上 下
5 / 8

ヒロインと仲良くなったけど、なんか嫌われているっぽい

しおりを挟む
「あんた、リュカ王子じゃないでしょう。一体誰なのよ」
 いつものあかるい笑顔はどうした。うっふふきゃっきゃ笑っているあの笑みは何処に捨ててきたって聞きたくなるぐらい鋭い眼差しで俺を睨みつけてきたのはヒロインであった。デフォルトの名前はサラ。
 ふわふわした金髪の髪をして、ちょっと釣り眼のアデールとは対照的な垂れ眼の女の子。優しい顔立ちで可愛くて、まあ、ヒロインって感じの子なんだけど、睨みつけてくる姿はラスボスのようにも思えてしまって俺はあんぐりと口を開けてしまった。
 ヒロインが聞いてきた台詞は俺が言いたい事だった。
 言おうとしたことだった。
 あれからもヒロインは攻略対象そっちのけにしてアデールとの距離を詰めていて絶対何かおかしいとヒロインに直接聞きだせる機会を待っていたら、ヒロインの方から声を掛けてきたので今回こそ聞いてやろうとそう意気込んでいた。
 なんて言うか決めてまで言ったのにそれを言う前に言われたのが前の台詞。
 言ってきたヒロインは凄い顔で睨んできて、で誰なのよと詰め寄ってくる。
 待て待て待てと焦った声がでたのは仕方ないだろう。
「俺がリュカじゃないってどういうことだよ。ってかお前の方こそ誰なんだよ。絶対広いんじゃないだろう!」
 あっと言ってから思った。つい勢い余ってゲームでの言い方をしてしまったのだ。やってしまったと思うが、ヒロインは訝しむことなくやっぱりと叫び返してくる。
「その言い方、あんたこの世界がゲームだって言うこと知ってるのね! 私と同じでなり替わりやがったんでしょう。何てことするのよ」
「へ、私と同じって」
「分かるでしょう。私もこの子、サラ・オーディアンになり替わったのよ。元は高校生だったのに間違って車にひかれたばかりになり替わっちゃったの。
 まあ、なり替わったものは仕方ないから、このせいをおうかしてやりますけどね。むしろ大好きなアデール様の傍にいられるなんてラッキー。リアアデを間近で観察できるなんて幸せ以外の何物でもないんだけど、
 だけど、なんでリュカ様まで入れ替わっているのよ。しかも絶対貴方アデール様をおしてるでしょう」
「へ? え? ええ?」
 女の迫力ってすごいものでまくしたてられるのに何を言われたかなんて全く分からなくなる。分かるのは怒っていることと後俺と同じ境遇であることだけだ。いや、俺は死んでないからそこは違うけど。え、俺死んでないよね。もしかして死んでたりする。え、嫌だ。知りたくねえ。分かんねえことにする。
「聞いてる。アデール様、推してるんでしょう」
「え、お、推して」
 なんて考えていたらヒロインはますます詰め寄ってきてその迫力に負けながら俺は情けない声を出していた。好きっていう事よとヒロインは半ば起こりながら言ってくる。
「それならそうだけど」
「やっぱりもう最悪。アデール様のファンがいるのは仕方ないけど、まさかそのファンが入れ替わってるなんて、は、まさかあんたアデール様と結婚しようなんて考えてないでしょうね

「は考えるも何もリュカなんだから結婚するだろう。アデールとはこんやくしてるんだからな」
「はあああああ!」
 ヒロインの絶叫が響いた。耳がキンキンするほどの声だ。なんで女の声ってこんなに耳に居たいんだろうな。滅茶苦茶びっくりしたし、耳がつらい
「な、なんだよ。当然だろう」
「当然なんかじゃないです。アデール様は素晴らしいお方なのに貴方なんかと結婚するはずないでしょう。リュカ様だとしても結婚しないから。
 ってか、あんた」
 あちくりとヒロインの大きな目が俺を見た。突然騒いでいたのが嘘みたいに静かになってじっと俺のことを見てくる。あーーと何度か口が開いてもしかしてという。
「ゲームはやっていてもそれ以外は知らない感じ?」
「は? それ以外ってなんだよ。ゲームはゲームだろう」
「あ……。うんうん。何でもない。それより思う所は色々あるけど、アデール様と結婚しようだなんて分不相応なことを考えていることについてはいろいろ言いたいことあるけど、でもゲームギャラになり替わったなんてこんな特殊な状態、一人じゃ抱えきれない事だってあるし仲間がいたのは嬉しいわ。
 これから仲良くやっていきましょう。アデール様との仲は認めないけど」
 女ってやつはみんなこうなのだろうか。移り変わりが早くておれはとてもじゃないけどついていけない。それでもまあ、ヒロインが言うことは分かるので頷いていた。ただ一つを覗いて
「お前に認められなくても俺はアデールとイチャイチャラブラブして見せる」
「は、きっも」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

