死にたがりの悪役令嬢

わたちょ

文字の大きさ
上 下
6 / 48

チートじみてる悪役令嬢

しおりを挟む
「あの女と来たらまた」
「この間なんてゲール様のお屋敷にまで押しかけたそうですのよ」
「テラスにもいかれているというお話も」
「グリーシン様と手を繋いでいらして」
「セラフィード様やルーシュリック様ブランリッシュ様ともですよ」
「何を考えていますの」
「恥知らずじゃありませんの」
 学園を歩けば彼方此方から聞こえてくる声に私は内心ため息を吐く。余裕の笑みを口元に浮かべながら歩いているがそれが剥がれていないかどうかちょっと自信がないかもしれない。
「トレーフルブラン様。矢張りさやか様をこのままと云う訳にはいかないのではないでしょうか?」
「そうですよ。幾らご兄弟のようなものだと云っても限度と云うものがございます」
「セラフィード様がお優しいからと云ってべったりして」
 ともに歩いていた少女たちまで言い出すのに笑みが固まりそうだ。何とか堪えるけども頭所か胃が痛い。
 何でこんな事になってしまうの?
 私が予想していたよりも数倍早くさやかへの不満が貯まってしまっている。このままでは悪意がさやかだけでなくさやかを庇う五人にまで向けられることにだってなりうる。先生の対処をとか言っている暇もない。まずはこの悪意を如何にかしなければ。
 今はそれとなく私が五人に近づいて外から見る分には仲良くしているように見せかけたり噂を制御したりして抑えているが何時まで持つか。もっと確実な方法を見つけなければ。一番いいのはあの五人がさやかに近づかないことなのだけど……。何せここまで早くさやかへの悪意が強まってしまったのは全てセラフィードを含めた攻略対象キャラ五人のせいなのだから。
 セラフィード、ブランリッシュ、ゲール、グリーシン。ルーシュリック。
 このゲームの攻略対象キャラクターたち五人。勿論全員イケメンの家柄もいい。両方とも学園トップレベルの男たち。当たり前のように女子人気は高い。そんな彼ら五人がここ最近はさやかにべったりと張り付いて彼女をお姫様のように扱っている。それは彼女に対する嫌な噂が出回っているからなのだろうけど……。
 にしてもやりすぎと云うかむしろ火に油を注いでいるのかと聞いてしまいたくなる処だろう。
 乙女の憧れの五人がたった一人を特別扱いする。
 そんなの周りからしたら疎ましい以外の何物でもないじゃないか。彼女の立場はどんどん悪くなっていく。それに対抗して五人はもっとさやかに構うようになり悪循環と云うのは計画には確かにあったけども……それは噂が酷くなってさやかに実害が出るようになってから後一か月は先の話だった。
 実害もまだなくただ噂が出てくる段階だけで出張ってくるとかお前ら過保護か。そして周りを見て自分たちのせいで悪くなっているのではとか思わないのか。実害が出てからだと気付いても傍を離れたら何があるか分からないからと離れられなくとも仕方ない状況になる。そうなる状況に持っていくつもりだった。それがなんでそうなってもないのに離れようと思わないの。
 さやかを守りたいの? それとも本当は傷つけたいの? どっちなの?
 五人の考えが分からない……。いや、本当は分かっている。何も考えていない。ただそれだけだ。セラフィードたちにはなぜさやかが悪く言われているのかさえ分かっていないのだろう。
 さやかが悪く言われる理由。そりゃあそう云う風にこの私が持って行っているというのもあるがそれだけではない。元々彼女の評判は悪いのだ。
 何せ彼女の振る舞いはここでは異常だ。彼女は異世界から、それも多分私が前世で暮らしていたような世界からやってきたのだと思う。そしてその世界でしてきた振る舞いをここでもしてしまっている。
 郷に入れば郷に従えという言葉を彼女は知らないのだろう。
 彼女の世界では気軽に異性に触れることができただろうがこの世界では違う。特にこの学園は貴族の学園。婚約者でもない異性の手を握るなどご法度だし、肩に触れるなどの行為もはしたない。異性が二人きりになったり二人で話したりと云うのもよろしくないことだ。
 それをやすやすと破れば腫れもの扱いされても仕方ない。最初の頃こそ別の世界から来た方ですしで許せていても、何度か注意しても理解しないとなると嫌われて当然。この子本当は嫌われたいんじゃないかと思ったことすらある。そんな相手が声をかけることすらも烏滸がましいと見つめるだけだった五人と仲良くなっているなんて許せる訳がないだろう。
 何故その辺を五人が理解しないのかが私の最大の謎だけど。それでも分かっていないのがセラフィードたち五人なのだ。ああ、頭が痛い。
 
