死にたがりの悪役令嬢

わたちょ

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第二部

悪役令嬢のやりたい事リスト

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「トレーフルブラン様。おはようございます」
「おはようございます」
「あ、トレーフルブラン様。ご質問したいことがあるのですが」
「トレーフルブラン様。あのもしよろしければなのですが」
「トレーフルブラン様」
「トレーフルブラン嬢」
「トレーフルブラン様」
 ふむと私はテラスで頷きます。今後どういう生き方をしていくのかと考えるのに今一度自分の立ち位置というものを確認してみたのですが中々良い位置にいるように思いましたわ。誰も連れず一人で学園内をうろついてみただけですが、次々と声をかけられ色んな人の話を聞くことになりました。時期王妃という肩書きはなくなってしまいましたが、今も私の評価は高いままあり続けていることがよく分かりました。
 教師に生徒多くの人から頼りにされ尊敬されています。魔王を身に宿すことになって少しは評価が落ちるかなと思っていたのだけどそんな心配も無用だったようです。むしろ魔王を身の内に封印してもいつも通り過ごせるなんて凄いともう一つ尊敬される要素を作ってしまったよう。
 何をするのか決まっていない新たな人生だがまあ丁度いい。この高い評価も十分に使わせていただくことにしましょう。
 では、そろそろ何をするのか本格的に考えていきましょう。
 これからの事とただ考えてみても頭の中は真っ白ですが、ここは前世の私が読んでいた自己啓発本を思い出して頑張ります。よくやりましたわよ、前世の私。乙女ゲームばかりやり込んでなくて良かった。前世の頃はいくら読んでも読んだ内容をちっとも活かせませんでしたが、安心してください。私が活かして見せます。
 まずは真っ白な紙を用意して今やりたいことを書き出しましょう。
 私はトレーフルブラン・アイレッド。出来ないことなど一つもない女です。何でもやれるのですからやりたいことだって沢山ある筈です。
 数分後
 ……駄目ですわ。何一つでてきません。やりたいことが何一つ出てこない。何とか三つは書き出しましたけど……。
 セラフィード様が善き王になるのを見守る。さやかさんを立派な令嬢には……ほとんど同じですわよね。しかもやりたいことと云うよりやらねばならない事という感じですし……。中途半端に放り出してしまいましたからこれぐらいは元婚約者としての務めとして、しておかなければならないけじめ的な……。
 なんでかお菓子が食べたいとか三つ目には書いてしまいましたが普通に食べていますし……。むしろ食べすぎなぐらいですわ。完璧な令嬢にならなくていいんだと思うとつい気が緩んでしまって……、そろそろ引き締めなくては……。ぽっちゃりになるのははしたなくて嫌ですわ。
でも、甘いものの誘惑には……。いえいえ、負けては駄目。負けては駄目なのです。
 あ、そうですわ。カロリーオフ。
 前世の世界ではそんな素晴らしい言葉がありましたわ。此方でもそんなお菓子を開発してみましょう。そしたらお菓子食べ放題ですわ。
 やったわ。やりたいことが一つできました。
 この調子で一つ一つ掘り下げていけば、って……セラフィード様とさやかさんのからはどう掘り下げてもやりたいこと見つかりそうに思えないんですが……。どうやってサポートして行くのか考えるとか? でも正直な所私がやることは何一つないんですね。
 セラフィード様たちは自力で頑張って前よりずっと素晴らしくなっておりますし。こないだのテストなど全教科で満点を三人ともが取られておられて……。あ、魔法学の実技だけは違いましたわ。あの方たちはそっちの才能はてんでありませんから。それでもかなり努力したのか一般の生徒よりは上になっておりましたわ。
 パーティーの一件で落ちた信頼や評価も少しずつではありますが挽回されつつありますし、本当にこれについては見守るだけ。何か行き詰った時にアドバイスできたらいいかな程度です。 
 ……複雑な気持ちにちょっとなりますわね。
 私がどれほど注意しても直らなかった彼ら振る舞いなどもかなり改善されて今や立派なとはまだ少し遠いですがそれでも紳士になって……。私と彼らの歪んでしまっていた関係上仕方ないと思わなくてはいけない部分なんでしょうが悔しいですね。関係が少しはよくなったからだと思えば良かったとも思えるのですが。それでもどうしてもね。これからずっと抱え続けることになりそうですが、抱えながらも彼らの成長を見守っていきましょう。
 後のさやかさんですが……これは私ではなくミルシェリー様がやってくださいますからね。さすがたった数年で宰相補佐にまで成りあがった父を持つだけはあります。四人娘の中でも成績はずば抜けていますし、教え方もうまい。教師に向いていますわ。政治家などにもなって欲しい所ですが、残念ながら我が国は女性は政治家にはなれないんですよね。
 まあ、取り敢えずさやかの件は彼女に任せておけば安心ですわ。ミルシェリー様が合格点をだしてから残りの部分を私が教える形にしようと思っていますの。そこまでいくのに半年ぐらい……。
 半年の間ずっとお菓子作りに専念するというのも……なんだかなですし。他にやりたいことが見つからないものでしょうか。