彼女の幸福

豆狸
恋愛
私の首は体に繋がっています。今は、まだ。

「お前を妻だと思ったことはない」と言ってくる旦那様と離婚した私は、幼馴染の侯爵から溺愛されています。

木山楽斗
恋愛
第二王女のエリームは、かつて王家と敵対していたオルバディオン公爵家に嫁がされた。 因縁を解消するための結婚であったが、現当主であるジグールは彼女のことを冷遇した。長きに渡る因縁は、簡単に解消できるものではなかったのである。 そんな暮らしは、エリームにとって息苦しいものだった。それを重く見た彼女の兄アルベルドと幼馴染カルディアスは、二人の結婚を解消させることを決意する。 彼らの働きかけによって、エリームは苦しい生活から解放されるのだった。 晴れて自由の身になったエリームに、一人の男性が婚約を申し込んできた。 それは、彼女の幼馴染であるカルディアスである。彼は以前からエリームに好意を寄せていたようなのだ。 幼い頃から彼の人となりを知っているエリームは、喜んでその婚約を受け入れた。二人は、晴れて夫婦となったのである。 二度目の結婚を果たしたエリームは、以前とは異なる生活を送っていた。 カルディアスは以前の夫とは違い、彼女のことを愛して尊重してくれたのである。 こうして、エリームは幸せな生活を送るのだった。

貴方が選んだのは全てを捧げて貴方を愛した私ではありませんでした

ましゅぺちーの
恋愛
王国の名門公爵家の出身であるエレンは幼い頃から婚約者候補である第一王子殿下に全てを捧げて生きてきた。 彼を数々の悪意から守り、彼の敵を排除した。それも全ては愛する彼のため。 しかし、王太子となった彼が最終的には選んだのはエレンではない平民の女だった。 悲しみに暮れたエレンだったが、家族や幼馴染の公爵令息に支えられて元気を取り戻していく。 その一方エレンを捨てた王太子は着々と破滅への道を進んでいた・・・

【完結】愛も信頼も壊れて消えた

miniko
恋愛
「悪女だって噂はどうやら本当だったようね」 王女殿下は私の婚約者の腕にベッタリと絡み付き、嘲笑を浮かべながら私を貶めた。 無表情で吊り目がちな私は、子供の頃から他人に誤解される事が多かった。 だからと言って、悪女呼ばわりされる筋合いなどないのだが・・・。 婚約者は私を庇う事も、王女殿下を振り払うこともせず、困った様な顔をしている。 私は彼の事が好きだった。 優しい人だと思っていた。 だけど───。 彼の態度を見ている内に、私の心の奥で何か大切な物が音を立てて壊れた気がした。 ※感想欄はネタバレ配慮しておりません。ご注意下さい。

たとえこの想いが届かなくても

白雲八鈴
恋愛
 恋に落ちるというのはこういう事なのでしょうか。ああ、でもそれは駄目なこと、目の前の人物は隣国の王で、私はこの国の王太子妃。報われぬ恋。たとえこの想いが届かなくても・・・。  王太子は愛妾を愛し、自分はお飾りの王太子妃。しかし、自分の立場ではこの思いを言葉にすることはできないと恋心を己の中に押し込めていく。そんな彼女の生き様とは。 *いつもどおり誤字脱字はほどほどにあります。 *主人公に少々問題があるかもしれません。(これもいつもどおり?)

【完結】伯爵の愛は狂い咲く

白雨 音
恋愛
十八歳になったアリシアは、兄の友人男爵子息のエリックに告白され、婚約した。 実家の商家を手伝い、友人にも恵まれ、アリシアの人生は充実し、順風満帆だった。 だが、町のカーニバルの夜、それを脅かす出来事が起こった。 仮面の男が「見つけた、エリーズ!」と、アリシアに熱く口付けたのだ! そこから、アリシアの運命の歯車は狂い始めていく。 両親からエリックとの婚約を解消し、年の離れた伯爵に嫁ぐ様に勧められてしまう。 「結婚は愛した人とします!」と抗うアリシアだが、運命は彼女を嘲笑い、 その渦に巻き込んでいくのだった… アリシアを恋人の生まれ変わりと信じる伯爵の執愛。 異世界恋愛、短編:本編(アリシア視点)前日譚(ユーグ視点) 《完結しました》

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

【完結】どうして殺されたのですか?貴方達の愛はもう要りません  

たろ
恋愛
処刑されたエリーゼ。 何もしていないのに冤罪で…… 死んだと思ったら6歳に戻った。 さっき処刑されたばかりなので、悔しさも怖さも痛さも残ったまま巻き戻った。 絶対に許さない! 今更わたしに優しくしても遅い! 恨みしかない、父親と殿下! 絶対に復讐してやる! ★設定はかなりゆるめです ★あまりシリアスではありません ★よくある話を書いてみたかったんです!!

処理中です...