 如何にか五人の暴走を止めなければ。だが私が何を云った処で聞くことはないだろう。ここは裏から手を回して一度五人とさやかを離すべきか。
 はぁ、こっちは先生の弱みをどう握るかという問題もあれば、もっと大きな問題も抱えているのだから変な問題は起こさないでほしい。さやかを守りたいならもっと考えろと云ってやりたい。
 
 まあ、半分は私のせいなんでしょうけどね。
 おかしいとは思っていたのだ。セラフィードやブランリッシュの私に対する態度がゲームより冷たすぎる気がしたり、反対にさやかに対する態度は甘すぎる気がしたり、それにゲームとそれぞれのキャラが少し違うような気もした。最初はゲームだと云い場面しか見せないからかなと思っていたがそれにしても目に余るようになってどうしてか考えてみた。
 何がゲームと違うのかと。
 そして答えはすぐ傍にあった。
 あったというか私そのものだった。
 考えてみれば一番ゲームと違うのは私、トレーフルブランだ。ゲームよりもすべての部分で優れすぎている。
 ピアノやお茶、手芸などと云った貴族の令嬢が身につけるべき教養はすべて身に着け、それ以外も極めている。勉学は学園で習う所どころかこの国にあるすべての学問を余すことなく学び倒して、剣と武術も習い免許皆伝を貰いそこらの下級騎士ならば十人ぐらい一気に襲われても倒せる。魔法は言うまでもない。性格こそ多少きついものの表向きには文句なしのいい子ちゃん。
 しかもそのきついのだって次期王妃でありそれにふさわしいという自負があってのものだ。現に学園の教師に生徒、それどころか他の貴族や果ては王族の中にも彼女を尊敬したり一目置いていたりするものがいるぐらい。
 ……正直こんなのヒロインがどうあがいても勝てないだろう。こんな高スペックではゲームではなかった。
 じゃあ、何がこんなに彼女と云うか私を変えたのか。それは私だ。
 そもそも私が違うのだ。
 前世の記憶を思い出したのこそ二か月前のあの二人がキスした日だったが、別にその日に転生したわけじゃない。産れた頃からすでに私は転生してトレーフルブランだった。記憶を思い出したのがあの時だっただけ。そして記憶はなくとも魂にこびりついた一人ぼっちの寂しくつらい気持ち、恋人だと思っていた人に裏切られた痛みを幼いトレーフルブランは感じていたのだ。
 だからセラフィードに捨てられないよう、もう二度と一人にならないようにゲームの彼女よりも努力した。王になるセラフィードを支え必要とされ続ける為に誰より完璧な淑女になろうとした。
 そして彼女は大げさでなくこの国一の才女となった。
 自分の事を褒めるのは些か自意識過剰だと思われそうで恥ずかしいが、私より素晴らしい女性はこの国にいない。この世界にもいないかもしれない。そんな女性になったのだけど……なんだけどどうもそれは周りの男たちに劣等感を与えてしまったようで……。
 だからゲームよりもキャラがひねくれ、ゲームよりも私にきつく当たる。ゲームよりもさやかを大切にする。
そしてそれは大きな問題も運んでしまった。
 この世界すら破滅させるかもしれない問題だ。
 このままいけばレベルが足らずに魔王が倒せなくなる!
 この二か月何もなく過ぎているけど忘れてはいけない。この元となったゲームのタイトルは「愛と魔法の物語」。ヒロインも異世界からやってきたのだ。
 それがただ恋をして攻略キャラと結ばれてはい終わり。なんてなるわけがない。それなら魔法とか異世界トリップとかの要素が必要なくなるだろう。だからこの要素を必要とさせるためのイベント、封印が解かれ世界を滅ぼそうとする魔王を再び封印するというステージが控えているのだ。
 ちなみにそれは後六か月後。つまりトレーフルブランが成敗されヒロインたちが無事進級した二か月後ぐらいにやってくる。
 その魔王を封印するために強い魔道具が必要となるが、それはこの国にある五つのダンジョンにある。そこから持ってこなくてはいけないのだが、最初それはトレーフルブランが行くこととなる。と云うのもその魔道具を扱えるのが乙女だけでしかも強い魔法の力がないといけないのだ。それに一番当てはまるのがトレーフルブランだった。
 周りが本当に彼女で大丈夫なのかと懐疑的な視線を向ける中、トレーフルブランは名誉回復のチャンスだと意気込んで向かう。が、あまりの厳しさに途中で尻尾を巻いて逃げてくる。
 やはり駄目だったか、だが彼女がだめなら次は誰にすればいいんだとなった時にヒロインが自分が行くと志願するのだ。
 そして行くことになるヒロイン。一人で行こうとする彼女の前に攻略対象キャラの五人が現れる。何もできないかもしれないけど守ることならできるからと彼らはヒロインについていく。そして彼らの力も借りたヒロインは五つのダンジョンすべてを攻略し魔道具を手に入れる。
 その魔道具で魔王を封印したことでヒロインは聖女と崇めたてられみんなに祝福されて結婚するのだ。
 そんなストーリーになっている。
 と、ここで問題が発生する。
 私は思うことがあって一度そのダンジョンに行ってみた。そして中に入ってみた。楽勝だった。
 子供と遊ぶよりも楽勝にクリアできた。それも五つ全部だ。そして私は気付いた。気付いてしまった。
これ、今のさやかのレベルでも他の五人のレベルでもクリアできないと
 さやかは五人が甘やかすから勉強はでき成績はよくなっても魔法の力はいまいちだし。他の五人は何でか分からないけどゲームと比べてすべてのステータスが低い。残り六か月のうちにどうにかしなければ世界がやばい。
 私が魔王を封印するというのは悪役令嬢と云う立場上遠慮したいし、そんな事をしたら処刑とかなくなりそうじゃん。ヒロインみたいに聖女とかなって崇めたてられる存在になるのは嫌。私は死にたいのだ。でもだからと云って世界を滅ぼしていいのかと云えばそんな筈はない。如何にか守らなくてはいけない。
 問題ばかりが山積みで休む間もなければ対セラフィード用復讐方法を立てることもできない。私はどうしたらいいのだ。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