 うーーん。さやかさんと云えばルーシュリック様を思い出しますが、彼のように魔法にのめり込むつもりはありませんし。ルーシュリック様と云えば……グリシーヌ先生……いえ、これも特に何もありませんわ。
 うーーん、後思いつくのは四人娘ですかね。彼女達とはもっと交流を深めたいと思いますがそれについてもやりたいことと云うようなことでもないですよね。これから十分に深めていけます。
 もうちょっと学問に精を出してみますか……。でも大体の事は学び終えているつもりですし、あまり専門的すぎるほどの知識を付ける気もないんですよね。では商売に目覚めてみるとか。あら、これはちょっといいかもですわ。
 折角カロリーオフのお菓子を作るんですもの。誰かに食べてもらいたいです。何より無駄にある前世の知識を活用できそうです。何かに使えないかとずっと思っていたんですの。
 ちょっとリストに書きましょう。
 次に魔法はいいとして、剣や武術を今一度鍛えなおすというのはいいかもしれませんね。色々あって忘れかけていましたが、私一度は負けた身ですもの。もつと鍛えなおさなくては。
 これもやりたいことリストに加えましょう。
 人の上に立つのはもうできていますし、別に偉くなりたいわけでもないのでどうでもいいとして……。後セラフィード様たちと云えば………………
 子供の施設とか作りたいですわね。
 この国にはそう云った施設はありませんし、親が死んでしまった児や捨てられた児が生きていけるように。……それから。
 うん。まあ、こんなものでしょう。
 結構書けたのではなくて。セラフィード様やさやかさんを除いても四つもあります。上出来ですわ。これをどうやってやっていくかですわね。
 お菓子作りは家の、いえ、学園にある厨房などをお借りしてやるとして、まずは材料集めですよね。砂糖の代わりになる甘いものと、米粉。幸いにも似たようなものならこの国にもありますわ。それを使ってみましょう。豆乳とかもいいそうですし、その変も作ってみたいですね。
 商売の方は商品ができないことには始まりませんね。三か月以内に一つでいいから食べられるカロリーオフ作品を作って誰か共に働いてくれる方を探しましょう。
 訓練の方は朝にやっているものと夜にやっているものそれぞれ一時間ずつ増やせばいいでしょう。師匠に会いに行きたい所ですが、あの方は何処にいるか分からない方ですからね。諦めましょう。
 子供の施設の方はまずどれくらいの数の子供たちが一人で暮らしているのかと云う事を把握することから始めなくては。毎日下町にいって調査いたしましょう。それからその子たち全員が満足に暮らせるためにはどれくらいの資金がいるのかを計算しなくては。それからお金を工面する方法も考えて……。私の貯金は惜しみなく使うつもりですがそれでは足りませんよね。土地を買って建物もたてなくてはいけませんし……。
 難問ですわね。でも絶対に叶えて見せますわ。
 なんだか楽しくなってきました。
 やはりやりたいことがあるというのはいいことですわね。ですが今はここまで。そろそろ帰らなくてはなりませんわ。家に帰ってから細かいことは決めて、明日は一日ぶりのお茶会を時間が許すまでして、実際に行動するのは明後日からといたしましょう。少しのんびりしすぎるかしら。時間は有限ですから急がねばなりませんが、でも今はもう少しだけのんびりとしていたいのですよね。
 確か前世にありましたよね。モラトリアムとかいう言葉。
 前世も今までも楽しめなかったので少しは味わっておきたいんですのよ。
「姉上!」
 家に帰りつき聞こえてきた声に私は驚いてしまいました。この声を聞くのは何か月ぶりでしょうか。私は家の前にいるブランリッシュの姿を不思議な気持ちで見つめます。姿を見るのでさえも数か月ぶりです。私もブランリッシュも家の中では部屋にいることが多いですし、学園でも今年から同じ校舎にはなりましたがブランリッシュは教室から殆どでないそうで姿を見ることもありせん。
 さやかさんやセラフィード様の傍にも彼はいってないようですし……。一人教室で本を読んでいるとか。その割に彼だけはあの件の後も何も変わらず……。彼の評価だけは下がったまま。
 彼が私を見る目は歪んだままで……。
 やりたいことリストをふっと思い出して片隅に追いやります。
 ブランリッシュを見つめるとその目はそらされました。
「何です」
 声をかけても返事はありません。無言で時間が過ぎていきます。何度か口が動いた気もしますが声はでないまま。何も言わずにブランリッシュは家の中に入っていきました。
 しばらく待ってから私も家に帰ります。
 入ってすぐにあっと思いました。
「お帰りなさいませ」
 淡々とした声が一つ分聞こえてきます。目の前にいる召使は一人だけ。そう云う事かとブランリッシュの態度にも納得しました。私は黙って自分の部屋に向かいます。
「今日からお嬢様のお世話をするのは私一人になることがきまりました。それからお食事の件ですが」
「知っていますわ」
全てを言わさずに私は言います。
「今日からは食事はすべて私の部屋に持ってきてください。食べに行くのも面倒だわ」
「かしこまりました」
 召使が答えるのに私は心の中息を吐きました。
 また私とブランリッシュの立ち位置が変わったのです。

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