。
これは物理的・精神的な汚れを取っ払うもの(人の心の汚れは取れないが)。
このスキルを持っていることが必須の職業っていうものはほとんどないし、そこそこの人がサブスキルとして持っているし、私の魔力が低いせいか『洗浄』スキルの発動にムラがあるしで、大幅にランクが下げられた。
でもそのおかげで国家権力による監禁コースに進んでいないので、よしとしよう。
ちなみにアイリーンは味方に必要なものを見分ける『審美眼』と攻撃系の『百発百中』を持っているが、それぞれC+とB+であり、ミミィの攻撃マシマシスキルである『大撃弾』もC+のため、パーティ全体でも特殊スキルを保持していないと判断され、自由に動けるのだ。
だから今、私たちはレヴィヨン王国所属のパーティで国内を旅しているが、しばらくの間は争いもなさそうなので、ちょっと外に足を延ばしてみようと話が出ていたのだ。
それはそうと、朝食をとりおえた私たちはこの川辺にきた。ここは街のはずれで、人通りはそんなに多くない。
アイリーンとミミィと別れた私はさっさと簡易祭壇を組んで『洗浄』をはじめた。霊感が強くない私でも良くない場所だとわかったので、さっさとことを済ませたかった。
それはそうと、戦闘力を持っていないにもかかわらず、私が一人きりになったのは『厄除け』がバレるのを防ぎたいのだよ。
たとえ、仲間といえども。
だから二人には『『洗浄』の作業は一人のほうがいいから』と言ってあり、多分二人ともそれを信じてくれてる。
ごめんよ、嘘をついちゃって。
いつかは本当のことを言うから。
そんな嘘つきな私の『洗浄』は前世における神道式で行う。
その場にあったニワトコ(擬きの植物)で作った神棚、その場にあった……わけではないライグラスストロー(擬きの植物)のしめ縄、その場にあったローズマリー(擬きの植物)の玉串でお祓いをする。
ローズマリー(擬きの植物)の滅茶苦茶匂いが強いけど、そこは我慢。
「掛けまくも畏き神の広き厚き恩恵を奉じ、高き尊き神のまにまに。家門高く身すこやかに世の為、人の為につくし霊たちよ、安らかに眠り給へ」
私の祝詞の半分は前世のものだけど、こちらでもしっかりと心をこめているのできちんと通用――『洗浄』できてるようだ。
終わった後はさっきと違ってほとんど淀みが消えてる。ついでに周辺に『厄除け』を願う。『洗浄』のときは言葉を紡がなければならないけれど、『厄除け』は言葉を紡がなくていい。
同じスキルといえども、それを行使する方法は様々だったのを冒険者になってから気づいた。
はぁ、終わった終わった。
この作業は昔からの馴染みの作業だからか、片づけにも時間はかからない。
二人がまだ帰ってこないので、日陰で気もちよく涼んでると、近くの茂みが揺れていた。なんだろうと思ってそちらを見ると、そこには今、にらみ合っているミドリウサギがいたのだ。
* * * * * *
こうして私とミドリウサギは十分以上にらみ合ってるのだが、いまだに状況は変わらない。
どうしようか。いつまで経っても逃げる気配がないんだよなぁ。
うーん、だったら専門職に頼んだ方が早いだろう。近くのギルドに駆けこめば、そしてその場にいるはずの何人かの冒険者たちに依頼料を払えば、退治してくれる。
きっとアイリーンたちも私が『洗浄』している場所にいなければ気づくだろう。
私は戦闘力を持っていないから『逃げる』ことを選択したということを。
そして、その『逃げ先』が近くのギルドであるということを。
そう思って後退った瞬間、鋭い音とともに巨大なミドリウサギが三つにスライスされた。
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