気がついたら自分は悪役令嬢だったのにヒロインざまぁしちゃいました

みゅー
恋愛
『転生したら推しに捨てられる婚約者でした、それでも推しの幸せを祈ります』のスピンオフです。 前世から好きだった乙女ゲームに転生したガーネットは、最推しの脇役キャラに猛アタックしていた。が、実はその最推しが隠しキャラだとヒロインから言われ、しかも自分が最推しに嫌われていて、いつの間にか悪役令嬢の立場にあることに気づく……そんなお話です。 同シリーズで『悪役令嬢はざまぁされるその役を放棄したい』もあります。

【完結】名ばかりの妻を押しつけられた公女は、人生のやり直しを求めます。2度目は絶対に飼殺し妃ルートの回避に全力をつくします。

yukiwa (旧PN 雪花)
恋愛
*タイトル変更しました。(旧題 黄金竜の花嫁~飼殺し妃は遡る~) パウラ・ヘルムダールは、竜の血を継ぐ名門大公家の跡継ぎ公女。 この世を支配する黄金竜オーディに望まれて側室にされるが、その実態は正室の仕事を丸投げされてこなすだけの、名のみの妻だった。 しかもその名のみの妻、側室なのに選抜試験などと御大層なものがあって。生真面目パウラは手を抜くことを知らず、ついつい頑張ってなりたくもなかった側室に見事当選。 もう一人の側室候補エリーヌは、イケメン試験官と恋をしてさっさと選抜試験から引き揚げていた。 「やられた!」と後悔しても、後の祭り。仕方ないからパウラは丸投げされた仕事をこなし、こなして一生を終える。そしてご褒美にやり直しの転生を願った。 「二度と絶対、飼殺しの妃はごめんです」 そうして始まった2度目の人生、なんだか周りが騒がしい。 竜の血を継ぐ4人の青年(後に試験官になる)たちは、なぜだかみんなパウラに甘い。 後半、シリアス風味のハピエン。 3章からルート分岐します。 小説家になろう、カクヨムにも掲載しています。 表紙画像はwaifulabsで作成していただきました。 https://waifulabs.com/

【完結】愛に溺れたらバッドエンド!?巻き戻り身を引くと決めたのに、放っておいて貰えません!

白雨 音
恋愛
伯爵令嬢ジスレーヌは、愛する婚約者リアムに尽くすも、 その全てが裏目に出ている事に気付いていなかった。 ある時、リアムに近付く男爵令嬢エリザを牽制した事で、いよいよ愛想を尽かされてしまう。 リアムの愛を失った絶望から、ジスレーヌは思い出の泉で入水自害をし、果てた。 魂となったジスレーヌは、自分の死により、リアムが責められ、爵位を継げなくなった事を知る。 こんなつもりではなかった!ああ、どうか、リアムを助けて___! 強く願うジスレーヌに、奇跡が起こる。 気付くとジスレーヌは、リアムに一目惚れした、《あの時》に戻っていた___ リアムが侯爵を継げる様、身を引くと決めたジスレーヌだが、今度はリアムの方が近付いてきて…?   異世界:恋愛 《完結しました》  お読み下さり、お気に入り、エール、ありがとうございます☆

婚約破棄を望む伯爵令嬢と逃がしたくない宰相閣下との攻防戦~最短で破棄したいので、悪役令嬢乗っ取ります~

甘寧
恋愛
この世界が前世で読んだ事のある小説『恋の花紡』だと気付いたリリー・エーヴェルト。 その瞬間から婚約破棄を望んでいるが、宰相を務める美麗秀麗な婚約者ルーファス・クライナートはそれを受け入れてくれない。 そんな折、気がついた。 「悪役令嬢になればいいじゃない?」 悪役令嬢になれば断罪は必然だが、幸運な事に原作では処刑されない事になってる。 貴族社会に思い残すことも無いし、断罪後は僻地でのんびり暮らすのもよかろう。 よしっ、悪役令嬢乗っ取ろう。 これで万事解決。 ……て思ってたのに、あれ?何で貴方が断罪されてるの? ※全12話で完結です。

どうして私が我慢しなきゃいけないの?!~悪役令嬢のとりまきの母でした~

涼暮 月
恋愛
目を覚ますと別人になっていたわたし。なんだか冴えない異国の女の子ね。あれ、これってもしかして異世界転生?と思ったら、乙女ゲームの悪役令嬢のとりまきのうちの一人の母…かもしれないです。とりあえず婚約者が最悪なので、婚約回避のために頑張ります!

もう一度だけ。

しらす
恋愛
私の一番の願いは、貴方の幸せ。 最期に、うまく笑えたかな。 **タグご注意下さい。 ***ギャグが上手く書けなくてシリアスを書きたくなったので書きました。 ****ありきたりなお話です。 *****小説家になろう様にても掲載しています。

強すぎる力を隠し苦悩していた令嬢に転生したので、その力を使ってやり返します

天宮有
恋愛
 私は魔法が使える世界に転生して、伯爵令嬢のシンディ・リーイスになっていた。  その際にシンディの記憶が全て入ってきて、彼女が苦悩していたことを知る。  シンディは強すぎる魔力を持っていて、危険過ぎるからとその力を隠して生きてきた。  その結果、婚約者のオリドスに婚約破棄を言い渡されて、友人のヨハンに迷惑がかかると考えたようだ。  それなら――この強すぎる力で、全て解決すればいいだけだ。  私は今まで酷い扱いをシンディにしてきた元婚約者オリドスにやり返し、ヨハンを守ろうと決意していた。

王太子エンドを迎えたはずのヒロインが今更私の婚約者を攻略しようとしているけどさせません

黒木メイ
恋愛
日本人だった頃の記憶があるクロエ。 でも、この世界が乙女ゲームに似た世界だとは知らなかった。 知ったのはヒロインらしき人物が落とした『攻略ノート』のおかげ。 学園も卒業して、ヒロインは王太子エンドを無事に迎えたはずなんだけど……何故か今になってヒロインが私の婚約者に近づいてきた。 いったい、何を考えているの?! 仕方ない。現実を見せてあげましょう。 と、いうわけでクロエは婚約者であるダニエルに告げた。 「しばらくの間、実家に帰らせていただきます」 突然告げられたクロエ至上主義なダニエルは顔面蒼白。 普段使わない頭を使ってクロエに戻ってきてもらう為に奮闘する。 ※わりと見切り発車です。すみません。 ※小説家になろう様にも掲載。(7/21異世界転生恋愛日間1位)

処理中です...